スキルを磨く

2017/03/17

こんにちは。舘野泰一(たてのよしかず)です。私は現在、立教大学経営学部で助教をしています。専門は教育工学という分野で、大学生や社会人を対象に「人が育つ環境とはどのようなものか?」について日々研究しています。

本コラムでは、筆者らの研究成果をもとに「大学時代にどのように過ごすことが、より良い社会人生活につながるのか」について情報をお届けします。

→ 前回の記事はこちら:

第1回 職場で自分から動ける人は、大学生活をどのように過ごしているか?

第2回 就職活動中にあなたの助けとなってくれる人はいますか?〜他者からの支援の効果とは

 

第3回は「就職活動が終わった後」をテーマにします。

この3月に卒業するという人たちも多いでしょう。友人と卒業旅行に行ったり、社会人になる前に思いっきり羽を伸ばせる時期かもしれません。

しかし、そのように羽を伸ばしているうちに、忙しかった就職活動中に何が起こり、それに対して自分がどのように行動したのか、すっかり忘れてしまうように感じませんか?

これは非常にもったいないことです。今回のコラムでは「就職活動の体験を、入社後の成長に結びつけるために何が必要か?」について、研究成果をもとに答えていきたいと思います。

なお、研究の詳細は『アクティブトランジション 働くためのウォーミングアップ』(三省堂)に載っておりますので、詳しくはそちらをご参照ください。¹

1 今回は、書籍の「入社後に成長する人は、就職活動から何を学んでいるか-就職活動を通じた学びと初期キャリアにおける能力向上との関連に着目して-」(田中聡p156-163)の章の内容をメインに紹介します。

 

就職活動を通して何を学んだか?

「就職活動を通して、いろいろなことを学んだなあ…」

多くの人は就職活動が終わった後に、こんなことを感じるのではないでしょうか。就職活動は、単に職を探すというだけでなく、その活動を通していろいろなことを学習する機会と捉えることができるでしょう。

では、以下のように質問されたらどのように答えますか?

「あなたが就職活動を通して学んだことは、具体的にどのようなことですか?」

「その学びを入社後にどのように活かしていきたいですか?」

いかがでしょうか。こう聞かれると、なかなかパッと答えるのは難しいのではないでしょうか。

「就職活動に備えて何をすべきか」に関する情報は世の中に溢れていますが、「就職活動後に何をすべきか」についてのノウハウはあまり蓄積されていないように思います。

これは、卒業を控えた学生を支援する側である、大学・企業においてもそうだと思います。大学側としては、内定が出た後は「ちゃんと卒論書いてね」という時期かもしれませんし、企業としては「学生の間にしかできないことをやりなさい」という時期かもしれません。

しかし、この時期に何もしないのは、非常にもったいないです。ここでやるべきは「就職活動の振り返り」です。

なぜなら、振り返りをすることで、自分の体験したことが何倍もの大きな学びになるからです。

 

就職活動をどう振り返るべきか?

就職活動

「振り返り」とは、具体的に、まず就職活動中の印象的な出来事(出会った人や、自分に対する発見など含む)について思い出すことです。その上で、その出来事について自分なりの意味づけをする、もしくは何かしらの教訓を抽出して、次の行動に活かすことを指します。

具体的な例で考えてみましょう。

「就職活動中に学んだこと?そんなの忘れちゃったよ。就職活動はもう終わったし、そんなこと考えなくてもいいんじゃないかな」

これは振り返りができていない状態です。

そうではなく、「就職活動中に印象的だったことは何か(①)」、「その出来事から学んだことは何か(②)」、「その学びを次にどのように活かすか(③)」ということをしっかり整理しておくことが重要です。

上記のような振り返りができていると、以下のようなことを話せると思います。

「就職活動を通して学んだことですか?それは不安定な状況を乗り切る力(②)じゃないですかね。就職活動って、なぜ落ちたかわからないことも多いし、自分でコントロールできないことも多い(①)ですよね。そういうときに、周りの状況に振り回されず、自分でやれることに集中して、自分がコントロールできないことについては考えない(③)ようにしました。たぶん、就職してからもそういう場面があると思うので、こういう姿勢は活かしていきたいと思います。」

これは少しできすぎた例かもしれません。

ただ、ポイントは「出来事について自分なりの解釈を加え、次の行動に活かそうとする」ということです。おそらく「不安定な状況」というのは、多くの人が体験しているはずです。しかし、「振り返り」をしておかないと、次に似たような状況になったときに、知識を活用することができません。また同じようなことに悩み、試行錯誤することになります。

就職活動の中には、入社後にも活かせることがたくさんあります。せっかく良質な体験をしているのですから、やりっぱなしは、とてももったいないです。そこから得たものは、しっかりと言葉にしておくことが大切です。

 

効果的な振り返りには「相対化」が大切

効果的な振り返りには「相対化」が大切

ここまでは、具体的にどのように「振り返り」をすべきか、について話しました。では、就職活動の学びを深める上で「振り返り」がどう重要であるといえるのか、研究成果をもとに説明していきたいと思います。

筆者らは「入社後に成長する人は、就職活動から何を学んでいるのか?」について調査をおこないました。

分析の結果²、以下の2点がわかりました。

2 詳しい調査結果を知りたい方は、書籍をご参照ください。

 A. 就職活動を通して「不確実性に対する構え」を獲得している人は、入社後の能力向上にポジティブな影響があった

 B. 就職活動を通した「職業・就業に関する視野の広がり」は、入社後の能力向上に影響を与えていなかった

もう少しわかりやすく説明していきましょう。

1つ目の「不確実性に対する構え」とは、「何事も前向きに捉えるようになった」や「メンタル面がタフになった」など、不確実な状況でも対応するための基礎を獲得することです。さきほどの例で示した、不安定な状況をどう捉えるかということと関連しますね。

就職活動中にこうした学びをしている人は、入社後に「能力向上」(具体的には、業務能力の向上や、部門間調整能力の向上など)がみられることがわかりました。

次に、2つ目の結果について説明します。

「職業・就業に関する視野の広がり」とは、具体的には「世の中の矛盾や厳しさを知った」、「社会の仕組みを知った」「企業や組織の実態を知った」などを指します。「就職活動を通して世の中を知ることができた」というかんじでしょうか。

しかし、今回の結果では、こうした学びを得たと答えていた人は、入社後の能力向上に影響を与えていないということがわかりました。1つ目の結果とは異なりますね。

これはどういうことでしょうか?筆者らの研究チームは、先行研究³をもとに、以下の2つの理由を検討しました。

(1)就職活動を通して獲得する、社会・企業組織に関する知識や自己概念は、状況依存的で陳腐化が激しいこと

(2)就職活動経験を通して個人が形成する組織観は、企業による採用戦略の影響を少なからず受けており、必ずしも実態を正しく反映しているとは限らないこと

林祐司 (2015) 採用内定から組織参入までの期間における新卒採用内定者の予期的社会化に関する縦断分析:組織に関する学習の先行要因とアウトカム . 経営行動科学 . Vol. 27 No. 3 pp. 225-243.

これをもっとシンプルに言うと、以下のように言えると思います。

「就職活動という特殊な環境」から学んだ、「社会」や「会社」の状況を、そのまま入社後も適用しようとしてもうまくいかない。なぜなら、「就職活動」と「実態」は必ずしもイコールではないから。

この2つの結果から言えることは、「振り返り」をして、自分の経験を「相対化」することの重要性です。

「相対化」は、振り返りの重要な機能のひとつです。「学んだことをそのまま適用する」のではなく、「自分の経験が絶対ではない」ということを意識して、自分の体験からよい意味で距離を置く「相対化」が大切になります。

つまり、B.の「就職活動を通じた、職業・就業に関する視野の広がり」は、うまく相対化できないことが多いため、社会に出てからそのまま適用できなかった、といえるでしょう。

就職活動で体験したことを、しっかり自分で吟味せず、「就職活動でこうだったから、社会に出てからの日常もそうだろう」と安易に考えて行動しようとすると、かえってうまくいかないという状況が起こりえるということです。

そうならないためには、ぼんやりでいいので、自分の就職活動での体験を振り返り、「ああ、こういうことは会社でも活かせそうかな」、「こういうことは就職活動だから起こったことかな」などと考えておくことが大切です。

自分の体験や感じたことをそのまま絶対視するのではなく、少し離れて考えてみる「相対化」をしておくことで、入社後にいろいろな場面に直面しても、落ち着いて行動することができるでしょう。

 

まとめ

第3回のコラムでは、「就職活動を通しての学び」として、調査結果をもとに「振り返りの重要性」についてお伝えしてきました。ポイントをまとめると、

  1. 就職活動の体験をそのままにするのではなく、思い出して、どのような状況から、何を学んだのかを整理しておくこと
  2. 就職活動で体験したことを絶対視し、それが入社後も全て通用すると思わず、何を活用し、何を活用しないか考えてみること

が重要といえます。

とはいえ、「振り返り」をひとりでするのは、なかなか難しいです。そもそも、振り返りをせずにやり過ごしてしまうことも多いですし、自分の考えや体験をひとりで相対化することは、非常に難易度が高いです。

そんなときには、やはり人との対話が一番です。大学の友人とともに「結局、就職活動を通して何を学んだかな?」と少し話してみるだけでもよいでしょう。また、大学の教授や先輩などに「就職活動を体験して、会社ってこういう感じなのかな、と思ったのですが、どう思いますか?」などと相談してみるのも良いかもしれません。

書籍には、就職活動で出会った「人」をテーマに振り返りができる「社会人カード」という教材を掲載しています。「会社にいそうな人」の情報をカードにしてあり、そのカードをもとにワークショップ形式で対話をすることで、自分の仕事観を知るというものです。こうしたツールがあると、振り返りを深めることに役立ちます。(社会人カードは、商用利用でない限り、自由にコピーして使用していただけます)

社会人カード
書籍に付属のワークショップツール、「社会人カード」

つい振り返りをせずに過ごしてしまいがちですが、振り返りをすることで、自分がした体験が何倍も大きな学びにつながっていきます。「内定が決まったらそれで終わり」ではなく、その意味づけをしっかりしておくことが入社後の成長につながると思います。

 

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舘野 泰一

1983年生まれ。立教大学経営学部助教。青山学院大学文学部教育学科卒業。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学後、東京大学大学総合教育研究センター特任研究員を経て、現職。博士(学際情報学)。大学と企業を架橋した人材の育成に関する研究をしている。具体的な研究として、リーダーシップ開発、越境学習、ワークショップ、トランジション調査などをおこなっている。著書(分担執筆)に『活躍する組織人の探究: 大学から企業へのトランジション』(東京大学出版会)、『まなび学ワークショップ 第2巻』(東京大学出版会)があり、近著に『アクティブトランジション 働くためのウォーミングアップ』(三省堂)がある。 Webサイト:http://www.tate-lab.net/mt/

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