仕事を知る

2018/02/21

これからの社会を動かす企業やプロジェクトに注目し、そこで働く人たちが成果を生むまでのプロセスを探る当企画。第3弾となる今回は、曖昧な人間の感覚を定量化するという挑戦。ギャツビー、ルシードなどの定番の男性用スキンケアブランドを生み出す株式会社マンダムに迫ります。

【これまでの記事はこちら】
Vol.1 ユーグレナ株式会社
Vol.2 WHILL株式会社

株式会社マンダム 山口あゆみさん、橋本公男さん

取材協力:株式会社マンダム
基礎研究所 生理解析研究室 主事
山口 あゆみ(やまぐち あゆみ)さん

技術開発センター フェイスケア製品開発室 主任
橋本 公男(はしもと きみお)さん

男性化粧品のリーディングカンパニー、株式会社マンダム。男性の見た目の印象向上につながる、さまざまなスキンケア製品を開発・販売している。その同社が2017年9月、「40代男性の『若々しい印象』は『肌の明るさ』に左右されることを発見した」という研究成果を発表した。あわせて加齢によって暗く変化した男性の肌が、スキンケアにより明るさに改善傾向が見られることを確認したという。
初対面での「見た目の印象」を良くすることがビジネスの成果や良好な人間関係にも直結するのでは、という認識が広まるなか、現代の日本では男性のスキンケアに対する関心が高まり続けている。「男性用化粧品メーカー」の研究者ならではの仕事のやりがいや目指すビジョンとは何なのか。研究成果を発表した2人の研究者にお話を聞いた。

 

圧倒的な研究知見が生んだ、ロングセラー商品

「私の現在の研究テーマは、年代や生活習慣の違いによって、どのように肌が生理的に変化していくのかを分析し、それを元に男性向けスキンケア商品の開発につなげていくことです。化粧品メーカーの多くは女性を主要顧客としているため、昔から男性の肌は、女性に比べてあまり研究されてきませんでした。そのため弊社が長年にわたって蓄積してきた男性の肌に関する知見は、男性用化粧品を開発するうえで、とても大きな強みとなっています」

圧倒的な研究知見が生んだ、ロングセラー商品

そう語るのは、男性用化粧品で国内トップのシェアを誇る株式会社マンダムで、男性の肌の基礎的なデータの収集を担当する山口あゆみさんだ。1927(昭和2)年に大阪で創業された同社は、1933年に発売され今なお店頭に並ぶ整髪料「丹頂チック」をはじめ、若者向けの「ギャツビー」や、業界初の無香料男性化粧品として話題になった「ルシード」シリーズなど、数多くのロングセラー男性用化粧品を生み出してきた。山口さんが所属する「基盤研究所 生理解析研究室」では、男性の肌や体臭の基礎研究をさまざまな角度から行い、他社に先駆けた独自のデータの蓄積を続けている。

その山口さんとの研究により、昨年、「40代男性の若々しさの印象は、肌の明るさによって決まる」という研究成果をともに発表したのが、同社「技術開発センター フェイスケア製品開発室」に所属する橋本公男さんだ。

「山口のセクションが人の肌などの基礎研究を担当するのに対し、私が所属する技術開発センターでは、製品に近い研究を行っています。スキンケア効果を高めるための新たな製剤の開発や、製品を使用した後の肌の経時的な変化を評価したり、また原料メーカーと新しい原料の共同開発なども担当します。その他に、今回発表した研究成果のように、人の肌が他者に対してどのような印象を与えるかといった、心理学や認知科学の領域にかかわる研究にも積極的に取り組んでいます」

 

男性にもスキンケアの大切さを知ってもらいたい

肌が人に与える印象の研究がマンダムでスタートしたのは約2年前のこと。最近でこそ、ひげそりの後に化粧水や乳液をつける男性は増えているが、今もなお多くの男性にとって、スキンケアは「女性がするもの」というイメージが強い。日常的に肌の手入れをする男性はまだまだ少数派であることから、従来とは違うアプローチで、男性にもスキンケアの大切さを知ってもらいたいと考えたことが、研究スタートのきっかけだった。

「私は以前から、人の肌が他人に与える印象について、大きな関心を抱いていました。人の顔に関する研究者が集まる『日本顔学会』という学会があります。そこでは医療や美容の研究者はもちろん、新しいプリントシール機の開発者や、コンピューターによる画像認識の研究者など、さまざまな側面から『顔』の研究に取り組む人々がその研究成果を発表するのですが、その発表内容の多くが顔の『形状』に関するものであることが、以前から気になっていました。顔の形状に関して『美人』や『イケメン』と呼ばれる顔のバランスなどの研究はこれまでにも数多くなされているのですが、私は『形状』と同じぐらい、『顔の肌の状態』が他人に与える印象に大きな影響を与えているのではないか、と感じていたのです」(橋本さん)

男性にもスキンケアの大切さを知ってもらいたい

女性と同様に男性も、加齢によって顔の肌にシワやシミが発生したり、毛穴が目立って肌に凹凸ができたりする。そうした加齢が及ぼす変化のなかで、2人が特に注目したのは「肌の明るさと色味」だった。

「マンダムでは2005年頃から基礎研究の一環で、同一男性15名(当時29歳〜53歳)の顔の肌が、年齢によってどう変化するか、追跡調査を行いました。女性の顔に関しては同様の研究が他社によって行われていますが、男性に関しては私どもの研究が唯一です」(山口さん)

分析にあたっては、まったく同一の光条件・角度で撮影できる特殊な装置を用いて顔の画像を撮影し、それらから得た肌の色味値(明るさ・赤み・黄み)を約10年前の同一人物の数値と比較した。すると『肌の明るさが低下するとともに、肌の赤みが増していること』が判明した。さらに2005年と2016年に撮影した同じ人の顔画像を、92人の第三者の男女に見てもらい、どんなイメージの変化を感じたか「印象評価」を行ったところ、「若々しい」というイメージが最も大きく低下していることもわかった。

10年間の肌変化
同一条件で撮影を行い、約10年前との肌を比較したもの。顔色も暗く、赤くなってきている。

「印象評価の結果から、人に若々しさを与える顔の印象には『肌の明るさ』が大きな要素であることが判明しました。多くの男性はあまり認識していませんが、30代~40代ぐらいになると、若い頃と比べて肌が暗くなるとともに赤みが増していきます。女性は加齢によって『黄み』が変化すると言われていますが、『赤み』が増えるのは、男性特有の変化であることもわかりました」(山口さん)

 

男性肌の加齢変化は、生活習慣も大きく影響

男性の顔が加齢とともに暗く赤くなるのは、男性の生活習慣の影響が大きいと考えられている。原因の一つは紫外線によるダメージだ。女性と違って男性は日常的にメイクをせず、スキンケアをする人も少ない。夏の強い日差しの下でも日傘もささず、日焼け止めを普段から塗る人も少数派だ。そのため長年にわたって紫外線にさらされた顔の肌には、女性よりも大きなダメージが蓄積しているという。

「もう一つ、男性の肌にダメージを与えていると考えられるのが、毎日の『ひげそり』です。電動ひげそりも、T字のカミソリも、毎日毎日のひげそりに伴って少なからず肌を傷つけます。肌を良い状態に保つには、肌に含まれる水分量がとても大切なのですが、男性は普段からスキンケアをしていない人がほとんどなので、女性に比べて水分量が少なく、外からのダメージを受けやすいのです」(橋本さん)

さらに今回発表された研究成果では、35歳〜49歳の男性を対象に、モデル乳液を4週間つけることで、どのような変化が顔に起こるかも調査された。

(次の記事へ続く)★2/22公開予定

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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