スキルを磨く

2018/05/10

「組織で働く」をテーマに、これからの時代に、個人がどのようなスキルやキャリアを築いていくべきなのか、組織論の専門家である鈴木竜太教授に語っていただいている当連載。3回目となる今回は、組織で求められる知識やスキルを身につけるには、どのような行動をすべきなのか?について考えます。

第2回の最後に、付加価値を生む人材になるためにも学びが必要になることを述べました。付加価値を生むには、当然のことながら自身に能力がなければなりませんが、その能力を身につけるには学びが必要になってきます。われわれが仕事の場面で学習するには、大きく3つの方法があります。助言、模倣、そして経験による学習です。

 

3つの学習パターン

3つの学習パターン

助言による学習━━先輩・上司から教えてもらうこと

助言による学習とは、文字通り先輩や上司から直接的に教えてもらうことによる学習です。具体的なやり方やそのコツ、自分がうまくできていない部分を教えてもらうことによって学ぶこともあれば、知識や考え方を教えてもらうことで学ぶこともあります。

模倣による学習━━真似すべき人を多く観察すること

模倣による学習は、先輩や上司、同僚などに教えてもらわなくても、自分で見て真似することによって学習する方法です。この場合、学習は次のような手順で行われることになります。まず、誰を見本とするかの段階です。次にそのお手本を記憶する必要があります。その後それを自分なりに再現していき、実践していくプロセスへとつながります。ここで重要なのは、誰の真似をするかということです。高い能力を身につけるには当然ながら能力の高い人を真似しなければなりませんが、そのためには観察を多くする必要があります。必ずしも能力の高い人を多く観察できるとは限りませんから、身近に模倣すべき人がいる人は問題ありませんが、そうでない場合にはより良い学びが望めなくなります。

経験による学習━━内省、一般化を行うこと

最後に経験による学習です。経験による学習は4つのステップで進みます。まず当然ながら具体的な経験をすることから始まります。次のステップは経験を振り返って意味付ける内省的観察のステップ、そしてその内省を一般化、つまりは別の機会において参考にできるようにするステップへと移行します。最後にそれを再度試してみるステップになります。

実は、多くの研究で自身の成長に最も影響のある学習方法はこの経験による学習だと言われています。今回は、経験による学習をより深く理解していただくために、会社という組織での経験にあてはめて考えてみましょう。
まず「具体的な経験」ですが、これは仕事の場面では与えられたものとなる部分が大きいですが、その中で自ら新しいやり方に挑戦してみるなど、新しい経験を恐れず試してみることが大事です。

次の振り返りによる「内省的観察」、そして「一般化」の2つのステップでは、経験を一度きりの特別なことにしないことが大事です。一つ一つの経験で見ると、まったく同じことは二度と起こりません。しかし、そこから得られる教訓、次に生かせることがあるはずです。うまくいった経験であれば、何がうまくいった理由なのか、失敗経験であればなぜ失敗してしまったのか、どうしたら失敗を避けられたのか、それを内省し、次へ生かせるように考えることが大事です。

経験による学習━━内省、一般化を行うこと

おそらく、ゲームなどをやる人は、漫然とゲームをするだけでなく、次回クリアできるように自分の失敗について内省し、次へ生かす人がほとんどではないでしょうか。それと同じです。もちろん、実際の仕事はゲームとは比べものにならず、気楽に失敗することはできませんし、中には取り返しのつかないものもあるかもしれません。それでも次へ生かすために、一般化することが重要です。

最後に、「再度試してみる」こと。失敗から教訓を見いだしても、それを実際に試すことがなければそれは仮説であり、新たな学びとして身についたとは言えません。再度実践し、本当にその教訓、仮説が有効なのか確かめてみることが大事になります。

この4つのステップからなる経験学習でもっとも重要なことは、経験をするだけでは学習しないということです。もちろん質の良い経験は大事なポイントですが、同じ経験をしてもそれを内省しなければ学びにならないのです。また内省をしても、それを次につながるような形に変換しなければ、単なる反省だけで終わってしまうのです。

若いうちは、組織の中で経験する内容にそれほど違いはありません。また誰にとってもどの経験も初めての経験ばかりのはずです。しかし、数年たったときに仕事人として大きく能力に違いが出てしまうのは、もともとの能力だけではなく、その経験をどれだけ糧にしたかということによるのです。

先日閉幕した平昌オリンピックで見事金メダルを獲得したスピードスケートの小平奈緒(こだいら なお)選手は、自分の滑りを何度も見直し、試行錯誤の結果、世界一のスケーティング技術を身につけました。この試行錯誤こそ経験による学習の4つのステップであり、経験からの学びによるものといえるでしょう。

 

成功よりも「失敗」の経験から多くを学ぶ

成功よりも「失敗」の経験から多くを学ぶ

また経験による学習の面白いところは、成功だけでなく失敗の経験からも多くの学びがあることです。

プロ野球でヤクルトや阪神を強豪に押し上げたノムさんこと野村克也さんは、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言っていました。成功や勝ちは偶然の要素が大いに絡むことがあり、なぜうまくいったのかがわからないような時がありますが、負けや失敗には必ず負けや失敗の理由があるという意味です。そう考えれば、成功よりもむしろ失敗からの方が、学びが多いかもしれません。ただ失敗は誰にとっても振り返りたくないものです。また、偶然や運の要素、自分ではどうしようもないことにその原因を置きたくなるものです。しかし、そこから目を背けず、その失敗を繰り返さないようにすることが学びの大きな一歩になるのです。

失敗は、意図的にするものではありませんが、失敗を恐れずにチャレンジすることはできます。逆に言えば、新しいことや今までやったことがないことにチャレンジしなければまず失敗をすることはありません。ただ、いつもうまくいっているやり方でうまくいったとしてもそこから学ぶことは少なくなります。

将棋の羽生善治さんは「運命は勇者にほほ笑む」と言います。負けることを恐れずに新しい未知の指し手に踏み込むことこそが大事だと考えているのです。いつものパターンでやっていくだけでなく、新しいチャレンジをしていくこと、それこそが成長の源泉になるのです。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません
組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
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鈴木 竜太

1971年生まれ。1994年神戸大学経営学部卒業。ノースカロライナ大客員研究員、静岡県立大学経営情報学部専任講師を経て、現在、神戸大学大学院 経営学研究科 教授。専門分野は経営組織論、組織行動論、経営管理論。著書に『組織と個人』(白桃書房、2002年)、『自律する組織人』(生産性出版、2007年)、『関わりあう職場のマネジメント』(有斐閣、2013年)など。趣味は読書。時代小説、歴史小説、推理小説、恋愛小説、ノンフィクション、サスペンスやクライムノベル、ハードボイルド、SF、などあらゆるジャンルを読む。

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