スキルを磨く

2017/07/04

成果を左右するのは、才能ではなく習慣──。
そう言い切ったのは、かのP.F.ドラッカーです。堀正岳さんの連載第5回は、その「習慣」の作り方について。仕事の本質に迫るお話です。

若さに壁はつきものです。就職したての頃のやる気が、現実の仕事の壁にぶつかってしぼんでしまうこともあれば、就職活動で自己PRをするたびに、内心では「本当の自分は何者なのか?」と自問自答するような体験は、誰もがもっていると思います。

誰でも突き当たる壁だからといって、それが楽になることはありません。自分が嫌になって叫び出したくなるようなときに、それを乗り越える万能の方法はないものかと、すがりたくなる気持ちが起こるのも自然なことです。 しかしこうしたときに、急激に「人生を一変させてしまおう」と考えるのはむしろ危険です。

「この資格さえあれば」「この人間関係さえ変えられれば」といった気持ちになってしまうのは避けられないことですが、この「◯◯さえ◯◯ならば」という気持ちは、やがて次の壁にぶつかったときにさらに大きな悩みを生み出してしまいます。 壁を乗り越える万能の方法はありません。しかし、毎日こつこつと繰り返すことができる「小さな習慣」を通して、ゆっくりと、確実に乗り越え、人生の大きな流れを生み出すことは可能です。

そんな、人生を変える小さな習慣の作り方について見てみましょう。

 

入念に作った作品と、数を競った作品のどちらが評価される?

芸術の分野でよく引き合いに出されるこういう逸話があります。

陶芸の先生がクラスを二つに分けて、片方には「出来る限り上質な作品を提出したら、それで評価する」と言い、もう片方には「提出した作品の数で評価をする」と伝えて作品作りをさせるのです。 結果は興味深いものでした。

「できるだけクオリティの高い作品」の提出を求められたグループよりも、「個数で評価する」と伝えられたグループのほうが、個数だけでなくクオリティも一定の水準を超えてくるのだそうです。

なぜこうしたことが起きるかというと、回数を繰り返して練習をしているうちに作品作りの中の無駄な部分が削ぎ落とされ、本質的な部分だけが残った結果、クオリティも自然に上がってくるからです。 こうしたことは陶芸だけではなく、イラストレーションの世界でも、作曲の世界でも、小説の世界でも、もちろん科学や仕事の世界でもみられます。数が先で、質はあとからついてくるのです。

 

ゆるい習慣術で、初めての英語論文を一気に書けた!

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この普遍的な法則は逆手にとることができます。成長したいと思っている分野で毎日繰り返すことができるくらいに小さな習慣を作ることで、ゆるやかに人生を変えてゆくのです。

たとえば、初めて英語の論文を書いてみたいと長いあいだ悩んでいた学生が、毎日参考文献の中から1文だけ自分が読んでいて真似してみたい、しびれる表現を抜き出してノートに写していたことがあります。

導入部で使う表現、結果の説明をする表現、あいまいな点を説明する表現など、そうした文章を毎日抜き出しているうちに、その人のノートはやがて使える表現でいっぱいになっていきました。

ある日、彼が満を持して論文を書き始めたところ、ほとんどすべてのパターンにおいて、ノートに抜き出した表現を自分の論拠に合うように組み直すだけで書けるということに気づきました。驚いたことに、彼はそれまでの悩みも吹き飛ばす勢いで、ほんの数週間で論文を書き上げてしまいました。

抜き出しをおこなうのは、ほとんどそのまま文章をコピーするだけの単純作業です。しかし、そうしたことを繰り返しているうちに、どこかで力がたまっていたのです。 小さな習慣のミソは、やっているときには「どうしてこんなことが役に立つだろうか?」と思えるくらいに簡単でも、積み上げると効果が生まれるものを選ぶことです。

 

「数える」だけ!小さな習慣をライフスタイルにするコツ

習慣というと、歯を食いしばって継続しなければいけないような雰囲気がありますが、その必要はありません。小さな習慣は、やめなければそれでよいのです。

小さな習慣 堀正岳

やめないためには、回数を数えるのがとても楽な方法です。英語の資格のために単語を覚えていたとしましょう。毎日10個の単語を覚えるとなると、9個しか取り組めなかった日にその習慣は失敗した気持ちになります。

しかし「やめない習慣術」なら、一週間で100個ほどの表現に目を通すという管理の仕方をします。日によって増減があってもいいですし、必ず覚えていなくてもよいでしょう。目を通しているうちに「週に◯個」ほどは自然に覚えるようになるのを利用して、ただやめないことでしだいに力はついていきます。

また、私は一見奇妙なものの数字も記録しています。書いた手帳のページ数や、他の人に「ありがとう」と口にした回数などです。 手帳のページ数は、私がどれだけ自分の考え事のために時間をもっているかを示すバロメーターです。この数が少なすぎると、私の場合は必ず何か仕事で無理をしていたり、余暇を作っていないことがわかっていますので、自分を知るために記録しているのです。

「ありがとう」と口にしている数は、周囲の人間関係を無意識に壊していないかをチェックするために使います。人間関係が難しいときほど、自分から感謝の声を発することで場の雰囲気が柔らかくなります。

私の経験では、新しい環境で150回ほど「ありがとう」と言うあたりで、たいてい和やかな関係に着地できるというイメージがあります。これは無理をせずに、自分の生活や仕事をモニターするためにも使える手法なのです。

 

ハビット・ジャーナルで数を数えよう

「やめない習慣術」の助けになる記録方法が、ハビット・ジャーナルというノートの付け方です。ハビット・ジャーナルは、習慣を記録するためのノートの書き方のことで、いままでにさまざまな手法や流儀が提唱されています。ここでは、そのなかでも人気のある一種類をご紹介しましょう。

小さな習慣 堀正岳

フォーマットは自由ですが、基本的には横方向に日付を、縦方向にいま実践している習慣をならべて、実践できた日や、回数を記録していきます。あとは、週ごとに実践できた回数を足し合わせて、十分な数を確保できているのかを調整していきます。

たとえば上の例だと、たった5ページの読書と、単語の学習は相性がよくなさそうなことがわかります。こうしたときには、読書を日中の昼休みにまわしてみて、単語を夜にまわして競合を防ぐなどといったように実践方法を検討することができます。

大事なことは、何日も継続することが望ましいとはいえ、まずは、たとえば7日のうち3回実践できたことを記録して、それを4回に、5回に増やすにはどのような手段があるかといった発想をします。 とにかく、やめないこと。そうした長い目でみた継続を生み出すための記録方法なのです。

 

やがて大きなうねりを作り出す

小さな習慣とあなどってはいけません。毎日やっていることは、人生をやがて大きく変えてゆくのです。 たとえば、私が実践している小さな習慣には、毎日最低でも1000字を書くというものがあります。最初はこれが400字くらいだったのですが、長い間続けているうちに1000字程度は、少し机に向かうだけで、どのように始めて、どのように締めくくればよいのかが何も考えなくてもできるようになってきました。

これは能力が増したというよりも、回数を繰り返しているうちに「文章を書く」という基本姿勢が作られていったということだといえます。いったんそうした姿勢ができると、そこから外れることはめったにありません。 同じような姿勢を、仕事のなかでも、健康的な生活を営むためにも「小さな習慣」として組み込むことができるのです。

巨大な船はなかなか航路を変えることができません。でもいったん変わり始めると、それを押しとどめることはほとんど不可能です。

小さな習慣は、大きな船が航路を変え始める最初の小さな変化です。やがてそうした大きな変化を生み出すような、小さな習慣を積み上げること。これが人生のコースを思い描いた方向に変えるためにすぐにも実践できるテクニックなのです。





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堀 正岳

理学博士。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)所属。北極における気候変動を中心として研究活動をするかたわら、最新のライフハックや仕事術、ツールなどをブログ『Lifehacking.jp』で紹介。1973年、アメリカ・イリノイ州生まれ。

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