製薬業界を知る

2018/03/15

アメリカ在住のライターによる記事、今回はアメリカで医師にかかった場合に薬がどのように患者に処方されているのかについて。日本ではいま国をあげてジェネリック医薬品の数量シェア80%以上を目指しているところですが、アメリカではなぜ既にジェネリック医薬品の普及率が90%以上を占めているのか、そのワケも知ることができます。

アメリカで体調を崩し、医師に薬を処方してもらった場合のお話をしましょう。診察後は、医師から渡された処方箋を薬局へ持っていき処方薬を受け取ります。しかし、受け取った薬の容器には処方箋に書かれたものとは違う薬名がプリントされています。薬局側からは何も説明がなく、「本当にこれで合っているのかな?」と思わず首をかしげるも、英語でどう聞いてもいいか分からないし……。こんな経験のある日本人は意外と多いようです。

アメリカにおける薬の処方の流れは日本とは少し事情が異なり、その背景には医療保険の存在、薬剤師の立ち位置などが大きく影響しています。今回は普段アメリカ人でもめったに知ることのない、医師から処方された薬が患者の手に渡るまでの流れと、ジェネリック医薬品がアメリカに広く浸透した背景をご紹介しましょう。

 

処方薬を左右する「フォーミュラリ・リスト」の存在

ご存じの通り、日本では国民皆保険制度のもと、すべての国民は何らかの公的健康保険に加入することが義務付けられています。これは医療費および健康保険料高騰にあえぐアメリカ国民からすると心底うらやましいシステムで、元大統領バラク・オバマ氏が本来目指したものでもありました。

アメリカには公的健康保険が存在しないため、国民はそれぞれ民間の医療保険に加入することになります。その負担は大きく、2016年の調査では個人加入しているケースの保険料平均額が、個人プランで月$321 (約34,300円)*、家族プランで月$833 (約88,900円)*という驚きの金額となっています。しかし、健康保険がなければいざという時に高額な医療費・処方薬を全額支払わなければならないため、何とか家計から絞り出しているのが現状です。
*2018/3/1現在の為替レート計算による。

処方薬もこの医療保険によってカバーされることになりますが、実は処方薬に保険が利くか利かないかというのは、加入している民間保険によって異なります。A社の保険に加入していた時はXという処方薬が毎月保険のおかげで安く購入できていたのに、転職した関係で保険会社がB社に変わったらXの薬代が全額自己負担になってしまった、ということもあり得るのです。何とも恐ろしい話です。

フォーミュラリ・リストとは、各保険会社がそれぞれ作成している推奨医薬品のリストのことで、言い換えれば「何の薬が保険対象となるのか」を記した一覧になります。このフォーミュラリ・リストは各保険会社で定期的な見直しが行われており、その都度新しい医薬品がリストに加わったり削除されたりしています。もし医師が処方した薬が自分が加入している医療保険会社のフォーミュラリ・リストに入っていれば保険が利きますし、なければ自己負担となってしまう、という訳です。

そしてこのフォーミュラリ・リストには、ジェネリック医薬品を積極的に採用することが推奨されており、その影響でアメリカでは先発医薬品よりも保険の利くジェネリック医薬品が処方される方が圧倒的に多くなっています。2014年にはジェネリック医薬品のシェアが92%を占めるなど、アメリカでジェネリック医薬品の存在を確立するのに大きな影響を及ぼしました。

 

医師はどのように処方薬を決定するか

医師はどのように処方薬を決定するか

では、話を戻しましょう。あなたが体調不良のため、アメリカで医師にかかったとします。医師は診察をして治療もしくは症状を緩和させる処方薬を決定しますが、よほど特殊な治療薬でない限り処方薬の選択肢はいくつもあります。患者のアレルギー等ももちろん考慮しますが、その中で「果たしてその薬代は患者の加入している保険でカバーされるのか」という要素も少なからず影響します。

処方薬の中には抗生物質アジスロマイシンのように処方頻度が非常に高い薬も複数あり、そういった薬は大抵の保険会社のフォーミュラリ・リストに加えられています。そのため特殊な事情がない限り、医師は大抵の民間保険のフォーミュラリ・リストに加えられていそうな処方薬を選ぶ傾向にあります。もし、フォーミュラリ・リストに入っていない可能性がある薬を処方する場合は「保険が利くかは直接確認してみてね」と患者に伝え、保険が利かなかった場合のためにクーポンをくれたりもします。

 

薬局で受け取る処方薬はジェネリック医薬品が基本

薬局は処方箋を受け取ると早速処方薬の準備に入りますが、医師や患者から特段の指示がない限りは、たとえ処方箋に先発医薬品名が記載されていてもジェネリック医薬品を処方します。というのも、アメリカでは日本以上にジェネリック医薬品が浸透しており、保険会社でもジェネリック医薬品がある薬の場合はたとえ先発医薬品を処方したとしてもジェネリック医薬品の値段の分しか保険でカバーしません。

処方箋に記載された薬と違う名前の薬が説明なく出てくるのもこのためで、アメリカではジェネリック医薬品の処方が当たり前なので薬局側もあえて患者に伝えることをしないのです。むしろ患者が「先発医薬品を処方してほしい」と言うとけげんな顔をされることもありますし、「うちの薬局にはジェネリック医薬品しか置いていないので、今日は処方できません」と断られることもしばしばです。ジェネリック医薬品は先発医薬品と成分が全く同じで自己負担額も少なく済むのに、なぜあえて先発医薬品を処方する必要があるの?というのがアメリカ人の正直な感覚なのでしょう。

なお「ジェネリック医薬品ではなく、あえて先発医薬品を処方したい」という医師のために、処方箋には「処方箋に記載した通りの薬のみ処方可」というチェックボックスがあります。しかし、私が長年アメリカの調剤薬局で勤めていた経験の中では、この欄にチェックを入れた医師は1人もいませんでした。

 

薬剤師が医師の処方した薬を変更することもある?

薬剤師が医師の処方した薬を変更することもある?

とはいえ、薬の中には当然ジェネリック医薬品がまだ開発されていないものもあります。その場合は、総じて自己負担額が高くなってしまい「薬は必要だけど、こんなに高い金額支払えない」と悲鳴を上げる患者さんも少なくありません。

そんな時、アメリカの薬剤師は自分の判断で処方薬を同等の効果のある別の薬に変更することができます。アメリカでは薬剤師の地位が高く、薬のスペシャリストとして医師と同レベルの職業と認識されています。医師から「このような症状の患者にはどの処方薬が適切だろうか?」という相談の電話がかかってくることもありますし、処方薬を変更する旨は担当医師と共有した方が好ましいものの、医師に伝えなくとも法的には何ら問題はありません。変更する理由は、以前この処方薬でアレルギー症状が出た、他の薬との飲み合わせが悪いなどさまざまですが、「薬代が高くて支払えない」という患者の事情を考慮し、ジェネリック医薬品が選択できる薬に変更するケースもあるわけです。その場合は、処方箋に記載された薬とは別の薬が処方されることとなります。

 

おわりに

薬価高騰に悩まされるアメリカの人々にとって、処方薬に保険が適用されるかどうかは重要なポイントです。各民間会社はジェネリック医薬品を保険対象医薬品として推奨しており、その影響もあってアメリカではジェネリック医薬品が広く浸透しました。医療費節減につながるジェネリック医薬品の市場は、今後ますます広がっていくことでしょう。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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長谷川 サツキ

ライター・翻訳者。筑波大学卒。渡米後に、カリフォルニア州の現地保険エージェントにて医療保険部スーパーバイザーとして勤務。その後薬剤調合師の国家資格を取得し、調合師としての勤務経験を経て、夫の転勤を機にライターへ転身。アメリカ生活、海外ルポ、メディカル、ヘルスケア、ライフスタイル、法律、金融等をテーマに情報を発信している。

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