すべての人に「リーダーシップ」が求められる時代。リーダーシップがある人・ない人の差

これから就職し社会に出ていく皆さんは、学生のうちにどのようなスキルを磨きたいと考えているでしょうか?
英語力、コミュニケーション力、研究職を目指す人であれば専門分野の知識……などなど。それぞれが進みたい道によって、さまざまありそうですね。

しかし、社会の中で自分が属す組織に貢献していくためには、各人が「リーダーシップ」を発揮できることが必須と話すのは、立教大学経営学部で助教を務める舘野泰一先生と、特任准教授を務める髙橋俊之先生。
同学部では、入学後すぐに「リーダーシップ入門」という講義が組まれ、ほとんどの学生が受講するという。なぜリーダーシップはすべての人が身につけるべきスキルなのか、その理由と、リーダーシップを育むために何が必要なのか、聞きました。

取材協力:

写真右:舘野 泰一(たての・よしかず)さん

1983年生まれ。立教大学経営学部助教。リーダーシップ開発、越境学習、ワークショップ、トランジション調査などを研究。

著書(分担執筆)に『活躍する組織人の探究: 大学から企業へのトランジション』(東京大学出版会)、『まなび学ワークショップ 第2巻』(東京大学出版会)が、近著に『アクティブトランジション 働くためのウォーミングアップ』(三省堂)がある。

写真左:高橋 俊之(たかはし・としゆき)さん

立教大学経営学部特任准教授。淑徳与野中学・高等学校教育顧問。論理思考教育、リーダーシップ開発、キャリアビジョン開発などが専門領域。

著書:「やりたいことを実現する実践論理思考」(東洋経済新報社)「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」(東洋経済新報社 共著・編集)「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」(ダイヤモンド社 共著・監修)

なぜ全員に「リーダーシップ」が必要か

――リーダーシップというと、組織やグループを引っ張っていく一部の人が持つべきものというイメージがあるのですが、全員に必要とおっしゃる理由は何でしょうか?

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舘野先生:確かに、一般的なリーダーシップのイメージは、企業であれば管理職、学校であれば学級委員長など、チームをまとめる人が発揮すべき力という認識があるかと思います。しかしわれわれが教えているリーダーシップはそういった一部の人が発揮するものではありません。メンバー全員が持つべきものであり、チームとして高いアウトプットを生むために、全員が発揮するものです。
ここでいうリーダーシップとは、才能やカリスマ性が必要なものではありません。また、必ずしも集団を引っ張る、前に出て話すということが求められるものでもありません。講義では、このような「リーダーシップに対する誤解」を解くことから始めています。

では、リーダーシップとは何か。

わたしたちは「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力」と定義しています。つまり、集団が前進することに自分から貢献する行動であれば、すべてがリーダーシップであるということです。授業では、まずそれを理解してもらい、そういった行動を起こせる力を身に付けていくことを目標にしています。

――企業に入ったばかりの新入社員にも、「リーダーシップ」は必要なのでしょうか?

髙橋先生:自発的に行動を起こしていくことを歓迎する企業もあれば、新人は言われたことだけをやっておけばいいという雰囲気の企業もあるかと思います。ただ、これからは良くも悪くも言われたことをやっていればいいという時代ではなくなっていきます。世の中の状況がめまぐるしく変化していく中で、自分のやっている仕事の正解は先輩にも分からないし、何かを聞きにいくとしても先輩も忙しい。自分で考えるのも難しければ、他者を巻き込むハードルも上がっているという環境に放り込まれます。

そういった状況に対処するためにも、組織やチームといった環境のなかで自分から動いたり人を巻き込む力をある程度は付ける必要があると考えています。

一方で、学校ではまだまだ一方的な講義が多いので多くの学生は、主体的にグループで何かするといった経験は文化祭などを除くとあまりしていません。そのまま社会に出てしまうと、非常に大きなギャップに直面することになりますね。

 

リーダーシップのある人とはどのような人か

――具体的には、どのような行動が「リーダーシップ」を発揮した行動といえるのでしょうか?

舘野先生:組織や集団の目標達成に貢献する行動であれば、それらはすべてリーダーシップを発揮した行動と言えます。例えば、議事録を積極的に取る、場の雰囲気を良くするために笑いを誘うなど。自分のキャラクターや強みを活かして、自分なりに貢献する意識が重要です。ただ、何でもリーダーシップだよと言われると、逆にどうしていいか分からなくなってしまいますよね。
そこで、リーダーシップを発揮するために、リーダーシップの3本柱が必要だということを教えています。

リーダーシップの3本柱

  • 率先垂範
    ベースとなるのが「率先垂範」です。率先垂範とは、自分から率先して動き、他者の模範となることです。自分が動くことによって、周りの人たちもどのように動けばよいのかがわかり、行動しやすくなります。これを前提とした上で、以下の3つの行動が必要になります。
  1. 個の確立
    1つ目が、「個の確立」です。これは自分自身がプレーヤーとして成長する行動のことを指します。例えば、難しい課題に挑戦しようとすることや、自分を成長させるような行動をとることです。大学生の場合は、自分自身が個として成長していくことも重要な要素になります。
  2. 環境整備
    2つ目は「環境整備・同僚支援」です。チームメンバーが動きやすい環境をつくること全般を指します。例えば、メンバーが意見を言いやすい環境をつくったり、メンバーの強みがいきるような役割分担をすることがあてはまります。
  3. 目標設定・共有
    そして3つ目は「目標設定・共有」です。チームメンバーがワクワクするような目標を立て、メンバーを巻き込んでいくこと等を指します。向かうべきビジョンを一緒につくり、共有していくイメージです。

もちろん、リーダーシップに必要な要素はこれらだけではありません。他にも決断力やストレス耐性など、多くの要素がありますが、大学ではこれを基本編として、まずはこの行動が最低限できるようになることを目指し、授業を行っています。

 

リーダーシップを育むためのサイクルを回すこと

――リーダーシップを身に付けたいと考えていても、そういった授業を受ける機会がない学生も多いかと思います。その場合、どのようにリーダーシップを自分で学べば良いのでしょうか?

舘野先生:リーダーシップを身に付けるために必要なことは、主に2つ。1つ目は、リーダーシップを発揮する体験そのものを増やすこと。2つ目は、体験による学びを最大化するために振り返りをすること、です。

1.リーダーシップを発揮する体験を得よう

髙橋先生:1つ目のリーダーシップを発揮する体験は、実はいろいろなところにあります。ゼミや部活、バイト先などで、チームで何かをするといった経験は得られます。その中で、例えば部活であれば、片づけに参加してくれない人がどうすれば片づけに参加してもらえるか、バイトであれば、閉店しても帰らないお客さんにどうすれば帰ってもらえるかなどを考えて実践した学生がいます。授業がなくても、自分で工夫していくことはできます。

2.リーダーシップを発揮する体験から学ぼう

舘野先生:そして、そこで大切になるのは2つ目の体験から得られる学び。せっかく体験しても、それが自分のリーダーシップの理解につながっていかなければ、同じ失敗を繰り返しかねません。自分のリーダーシップをうまく発揮できず成果もあがらない。そうならないために必要なのは、フィードバックと振り返りです。一番簡単なのは、人にフィードバックをもらうこと。バイトであれば、「私の普段の仕事ぶりはどうですか」と聞いてみる。よく言われるのが、自分がリーダーシップをとれていると思う行動と、他人から見たリーダーシップがとれている行動には差があるということ。つまり、その差を埋めることが重要なのです。

フィードバックをもらったら、それをそのままにせず「効果的なリーダーシップとは何か」という自分なりの持論を考えてみましょう。例えば、「よりよいリーダーシップを発揮するためには謙虚さが必要だ」などです。これは1つではなく、複数考えてかまいません。自分なりの教訓のようなものを抽出することで、体験の持つ意味が何倍にも増します。

ここで考えた教訓は、「次のリーダーシップ体験」でさっそく活用していきます。その上で、うまくいったことは続け、新たに発見したことはまた持論化していきます。このように、持論を更新していくことで効果的なリーダーシップ行動がとれるようになっていきます。

細かいことにはなりますが、実際に行動を起こすとすれば、あと2つ。1つは、何か小さな不満があれば、それを提案に変えられないかという発想に立って、行動してみる。もう1つは、人を喜ばせる企画をチームで考えてみる。例えば、誕生日のサプライズ企画を考えて、それに参加してほしいから3秒の動画を撮って送ってほしいと呼びかけるといったことです。自分が関わって周りの人が喜ぶといった経験をすると、周りに貢献しようという気持ちが生まれるので、それがリーダーシップの原点になるんです。

――より深く学ぶために、参考になる書籍はありますか?

舘野先生:新たなリーダーシップの考えについて学ぶには『シェアド・リーダーシップチーム全員の影響力が職場を強くする(石川淳)』、『リーダーシップの探求 変化をもたらす理論と実践(スーザン・R・コミベズ他)』、『リーダーシップ・チャレンジ(ジェームズ・M・クーゼス)』、の3冊はおすすめです。

『シェアド・リーダーシップチーム全員の影響力が職場を強くする(石川淳)』、『リーダーシップの探求 変化をもたらす理論と実践(スーザン・R・コミベズ他)』、『リーダーシップ・チャレンジ(ジェームズ・M・クーゼス)』

――リーダーシップを身に付けるために、立教大学ではどのような授業を行っているのでしょうか?

舘野先生:講義だけ受けていても、自分なりのリーダーシップを見つける、行動を起こせるようになるというのは難しいです。なので、先ほど述べたことと同様に、まずは自分で実際にリーダーシップの行動をとってみて、チームメンバーにフィードバックをもらい、自分の行動を振り返り、その結果を参考にまた行動するというサイクルを回すようにしています。

具体的には、入学直後に1泊2日のウエルカムキャンプを開催し、リーダーシップをとる体験をしてもらいます。この経験をした上で、1年次の春学期の授業「リーダーシップ入門」に入っていきます。「リーダーシップ入門」では、企業に課題を出してもらい、それに対するプランをグループで考えるというプロジェクトを行います。そこで最も重視するのはリーダーシップを発揮する環境づくりです。

プロジェクトを進める上では「メンバーを巻き込む」などの行動が必要になります。しかし、実際に行動をしてみると「うまくいかない」ということも多くあります。そういった行動に対して、中間の授業でメンバー同士の相互フィードバックを受ける機会をつくります。後半の授業では、そこでもらったフィードバックを活かしてグループワークを進め、最後にプレゼンテーションがあります。それが終わった後に最後にもう一度、相互フィードバックをし、自分なりに振り返りをおこなうことで、自分のリーダーシップのスタイルを理解していきます。

立教大学経営学部 リーダーシップを学ぶ、ウエルカムキャンプウエルカムキャンプの様子。

秋学期では、春学期で得た経験を活かして理論や考える力を学び、2年次でまたプロジェクトに挑戦していきます。授業でも、まずは体験してもらい、そこから学んでいくという両輪をデザインするようにしていますね。

 

リーダーシップがあれば社会でも“得”をする

――リーダーシップは、実際に社会でどのように役立っていくのでしょうか?

「リーダーシップがあれば社会でも“得”をする」立教大学経営学部・髙橋俊之氏

髙橋先生:自分で自分の方向を決められる確率が上がるということは大きいですね。リーダーシップは、自分で考え、人を巻き込んでいくこと。自分から先手を打って動いていくということです。会社に入って、ただ仕事が来るのを待っている人は、上司から降ってきた時点でその仕事はすでに手遅れだったり、行きたくもない場所に放り込まれたりすることも多く、損をしがちです。反対に、自分から動けば、自分が行きたい方向に行きやすくなり、会社にとってもプラスに働きます。自分で選択できる範囲が増えることで、大きなところで得をするのではないでしょうか。

舘野先生:会社の中で重宝されるということはもちろん、より楽しめる、充実するということにもつながっていくのではと思います。

髙橋先生:それはビジネスに限ったことではなく、集団であればどこでも使えるものです。

――最後に、学生へ伝えたいことはありますか。

髙橋先生:リーダーシップをとると、火中の栗を拾うような、損をするイメージがあるかもしれません。でも実際のところは、うまくいけば自分も周りもエキサイティングな体験ができます。ぜひ挑戦してほしいですね。

舘野先生:自分から手を挙げることのほか、誰かがやろうとしていることを応援するのもリーダーシップにとってとても重要なことです。日本はリーダー不在と言われていますが、実はリーダーではなく、声をあげる人を支える人が足りないのではないでしょうか。この人がやっていることは良いな、共感できるなというときに、それをどうやって支援できるのかを考えると、世の中の見え方自体がエキサイティングになっていくと思います。集団を前に動かすための自発的な行動は、すべてリーダーシップですから。

 

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
 

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