スキルを磨く

2017/08/17

「人生を変える小さな習慣」を生み出すコツについて、これまで5回にわたり、学生の皆さんにも必ず役立つであろうアイデアを厳選してお届けしてきた堀正岳さんによる本連載、今回で最終回です。これまでに描いてきた夢や目標、そしてこれから描いていく未来について、どのように考え、どう実現に向けて踏み出していったら良いのか。問い直すきっかけをくれるかもしれません。

みなさんは一年先、三年先、あるいは十年先のことをイメージできますか?

その頃には、どんなキャリアに就き、どのような人生を歩んでいるでしょうか?

学生の人には、それはまだまだイメージできない、閉ざされた壁の向こう側のように感じられるかもしれません。すでに職についている人であっても、最近は雇用が多様化し、研究所や大学や一般企業でも任期制のキャリアが多くなりましたので、将来に不安を感じているという人も珍しくないと思います。

ここまで、この連載では1枚の紙からできるタスク管理、小さなことを繰り返す習慣術などといった今日から実践できる仕事術について紹介してきました。

まとめの回となる今回は、未来の地図がない世界で、どのようにすれば長期的なビジョンをもって仕事をすることができるのかについてご紹介したいと思います。

 

ブレイクダウンだけだと破綻する

長期的な目標を実現する方法としてよく紹介されるのが、大きな目標を「ブレイクダウン」するというやりかたです。

これは大目標をより具体的な中目標に分解し、中目標をさらに細かい小目標に分解してゆくことで、あいまいさがない、すぐに実践可能な行動に落とし込んでゆくという考え方です。一見合理的にみえるのですが、よくよく注意しなければ袋小路に自分を追い詰めることにつながりかねません。

たとえば、大目標をなにか突拍子もないくらいに大きなものにしてみましょう。科学者なら「ノーベル賞をとるような研究をしたい」という具合にです。この場合、中目標はたとえば「◯◯の分野で研究をする」「論文を有名雑誌に載せる」といったことになるかもしれません。

ブレイクダウン式の考え方
ブレイクダウン式の考え方

小目標は、さらに具体的な研究をするための計画や作業になるかもしれませんが、このあたりで鋭い人は気づかれることと思います。

小目標として設定されている論文や仕事は、それ自体に目的や価値があり世に問うものであって、「ノーベル賞をとるためにする仕事」ではないというズレが生じてしまうのです。

別の例えをするなら、会社のトップが大きな視点で俯瞰的に判断や決断をしていても、現場はどのように接客や営業をするのかという現実と向き合わなくてはいけないという具合に、ブレイクダウン方式は現実とのミスマッチが起こりがちになるのです。

また、目標が大きければ大きいほど、ブレイクダウンした選択肢は増えて、現実とは乖離した、先送りしがちなものになってしまいます。大きな目標をブレイクダウンして毎日の行動を見直すというのは、それほど簡単なことではないのです。

 

ボトムアップとブレイクダウンを両方意識する

そこでおすすめしたいのが、ブレイクダウンの考え方に、ボトムアップの考え方を織り交ぜることです。ボトムアップとは、毎日の行動がやがて巨大な目標につながるように積み上げるという考え方です。

ボトムアップの考え方
ボトムアップの考え方

たとえば、Aという書籍と、Bという書籍があってどちらを読むのかという判断をする場合に、より長い目でみて自分はAの書籍が属している分野に精通したいと考えているのでそちらを選択する、というのはボトムアップの思考です。

同じ思考を、どの仕事を選択するのか、どのような知識や資格に時間を使うのかといったキャリア面の選択に適用すれば、長い目でみたあなたの専門分野が生まれていきます。

これを、どのような考え方をおこなうのか、どのようにして困難に向き合うのかといった人生の姿勢に適用してもよいでしょう。それは長い目でみて、あなたがどのように問題に対処するかというクセのようなものを形作っていきます。

この「長い目で」という部分に、ブレイクダウンの考え方を援用するわけです。

人生の大きな目標をブレイクダウンして、それを実現するための中目標として「自分はいずれ◯◯のキャリアに就きたい」と考えていたとします。そこに長い目でその中目標を実現するために、いまの選択は正しいだろうか? というボトムアップの考え方を混ぜてゆくのです。

ストレスフリーの仕事術 Getting Things Doneの考案者、デビッド・アレン氏はこうした考え方のことを航空機の離陸になぞらえて説明しています。巨大な目標は、航空機がやがて飛ぶ成層圏レベルの思考です。しかしそこに到達するには、離陸しなければいけません。離陸をするには、まず滑走路が整っている必要があります。

ブレイクダウン式の考え方は、航路を思い描くことです。ボトムアップ式の考え方は、そこにむかって毎日の仕事を整理して航空機が飛べるようにするための具体的な行動です。そこには、長期的な目標に対して関係のない仕事を排除することも含まれます。

両方をどこまで現実的に考えられるかによって、長期的なビジョンが具体性をもって見えるかどうかが決まるのです。

 

いつかやるリストはつねにもっておく

そうはいっても、毎日の現実は次から次へとやってくる仕事を片付けるだけで手一杯かもしれません。いつ長期的なビジョンについて考えればいいのだろうか?と思い悩む人も多いでしょう。

そうしたときに、整備しておいていただきたいのが「いつかやりたい」リストです。ここには、家族旅行に行きたいという希望から、こうした仕事をしたい、このアイデアは良いのではないかといった、すぐには実行に移せないことを蓄積していきます。

たとえ、いますぐ理想を実現できないとしても、あなた自身がどのような未来を望んでいるのか、どのような仕事を実現したいと考えているかは、このリストをみれば自ずと見えてきます。この「したい」という気持ちこそが、長い目でみたあなたの航路なのです。

それを決して見失ってはいけません。

「やりたいこと」リストに自分の希望やアイデアをつねに降り積もらせていれば、思わぬタイミングでそれを実現できるチャンスが巡ってくることもあります。しかし、まず最初に、自分はこうしたことを望んでいるのだという気持ちを、リストの中ではっきりと見据えておく必要があります。

 

人生は「しつこさ」で乗り越える

人生は「しつこさ」で乗り越える
最後に、私自身の話をさせていただきたいと思います。

わたしはいまでこそ、とある国立の研究所で仕事をしていますが、博士号を取得して科学研究の世界の入り口に立った頃は、寄る辺のない不安のなかにいました。大学での補助教員の仕事はすでに任期満了で退職しており、時給のアルバイトや、数カ月だけの職を渡り歩きながら、「来年のいまごろはどこにいるのだろうか?」と自問自答しながら細々と研究をしていました。「研究をやめてはどうか?」そうした勧めをうけたことも、一度や二度ではありません。「君は向いていない」「君はどこにもいけない」という言葉を、きっと悪意ではなく厳しい優しさをこめて言ってくださったかたもいました。

そうした岐路に立ったとき、私のなかにあった、ボトムアップの判断指標は「『研究か、否か』という判断を迫られたら、とりあえず研究をとろう」というものでした。

それは、その判断が正解だとわかっていたからではありません。何もかもを自分の思い描いたとおりにすることはできないときに、それでも近づきたいと思っている目標地点として、どんな場所でもどんなテーマでもよいので、「研究をしている自分」を設定し、それに近づこうと決めたということにすぎません。

これは、コンパスをもって山道を歩くのに似ています。道は険しく、遠くに見える山頂がどのように今立っている場所につながっているか、想像すらつきません。これがブレイクダウン思考の限界なのです。それでも、自分は北に向かいたいのだということさえわかっているならば、コンパスを使って、分かれ道が来るたびにおそらくは北に連れていってくれる道を選び続けることができます。これがボトムアップ思考の利点です。

答えも道筋も見えないからこそ、「それでも、私は研究者を続けたいのだ」という気持ちを「自分にとっての正解」として、しつこくその判断を繰り返すことを続けました。そうすることで、なんとかここまでやってくることができたのです。

結果論かもしれませんが、わたしは「しつこさ」は人生の航路を決める上で重要な資質だと考えています。そして「私はこれを選ぶ」というボトムアップの考え方は、そうしたしつこさを長い目で生み出してくれるのです。

 

一生の真似を続ける

かつて「100歳の禅師ぜんじ」としてしられた永平寺の宮崎 奕保(みやざき えきほ)禅師は、「学ぶ」とは「真似る」ことと前置きを置いたうえで、このような言葉を残されました。

「一日の真似は一日の真似事にすぎない。二日の真似は二日の真似にすぎない。しかし一生続けたなら、それは一生の真似になるだろう」

「一生の真似」というとわかりにくいかもしれませんが、私はこれを人生には「ここまでやれば本物」という完成がないという意味だと思っています。

一年先、三年先、あるいは十年先のことをイメージできないとき、私たちはいつか自分も目標を達成して「完成された自分」になるときが来るのだろうかと夢想しがちです。しかし、そのようなときは来ません。

禅師の言うとおり、「こちらの方に向かいたい」という思いとともに、一日一日の真似を続けてゆくことを、どれだけしつこく続けられるかが、長い目でみた人生を形作ってゆくのです。

今日から始められる仕事術で毎日を軽やかにこなし、小さいことを繰り返す習慣術でゆるやかに人生の航路を変えながら、みなさんが思い描く人生の航跡を描かれることを祈っています。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 
前の記事はこちら:
「小さな習慣」で人生をゆるやかに変える方法

若手
タグ一覧 仕事術
記事一覧へ
堀 正岳

理学博士。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)所属。北極における気候変動を中心として研究活動をするかたわら、最新のライフハックや仕事術、ツールなどをブログ『Lifehacking.jp』で紹介。1973年、アメリカ・イリノイ州生まれ。

関連記事