イノベーターに学ぶ

2018/04/25

従来の課題を解決し、世の中に新たな価値あるモノを生み出し続ける研究者たち。彼らの成果を生み出すプロセスと、研究開発に対する思いを探る当企画。第6回は、女性の美を追究するパイオニア・ポーラの研究開発を担う、ポーラ化成工業株式会社で働く研究者に迫ります。

【これまでの記事はこちら】
Vol.1 株式会社ユーグレナ
Vol.2 WHILL株式会社
Vol.3 株式会社マンダム
Vol.4 株式会社メタジェン
Vol.5 株式会社PROVIGATE 

女性の美しくて健康な肌の状態をサポートする美容液。その開発の陰には、多くの研究者たちの、人知れぬ努力がある。ポーラの最高峰ブランド「B.A」から、一昨年の夏に発売された美容液『B.A セラム レブアップ』は、「人の肌に備わっている自浄サイクル機能」が加齢や酸化ストレスによって低下することを世界で初めて*突き止め、誕生した。その基礎研究を担った原田靖子さん、そして実際の店頭に並ぶ「商品」に仕上げるところを担った本木裕美さん。二人の女性研究者は、どんな思いで「女性の美をつくる」研究に日々向き合っているのだろうか。

 * 2016年ポーラ化成工業調べ

取材ご協力:
ポーラ化成工業株式会社

製品開発部 内容物開発センター 研究員 本木 裕美(もとき ゆみ)さん
フロンティアリサーチセンター 研究員 原田 靖子(はらだ やすこ)さん

 

まったくの異分野から、「女性の美の向上」基礎研究の道へ

神奈川県横浜市戸塚区にある、ポーラ化成工業横浜研究所。この研究所内にある「フロンティアリサーチセンター」で、日々、「女性の美を向上させるための基礎研究」に励んでいるのが原田靖子さんだ。

まったくの異分野から、「女性の美の向上」基礎研究の道へ

「主に研究しているのは、加齢によって皮下組織に変化が起こることで、皮膚にたるみができるメカニズムの解明です。弊社では、昨年日本で初めて『しわ』を改善する医薬部外品として、『リンクルショット メディカル セラム』を発売しましたが、その商品開発の基礎研究も、私の所属部署が担当しています」

原田さんがポーラ化成工業に入社したのは2015年のこと。この4月で入社丸3年である。大学では何かしら化粧品と関連する、化学や生物学を勉強していたのでしょうか。そう尋ねると「いえ、まったく異分野の出身です。海洋科学部に所属し、『ニシンの遺伝的多様性』を研究していました」と、意外な答えが返ってきた。

「私がいた大学は、あの『さかなクン』が客員准教授を務めることでも知られる、東京海洋大学です。当社の研究者の中でも、かなり異色な経歴だと、自分でも思います(笑)。魚のニシンは、産卵の時期になると自分が産まれた海域に戻って、卵を産む習性があります。2011年に東日本大震災が起きたことで、日本の東北部の海も津波により大きな環境変動がありました。その影響で、ニシンの遺伝的多様性にも変化が見られるのではないか、というのが大学時代の研究テーマでした」

そんな原田さんが、まったく異分野の化粧品の研究を仕事にしようと思ったのは、なぜだったのだろうか?

「水産の道に進むという進路ももちろんありましたが、大学で学んだことを活かしつつ、人々の日常生活に寄り添った製品に関わってみたいと考えたことがきっかけでした」

製品の中でも化粧品を選んだのは、「自分が日常的に使う商品の中で、不満を感じることが少なくなかったのが理由です」と語る。「ドラッグストアに化粧品を買いに行っても、似たような製品がずらっと並んでいて、どれを買ったらいいか迷ってしまって。女性の肌は一人ひとり状態が違うのに、基礎化粧品は買ってから一カ月ぐらい使用してみないと、それが自分に合っているかどうかわからないことも多いです。それを自分の研究で、どうにかできないかな、と思ったのが理由でした。単純に、まったく違う分野に飛び込んでみたかった、というのも志望動機の一つです」

 

「化粧品が大好きだった」中高生時代と、研究者という選択

もう一人の研究者、製品開発部に所属する本木裕美さんは、原田さんらの部署が開発した「肌に良い効果をもたらす素材」を、実際に「化粧品のかたち」に落とし込む、「製剤開発」の研究を担当する。
「化粧品を手に取ったり、肌に塗った時の『しっとり感』や『さっぱり感』などの感触や、ローションやクリームなどに剤型化することが私の仕事になります。商品の特性にあった使用感を生み出すために、多種多様な原材料を組み合わせ、安定した品質を実現化するために、どのように処方を構築するべきか、日々研究をおこなっています」

「化粧品が大好きだった」中高生時代と、研究者という選択

本木さんは「中高生の頃から化粧品が大好きで、将来は自分が欲しいと思う化粧品を作れる仕事に就きたかったんです」と、ポーラ化成工業に入社した理由について語る。当時は、浜崎あゆみが大人気だった時代。彼女のメークを友達と一緒に真似して、「みんながキレイになることに情熱を燃やしていました」と笑う。「またその際、思春期特有の肌荒れを解消するものがあったら、自分に合った色が作れたら、という想いが芽生えたのがきっかけでもあります」

「仕事に就けば、人生の半分ぐらい長い間働くことになるので、自分が本当にやりたいことを仕事にしたいと考えました。化粧品づくりが学べる専門学校を出て、ポーラ化成工業に就職を希望したのは、企画から製品開発製造に至るまで、すべて一環して自社でモノづくりを行っている会社だったのが理由です。ここでなら、自分が心から欲しいと思える化粧品を、作れる環境であると考えました」

 

「自分の顔が疲れて見える」30,40代女性の悩み解決とブランドファン拡大

2人が中心となって開発を進めた「B.A セラム レブアップ」のプロジェクトがスタートしたのは、2014年のことだった。ポーラの中でも最高級ブランドであるB.Aシリーズは、40〜50代以上がユーザーのボリュームゾーンとなっていた。一方で、ポーラが独自に調査を行ったところ、女性は30〜40代の年齢になったときに、「自分の顔の印象が疲れている」と感じることが増えることがわかった。肌がカサつく、ゴワつく、柔らかさが失われる、といった肌感触の変化の悩みは、30代になると急に増加し、ほうれい線が目立ったり、皮膚にたるみや小ジワが出てくるのもその年頃が多いことがわかった。

「それでB.Aブランドのファンを増やすためにも、30〜40代の人が感じている肌の悩みを解決する、手に取りやすい価格設定の製品を開発しようと決まったんです」(原田)
原田さんが入社したとき、すでに開発プロジェクトはスタートしていたが、何を製品の「コア」とするかはまだ定まっていなかった。先輩社員と二人で製品開発のための基礎研究を進める中で、原田さんが注目したのが「肌の自浄サイクル」である。

「肌をしっとりと健康な状態に保つには、肌を構成する成分のヒアルロン酸とコラーゲンが欠かせません。しかしその二つは、時間の経過により、少しずつ劣化していきます。皮膚の表皮細胞や、線繊維芽細胞は、その劣化したヒアルロン酸やコラーゲンを取り込んで分解し、新たにまたそれらを生み出します。とくに肌に大切なヒアルロン酸は、たった1日という短い時間でその半分が入れ替わります。その分解と再生の『自浄サイクル』機能が良い状態に保たれている肌は、なめらかでみずみずしい、フレッシュな状態になるのです」(原田)

ところが加齢や酸化ストレスによって、この「自浄サイクル」機能が低下すると、劣化したヒアルロン酸やコラーゲンが肌に溜まり、かつ新しいものも生み出されなくなってしまう。その結果、肌表面のうるおいやハリが失われ、肌がしぼんだような印象となってしまうのだ。新しいB.Aシリーズの美容液開発では、この「肌の自浄サイクル」の機能向上に目標を置くことが定まった。しかし、どうすれば「肌の自浄サイクル機能」を高めることができるのか。それがわからない。その方法を見つけるための探索の日々が、始まった。

(次の記事へ続く)

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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