スキルを磨く

2017/11/28

「これからの社会で、何より求められているのは“創造性”」。

そう語るのは、現在東京大学機械系の就職担当を務める中尾政之教授。中尾教授は自らの創造力を高めるために、ある習慣をこれまで数十年間にもわたって続けているという。研究室の学生にも勧める、創造性を高めるための習慣とは?そもそもなぜ創造性が重要なのか、創造性とは何なのか。中尾教授に聞きました。

中尾政之教授

取材協力:
東京大学工学系研究科 機械工学専攻 教授
博士(工学) 中尾 政之(なかお まさゆき)氏

1983年、東京大学工学系研究科修士課程修了。同年、日立金属株式会社勤務、1992年東京大学工学系研究科産業機械工学専攻助教授、2001年同教授。専門は生産技術、ナノ・マイクロ加工、加工の知能化、創造設計と脳科学、失敗学。近著に『創造力を鍛える マインドワンダリング-モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング(B&Tブックス)』 。

 

なぜいま「創造性」が最重要なのか

━━あらためて、中尾教授が「創造性」が大事とおっしゃるその理由を教えてください。

「創造性を鍛える マインドワンダリング」中尾政之教授

かつて日本の製造業は、欧米諸国の真似をして成長してきました。しかし、1980年頃から、「世界のトップレベルに並び、先がない」と言われ始めました。特に2000年頃からは、企業が世界で戦える競争力を持つには、「やはり誰もやっていないことに挑戦していくしかない。前例のない、新しいものを創造する必要がある」というムードに変わってきたわけです。そこで必要になるのが、「創造性」です。

私の研究室でも、もっと「自分で考えて自説を述べよう」と学生を鼓舞しています。特に、私は今年、就職担当を務めているので、学生の就職活動をサポートしようと、自分の強みとして創造性を身につけるよう、本腰を入れて指導しているわけです。

 

「創造性」とは何か

━━近著のなかでも創造性という言葉を多く使われていますが、創造性とは、そもそも何なのでしょうか?

創造性とは、仮説を立てる力のことです。アブダクション(Abduction)や提案力、課題設定能力と言い換えてもいいのかもしれません。

東大生は仮説立証のうち、立証はとてもうまい。与えられた課題を解くことは、皆、小学校から鍛えてきたことです。課題さえ与えられれば、東大生は持ち前の理解力で、一番早くうまい手を考えて解くことができます。ただ、自ら課題を立てることができない。やったことがないから分からないのです。東大生に限らず、日本人全体の傾向でもあります。

課題を立てるためには、まず仮説をひらめく必要があります。ある程度直観で、「ここはこうすべきではないか」「ここがおかしいのではないか」といったように、違和感を持つことです。

たとえば研究開発で特許を取るためにも、仮説が必要です。実験をしている最中に「この物質を加えたら何か起こるんじゃないか」「こういう手順にすれば新しい結果が出るんじゃないか」と、ひらめきから仮説を立てる。それが立証できて初めて、特許に結びつきます。研究ですばらしい発明や発見をした人は、実験ノートにひらめきや仮説を書き込んでいます。普段から、それらを蓄積していくことが大切なのです。

創造力を鍛える マインドワンダリング-モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング
アイデアが生まれるまでの一連の流れ(著書掲載図を元に作成)。

 

東大生でも、創造性がなければ不採用になる時代

━━就職活動においても、学生の「創造性」は、企業から見られているのでしょうか。

一昔前、東大生は大学の推薦状を持たせて送り出せば、企業は全員を採用してくれました。しかし今は、東大生でも落とされる学生が増えています。なぜか? それは、自分の意見が言えないからです。自分なりの仮説を立てて、自分の頭で思考実験できない学生は採用されないのです。たとえ他人と同じ意見であっても、なぜ自分がその意見に至ったか、という説明が必要です。そのためにはやはり、考えること、つまり創造性が求められます。

創造性が求められているのは、民間企業だけではありません。たとえば、国家公務員も同じです。驚くべきことに、国家公務員試験で成績上位一桁台を収めた東大生でも不採用になるのです。

国家公務員の仕事は2~3年程度で異動があるため、これまでは異動先で滞りなく仕事をこなすための「理解力」が必要とされてきました。しかし、最近では、提案力がより重視されるようになってきたのです。提案力がないと、政策を立てる際に、アメリカやヨーロッパの政策を足して2で割ったような独自性のない案しか出てこない。たとえば、いま日本は、世界に類をみない超高齢社会に突入しています。そのような過去に前例のない社会、他国の真似だけでは通用しない時代に、目指すべき社会を国民に提案できる人材を採用していこうとしています。

 

「違和感」に気がつくことがはじめの一歩

「創造性を鍛える マインドワンダリング」中尾政之教授

━━初めからすばらしい創造性を持っている学生は多くない気がします。「創造性」を養うことはできますか。

まず、「違和感」に気づくこと。これが何より大事です。例えば、あるロボットが動かなくなったとします。修理するためには、どうして動かなくなったのかという仮説を立てますよね。その際に、そういえば変な音が鳴っていたとか、異臭がするとか、このあたりが怪しいということを五感で感じて、原因を考えます。その「何かがおかしい」という感覚がなければ、仮説を立てることはできません。そういう、違和感に気がつかない人は設計者に向いていない。言われたことをひたすら行う作業者にしかなれません。

ただ、違和感に気づくように、自らの感度を高めていくことは可能です。

私は大学で機械工学の設計の授業を受け持っていますが、最初の授業で「身の回りで違和感があるものを写真に撮る」ということを行います。この場合の“違和感”は、変わっている、おもしろい、新鮮だなど、気づいたこと何でも構いません。すると、留学生は自国と違うところを10枚以上、簡単に撮ってきたりしますが、日本人には難しく、たった2枚しか撮れないような人までいます。

他にも、たとえば芸術系の先生に授業を担当してもらい、お香の香りを嗅いでそれが何色かを考えさせたり、花を見てその花言葉を一つ考えさせたりします。学生も初めは戸惑うかもしれませんが、繰り返していくうちにさまざまなことに気づき、そこを起点にして考えられるようになっていくのです。

東大生には3種類の人材がいます。自分で勝手に燃えて活動できる自燃性が1割、何をやっても燃えずに行動しない不燃性が3割、そして人から焚きつけられれば燃える“フリ”をして活動できる可燃性が6割。つまり、7割は周りの人や環境に焚きつけられればだんだんと燃えるようになっていくものです。

━━燃える“フリ”、とはどのようなことでしょうか?

可燃性といっても、実際は心の底から燃えているわけではなく、燃えろと命令されているから、燃えたフリをしよう、という感じの学生が多いのです。つまり、役者になって、その役柄に徹して、燃えた演技をしています。そうでもしないと、燃えたくないのに燃えなければならない、というギャップに耐えかねて、放棄してしまうからでしょう。だから、私も、「君は役者なんだ」「リーダーを演じる名優なんだ」と学生に言い続けています。今ではそれが一番、うまくいく方法だと思っています。初めは燃えた「フリ」でも、そのうち本当に燃えるようになることも多いのです。

 

自分だけのアイデアノートをつくる

「創造性を鍛える マインドワンダリング」中尾政之教授 アイデアノート
中尾教授のアイデアノートの1ページ。絵とともに、そのとき感じた違和感や疑問、気づきが記録されている。

━━違和感に気づいたあとは、どうしたら良いのでしょう?

気づいた違和感は、忘れないうちにメモしておく。自分の「アイデアノート」をつくることです。仮説を立てたり自分の考えを形成したりする際に、アイデアノートの違和感がひらめきにつながっていきます。採用試験や論文発表の現場で何かアイデアを求められたときに、気の利いた回答ができるようになります。

━━中尾教授は、普段どのようにアイデアノートを活用されていますか?

芸術の先生の受け売りですが、ピカソも使っていたという「モレスキン」のノートを常に持ち歩いて、美しいと思ったものや、おかしいと気づいたことを書き留めるようにしています。私は絵で描くことが多いのですが、記録の形は、写真でも文字でも記号でも何でもいい。何か書いてあれば、あとから見返したときに何となく思い出すことができます。あまりきれいに書こうとすると面倒になるので、ノートを開いたら適当に書き、5分くらいで閉じる。深く考える必要はありません。もちろん、ノートの形式にもこだわりません。小さいメモ帳でも、あるいはスマートフォンでも構いません。それでも「スケジュール手帳」と一緒にするのはやめたほうが良いと思います。開くとどうしても、今後の予定や上司の命令を考えてしまいますから。

私が最近描いたものは、土浦に花火を見に行ったときにきれいだなと思った千輪花火や、ルーマニアに行ったときにおもしろいと思った形のカップ、ロシア正教会の塔、など。そのときに、たとえばロシア正教会の塔は「なぜ左右ではなく前後に並んでいるのだろう」と不思議に思ったり、時には目の前にある建物を、上から見たらどういうふうに見えるのだろうと想像しながら描くこともあります。

自分の手で書くことで、さまざまなことに気づき、考えることができる。写真だと、情報が多すぎるんですね。私の脳に入りきらない。何も考えずにパシャパシャとたくさん撮っても、些細な違和感に気づかないだけでなく、ほとんどの画像は忘れてしまいます。

━━創造性を養うために、学生であればどれくらいのペースでノートをつけたら良いでしょう?

毎日一つは気づきがあってほしいと思います。社会人より、学生の方が日々に変化をつけやすいのだから、時間があったらとにかくいろいろなところに行って体験してみる。一つの趣味や研究に没頭するのもいいのですが、それだけではなく、たまにはクラシックやジャズを聞きに行ったり、お芝居やミュージカルを観に行ったりしてみれば楽しいと思います。学生割引もありますしね。なるべく経験したものに好奇心を抱くのが重要で、私は能や茶道が最近おもしろかったです。

そのなかで得た気づきや違和感をきっかけにして、次に、それはなぜなんだろう、と考えてみる。そしてそれらをすべてノートに貯めておけば、「明日までに電気自動車を設計する」という課題が出た際にも、「あのときのあれがおもしろいんじゃないか」というようにひらめきが生まれます。

 

自分の人生を、創造性をもって設計していく

━━創造性を養い、これから社会に出ていく学生が、そのほかにやっておくべきことはありますか?

人生設計をすることですね。東大生に人生設計を訊ねると、「良い大学に入って良い会社に入る」と昭和の親が望んだ人生をただ復唱しているだけの答えが出てくる。免許を持たずに運転したこともないくせに、なぜトヨタ自動車に入りたいのかと聞けば、「そこが世界一の会社だから」という回答が返ってくるんです。でも、10年後もそうとは限らない。もしかしたら世界一はグーグルかもしれないですよね。それなら、自分の好きなことをした方がいいと思いませんか。

例えば人生設計の一つに「お金を稼ぐ」という要求機能や目的を設定したとします。しかし、さらに「なぜ?」と聞くと、お金を稼いでお金持ちになりたいとか、それとも趣味にかけるためのお金を稼ぎたいとか、最低限生活するだけのお金が稼げればいいのかとか答えてきます。つまり、お金は設計解や制約解なのです。

就職も設計会のひとつに過ぎません。自分はどうやって生きていきたいか、誰のような人生を送りたいか、何を幸せに思うか、という人生設計は重要です。世のなかには成功した人や失敗した人、いろいろな人の伝記があるので、それを読みながら設計してみるのもおもしろいかもしれません。父親の真似では先も知れています。自分の人生を設計したこともなくて、どうやって生きていくんだ?と思いますね。

━━最後に、学生さんに伝えておきたいことがあれば、お願いします。

「創造性を鍛える マインドワンダリング」中尾政之教授

自分がおもしろいと思うことにもっと力を注いだらいい。現代は人類史上、もっとも豊かな時代で、自分のことを自分で考えて決められる、大学生になってもなお、一生懸命やることが恥ずかしいと感じている節があるように思います。自分でタイムマネジメントをすれば、たとえば運動部に参加し、映画を週に3本も見て、研究も一生懸命するということがいくらでもできるはずです。東大の研究室は24時間開いているのだから、真夜中に実験して、昼間は映画を観に行ったっていい。学生にはいつも言っていますが、あのときやっておけばよかったと思うくらいなら、すぐにやってみる。いつ死んでも悔いのない人生を送ることを目的にして、興味を持ったことは何でもやってみることです。

 

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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