スキルを磨く

2017/05/09

コミュニケーションに重要なのは、「聞く力」──。

「コミュニケーション力」というと、うまく話せるようになるには?ばかりに目が向きがち。しかし実は「聞く力」が重要、と述べるのは、3000人以上の著名人インタビューを行い、ブックライターとして活躍する上阪徹さんです。学生も社会人も知っておきたい「聞く力・コミュニケーション力」について、5回にわたり連載いただきます。まずはなぜ「聞く力」なのか、から。

 

「コミュニケーション力」に対する誤解

面接

就職活動で、あるいは社会人になって、よく耳にするようになる言葉に「コミュニケーション力」があります。それは、コミュニケーション力が実はとても大切な能力だからに他なりません。

コミュニケーション力とは、端的にいえば「他者との会話によって上手に意思疎通ができる能力」のことです。しかし、特に若い人の間で、ひとつ大きな誤解をされているケースが多いと感じています。それは、コミュニケーション力とは、「話す力」や「伝える力」だと思い込んでいる人が少なくないことです。

私は経営者や大学教授、科学者やスポーツ選手など、さまざまな人にインタビューをして、雑誌やウェブに掲載する記事を作ったり、本を書いたりする仕事をなりわいとしています。まさにコミュニケーション力がなければできない仕事である、ということはご想像いただけると思いますが、私は仕事を通じて、ひとつの気づきを得たのでした。

それは、コミュニケーション力は、話す力や伝える力だけではない、ということです。何かといえば、「聞く力」「質問する力」です。

 

営業担当者はなぜ追い返されたか

象徴的なエピソードを取材で聞いたことがあるので、ご紹介しましょう。ある著名な評論家の方は、テニスが趣味でした。毎月のようにあちこちの高原に出掛けて、家族や仲間とテニスを楽しんでいました。彼が不満に思っていたのは、テニスコートのレベルが行く先々でまるで違っていたことです。いまひとつのテニスコートでテニスをすることになったら、やはり楽しくない。

そこで、テニスコートが常設されているリゾート施設の会員権を購入することを考えたのでした。満足いくテニスコートがあるリゾート会員権を持っていれば、安心して、しかも安い費用でテニスが楽しめるようになるのではないか、と。移動手段は主にクルマ。個人的に好きで、これまでもたびたび行っていた長野エリアを第一候補に挙げることにしました。

テニスコート

彼はインターネットでリゾート会員権を検索し、おそらく大手の会社であれば、いいテニスコートを持っている施設があるのではないか、と考えました。アクセスすると、営業担当者からすばやくメールが来て、自宅にやってきてくれることになりました。

姿を現したのは、20代前半の若い男性担当者でした。ただ、身なりもとてもこざっぱりしていて好印象です。さて、テニスコートについて詳しく聞こう、と考えていると、営業担当者はおもむろにカバンから出したパンフレットを広げて、いきなり話を始めたというのです。

自分たちは大手のリゾート会員権を扱う会社であること、全国に施設があること、真新しい施設も少なくないこと、温泉つきもあること、アクセスも便利なところが多いこと、などなど。営業担当者を呼んだ彼は、あっけに取られていました。そして、まるで練習をしてきたかのように、流ちょうに自分の会社の説明をする営業担当者の話を思わずさえぎったのでした。

「もういいです。今日はお引き取りください」

さて、営業担当者が、どうしてこんなことを言われてしまったか、おわかりになりますか。評論家は言っていました。自分が欲しいと思っていたのは、テニスコートのついた長野の施設だった。そこまで決まっているのに、営業担当者は自分の言いたいことだけを言って、こちらの要望をまったく聞こうともしてくれなかった。そんな営業が、いい仕事をしてくれるとはとても思えなかった、と。

営業担当者がしなければならなかったのは、流ちょうにしゃべることなどではまったくなかったのです。お客さまである評論家が、「どんなリゾート施設を求めようとしているのか」をきちんと聞き出すことでした。

 

コミュニケーションの盲点は「聞く力」にあり

前述のエピソードこそまさに、コミュニケーション力が、話す力、伝える力だと勘違いしている場合の落とし穴なのです。もし、話す力、伝える力を、お客さまの要望を聞いて、その上で使えたとしたら、それはもう大いに活きたでしょう。しかし、要望も聞かずにセールストークを始めては、無理に売ろうとしているのか、と思われてもおかしくないのです。

コミュニケーションにおいて大事なことは、相手が求めていることについてコミュニケーションする、ということです。一方的に、話すのがうまかったり、伝え方がうまかったりしても、それだけでは意味をなさない。そして、ここで必要になってくるのが、「聞く力」「質問する力」なのです。

聞くことによってこそ、相手が何を求めているのかが、わかります。相手の求めていることがわかれば、それについてコミュニケーションすることができます。ところが、きちんと聞かないでコミュニケーションしようとすると、先のリゾート営業担当者のようになってしまう、というわけなのです。

聞く力

私はいわゆるトップ営業と言われている方々にもたくさんインタビューをしていますが、彼らは、実は決してしゃべりは上手ではなかったりしました。しかし、こちらが何を求めているのか、それを聞き出し、察知し、応える能力はズバ抜けていた印象があります。優れた営業パーソンというのは、実は話し上手ではなく、聞き上手なのです。

それこそ、先のリゾート営業の逆を考えてみてください。お客さまに呼ばれた。それは何か理由があってのことのはずです。「どうして私を呼んでくださったのでしょうか?」から始まり、「どんな用途に使われるリゾート施設ですか?」「どんなテニスコートをご要望でしょうか?」「利用されるのはご家族が中心ですか?何人家族でいらっしゃいますか?」……。

こんなふうに、お客さまが考えていることを、一つひとつ聞いてもらったら、お客さまはどう感じるでしょうか。「あ、この人は私のために、私の要望になんとか応えようとしてくれている」「私を満足させてくれようとしている」と感じるのではないでしょうか。これは、言い換えれば、信頼がもらえる、ということです。自分のために一生懸命にやってくれる人に、悪い印象を持つ人はいません。

いくら話すのが上手で、得意でも、一方的にまくしたてただけでは、「この人はもしかして、私に売りつけたいんじゃないか」と思われても仕方がないのです。それよりも、とにかく聞いていく。相手が求めることを質問していく。そうすることで、相手が理解できる。こうして、相手に求められているコミュニケーションができるのです。

コミュニケーションとは、上手に話すことではない。聞くことが大切。イメージいただけましたか。将来どんな職業に就くことになっても、このことは忘れずにぜひ覚えておいてもらえたらと思います。必ず役に立つはずです。

では次回、第2回は、就職活動でも使える「聞く力」についてお届けします。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 
次の記事はこちら:
第2回 就活で存分に生かせる「聞く力」!質問することで、人に何が伝わるか

製薬業界をもっと知りたい!製薬業界・入門編
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上阪 徹

1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。リクルート・グループを経て、94年よりフリー。著書に『〆切仕事術』『「聞き方」を変えれば、あなたの仕事はうまくいく』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』『成功者3000人の言葉』『職業、ブックライター。』『書いて生きていく プロ文章論』など20冊以上。インタビュー集に累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ、『外資系トップの仕事力』シリーズ。インタビューで書き上げるブックライター作品も60冊以上を数える。公式サイト: http://uesakatoru.com

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