仕事を知る

2018/01/29

今や就職活動をする学生さんにとっては、志望する業界や会社について、さまざまな情報が簡単(すぎるほど)に集まる時代。しかし、「入社後に、自分が成長していく姿」を具体的にイメージできるかというと……なかなか難しいもの。

そこで今回は、ジェネリック医薬品メーカーで働く3名の研究職の方に、入社からこれまで一体どのような経験をされてきたのか、その「成長度」をグラフに描いてもらいました。

グラフに図示しきれない“思い“も含めて、SCIENCE SHIFT編集部が根掘り葉掘り、聞いてきました。今回は、沢井製薬に研究職として入社後、少々変わったキャリアを歩む、河井嶺男さんにお話を伺います。

河井嶺男さん取材協力:開発部 企画グループ 研究員 薬剤師 日本薬剤学会「製剤技師」認定 河井嶺男(かわい・みねお)さん

2007年、新卒で沢井製薬へ入社。製剤研究部から開発部・企画グループへという、社内でも変わった経歴の持ち主。就業しながらMBAを取得し、研究知見と経営分野での知識を掛け合わせ、会社や製薬業界の未来を考え日々奮闘されている。

成長グラフ

スタートは研究者として王道コースへ

━━現在所属されている、「開発部 企画グループ」ではどんなお仕事をされているんですか?

開発の上流に当たる部分に関わっています。プロジェクトを進めるか止めるか判断する際に使う資料の作成や、製品のコンセプトを考えるのが大きな仕事で、きわめて重要な内容です。

━━2007年の入社時には、「製剤研究部」への配属だったのですね。

はい。就職活動中も研究を志望していました。入社前に「製剤研究部に(配属に)なると思う」と言われ、ぜひそこで頑張りたい、という思いでしたね。入社から7年ほど製剤研究部で錠剤やカプセル剤といった固形製剤の処方設計をしていました。

河井嶺男さん

━━入社当時、研究の仕事にはスムーズになじめましたか?

実は、配属直後の仕事が「水を20kg量る」というもので、工事現場に来てしまったのか?!と思ったのが第一印象です(笑)。後で聞くと、ちょうどプロジェクトの最終段階のフォローの日にたまたま当たっただけだったようです。とはいえ治験薬の製造は材料のスケールが大きいので、そのような力仕事もあります。

━━その後は、想定通りの研究のお仕事に?

はい。大学院時代の研究の延長線上にあったので知識も活かすことができ、入社したばかりでも意見を求められたり、やりがいのある環境でした。もちろん、初めは機械の使い方などから入るので、2年ぐらいは先輩たちの研究を手伝いながらその中の一部分を任せてもらっていました。

 

“自由”な研究環境だったから成長できた

━━2009年4月に初めて主担当に。仕事に対する気持ちは変わりましたか?

責任感が出ましたし、なにより自分でいろいろ試せるのがすごく面白かったですね。先輩に比べるとアイデアは乏しいのですが、やりたいことが次々出てきました。これでうまくいかなければ、次はあれをやってみよう、と。

━━やりたいと言ったことは自由にやれるものなのですか?

そうですね。今思うと、先輩方はある程度ゴールが見えていて、その中で泳がされていたのかもしれません (笑)。「これをやってみたいんです」と言うと、基本的には「やってみたら?」という感じなのですが、変な方向に行きそうな時は「やってもいいけど、こっちはどう?」と、うまくコントロールされていたような気がします。

━━決められたことをやるのではなく、自分で考えてやるような「自由度」が大きいのですね。

はい。やりやすいように対応してくれました。自由すぎて、どうしよう?という部分もありましたが、例えば添加剤ABCDを全部試したいと言えば「やってみたら」と言ってもらえたし、その中でどれがよかったか、フィードバックをもらいながら、製剤化していくことができました。

━━自由に任されていることで、戸惑うこともありましたか?

たしかに当時は、もっとしっかり「教えて」もらいたいと思ったこともあったのですが、その後に異動した先で、「そんなに分かっているのに、どうしてもっと意見を出さないのか?」と言われ、初めて自分は「分かっている」のだと認識したんです。受け身で教わる環境ではなく、自分で考えて実行したり、文献を読んで学んだりといった環境も知識を積み上げるにはよかったのでしょうね。

━━全体的にそういう「任される」社風なのでしょうか?

時間的な制限はありますが、経験を積むために、やりたいと言ったことは大体採用してもらえる環境はあると思います。特に製剤研究部では、回り道してもいい、むしろそれが大事だとも言われていました。

 

研究者としての迷い、悩み。経営分野へ大きすぎる転換

━━製剤1グループから製剤4グループへ異動して、「成長度グラフ」のカーブが急激に上がりますね。

研究の枠組みや文章の書き方、どうやって人を説得するかといった、ビジネスに直結する部分を教えてもらえたことが大きいですね。その時教わった、患者さんのためにこの製品をどう開発すべきかという計画書や、いかにうまくアピールするかという報告書の作り方は、今も本当に役に立っています。

━━そうして超大型製品の主担当に。さらにカーブが急上昇していますが、うまく上市できたということですか?

それが残念なことに、もうすぐ上市できるなと思ったところで、開発部に異動になってしまって。それまでとはケタ違いの大型製品の、ゴールが見えてきた面白いところだったのですが。

━━そのタイミングで異動とは…。

衝撃的でしたが、実は確実に自分がまいた種で。上司に「自分は研究が向いてないのでは」と冗談まじりに話したことがありました。「将来どうしたいの?」と聞かれ、「企画や経営に興味がある」と話したら、異動の話がきました(笑)。ここが僕の人生の一つのハイライトかもしれませんね。

━━なぜ研究が向いてないと思ったのですか?

細かいところを追及するよりは、大きな枠でとらえる方が好きだと感じたんです。研究職としては深く追究することで特許につながるような新しい発見があり、とても面白く、やりがいもあるのですが、会社全体としてのこの先の課題や発展を考えると、違うキャリアを目指す選択肢もあるんじゃないかと。

━━俯瞰的に広い範囲を見ようとしていた、ということでしょうか?

そうかもしれません。当時は多くの先発品の特許が一斉に切れる2010年問題が話題になっており、ジェネリックにもそういった困難な時期が訪れるかもしれないことや、将来先発品がなくなる可能性など、いろいろな心配をしていたのを覚えています。僕は大学院まで6年間大学にいたので、やっと主担当になった時には、先に働き始めた友人は結構キャリアを積んでいて、そんなギャップに悩んでいた時でもありましたね。

━━正直なところ、転職を考えたこともありましたか?

いえ、恵まれた環境にいると感じていたのでそれはなく、ただ不安を抱えていた感じです。任される仕事のレベルは上がっているのに、自分の実力が追いついていないのではないか…と。そんな話をしていたら辞令が出て、「やってしまったな」という感じでした。

━━異動してどのような仕事に就いたのですか?

プロジェクトを進めるか否かの事業性評価です。赤字か黒字かを見極めたり、製品のコンセプトを考えるための資料を作る仕事です。まだ研究の視点で見ていたせいか、資料が見にくいとか、もっとこんな情報も必要なはずと疑問を感じてしまい、かけた時間に対する成果物の生産性が悪く、初めはしんどかったですね。

━━製剤研究部から企画グループへ、という異動はよくあるのですか?

多分僕が最初で、それ以降もまだないですね。その製品を会社として作れるか判断するため、製剤設計にどれぐらいの時間がかかるかを知るため、全体の流れを知るためにも、現場の意見がもっと必要だと、製剤研究部から僕が呼ばれたのだと思います。
企画グループでの業務は、今後の沢井製薬を支える非常に重要なものです。どういった製品を開発するか、どういった製品にしていくかという決定に関与できることは、大変おもしろく、やりがいがあり、有難いことだと思っています。

 

視野を広げ、製薬業界への考えを深めてくれたMBA入学

河井嶺男さん

━━それからMBAが視野に入ってきますが、何がきっかけだったんですか?

ツールを使って決められた答えをだすのは簡単なのですが、なぜここで赤字になるとダメなのか、ここで辞めることで頑張ってきた人の苦労を捨てていいのかと悩んでしまって、ファイナンスが理解できない。さらに、製品のコンセプトを作るにあたって、患者さんや医療関係者の声をちゃんと入れられているか、調べるためのマーケティングの知識もない。ファイナンスとマーケティングを勉強したいと思った時、学校で教わる方が効率がいいだろうと思ったんです。

━━情報収集した結果、2016年4月に神戸大学のMBAに入学。

準備も必要だし、会社に少しでも迷惑をかけないように、開発部の業務を理解してからにしようと、受験したのは入学を決めた1年後で、会社には、合格してから行かせてほしい旨を相談しました。もちろん仕事をしながらの勉強でしたので、2時に寝て6時に起きる日が続いた時は、さすがに体力的にキツかったこともありましたが、得たものはすごく大きいと思います。

━━時間や体力的にはキツくても、充実していたんですね。

はい。それまでの交流関係は医療系や製薬会社の人ばかりだったので、一般商品メーカーや、他業界の人と話せるのがすごく面白かった。どの会社も同じような問題を抱えていて、共感したり、こうしたらよくなったなど、いろんな話ができたこともポジティブに働いた気がします。例えば自社の課題と感じる部分が、周りから見ると良いことに見えたり、違う見方があるんだと勉強になりました。

━━外から見るからこそ、会社の良いところも見えてくる、という部分もありましたか?

そうなんです。MBAの授業で習ったことを、自社ではすでに取り入れていたことがあります。例えば、事業の継続を判断するファイナンスのツールが整備されているのも他業界と比べても先進的な部分でした。あらためて気がつき、ちょっと感動しました。

━━MBAというと、会社経営を目指す人も多いと思いますが、そんな気持ちもあったのでしょうか?

そのような人たちとは全然レベルが違い、経営者を目指そうとはまったく思っていませんでした。ただ、世の中にはすごい人がいるんだと再認識しましたし、そんな人たちとコミュニケーションを取れるようになったことは大きいですね。他業界・他社の方で、こんな人になりたいと思える人にも出会えました。

━━例えばどんな人ですか?

1人はとにかくアイデア豊富な方です。僕と同じような仕事をされているのですが、今のままでは自分がその方の年になっても同じ土俵には立てていないなと感じ、立てるようになりたいと思える方です。イノベーションを手掛けておられる人は、どんどん新しいことを生み出されていて、こんな仕事をする人が日本にもいるんだ、と驚くほどです。もう1人は僕より年下なんですが、圧倒的に考えが深い方です。
もちろん社内にもすごい方はいるので、他業界の人たちの良いところやアイデアを組み合わせれば、もっと面白くなると思いますね。

━━そうして17年9月に修了。MBA取得ですね。

修士論文の追い込みは相当に苦労しました。今でも若干残っているぐらいじんましんが出てしまったり(笑)。それでも自分の会社と仕事について深く考えたことはすごくよかった。優秀論文賞の候補にも選ばれて、やってよかったと思います。

━━ちなみに、論文のテーマは何だったのですか?

薬剤師さんはどうやって薬を選ぶのだろうという、素朴な疑問がはじまりで。多い場合だと、ある薬に対して30社ほどのメーカーのジェネリックがあるのですが、その中からどうやってうちの製品が選ばれるんだろう、どういう根拠で選ばれるんだろうと。神戸大学の学生として、数多くの方々にアンケートをとらせていただき、それらをもとに論文を構成しました。薬剤師がどう考えているか理解が深まったことで、どんな製品を届ければいいか、自分の仕事を見直すことができました。

 

研究と経営、二つの視点で会社を変えていきたい

河井嶺男さん

━━全体としてみると、製剤研究から経営側に方向転換されて、それ以降の成長度が高いですね。

確かに。一緒に研究していた方にも「すごく進化してるね」と言われたり、一段上から見よう、一段深く考えようと思えるようになったと実感しています。

━━それはMBAで学んで身に付いたのでしょうか?

MBAで学んだというよりは、そこで学んだことで考えが整理された感じでしょうか。例えばよく会議などで、なんで営業はもっと売らないのか、なんで研究はもっと売れる製品を作らないのかと、研究と営業の意見のかい離が現れることがあります。何もしなくても勝手に売れる製品が理想ですが、さすがに難しい。となるともう少し攻めた開発も必要なのでは、と思うものの、踏み切るには情報の収集力・活用力が弱い気がして、より良い新たな解決策を探し、もがいているのが現状です。

━━今のお仕事に対する“情熱”がありそうですね。

さまざまな条件があるものの、最終的には、“患者さんのために”というのが僕の基準です。患者さんに喜んでもらう製品をつくるには、吸い取れていない情報や、少しズレたところにニーズがあるかもしれないと、思っています。例えば、こんなことが面倒で、その面倒を解決する手段として新しい技術を組み合わせれば、患者さんや医療関係者が喜ぶものができるんじゃないか、などです。今話題のVRやAI、IoTなどを取り入れながら、他の部署をつないでいく。研究とは少し違った、いろいろな方向で挑戦してみたい。新しい情報を取り入れる環境は必要だと思うので、それを自分の仕事にできれば面白いですね。

━━成長した今振り返ると、異動前に不安に思っていたことは解決しましたか?

ある意味、さらに不安になったかもしれません(笑)。違う視点を持てたために、いい面も悪い面も見えてきたからです。だからこそ、いろんな情報や新しいことを取り入れて、会社を変えていけたら面白いだろうなと考えています。

━━最後に学生さんに一言。

旅行でも留学でもいいので海外に行って、視野を広げてください。考え方が違う外国の方と話すだけでも面白いし、ローカルフードを食べたり、日本にはない現地のサービスを使ってみるのもいい経験になると思います。さらに現地で友達を作って、広い交友関係を持つ方が面白い人生を送れると思います。

ジェネリック医薬品業界の人・仕事・環境とは
タグ一覧 インタビュー ジェネリック医薬品 研究職 製薬業界
記事一覧へ
SCIENCE SHIFT編集部

当メディアの編集部員です。学生の皆さんに今お届けすべき話題は何か?を日々考え、より良い情報を発信していきたいと思います。

関連記事