イノベーターに学ぶ

2018/02/23

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化粧品研究に長年携わってきた2人の研究者に、最後にお伺いしたのは化粧品をつくる仕事の意義、すなわち仕事の本質について。目指していることや、研究に対するこだわり、ともに働きたい人についてもお聞きしました。

化粧品は、使う度にワクワクする楽しい商品

マンダムで男性化粧品開発のための研究に携わる山口さんと橋本さんは、どのような経歴を経て現在の研究者としての仕事へとたどりついたのか。2人のこれまでの歩みについて聞いた。男性肌の基礎研究に携わる山口さんは次のように語る。

化粧品は、使う度ワクワクする楽しい商品

「私は大学の教育学部の中にあった理学系の物質科学コースで、水の中に溶けている微量金属を計測する手法を研究していました。マンダムを就職先に選んだのは、『お客さまが直接手にとるような商品をつくる会社で、自分が大学で学んだ分析の知識を活かしたい』と思ったのが理由です。化粧品は女性である自分にとって身近で、購入して使う度にワクワクする楽しい商品であると感じていたこともあります」

山口さんは入社して最初に、マンダムの主力商品である頭髪化粧品の原料開発に携わった。製剤を塗布した毛の束の曲がり具合を測ったり、他社品を分析して自社品との違いを評価する仕事などを担当した。産休を経て基礎研究室(当時)に戻った2004年頃は、ちょうどマンダムがスキンケアに力を入れていく方針をとった時期。そのときから山口さんは、肌の研究に携わり続けている。

 

人の感性に訴えかける製品をつくる

新卒で入社した山口さんに対して、橋本さんは他社での経験を積んでからマンダムの一員となった。大学院のときは遺伝子工学・分子生物学を専門とし、心臓の心筋細胞の再生医療の研究に取り組んでいた。就職活動時に「直接的に人の役に立つ仕事をしたい」「実際に商品を顧客が手にとり喜んでもらえるものに研究を役立てたい」と考えたことから、新卒で化粧品メーカーに就職し、2年前にマンダムに転職してきた。

「現在の部署でのメインの研究は、スキンケア製品の製剤開発です。そこでは、界面活性剤や乳化剤などを使うための界面化学の知識がもちろん必要ですが、化粧品という人の感性に訴えかける製品をつくるには、他にも多くの分野の知識が求められます。今回の研究発表にも関連しますが、感性工学や認知科学、脳科学や心理学といった異分野の知見が魅力ある製品づくりにつながることもよくあり、そこに化粧品開発の面白さを感じています」(橋本さん)

人の感性に訴えかける製品をつくる

自分たちが開発した製品をお客さまに使ってもらうことで、肌の印象が改善されることにはもちろんやりがいを感じているが、「さらに一歩その先に興味があります」と橋本さんは語る。人間にとって外部とつながる「窓」の一つである皮膚が改善されることで、心の状態を含めた人間の存在全体にどういう影響があるのか、分野横断的な研究をしていきたいと考えている。

自分の研究が会社にどのように貢献しているかについて、山口さんは次のように述べる。
「弊社の商品はコマーシャルなどで広告を行っていますが、多くの生活者は指名買いではなく、店頭で手にとって、他社の製品と比較した上で購入します。そのため、私たちの製品を使うことでどんなメリットが得られるのか、パッケージなどを通じてわかりやすい言葉で伝えることが非常に重要です。その『わかりやすさ』を表現するためには、根拠となる科学的なデータや研究の蓄積が、絶対に必要となります。お客さまが製品を使ってくれたとき感じる『嬉しい』とか『気持ちいい』という価値の、基礎部分を私たちの研究が作っていると考えています」

橋本さんは、「いつか男性のスキンケアに対する意識を変えること」という大きな研究目標を掲げる。
「男性もスキンケアをすることで、さまざまな良い効果があることが科学的に実証されてきています。しかし市場規模でいえば、女性に比べて男性スキンケア用品はまだまだ小さなマーケットです。その状況を変えることが、私の目標です。男性もスキンケアをすることが当たり前の生活習慣となり、若い頃から女性並みに肌の健康に気を遣うようになれば、若々しさを保つ魅力ある人が今よりもずっと増えるはずです。そのためには、われわれの製品を使ってもらった時に、『感動』を覚えてもらえることが大切だと考えています。『これはすごくいいな、心地いいな』『これが僕のほしかったものだ』『まさに自分のためのスキンケア用品だ』というような感動を与えられる製品をつくることが、私の夢です」

 

「人間にしか成し得ないこと」を追求していく

化粧品メーカーの研究職を考える学生に向けて、どういう人ならば一緒に働きたいか、2人に聞いてみると、橋本さんは「あまり自分の『枠』にとらわれないほうがいいと思います」と語った。

どういう人ならば一緒に働きたいか、2人に聞いてみる

「大学の研究室の中で、一つの研究テーマを突き詰めることにも大きな価値がありますが、メーカーで生活者向けの製品をつくる開発研究では、自分の専門分野以外の幅広い多角的な知見が求められます。実際、今まで興味がなかったことでも自分から積極的に学んでみると、世界がパーッと広がるような面白さを感じるとともに、後になって思いがけない時に役立つことがあるものです。私も学生時代に学んだ分子生物学や生化学の知識は今の仕事に大いに役立っていますが、就職してから自分で学んだ認知科学や心理学が、化粧品の開発に応用できた経験が何度かあります。興味がちょっとでもある分野は、何でものぞいてみる姿勢が大切ではないでしょうか」

山口さんに同じ質問をすると、ともに働きたい人物像として、「バランスの良いこだわりを持っている人」という答えが返ってきた。

「私の研究者人生を振り返ってみると、学生のときからずっと『客観的に数値化する』ことに携わってきたと感じています。物質のどういう点が優れているのか。それをどうやって評価するか。扱う対象はその時々で変わっても、一貫してそれを続けてきました。弊社の研究所には、製剤の分子構造を見るのが専門の人もいれば、橋本が述べたような心理学や認知科学を専門とする人など、多岐にわたる『強み』を持つ人がいます。学生時代から自分なりの『強み』を培って、そのことに関しては疑問に思ったことをとことん突き詰める姿勢が大切だと感じます」

2017年12月23日に創業90周年を迎えたマンダムでは、新たな「企業理念」に、「人間系」という考え方を据えた。その考えの根幹には、あらゆるものがネットにつながり、AIやロボットの発達が急速に進んでいく時代だからこそ、「人間にしか成し得ないこと」が重要となるという考えがある。人の気持ちを思いやり、人が喜ぶことを想像し、人に役立つ価値を創造していくこと。山口さんと橋本さんはこれからも、研究を通じて、その理念を形にしていく。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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