製薬業界を知る

2018/01/23

これから社会人となる学生や若い世代にとって、グローバルな視点が求められるのはもはや「当たり前」となる時代。多くの諸先輩が言うように、海外の文化に触れることやコミュニケーションツールとしての語学習得も大切ですが、将来自分が働く業界について、世界ではどのような動きがあるのかに注目することは非常に面白いはず。アメリカで話題となった製薬関連ニュースについて、現地のライターからお届けします。

初めまして、長谷川サツキです。アメリカに移住して13年目になります。アメリカといえば、世界第1位の医薬品市場規模を誇る「薬大国」ともいえるお国柄。国民と医薬品は日本以上に密接な関係にあるといえるでしょう。そんなアメリカにおいて、医療保険エージェントのスーパーバイザー、および調剤薬局のマネジャーとして得た経験と知識を元に、今この国の製薬業界で注目を浴びている製薬関連ニュースを5つご紹介します。

【PickUpニュース】

  • 世界初!飲み忘れ防止のセンサー内蔵薬がFDA承認へ
  • 違法薬物MDMA、画期的治療薬としての期待
  • アメリカをむしばむ「オピオイド」の脅威
  • 相次ぐアメリカ薬価の高騰、トランプ大統領は薬価改革を表明
  • 脂肪を溶かす夢の薬、人への応用は可能か

 

世界初!飲み忘れ防止のセンサー内蔵薬がFDA承認へ

世界初!飲み忘れ防止のセンサー内蔵薬がFDA承認へ

2017年11月、服薬状況を記録できるセンサーを内蔵した医薬品「エビリファイ マイサイト」が、世界初のデジタル薬としてアメリカFDAの承認を取得しました。これは日本の大塚製薬株式会社が創製したエビリファイという抗精神病薬に、アメリカのプロテウス社が開発した極小センサーを組み込んだもの。専用アプリによって服薬状況を記録できるため、エビリファイの飲み忘れや飲みすぎを防止する効果が期待できます。

極小センサーは砂1粒程のサイズで、胃液に触れると信号を発信。その信号を患者の身体に張り付けたパッチ型のシグナル検出器が感知し、スマートフォンなどのモバイル端末の専用アプリに情報を送信することで、服薬のデータおよび服用時の活動状況が記録されます。なお、センサーはその後自然排せつされ、体内に残ることはありません。

これらの情報は患者の同意があれば家族、医療従事者、介護者とも共有が可能です。飲み忘れを防ぐことでより効果的な治療につながるとして、今後の活躍が注目されます。

 

違法薬物MDMA、画期的治療薬としての期待

エクスタシーの名前で知られる、違法薬物MDMA。摂取するとオキシトシンの放出を増大させ多幸感や共感作用をもたらすことから、一部の若者の間でパーティードラッグとしても使用されている薬物です。抑うつ気分、低ナトリウム血症などの健康被害も報告され乱用が社会的な問題になったことから、アメリカや日本をはじめ世界各国で規制対象となりました。しかし、現在このMDMAが心的外傷後ストレス障害(PTSD)の心理療法に効果があるとして研究がすすめられています。

MDMAは、PTSD患者を対象に行なった小規模な第1フェーズおよび第2フェーズ臨床実験において良好な結果を出していることから、2017年8月にFDAに画期的治療法として指定されました。この承認を受けて、近い将来大規模な第3フェーズ臨床実験を行うことを予定しています。臨床実験で使用される純度の高いMDMAは違法で出回っている純度の低いものとは別物であり、またその副作用からPTSDの治療薬としてMDMAを使用することに反対する研究者もいます。しかし、臨床実験が順調に進みMDMAの治療薬としての効能が確立されれば、「治療薬MDMA」が誕生する日も近いのかもしれません。

 

アメリカをむしばむ「オピオイド」の脅威

アメリカをむしばむ「オピオイド」の脅威

現在アメリカでは、ヘロインなどといった処方オピオイド系鎮痛剤の中毒者の拡大が深刻化しています。これを受けて、アメリカは2017年10月に公衆衛生の緊急事態を宣言。トランプ大統領は「国家の恥である」としてこの問題の解決への取り組みを約束しました。

処方オピオイド系鎮痛剤は中度から重度の慢性痛に対して高い効果を発揮しますが、常習性が非常に高く、患者本人が意図しないうちに薬物依存に陥るケースが後を絶ちません。またオピオイド系鎮痛剤は副作用も強く、嘔吐、幻覚、呼吸抑制、排尿障害を引き起こし、過剰摂取による死亡例も多く報告されています。事実、2015年にはオピオイド系鎮痛剤の乱用によってアメリカで3万3000人もの人が命を落とし、薬物過剰摂取問題が深刻になっています。

2017年12月現在トランプ大統領よりまだ具体的な対策案は出されていませんが、アメリカにおける薬物中毒拡大の阻止が今急がれています。

 

相次ぐアメリカ薬価の高騰、トランプ大統領は薬価改革を表明

現在、アメリカにおいて相次ぐ薬価の高騰ぶりが問題になっています。日本の薬価は国によって定められますが、アメリカは製薬会社が自由に薬価を決めることが可能です。そのため、抗寄生虫薬ダラプリムの薬価が一晩で55倍に、アナフィラキシー反応に対する応急措置薬エピペンが製造当時の10倍の$600に引き上げられるのも、道徳的には批判を浴びても法的には合法なのです。

薬価の高騰は、その価格をカバーする医療保険の被保険者負担の増大にもつながります。薬価高騰の裏で薬品メーカーのCEOの給与が8年で約8倍もアップしていたなどの背景もあり、国民の大きな反感を買いました。

これを受けて、トランプ大統領は就任当時より高騰し続ける薬価の改革を表明。日本にとってもアメリカは重要な市場であることから、今後の動向が注目されます。

 

脂肪を溶かす夢の薬、人への応用は可能か

脂肪を溶かす夢の薬、人への応用は可能か

肥満がアメリカの社会問題となっている中、貼るだけで脂肪を溶かすという夢のような薬が登場する日もそう遠くないのかもしれません。

2017年9月、米国化学会が発行する学術誌「ACD Nano」にて、マウスを使った実験において脂肪を溶かす貼り薬の開発に成功したとの論文が、コロンビア大学メディカルセンターとノースカロライナ大学の研究者たちによって発表されました。貼り薬の裏にある細かい突起から薬剤を経皮投与することで、エネルギーをためこむ性質を持つ白色細胞からエネルギーを消費する褐色細胞へと変化させるというものです。

4週間の実験の結果、貼り薬を貼った部位の脂肪は20%減少。さらにマウスの血糖値も下がり、その効果が実証されました。人への実用化には今後さらなる臨床実験が必要となりますが、将来的に糖尿病治療や肥満対策への有効な治療法としての期待が高まっています。

 

おわりに

アメリカに次ぐ医薬品市場規模を誇る日本にとって、アメリカの動向は少なからず日本にも影響をもたらします。またアメリカの製薬会社に関連するホットなトピックに触れることで、世界的な経済の流れや動きも知ることができます。

アメリカをはじめとした世界の製薬事情の今を知り、グローバルな目線で市場をとらえる。そんな姿勢こそが今求められているのではないでしょうか。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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長谷川 サツキ

ライター・翻訳者。筑波大学卒。渡米後に、カリフォルニア州の現地保険エージェントにて医療保険部スーパーバイザーとして勤務。その後薬剤調合師の国家資格を取得し、調合師としての勤務経験を経て、夫の転勤を機にライターへ転身。アメリカ生活、海外ルポ、メディカル、ヘルスケア、ライフスタイル、法律、金融等をテーマに情報を発信している。

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