アイデアを得る

2016/12/12

日常の生活にITがこれほど浸透した今でも、こと医療業界に関しては「一般企業レベルのIT化にはほど遠い」と、「なかのひと」は口をそろえます。しかし、その環境をチャンスだと捉え、医師の3人に1人が利用するまでに知名度を押し上げることに成功したメディカルメディアがあります。

その名も「MedPeer(メドピア)」。MedPeerは医師専門のオンラインコミュニティで、病気の症例や薬に関する知識を蓄積し、ディスカッションし、最終的に医療の質を上げようという高い志を持ったメディアです。

・ MedPeer – 医師の3人に1人が参加する、臨床の決め手が見つかるサイト

MedPeerサイトキャプチャ

このメディアを立ち上げ、運営するのはメドピア株式会社の代表・石見陽氏。企業経営者であり、現役の医師でもあります。これまで積み上げてきた伝統のある世界に在り、そしてこれをさらに良くしようというフロントランナーに、医療業界の今、未来、そして医療の世界で働くことについて伺いました。

前編では代表をつとめる石見陽先生がメドピア社を設立した経緯や、心臓の専門家を志した理由、今にいたるまで学生時代から心がけてきたことについて、詳しく教えていただきました。

 

メドピア株式会社 代表取締役社長・石見 陽

メドピア株式会社 代表取締役社長・石見 陽
1999年に信州大学医学部を卒業し、東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。 研究テーマは血管再生医学。循環器内科医として勤務する傍ら、2004年12月に株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。現在も週一回の診療を継続し、医療現場に立つ。

 

想像とは違った、医療の現場

──「将来は医師になりたい」と、子供の頃から決めていたのでしょうか?

いわゆる医系の家系で、祖父の代から医師が多かったことがありますが、僕はもともと文系寄りの人間でしたので、弁護士か、医師のどちらかになりたいと考えていました。身内に6〜7人の医師がいる環境で育ってきたので、一番身近な職業は医師だったかもしれません。直接的には2歳年上の兄が医学部に入り、楽しそうに大学に通っていたのが大きく影響した気がします。

 

──循環器、それも心臓の血管に特化されたのは、どのような経緯があったのでしょうか。

今と違って、僕が医学生の頃は全国一律の臨床研修制度(記者注:研修医が主要な診療科を経験する研修制度)がありませんでした。医学部6年目の時に、専門を選ぶ必要があったのです。始めは精神科、循環器内科と、整形外科に興味を持っていました。心理学が好きだったので精神科を選択肢に入れていましたが、よくよく先輩方に聞いてみると、精神に関わる病気と心理学はまったく違うものだと分かりました。精神的なものであってもやはりそれは病気で、ロジカルに治療をする計画を立てなければいけない。さらには、自分が相手に入りこんでしまうタイプだと分かっていたので、患者さんとの間にある意味で壁を作れないと難しいだろうと判断しました。

循環器内科と整形外科を選んだのは、基本的には治る病気だと考えたからです。自らの手で、患者さんを治すことのできる領域にいたかった。それぞれについて詳しく調べて、整形外科は大学病院で扱うものはがんなどの難しい病気で簡単に治るものではないと知り循環器内科を選びました。心臓は動くか止まるかしかないので、分かりやすいなと感じたことも理由のひとつです。

 

──学生の頃と実際に臨床の場に立つようになってから、仕事内容にギャップを感じたことはありますか。

さきほど言った理由で心臓カテーテルを専門として選択しましたが、実際に経験するとこの領域は治療が成功して退院できても、再入院に至るケースが非常に多くあることが分かりました。血管が細くなって心臓に負担がかかるような場合では、胸部だけではなく全身が同じ状態と考えられる。いわゆる全身の血管の病気なんですね。だから局所だけ治っても、脳の血管も細くなっていて脳梗塞を起こすなどして、再度入院される方がとても多いのです。心臓だけで言えば、止まった場合には死んでしまうのですが、逆に電気信号を流してさえいれば止まらない臓器でもあります。ただ、人の身体はそんなに簡単には治らないのだというそのギャップは想像と違う部分があり、衝撃を受けました。

 

名刺交換も知らない医師がビジネスの現場に飛び込んでいくこと

医療の世界で働くこと 02

──現在では、経営をされながら臨床の場にも立たれています。異なるふたつの職種を両立させることは、大変ではないですか?

経営を始めたばかりの頃は、とにかく大変でした。まず名刺交換の仕方を知らなかったので、ビジネスマナーや作法から学び始める必要がありました。ほかには、サラリーマンの経験がないことで、一般的な考え方がわからない部分があります。経営者として損をしているのかもしれませんが、「前例にとらわれずに動ける」とプラスに捉えるようにしています。会社経営をする現在も、週に1度の臨床は継続しています。現場に立つことは、医師としての目線を失わないために必要であると考えているからです。

 

──ビジネスの部分で大変さを感じた時には、どのように乗り越えてこられたのでしょうか?

なかには両親が経営者だったりして、幼少期から経営学や帝王学のようなものを学んできた人もいるのかもしれません。けれども僕の場合は父と母が小さな事務所を回していただけなので、大がかりな経営について知る機会はありませんでした。実際に社会に出てから、人脈が大切でいかに人から学ぶことが多いかを知りました。本もたくさん読んでいましたけれど、やはり直接教えてもらう効果にはかないません。

 

──ビジネスを動かすためのスキルを、具体的に学ぶ場に行かれていたということでしょうか。

そうですね。もちろんスキルとして、ビジネスを動かす手段を学んできているとは思います。しかし、実のところ「トレーニングされたビジネスマンには、勝てなくていい」と考えています。それは専門の人に任せておけばいいし、事業の目的は優秀な人になるということではなく、医師にとって有益なプラットフォームを提供し、最終的に患者さんを救うことだからです。スキルを学ぶことよりも、目指している結果を伝えることを重視しています。

 

──「集合知により医療を再発明する」というビジョンを掲げていらっしゃいますね。このキーワードは、MedPeerを立ちあげた頃からあったものですか?

このビジョンは途中からです。平成16年の12月に前身のメディカル・オブリージュ社を立ちあげました。その頃に僕の周りにいた医師たちは真面目に職務に取り組んでいるのに、一人ひとりが孤立し、連携していないことで、実直に働く人ほど追い詰められてしまっていました。そのような状況を見て、情報の共有がまず必要であると痛感しました。また、当時は医療事故などが相次ぎ、世間からの医療現場への不信感が高まっていた時代でした。そのため、まずは医師をネットワークしたうえで、そこに集まる常識的な医師の意見を世の中に発信していくような、信頼できるメディアが世の中に必要ではないかと思い至りました。

 

──今のような、医師全体の3人に1人が使うコミュニティがなかった時代は、みなさんどのように接点を持たれていたのでしょうか?

これだけの数の医師が意見交換できる場は、当時にはありませんでした。学会などでは話し合いの場もありますが、もちろん全ての医師が出席しているわけではありません。MedPeerを作る際に参考にしたのは、「トータルファミリーケア」というメーリングリストです。これは2,500名くらいの医師が参加していた、おそらく日本最大のメーリングリストでした。それでも日本中の医師全体の1%しか参加していないですし、メーリングリストではせっかくやりとりした情報も流れていってしまいます。さらに前者は完全なボランティアベースで運営されていたのでいつ無くなってしまうかわかりません。MedPeerは永続できるように組織で運営し、ビジネスとして成立しうるコンテンツを模索しました。

 

今あなたが学生であるなら、会いたい人全員に会える

医療の世界で働くこと 03

──経営者として仕事をされるようになって、「若い頃、もっとこれをやっておくべきだった」と思われることはありますか?

とにかく、人と会うことですね。異業種や同じ大学の先輩に、もっと会いに行けば良かったと思っています。このことは学生向けに講演をしたら、必ず最後に言うことにしているんです。僕の時代は家にある電話を使って、名簿を片手に電話をしていましたが、今ならSNSで簡単につながることができます。そして、学生の特権として、間に立つ人を見つけて紹介を依頼すれば基本的に会ってくれる経営者は多いはずです。僕もどれだけ忙しくても「大学4年生で、進路や人生に悩んでいます」とメッセージをもらうと、不思議と時間をやりくりして会ってしまう。だから、学生の間に会いたい人には会ってしまうことをおすすめします。さらに同期など狭い世界だけに閉じこもらず、普通に生活していたら出会えない人たちとの面識を作ることが、未来を形成してくれるのではないでしょうか。

 

フロントランナーに聞いた、ヘルスケア業界の今と未来 、そして医療の世界で働くこと 〜石見陽氏インタビュー・後編に続きます!

 

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小松田 久美

医療・美容系ライター。建築会社秘書、ベンチャーIT企業勤務を経てフリーランスに。雑誌やWEB・広告媒体で記事作成をおこなうほか、ブックライターとして書籍の執筆もつとめている。FP(ファイナンシャル・プランナー)3級保持。

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