製薬業界を知る

2017/03/30

20年以上製薬業界に関わってきたプロフェッショナル、長尾 剛司氏の連載をお届けします。今回のテーマは、製薬業界で働く人々に求められている「変化」について。身近な事例から、これからの製薬業界の動向について、背景を紐解きます。

医薬品にかかわる人々

前回の記事「超高齢化時代の“医療費問題” 製薬業界への影響は?」では、製薬業界の仕組みについて理解を深めてもらうために、「ものづくり」と「医療サービス」に分けて医薬品とお金の流れを解説しました。今回は、日々専門性を発揮しながら働いている、製薬業界の中の人々に注目します。

医薬品に関わる人

これらの人々は具体的に何をおこなっているのかについて、紹介しましょう。

人々(役割・おこなうこと)
つくる 医薬品の元となる化学物質を発見し、有効性と安全性をつくる研究職
ヒトに使用しても大丈夫かを治験していく開発職
治験の基礎となる患者のモニタリングなどをおこなう、CRA(Clinical Research Associate)
医薬品の原薬を錠剤や注射剤など、医療従事者が使いやすい剤型に製剤化していく生産技術職
売る 承認された医薬品を販売する職種。
製薬会社のMR(Medical Representatives)は、「モノ」としての医療用医薬品を売る立場ではなく、「情報」を提供・収集していく業務が主となる。
ドラッグストアでは、医薬品のモノと情報を販売するために、すべての医薬品を扱える薬剤師と、限定された医薬品を扱う登録販売者がいる。
運ぶ 医療用医薬品を扱う製薬会社は、医薬品卸(特約店とも呼ぶ)・販売会社にモノとしての医薬品の販売を委託している。
医薬品卸ではモノを運ぶだけでなく、情報も運び、お金の管理もおこなう。
医薬品卸に所属し、病院や薬局を担当する職種をMS(Marketing Specialist)という。
選ぶ 医師は、患者を診察し、治療に薬が必要と判断した場合、薬を処方する。
薬剤師は、処方された薬を、適切に調剤し、患者の状態を確認しながら服用管理をおこなう。
支払う 医療保険制度の中で、患者(国民)自らがお金を支払い、医療サービスの受益者となる。

まずは、「支払う」立場である、ごく普通の生活者の事例から見ていきましょう。「製薬業界の変化」とは、製薬業界の中の人だけの問題ではなく、私たち一般人と密接に関わっていることがわかると思います。

 

課題発見は現場から

患者さんの処方実態から見える、製薬業界の中の人に求められること

下の写真は、実際の患者さんの処方薬です。 この患者さんは90代女性で、昔から血圧は高く、2007年に脳梗塞で倒れました。幸いにも友人と一緒に横断歩道を渡っているときだったので、すぐに救急車を呼び脳卒中専門病院に運ばれ、脳血栓を溶かす注射薬で一命を取り留め、後遺症も軽いものでした。

患者 1日に服用する薬

退院後は、検査のためにその専門病院にかかりながら、自宅近くの内科クリニックで約9年間、経過観察をしています。時間も経過し、足腰が弱ってきたこともあり、内科クリニックに隣接している整形外科も受診し、今にいたります。現在、1日に服用する薬は11剤。腎機能も低下しており、今後透析が必要になるかもしれません。腎機能が低下していることから、たんぱく質制限の食事をつくり、服用薬の管理は同居している叔母がおこなっています。実は、この患者さんは私の祖母の事例です。

祖母は、血圧が高いことから高血圧の薬、脂質が高いことから脂質異常症の薬、骨が弱くなっていることから骨粗鬆症の薬、鉄剤、胃薬、便秘の薬など、毎日の服用管理は大変です。

 

医薬品を選ぶ「医師」「薬剤師」に求められる変化

薬

医療費適正化とポリファーマシー問題の検討

医薬品を処方する場合、患者さんの症状に応じて薬が増える傾向にあります。しかしながら、医療費が膨らみ続けているいま、将来の医療サービスの維持が困難な状況です。

第2回に詳しく記述しましたが、厚生労働省は医療費を抑制する「医療費適正化計画」を策定し、医薬品を選ぶ側である医師や薬剤師に医薬品の使用最適化を求めています。

また、医療費増加の問題だけでなく、多くの薬剤を併用することによる「ポリファーマシー問題」も検討されています。ポリファーマシー問題とは、「ポリ(poly)+ファーマシー(pharmacy)」という造語が示すとおり、必要以上に多くの薬剤が処方されている状態のことを指し、多剤併用による弊害も見られるようになりました。まだ明確な定義はありませんが、一般的には5剤以上を併用する症例があてはまるようです。

医薬品を単独使用、もしくは少数を併用する場合は、ある程度の副作用や相互作用も把握できており、添付文書上にも記載があります。しかし、5剤を超えるような多剤併用においては、症例データも詳細に把握できていないのが現状です。

特に高齢者でのポリファーマシーが問題となっています。多剤併用によって意図しない体調の変化でだるかったり、ふらついたりして転倒で骨折するという症例もあります。高齢者の骨折は、寝たきりになるリスクも高いため、医薬品を選ぶ側の医師や薬剤師も意識して防止しなければなりません。

患者さんを診察し、治療方針を決定するのは医師ですが、患者さんの状態を確認しながら、薬理学・薬物動態学・製剤学的観点から状態を医師にフィードバックし、医薬品選択に修正を加えて最適化をおこなうのは薬剤師であり、さらなる連携が求められています。

連携は、医師と薬剤師の間にとどまりません。地域における介護職との連携も必要になってきます。例えば、高齢者では、飲み込む力が弱まっているため、大きな錠剤やカプセル剤は喉につかえることもあり、服用するのは困難です。病院に入院している患者さんであれば、院内の薬剤師や看護師が介助し、服用させることができます。しかし、在宅医療を中心とする地域包括ケアシステムでは、患者さんの家族や介護職の方々が容易に服用させることができなければ、その医薬品は選ばれないことが想像できます。

 

医薬品を運ぶ・売る・つくる「医薬品卸・販売会社」「製薬会社」に求められる変化

薬 医師

新たなプレーヤーの登場による影響

医薬品を選ぶ側だけでなく、運ぶ・売る・つくる側にも変化が求められるでしょう。その変化について解説する前に、運ぶ側の「医薬品卸・販売会社」と、売る・つくる側の製薬会社の関係について再確認してみます。

医薬品をつくり、売る製薬会社は、日本全国にある医療機関約11万軒、薬局約6万軒に対し、自社で配送できる機能は持っていません。配送流通網や、代金回収を医薬品卸・販売会社に委託しています。

医薬品卸・販売会社は、製薬業界の外からみると一般的には目立たない存在であるものの、製薬業界にとってなくてはならない存在です。なぜなら、医薬品という生命関連商品の多種多様性に対応しながら、安全に安定的な供給を担うだけでなく、使用の緊急性があることから迅速・的確に供給することも求められ、さらに最近話題になった偽造医薬品などを流通させないことなど、多岐に渡る役割を担っているからです。

▼医薬品卸・販売会社の4つの機能

物的流通機能 仕入れ、保管、品質管理、配送など、モノを運ぶ基本的な機能
販売機能 販売促進、販売管理、適正使用促進等、MRに近い機能
情報機能 医薬品情報の収集と提供など、製薬会社に偏りのない中立公平な情報を扱う機能
金融機能 医療機関に納品した代金回収までの債権・債務の管理をおこなう機能

このように密接な関係にある医薬品卸・販売会社・製薬会社ですが、この二者に影響を与えると予想されるのは、医薬品を選ぶ医療機関・薬局側における「地域医療連携推進法人」の設立の動きです。これは、地域包括ケアシステム構築のために設立されるものです。

少し詳しくお伝えすると、地域医療連携推進法人とは、厚生労働省の資料によると以下の通り。

“複数の病院(医療法人等)を統括し、一体的な経営をおこなうことにより、経営効率の向上を図るとともに、地域医療・地域包括ケアの充実を推進し、地域医療構想を達成するための一つの選択肢とするとともに、地方創生につなげる。”

この動きによって、医薬品を運ぶ・売る・つくる側は変化を求められるでしょう。

例えば、共同物品購入について。これまで医療機関や薬局において独自におこなっていた医薬品購買は、今後「地域医療連携推進法人」によって、複数の医療機関や薬局における医薬品の採用品目を管理することが考えられます。言い換えるならば、医薬品を選ぶ側に「地域医療連携推進法人」も加わるということです。

それによって、医薬品を運ぶ医薬品卸・販売会社には、それぞれの地域に対応した機能を求められるでしょう。また、医薬品を売る・つくる製薬会社には、地域に対応した組織、情報提供、製剤や剤形、包装形態なども求められることとなるでしょう。

 

まとめ

これから製薬業界で働きはじめる皆さんにとって、今はチャンスだと考えています。

なぜなら数年前までは、国が将来に向けた政策を公開してはいるものの、製薬会社側は対応策を模索している状況でしたので、当時は選ぶ学生側も模索している状態でした。しかし、団塊の世代が75歳という後期高齢者になる「2025年」という大きな節目が近づき、製薬会社各社も対応策に着手し始めました。方向性が明確になり始めたことで、製薬会社への就職を検討している皆さんにとっては変化に対応した企業を選びやすくなったのではないでしょうか。

製薬会社側も組織改革したり、情報提供のあり方を見直したり、新剤形を発売したり、公開された情報の中で各社の比較もできますし、企業説明会や面接で今後の計画を質問することもできますから、積極的に参加してみてください。

製薬業界でお待ちしております。

過去の記事はこちら:
国内製薬業界のいま〜医療業界コンサルタントが解説!
<就活生必見>超高齢化時代の“医療費問題” 製薬業界への影響は?

製薬業界・超入門
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長尾 剛司

アイ・エム・エス・ジャパン株式会社 新規事業開発本部 保険薬局事業開発部所属。 1972年生まれ、薬剤師、北里大学薬友会理事。 北里大学薬学部卒業後、第一製薬(現第一三共)にてMRを経て、マーケティング企画業務部門にて市場分析、販売促進、施策管理に従事。日本調剤株式会社へ転じ、処方せんデータ分析による医薬品の効果的な薬物療法推進やQOL向上など調査・研究事業にかかわる。現在、医療情報、テクノロジー、サービスを提供するグローバル企業にて、医療関連データの新規事業開発を担当している。 学生向けの就職活動の業界研究講演や、業界エキスパートとしてアドバイスも行い、医薬品業界への橋渡しをしている。 著書:「よくわかる医薬品業界」(日本実業出版社)

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