イノベーターに学ぶ

2018/04/26

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肌を健康な状態に保ち、美しさを維持する「肌の自浄サイクル」が加齢や酸化ストレスによって停滞することを世界で初めて*明らかにしたポーラ化成工業の研究者。次なる課題は、肌の自浄サイクル機能を向上させる素材を、どうやって見つけ出すか? 基礎研究を担当する原田さんの発見は、製剤開発を担当する本木裕美さんに引き継がれ、ポーラのフラッグシップモデルである「B.A」シリーズの新美容液の機能に搭載されることとなる。2人の研究者がつなぐバトンのリレーが、新製品へと結実するプロセスをお届けします。

* 2016年ポーラ化成工業調べ

自浄サイクルのメカニズムを解き明かす

30代、40代の女性の多くが、肌の衰えに悩みを抱えている。その悩みを解決する美容液を開発してほしい。そんな要望がマーケティング担当から原田さんの所属する研究チームに寄せられた。原田さんらは検討を重ねた結果、「肌の本来持っている自浄サイクル機能を活性化することで、ハリを与え、くすみを改善し、顔全体の疲れた印象を改善する美容液を作る」という方針を決めた。

「それまで、肌が『自浄サイクル』を持つことはわかっていましたが、その機能の加齢や酸化ストレスによるダメージについては、知られていませんでした」と原田さんは語る。まず研究は、自浄サイクルの機能が加齢や酸化ストレスによってどのように低下するのか明らかにすることからスタートした。

そのための具体的な指標として、原田さんが着目したのが「ヒアルロン酸」と「コラーゲン」という物質である。例えば、ヒアルロン酸は、二種類の糖分子が繰り返し連なってできているが、加齢や、生活習慣の乱れなどが原因で発生する酸化ストレスによって自浄サイクルが停滞すると、劣化したヒアルロン酸が肌に蓄積されてしまう。高分子のヒアルロン酸で満たされている肌はつるんとハリがあって、滑らかな状態が保たれているが、自浄サイクルが低下した肌は、低分子化して「劣化した」ヒアルロン酸が溜まっている状態となり、それが肌のごわつきなど、疲れた印象の肌の原因となる。

「これまでにもヒアルロン酸やコラーゲンが配合された化粧品が開発されたり、美容整形施術で、衰えた肌にヒアルロン酸を注入することは行われてきました。しかし、もともとヒアルロン酸やコラーゲンは、人間の体の細胞が自浄サイクルにより、絶えず劣化したものを分解し、新しく産生することを繰り返している物質です。体がその機能を持っているのであれば、外から足してあげるのではなく、自浄サイクルの機能自体を高めてあげようと発想したのです」

自浄サイクルのメカニズムを解き明かす

自浄サイクルの加齢や酸化ストレスによる停滞について解明するため、原田さんは、次のような実験をおこなった。

①若齢由来、老齢由来の表皮細胞と真皮線維芽細胞を用意し、自浄サイクルにおける「分解機能」と「産生機能」をそれぞれ評価。結果、表皮細胞、線維芽細胞共に、老齢細胞における分解、産生機能が低下していた。

②若齢由来の表皮細胞と真皮線維芽細胞を用意し、酸化ストレスを与えた群と与えていない群を準備。その「分解機能」と「産生機能」を比較したところ、酸化ストレスを与えた群で低下していた。

この実験の結果、加齢や酸化ストレスによって、劣化物を分解する力が有意に弱まり、ヒアルロン酸とコラーゲンを新たに生み出す力も低下していることがわかった。劣化したヒアルロン酸、コラーゲンの分解に関与する「リソソーム」という細胞内小器官の活性が、加齢や酸化ストレスによって低下していたのだ。

 

自浄サイクル機能を高める、ある複合エキス

肌の自浄サイクルが加齢や酸化ストレスによって停滞することを解明した原田さんの研究は、その機能を向上させる物質を探し出すことに照準が移った。候補として想定される物質は、植物から抽出したエキスなどを中心に200種類以上にのぼった。まずは机上の検討でしぼりこみを行い、その後、一つ一つの素材を細胞に添加して、その後の変化を評価していった。

「その実験を重ねるなかで、シラカバとハトムギの複合エキスに驚くような効果があることがわかりました。二つのエキスを細胞に与えると、細胞内の分解機能が約50%高まるとともに、ヒアルロン酸の合成に関わる遺伝子の発現率が、なんと1600%も向上したのです」

1600%もの向上を見たときは、原田さんもあまりの数値の大きさに驚き、『何か間違えているのではないか?』と疑心暗鬼になったという。何度も追試を繰り返し、「いずれの実験でも同じ結果が出て、ようやく間違いないと確信できました」と笑いながら振り返る。

「あくまで細胞実験なので、実際の人の肌でどれぐらいヒアルロン酸の産生が増えるかについての実証は今後の課題ですが、発見したエキスに明確な効果があることは実証できたと思います」

今回の解明は、「世界初」の快挙であった。参考になるような既存の研究や文献情報も少なかったため、暗闇で手探りするような実験を繰り返すなかで、手につかんだ成果である。原田さんはこの研究成果を日本と海外の学会でそれぞれ発表しており、いずれは論文にまとめていく予定だ。

「これまでの化粧品は『肌に足りないものを補ってあげる』という発想で作られたものが多く見られました。今回私たちの作った『B.A』の美容液は、『肌が劣化したものを分解し新しくつくりかえる機能をサポートする』というコンセプトが、既存の化粧品とはまったく違います。今後は、さまざまな応用技術が考えられるはずです」

 

基礎研究から製剤研究へのバトンリレー

基礎研究から製剤研究へのバトンリレー

「肌の自浄サイクル機能」の向上に、シラカバとハトムギのエキスが有効であることを原田さんが解明したことで、『B.A』の新美容液の「核」となる成分は定まった。原田さんからバトンを引き継いだ本木さんは、その有効成分を活かしながら、実際に肌に塗る化粧品の形に持っていくミッションを担当することになった。

「化粧品の有効成分にいくら高い効果があっても、その使用感と実感がなければ、継続して使ってもらえません。お客様に心地よさと効果を感じてもらい、その化粧品のファンになってもらうこと。そこまでのレベルに化粧品を仕上げるのが、私たち製品開発部の仕事となります」と本木さんは語る。

本木さんが「B.A セラム レブアップ」の製剤開発を進めるなかで、今までにない使用感を生み出すこと、さらには有効成分を肌内部に確実に届け実感をもたらすことが、開発の大きな設計ポイントだったという。まず使用感の中心に据えたのが「とろぱしゃ」という語句だ。手に取ったときのぷっくりと盛り上がった外観・性状(せいじょう)*と、肌に伸ばした時に感じる「とろっ」とした抵抗感、そしてそれが崩れた時の「しゃばしゃば感」の融合が、「とろぱしゃ」のイメージである。この使用感は、商品企画部との共同リサーチの結果、製品のターゲットである30代女性の好みに合い、なおかつ市場の中で新規性がある剤型で創り出すことで、アイキャッチ性(関心度)が高まることがわかった。

*物の性質と状態のこと。

「しかし『とろぱしゃ』と言っても、具体的にどういう感覚なのかは、個人によって違います。さまざまな素材を混ぜ合わせ、『とろぱしゃ』のもととなる塗布時の剤変化を捉えるために、熱や力を加えて粘性や弾力を測るレオメーターという機器を用いて製剤を数値化し、顧客ニーズに合致しながらも新規性のある『とろぱしゃ』感の領域を特定するために、探究しました」

(次の記事へ続く)

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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