アイデアを得る

2017/05/25

医療や製薬の世界にイノベーションを──。

この思いは、ライフサイエンスに携わる人にとって、あえて言葉にする必要もないぐらい当たり前のことです。例えば、画期的なガンの治療方法。遺伝子や脳の仕組みを、今までとは違う次元で理解すること。しかし、当然ながらそのような大きな成果は一朝一夕にしてなせるものではなく、かと言って偶然に頼るばかりではままならない、極めて重要かつ難しい課題と言えます。

この課題に、「オープンイノベーション」という考え方でアプローチしているのが、LINK-Jこと、一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパンです。

LINK-Jには、製薬メーカーや医療系ベンチャー企業、大学、研究者などが集まっています。さまざまな知識や課題、アプローチ、手法等々を持った人たちが自由にコミュニケーションし、そこから新しい「何か」を作り出し、ひいては世の中をより良いものにする。これはSCIENCE SHIFTがやりたいことでもあります。その活動に学ぶべく、LINK-J設立から携わった、朝比奈 宏さんに会ってきました。

私たち編集部だけでなく、医療や製薬の世界を目指す学生のみなさんにも、きっと役に立つであろうお話をお聞きすることができました。

LINK-J 朝比奈宏さん

取材協力:朝比奈 宏氏

一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)事業部次長
2000年に三井不動産株式会社入社後、住宅事業や日本橋のエリアマネジメント事業を経て現職に至る。「薬の街」である日本橋エリアの特徴を生かし、従来の不動産事業の領域を超えたオープン・イノベーションのハブとなる(一社)LINK-J設立に携わる。現在は産官学をつなぐコミュニティー作りを進めている。

 

日本橋から、製薬業界・ライフサイエンスにイノベーションを

LINK-J 朝比奈宏さん

━━まずは、LINK-Jが作られた経緯を教えてください。

LINK-Jはライフサイエンス領域の更なるイノベーション、新産業創造を目指してアカデミアの有志と私が所属している三井不動産㈱が中心となって設立された組織です。

三井不動産㈱日本橋まちづくり推進部では、「日本橋という歴史ある街を、どうやってもっと魅力的にしていくか」に取り組んでいます。その一環として、「日本橋でいかにビジネスを盛り上げていくか」の発想から着目したのが、“日本橋は製薬会社の企業が多い”という点でした。

この街が製薬をはじめ、医療機器やヘルスケアITなど「広義のライフサイエンス業界」の方々がより働きやすい街になれば、より多くの人が集まるようになるのではないか、と考えて作られたのが「LINK-J」です。

━━LINK-Jでは、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

これからの時代は、他の業界も同様だとは思いますが、オープンイノベーションなり、新しい取り組みに挑戦していかないと勝ち抜けない時代になってきていると考えています。

そこで重視しているのがコミュニティです。まずはコミュニティを育むラウンジやベンチャー企業向けのオフィス、勉強会を開催するためのセミナールームなど「場」を整えて人が集まる仕掛けを作り、将来に向けて色々な取り組みを始めています。コミュニティの醸成にあたって、アメリカに数多くある人や企業をつなげるネットワーキング組織の取り組みを参考にして、日本に馴染むようにアレンジしながら実施しています。

LINK-Jを立ち上げてようやく一年になるところですが、現在、大企業やベンチャー企業、大学やその研究者、企業を志す学生など、法人・個人あわせて約110の方たちがLINK-Jの会員となってくれていて、このメンバーを中心に「エコシステム」を作ろうとしています。

エコシステムとは、生態系のことです。大企業があって、その協業先であるベンチャー企業や大学、研究者もいる……。一人あるいは一社では達成が難しくても、エコシステムを構築し、立場の違うもの同士が協業することで、新しいものを生み出すことが可能になるような環境を作っています。

 

製薬業界にオープンイノベーションは生まれるか

LINK-J 朝比奈宏さん

━━オープンイノベーションとは、具体的にどのようなものでしょうか。

いろいろな定義や種類があると思いますが、私たちは、立場の異なるもの同士が一緒の課題に取り組み、何か新しいものを作っていくのがオープンイノベーションだと捉えています。

組み合わせの例としては、「大企業とベンチャー企業」「産業界とアカデミア」など、様々な形があるでしょう。ただし、二者が出会ったとしても、それぞれにちゃんとしたモチベーションがないと事は進みません。産業界がアカデミアと一緒に何かしたいと思っていても、アカデミア側がそれを望まなければ進まないでしょう。

大学でいうと、教育基本法の改正以降、従来の大学の役割である「教育」と「研究」に、「社会の発展に寄与する」ことも加わったため、自分たちの研究をつきつめるだけでなく、その成果を積極的に世に出し、実用化することが求められるようになったと聞いています。それもあって、オープンイノベーションの機運が高まっているのかもしれません。

━━イノベーションを進めるためには、何が一番大切なのでしょうか。

LINK-Jでは「地の利」「時の利」「人の利」を大切にしています。例えばLINK-Jの設立自体が新しい取り組みでした。お陰様で今では多数の方がコミュニティに加わっていただけていますが、振り返ってみるとこの「三つの利」を捉えたことをご評価いただいたのだと思います。

日本橋は江戸の頃から薬種問屋が軒を連ねていたという歴史的背景や、現在も製薬会社が集まる場所であるというのが「地の利」です。

「時の利」というのは、正に今、オープンイノベーションの機が熟しているということです。オープンイノベーション自体は何年も前から言われていますが、ライフサイエンス業界の方々の危機意識、アカデミア側の産学連携機運の高まり、そのための法整備など、状況が整ってきているということがやっているうちに分かってきました。

それに「人の利」というのもあって、本当にいい人に出会えているんですよ。本物の人に会いに行くと、本物の人を紹介してくれて、正しいことを教えてもらえます。

「こうすればイノベーションを起こせる」という簡単な解は、当たり前ですが存在しないと思います。ただ、私たちが「利」と呼んでいるこの条件のようなものが、大切な要素なのではないでしょうか。簡単に言ってしまえば、「多くの人が集まり、課題を共有し、刺激しあい、知恵をシェアする」ということです。

━━LINK-Jで、学生と一緒に取り組んだことには何がありますか?

LINK-Jには大学生が主体となって実行している「日本橋Medical Innovators Summit」があります。当イベントは、企画から運営まで、学生が中心となって行います。

例えば、「医療×アート」、「医療×起業」、「医療×まちづくり」など、医療業界に新たな視点で挑戦して活躍するイノベーター達をお招きして、医療をめぐる新しいアイデアの提案や新しい技術や知見をディスカッションしてもらいます。参加してくれた学生と先進的な考えを共有することで、学生には新しい進路を考えるきっかけにしてもらっています。

 

製薬・ヘルスケア業界の未来に向けて

LINK-J 朝比奈宏さん

━━製薬・ヘルスケア業界の中の人たちは、現在どのような課題を抱えているのでしょうか。

私は専門家ではないので、一つ一つの課題を申し上げることはできません。ただ、日本には、まだ光の当たっていない優れた研究・技術が多くあります。これを有機的に結びつけ、最終的に人々の豊かな暮らしにつなげること、というのが私たちの課題です。そして、これに賛同してくれた方がいらっしゃったからこそ、今、LINK-Jが存在しているのだと思います。

製薬やヘルスケア業界の成果は、言うまでもなく人々の暮らしの豊かさに直結しています。これからは、より重要になっていくでしょう。新しいもの、より良いものを生み出す必要があります。おそらく業界の一人一人の方が、そうした必要性を感じ、それぞれの課題を持って、そして解決のための行動を起こしていると思います。

━━LINK-Jは、今後どのようなことを目指していくのでしょうか。

LINK-Jが取り組んでいることは、あくまで舞台作りです。ライフサイエンスに関わる方々が挑戦したいと思うことができる場所を、ちょっとだけ先取りしながら用意したいと思っています。

しかし、新しいものを作り、成果を生むには、10年、20年前から仕掛けなくてはいけない。そうなると、代替わりをしてバトンタッチしながら続けていく必要があるのです。だからこそ気長に、コツコツと積み上げているところです。

将来的に業界なりこの街なりが「変わったね」と、そこにLINK-Jの取り組みがあったからだよね、と後から見た人が言ってくれたらとても嬉しい。そのような未来のために、今後も取り組み続けていきたいですね。

━━最後に、就職活動中の学生さんに向けてメッセージをお願いします。

何かが上手くいかないときには、今いる環境を少し変えてみると見える景色が変わってくるのでおすすめです。学校など自分の知っている世界だけに留まろうとはせず、一歩外に踏み出してみてください。きっと違った世界が見えてくるはずです。

先日行ったイベントでは、新潟や広島など日本中から学生さんたちが参加しに来てくれました。「今、医学部の三年生なのですが……」と、質問までしてくれて。 知らない人ばかりでも、社会のルールが分からなくても、とにかく歩いてみましょう。

どこに行っても構わなくて、肩書きにとらわれずに誰とでも会えるのは学生の特権です。そうしているうちに自分だけの、人生が変わるような、スイッチの入る瞬間がやってくるはずです。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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