スキルを磨く

2018/03/06

「組織で働く」をテーマに、これからの時代に個人がどのようなスキルやキャリアを築いていくべきなのか、組織論の専門家である鈴木竜太教授に語っていただいている当連載。2回目となる今回は、組織における自分の価値がどのように決まるか?について考えます。

会社は「その人の価値」をどう考えるか

会社は「その人の価値」をどう考えるか

第1回では、働くということは社会に付加価値をもたらすことであり、組織で働くということは組織の生み出す付加価値に貢献することである、という話をしました。社会にとって、あるいは組織にとって、付加価値のある人材であることが仕事につながっていくのです。

たとえ何らかの高い能力やスキルがあったとしても、それを生かせなければ付加価値を生むことはできませんし、付加価値を生まなければ仕事で貢献することもできません。なぜなら社会は能力やスキルではなく、それによって生み出される付加価値に対して対価を支払っているからです。「私はやればできる」の態度では貢献できないわけです。では、このような付加価値はどのように決まるのでしょうか、また付加価値を生む人材にはどうしたらなれるのでしょうか。

 

付加価値を決める要素は「希少性」と「必要性」

付加価値は、生み出すコトやモノの希少性と必要性によって定まります。タイプライターが出現し、仕事の書類がタイプライターで書かれるようになった戦後しばらくの間は、タイプライターを使いこなす人が少なかったためタイピストは希少でもあり、必要性もありました。そのため彼らの仕事は付加価値が高くなり、厚遇でどの会社でも迎えられました。

しかし、ワープロやパソコンの普及につれタイプライターを使うことも減り、また簡単にワープロやパソコンで文書を作成できるようになると、タイピストの希少性も必要性も減っていきます。つまりは、彼らの社会や組織における付加価値が小さくなっていったのです。お分かりの通り、付加価値を定める希少性と必要性はその能力だけではなく、外部環境によって変化していきます。サッカー選手はJリーグができるまではそれほど高額の給与をもらうことはありませんでしたが、Jリーグができると優秀な選手は高額で迎えられることになりました。Jリーグという存在が彼らの付加価値を大きく変えたわけです。

そう考えると、若い皆さんの中には、高い付加価値生むような希少性、必要性のある能力やスキルを持っていない、あるいはそういう能力やスキルを身につけるのは難しいと思うかもしれません。しかし外部環境をもう少し狭い場で考えること、そして組み合わせで考えることで、自分の付加価値について現実的に考えることができるはずです。

自分の付加価値について現実的に考えることができるはず
例えば日本語とベトナム語を話せるというスキルは、社会の中では必要性がそれほど高くありません。しかしベトナムに進出しようと考えている企業、あるいはベトナムと貿易をしている企業にとってはとても必要性が高いスキルです。あるいはもっと狭い範囲で考えれば、女性しかいない職場において、力仕事が求められるのであれば、体力がある男性のスキルの希少性は高いかもしれません。つまり、希少性や必要性はその場における相対的な関係の中で決まるのです。

また、その希少性や必要性は組み合わせによっても変わります。例えば、プログラミング技術に関しては突出して優れているわけではなくても、中国語もわかりプログラミングもできるとなれば自分の希少性や必要性が高まるかもしれません。これはキャリアを積んでいってからも同様です。営業一筋でいくのも良いですが、複数の職能で仕事をしてきたからこそ、技術がわかっている営業といったような特徴的なスキルの組み合わせが生まれることがあります。

特定のスキルや能力において秀でることで自分の生み出せる付加価値を高めるのもひとつのあり方ですが、複数のスキルを束のように持つことで自分の生み出せる付加価値を高めることもひとつなのです。そしてそれら自分のスキルや能力によって、付加価値の高い貢献ができる場はどこなのかを考えること、あるいは反対に今この場においては自分が持っているスキルを生かしてこのような価値を生み出すことができる、そう考えることこそ、自分ができることを考えるというスタンスにつながるのです。

 

「自分には能力やスキルがない」、と思うときには

自分ができることを考えるというスタンスにつながる

もちろん、組織に入ったばかりではどこを取っても貢献できないと無力感を感じるかもしれません。故に雑用ばかりしかできないと考えてしまうかもしれません。しかし例えば、入りたてのメンバーにあって他のメンバーにないことの一つは職場での歴の短さや若さです。それは学ぶ時間や学ぶことがたくさんあることでもありますし、さまざまなことを学ぶ素地があるということもできます。そう考えれば今の自分にできることは一生懸命学び成長することだ、となるかもしれません。また内部者では気づきにくいことを指摘することも可能かもしれません。

とはいえ付加価値は自らの能力やスキルによって生み出されるものですから、高い付加価値を生み出し貢献するためには、やはり能力やスキルを身につけることは必要不可欠です。いろいろなことを吸収しよう、学ぼうと意欲がある人が評価されるのは、自らに能力やスキルが足りないことを自覚し、価値ある存在になろうという姿勢がそこから見えるからでもあります。

若いうちは持っている能力やスキルで高い付加価値を生み出すことができないかもしれません。しかし今すぐでなくとも、いずれ付加価値を生む人材になるためには学びが必要になっていきます。残念ながら、社会の動きが速い現代では、大学時代までに学んだことや能力では長い仕事生活において付加価値を生み続けていくことは難しいのが現実です。学ぶことも含め「自分の生み出せる付加価値を大きくするためにはどうすれば良いか」を考えていくことが、自分のやりたいことは何かを考えるとともに、仕事を考える上では大事なことだと知ってください。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
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鈴木 竜太

1971年生まれ。1994年神戸大学経営学部卒業。ノースカロライナ大客員研究員、静岡県立大学経営情報学部専任講師を経て、現在、神戸大学大学院 経営学研究科 教授。専門分野は経営組織論、組織行動論、経営管理論。著書に『組織と個人』(白桃書房、2002年)、『自律する組織人』(生産性出版、2007年)、『関わりあう職場のマネジメント』(有斐閣、2013年)など。趣味は読書。時代小説、歴史小説、推理小説、恋愛小説、ノンフィクション、サスペンスやクライムノベル、ハードボイルド、SF、などあらゆるジャンルを読む。

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