製薬業界を知る

2018/01/25

外資系製薬会社研究職からバイオベンチャーの立ち上げを経て、現在、京都学園大学バイオ環境学部バイオサイエンス学科で教授を務める松原守先生。このようなキャリアを築いていく中で、どのような出来事に直面し、どう成果を出してきたのか? 第2回となる今回は、外資系製薬会社での経験をメインに語っていただきます。

日本国内市場において外資系製薬会社の躍進は目覚ましいものがあり、読者の皆さんの中には外資系製薬会社に興味をもち将来はそこで働きたいと考えている方もおられるかと思います。今回は、私が外資系製薬会社で体験した話を中心に「外資系製薬会社とはどんなところなのか、そこで成果を出すには何が大切なのか」という内容をお伝えします。

【今回のTopics】

  • 外資系製薬会社における採用はどんなものか?
  • 外資系製薬会社における働き方
  • 外資系製薬会社における英語でのコミュニケーション
  • 外資系製薬会社の“厳しさ”とは

 

外資系製薬会社における採用はどんなものか?

外資系製薬会社における採用はどんなものか?

理化学研究所で働いていた私がどうして外資系製薬会社に転職したのかという経緯から、まずはお話ししましょう。

前回紹介したように、私が行っていた研究はプロテオミクスとよばれる分野で、特に放射光施設でタンパク質の立体構造解析をするとともに、最新鋭の質量分析装置を用いて薬の標的となるタンパク質の機能解析を行っていました。

ある学会で私の研究内容と技術に興味を持たれた外資系製薬会社の研究所長の方が、「松原さんの技術とアイデアが必要なのでわれわれの創薬プロジェクトに参加してくれませんか」と声をかけてくださいました。少し聞こえのいい言い方をすれば、ヘッドハンティングされたということになるでしょうか。私自身は基礎的な研究成果をいつかは応用研究に結び付けたいという思いと、薬学部出身ということで心のどこかで最先端の創薬研究に携わってみたいという気持ちがあったので、とてもいい機会だと思って転職を決意しました。

実際に採用された部署はオランダ系外資系製薬会社の研究所で、そこでは特定の疾患に関連のあるタンパク質を創薬ターゲットとして、あらゆる技術を駆使して薬の候補を創出するというミッションを掲げていました。ここでの私の職務は、自分の持つ最新のプロテオミクス技術を用いてそのミッションに貢献するというものでした。入社したその日からプロジェクトへの貢献を求められましたし、周りの社員からはお手並み拝見という視線でみられるというプレッシャーもありました。

外資系製薬会社における採用では、私のように会社が求めるスキルにマッチした人材が選ばれ、仕事をすることになります。ちょうど私が入った1ヶ月前の新卒採用においても、バイオインフォマティクスを専門とする情報系分野の博士と、遺伝子のノックアウトマウス作製の高い技術をもった、生物系分野の博士が採用されていました。このように会社の目標に応じた即戦力が必要とされます

現在、日本における外資系製薬会社においては、研究開発(R&D)部門では中途採用がメインになっています(一方で、医薬情報担当者(MR)においては、新卒採用はかなりあります)。

もちろん会社によっては新卒を採用して育てるというところもありますが、内資系製薬会社よりは少ないのが実情です。外資系製薬会社側の論理からすると、研究開発の高いスキルをもった経験値の高い人材を活用したほうが、競争の激しい分野においていち早く会社の目標を達成できるという考え方なのです。そういう意味では内資系製薬会社よりも少し厳しい現状があるかもしれません。外資系製薬会社で働きたいと思う方は、希望する会社がどのようなスキルをもった人材を求めているのかという情報を学生の頃からサーチしておくといいでしょう。

 

外資系製薬会社における働き方

大学や国の研究所で研究していた人間が、外資系製薬会社に入って初めて経験したことは多々ありました。

第一に、職務内容が明確になっているということでした。これはジョブ・ディスクリプション(job description: 職務記述書)といわれるもので、この会社であなたがやらなければならないことがはっきりとしており、それを遂行する上であなたはどのような知識、技術、資格などをもっているかが問われます。そしてそのレベルによって職務等級や給与も決まってきます。そして、この職務内容の達成状況によって評価が行われ、給与や職務等級も変化していきます。目標が達成できなかった場合には役職からの降格もあります。目標達成のためには大変な努力が必要で降格という不安もありますが、一方で、それに見合う報酬があるのも内資系製薬会社とは違ったところです。

私自身はこのようなシステムに当初は戸惑いましたが、実際に経験してみて自分には合っている仕組みだと感じました。入社時から求められている職務内容がかなり明確で、要求されるスキルも他の社員にはないものであったので、会社からの期待が高くプレッシャーもありましたが、一方では良いモチベーションにつながりました。研究チームの中で、自分の職務で目標達成をしてチームへ貢献できれば、自分の評価のみならずチーム全体の評価が高まります。そのことが会社の発展にもつながります。こういうジョブ・ディスクリプションの仕組みがあることで、外資系企業は外からみるとシビアに思われがちなのかもしれませんが、厳しい医薬品開発競争の中ではうまく機能するシステムのように個人的には感じています。

 

外資系製薬会社における英語でのコミュニケーション

外資系製薬会社における英語でのコミュニケーション

外資系製薬会社に入って、やはり大変だと感じたのは英語でのコミュニケーションでした。私が在籍した日本の研究所には本社の外国人研究者はいませんでしたが、研究所などがあったオランダ、アメリカ、スコットランドの研究者との定期的な電話会議があり、電話越しに聞こえてくる英語を理解するのにとても苦労しました。今ではSkypeなど相手の顔が見える形でのTV会議で意思疎通はしやすいですが、電話だけでのやりとりは非常に高いコミュニケーションスキルが必要でした。また、英語による研究レポートや会議のminute(議事録)の作成なども質の高いものが求められたので慣れるまでは大変でした。 週に1回社内で英語の個人レッスンがあり、かなり助かりましたが、仕事に使える英語でのコミュニケーション力は、緊張感のある現場で繰り返し経験することによって上達しました。

在職中、最もタフであったのが本社のあるオランダでの研修でした。そこでは世界のさまざまな研究所や工場などから幹部候補の社員が集まり、製薬会社で必要とされる多くの問題について議論しました。日本語で発表するのでさえ難しい内容のことを英語で話さねばならず、さすがに英語圏の社員との差を感じ悔しい思いもしました。

また、研修の中にはチームでオランダ料理のフルコースを作るという、とてもハードでしたが楽しいものもありました。外資系製薬会社で働くということは、どのような場面でも問題なく英語で対応できるスキルを持つということなのです。

最近では、外資系製薬会社に限らず製薬業界のグローバル化が加速しており、医薬品開発の場では三極同時開発(日米欧三極による同時開発・同時承認を目指すこと)がスタンダードになっているのはよく知られていることだと思います。従って、内資系製薬会社においても英語での高いコミュニケーションスキルは今や必須のものだといえます。単に英語の資格試験の点数が高いというだけではなくて、仕事で使える英語力が必要です。

読者の皆さんは、われわれの学生の頃よりも英語学習に対する意欲が高く、海外留学や海外インターンシップなどの経験も多くなっていることでしょう。ぜひ英語圏の学生に負けないくらいの気持ちで、若い頃からさまざまな問題について英語で議論できる機会を増やしてもらえればと思います。

 

外資系製薬会社の“厳しさ”とは

外資系製薬会社の“厳しさ”とは

これまでさまざまなところで働いてきた中で、外資系製薬会社が最もディシジョン・メイキング(意思決定)のスピードが速かったということを感じています。日本の会社ではさまざまな人にコンセンサスをとるため会議が多く、その結果、ディシジョン・メイキングが遅くなりがちです。さらに外資系ではトップダウンで物事が決定されることが普通で、そのため部署のトップが指示すればすぐにでも事案が動きます。実際に私が採用された時も、研究所長のトップダウンですぐに決まりました。日本の製薬会社だとなかなかそのように事が運ばないと思います。

一方で、こういったディシジョン・メイキングの速さとトップダウンの仕組みが、社員にとって厳しい状況になる場合もあります。先に述べたように職務の目標達成を問われるので、結果が出ない場合には厳しい査定をもらう場合もありますし、場合によっては会社を去らなければならない場合もあります。また、個人ではなく会社全体の業績不振においては、研究プロジェクトの中止はもちろんのこと、不幸な場合には組織の廃止ということになりかねません。悲しいかな、私が在職していた時にわれわれの研究所は閉鎖されることが決まりました。ちょうど売り上げに貢献していた医薬品の特許が切れたのが原因で、経営合理化のためのリストラが実行されました。日本の研究所でかなりの成果が上がっていただけに、残念な結果となりました。

このようなケースは私がいた会社に限らず、この15年間で日本に研究所をもっていたほとんどの外資系製薬会社に起こりました。今や日本においては大手の外資系製薬会社の研究所はありません。また、外資系製薬会社の数自体も、私が学生だった頃には国内に40近くありましたが、その後の買収、合併によって今では大手に関しては9社*となっています(*医薬業界研究会編集 『医薬品〈2018年度版〉(産学社)』よりデータ引用)。

私が在籍した製薬会社は現在アメリカの巨大製薬会社になっています。そういう意味で外資系製薬会社に勤めるということは、内資系製薬会社よりは少し覚悟がいるのかもしれません。しかし、この製薬業界においては売上規模、研究開発力、パイプライン*の多さという面からみても外資系製薬会社で働き、キャリアアップを目指すというのは魅力的です。私自身も短い期間ではありましたが、外資系製薬会社での経験が今も活きています。
*パイプライン(開発パイプライン)とは、医療用医薬品候補化合物(新薬候補)のこと。すなわちパイプラインの多さとは新薬候補の豊富さであり、創薬企業の存続・発展に重要なものとなる。

次回は、外資系製薬会社の研究所が閉鎖に追い込まれた後、いかにしてバイオベンチャーを立ち上げたのかという話をしたいと思います。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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松原 守

京都学園大学バイオ環境学部バイオサイエンス学科分子生命科学コース分子生物学研究室教授。 1965年 名古屋市生まれ。博士(薬学) 名古屋市立大学大学院薬学研究科後期課程修了。薬剤師、上級健康食品管理士の資格を持つ。専門は「分子生物学」「細胞生物学」「構造生物学」「蛋白質科学」。 理化学研究所、外資系製薬会社、バイオベンチャー(上場企業)などでがんや神経変性疾患に関連する遺伝子、タンパク質の基礎研究ならびに創薬研究に従事する。現在は、さまざまな病気に関わるタンパク質の機能構造研究のほかに超高齢化社会で問題となる病気を予防するための機能性食品開発に携わっている。 Twitter:@matsubara_m

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