スキルを磨く

2018/03/16

「デザイン思考」という言葉を聞いたことがありますか?

定義はさまざまですが、デザイナーの発想をビジネスに生かし、問題解決、課題解決をしていく手法として、国内外の多くの企業が注目している方法論です。これまで問題解決と言えば、データを駆使したり、科学的な系統だったアプローチをしたり、という分析的手法が優位でした。しかし、それだけではうまくいかない問題に対して、あたかもデザイナーのように取り組んでいく。これが「デザイン思考」です。

今回お話をうかがった佐宗邦威さんは、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)の著者であり、日本に数少ない「デザイン思考」の本質を知るイノベーションプロデューサーです。

東京大学法学部を卒業後、外資系企業でマーケターを務め、転職したSONYでは新規事業の立ち上げをけん引。その後、「ゼロ」から「イチ」をつくるための方法論を学ぶため、海外のデザインスクールに留学。帰国後は株式会社biotopeを立ち上げ、老舗企業から大企業の研究所までさまざまなビジネスの現場で「デザイン思考」を用いたイノベーションの支援活動を行っています。

法律、マーケティング、組織開発や人材育成、デザインを越境した、まさに唯一無二と言えるユニークなキャリア。その選択を支えたのが、デザイン思考を分解し、自分のビジョンを具体化していくアート思考だったそうです。

予測困難な時代、多様性が求められる時代だからこそ、ビジネスの世界で求められている「デザイン思考」。そして、佐宗さんが「学生にこそ、試してみてほしい」と話す「アート思考」について、余すことなく語ってもらいました。

 

ロジカルに答えを出すか、直感や「好き」という自分の感覚・主観で判断するか

まずは自己紹介を兼ねて、僕がなぜ、イリノイ工科大学デザイン学科に留学し、「デザイン思考」を学び、今の仕事をしているかについてお話したいと思います。

ロジカルに答えを出すか、直感や「好き」という自分の感覚・主観で判断するか

大学を卒業後、僕はP&Gという外資系の消費財メーカーでファブリーズやレノア、男性用カミソリのジレットなどのブランドマーケティングを担当しました。

P&Gは非常にロジカルな会社で、あらゆる意思決定はすべてデータドリブン(効果測定などで得られたデータをもとに、次のアクションを起こす手法)で進められていきます。あるコンセプトの新商品の試作品を作っても、テストで消費者に見せ、「買いたい」というアンケート結果が70%以上にならないと次のステップに進まない。数字の規律がものすごくハッキリしていました。

会議でも、先に結論を話し、その結論に対するエビデンスを3つ挙げられないと会話にならないというロジカルなコミュニケーション。新卒から数年、そういった組織で育ったわけです。

ところが、ブランドマーケティングの中で1つだけ異質な仕事がありました。他はすべて数字で答えが出るにもかかわらず、CM作りでは、広告代理店とこんな話をすることになります。

「次のファブリーズは梅雨がテーマです。梅雨の生乾きの洗濯物の臭いを取るイメージを伝えたい」

オリエンテーションに対して、広告クリエーターはA41枚の手書きの絵コンテ4、5案をベースにアイデアをプレゼンします。そこで、こちらは判断を迫られるわけです。「どの方向がいいですか?」と。

数字で答えを出すことはできません。悩んだ私が先輩に「どうやって判断すればいいんですか?」と聞くと、「“好き”を大事にして、直感的に良いと思ったアイデアを選べばいいんだよ」と返ってきました。

ロジカルに答えを出す頭の使い方と、直感や「好き」という自分の感覚・主観で判断する頭の使い方。この2つはまったく違う構造になっていて、僕は後者がすごく苦手だと気づかされました。

 

人とは違う答えを見出だせる人は、どういう方法で創造性を発揮している?

人とは違う答えを見出だせる人は、どういう方法で創造性を発揮している?

しかし、社内にいる本当にできる2割のマーケターは、直感での判断が鋭く速い。「これは絶対イケる」と決めた後、データドリブンでロジカルに進めていく。

P&Gには“2割のマーケターが8割のビジネスを作る”という言葉があるんですが、僕は8割だな、と。手堅く5%か10%向上させることはできるけれど、大きく変えることができるマーケターにはなれないと思ったんです。

そのとき、 抱いたのが“好き”というような直感的な答えが降りてくる人、人とは違う答えを見出だせる人は、どういう方法で創造性を発揮しているのだろう? というテーマでした。

しかも、同時期にアメリカの作家ダニエル・ピンクの本『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』に出会います。そこには、「ゼロからイチを生み出す右脳的発想」が体系的に紹介されていました。
「芸術的、感情的な美を創造するデザイン能力、パターンやチャンスを見いだす共感能力、相手を満足させる話ができるストーリーテリングの能力、一見関連性のないアイデアを組み合わせて新しいものを生み出す統合の能力」など、自分に足りない6つのスキルが、身につける方法とともに言語化されていたんです。

おかげで僕は「デザインやストーリーなど、右脳系の頭の使い方を学べば、自分の幅が倍になる」と考え始めることができ、デザインのワークショップなどに参加するようになりました。

と、ここまでが「デザイン思考」に取り組み始めるまでの流れです。その後ソニーに転職し、現場でさまざまなイノベーションのプロジェクトに関わる中で、より自分で創造する方法を学ぼうと思い、イリノイ工科大学デザイン学科に留学しました。帰国後はそのノウハウも生かしながら、社内のエンジニアが自分で考えたアイデアを事業化できる「新規事業創出プログラム」という仕組みを立ち上げるなどし、その後独立しました。

 

今後はどのような業界、分野でもデザイン思考を持った人材が求められるようになる

デザインと聞くと、一部のクリエイティブな職種の人にしか関係のないものと思われるかもしれません。しかし、「デザイン思考」を身につけることで、誰もがユニークな視点で解くべき課題を発見し、それを創造的に解決することができるようになります。

世界中の企業が既存のビジネスの革新や新規事業の創出を緊急の課題とするなかで、今後はどんな分野でも「デザイン思考」を持った人材が求められるようになるでしょう。
なぜなら、「デザイン思考」はまったく新しい事業、商品やサービスプロセスなどを生み出す「創造的問題解決の方法」だからです。

今後はどのような業界、分野でもデザイン思考を持った人材が求められるようになる

一方、個々人の抱える問題解決にも「デザイン思考」が役立つのではないか……。そう考えた僕は、自分自身の問題と向き合うなかで「デザイン思考」の要素を分解し、再定義して「アート思考」という方法論にまとめました。
「アート思考」は、これから就職活動を迎える学生の皆さんが「自分の進む道」を考える上で役立つと思います。

 

理想を可視化する、という「アート思考」の手法

この記事では、最後にひとつだけ、「デザイン思考」「アート思考」の具体的な実践方法を提案しましょう。それは、「理想を可視化する」ということです。社会に出てより高い成果をあげたい、病気で苦しんでいる人の手助けをしたい。そうした理想が実現されたときのイメージを集める、ということです。

社会に影響を与えたビジネスマンの姿、あるいは幸せそうに微笑むおばあさんの写真かもしれません。Pinterestのような画像を集めるサービスを使ってもいいですし、コルクボードに切り抜きを貼るのもいいと思います。これは、デザイナーが、インスピレーションを受けたものをコレクションするのと本質的に同じことです。

こうして理想を可視化し、視界に入れることで、人は現在と理想の差を埋めようとします。その結果として、日々にまた違った意味が生まれ、なんらかの成果や、課題の解決に近づいていくのではないでしょうか。

佐宗邦威さんが語った「人生に、仕事に効くデザイン思考と、その先のアート思考」。その方法論をビジュアル化した図版とともに、より詳しくはeBookで紹介していきます。

続きはこちら(無料eBookをダウンロード)

株式会社biotope 佐宗邦威氏

取材ご協力:株式会社biotope
代表取締役 佐宗 邦威(さそう くにたけ)さん

イリノイ工科大学Institute of design修士課程修了、米デザインスクールの留学記ブログ「D school留学記~デザインとビジネスの交差点」著者。P&Gマーケティング部入社。ヒット商品ファブリーズ、柔軟剤のレノアを担当後、P&Gとジレットの企業合併のさなか男性用髭剃りブランドジレットのブランドマネージャーを務め、世界初5枚刃のFusionの発売を手がける。2008年10月大手家電メーカーに入社。商品開発プロセス変革プロジェクトやグローバルカスタマーインサイト部門の立ち上げ、グローバルエスノグラフィープロジェクトの全社導入を行う。 2012年8月よりイリノイ工科大学Institute of design, master of design methodsコースに入学し2013年卒業。現在は、グローバルトレンドリサーチや、人間中心デザインの方法論を活用した新規事業のインキュベーションを担当している。2015年7月から、新しいスタイルのデザインファーム、biotopeを設立し、代表取締役に就任。

人生に、仕事に効くデザイン思考とその先のアート思考
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SCIENCE SHIFT編集部

当メディアの編集部員です。学生の皆さんに今お届けすべき話題は何か?を日々考え、より良い情報を発信していきたいと思います。

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