世界最大規模のロボットコンテスト「FRC」─STEM教育の最前線に挑む3つの高校生チーム(後編)
前編はこちらから【世界最大規模のロボットコンテスト「FRC」─STEM教育の最前線に挑む3つの高校生チーム(前編)】
ミッションはロボットを作るだけではない、自分たちのチームを売り込み、お金を集めていく
──前編では、FIRST Japanの統括ディレクターである鈴木健太郎さんからFIRSTとFRCについて詳しくお聞きしました。後編では、日本からFRCに参戦している3つの高校生チームのメンバーにFRCに向けた活動を通じて感じていることをうかがいたいと思います。
また、彼らの活動をサポートしている大学生メンターの大西さんもサポートよろしくお願いします。
大西:よろしくお願いします。
──大西さんは日本から初めてFRCに参加したチームのメンバーだったそうですね?
大西:そうですね。2014年の夏にチームができて、2015年3月の大会に出場しました。私はチームの発起人の1人で、日本国籍のチームとしては初めての参加でした。今は東京工業大学の大学院に通いながら、メンターとしてFRCの国内の普及や各チームの立ち上げや技術面のアドバイスなどをしています。
──大会参加チームのOBとして、FRCに参加して「学んだな」と感じていることは?
大西:どういうことを学んだか……ですか。本当にたくさんありすぎて語り切れないので、絞り込んでお話すると、1つは技術力の面ですね。たとえば、高校の授業でロボットを作る時間はありません。部活や趣味で作る生徒はいますが、それでも大会という場に出ることはまれです。それがFRCの場合は、世界大会に向けた活動の中でFIRSTのコミュニティに参加し、技術についてきちんと評価を受けることになります。実際に手を動かして物を作る経験、評価される経験は大きな学びです。
もう1つFRCにしかない部分では運営力が試されるところです。チームを取りまとめる、もしくはチームに貢献することは他の団体競技でも、ロボコンでも経験できます。でも、FRCは資金調達も含めてベンチャー企業を立ち上げるような感覚が味わえます。ロボットを作っているだけでいいわけではなく、自分たちのチームを売り込み、お金を集めていく。
「私たちはこういうコンセプトでロボットを作り、このチームで海外に行き、世界に挑戦したい」と。そんなふうに自分たちのことを表現し、持っている個性を他の人に伝える能力は学校生活だけではなかなか磨かれていかない力だと思います。
──FRCの経験は今に役立っていますか?
大西:そうですね。研究内容が専門的で高度になっていけばいくほど、一般の人には本質が伝わりにくくなっていきます。そのとき、どうやって噛み砕きながら説明すれば響くのか。大事なところを専門家ではない人に伝える力は今も役立っていますし、社会に出てからはさらに求められるものだと思います。
少なくとも高校生たちは1ミリも悪くない─大人の事情としか言えないルールが邪魔をしている
──2016年からFRCに参戦しているSAKURA Tempesta(サクテン)。中村さんは、どういう経緯でサクテンに入ったのですか?
中村:最初にサクテンを知るきっかけになったのは、内閣府の男女共同参画機構がやっているリコチャレ(理工チャレンジ)でした。中学生のとき、私は毎年なにかしらのリコチャレに行っていたんですけど、そこでサクテンのワークショップに参加し、興味を持って、チームに参加したいなと思いました。
──元々ロボット作りに興味があったのですか?
中村:はい。技術面で関われたらとも思ったんですけど、FRCは運営側の役割が重要なのも魅力でした。
──今は運営を担当されているのですよね?
中村:そうですね。サクテンはリーダーが2人いるんですが、私は主に運営を担当するリーダーです。主な仕事は、チームの長期的な計画を立ててチームメンバーに仕事を割り振ること。それから資金集めですね。
──資金集めは具体的にどんなことを行うのですか?
中村:今年の流れで言うと、前年の大会を終えて日本に帰ってきたら、支援していただいた皆さんに報告のメールをします。その後、来年のスケジュールを決め、チームメンバーみんなで支援していただけそうな企業をピックアップしていって、手分けしてお願いのメールを送ります。
メールを送るのが6月、7月。アポイントが取れたら、企業訪問へ。ただ、9月は学校の文化祭もあるのでメンバーもなかなか時間が取れず、資金集めは10月、11月まで続きます。その後はロボットのビルディングシーズンに入りますが、お会いしてくださる企業があれば、私も含めた運営側のメンバーで訪問します。
──今年の資金集めは順調でしたか?
中村:2年連続世界大会進出と結果が出てきたので、いい反応をいただけることが増えました。ただ、企業訪問で感触が良くてもスムーズに運ぶことはなかなかないんです。
──というと?
鈴木:そこは僕から少しフォローしますね。
高校生がアポイントを取って、プレゼンをすると、企業側で応対してくださるCSR担当者や広報担当者の方は、ほぼ100%好反応なんですよ。でも、「ムチャクチャ応援したいんですけど、入金ができません」となってしまう。なぜか? 「法人口座から個人口座への入金はできません」と言われてしまうんです。
誰が悪いんだっけ? という話なんですが、少なくとも高校生たちは1ミリも悪くありません。ただただ、大人の事情としか言えないルールが邪魔をしているわけです。
──そこはどうやって乗り越えるのですか?
鈴木:チーム代表の高校生個人の口座には入れられないけど、学校法人にだったら大丈夫となれば、一度、学校に入れていただき、そこからチームに下ろしてもらう。あるいは、各チームがNPO法人を作り、法人口座を用意する。いずれにしろ、そういったノウハウを伝え、環境を整備していくのは私たちの仕事です。
中村:私のチームはNPO法人化を計画していて、無事に認可されれば来年以降はスムーズになるかなと思っています。
──中村さんがサクテンの活動を通じて得られているものは何ですか?
中村:技術も多少は詳しくなりましたけど、主に企業の人とのコミュニケーションの取り方など、社会勉強になっている感覚が大きいです。受け身ではうまくいかないですし、自分で全部考えて動かないといけない。もちろん、教えてくれる人はいますけど、学校の授業みたいにカリキュラムがあるわけではないので。
1つ下のカテゴリーのFLL(FIRST LEGO League)で世界一─初めてのFRC参戦で感じていることは?
──BWWは今回が初めてのFRC参戦と聞きました。
金原:1つ下のカテゴリーのFLL(FIRST LEGO League)※ で去年、世界一を取ったメンバーを中心に結成したチームです。
※9-16歳までを対象にしたリーグ。主にLEGO社のマインドストーム(電子工作キット)を使用する。
小田:一昨年はメカニカルデザインアワードとロボット賞をW受賞しました。
金原:一応、高2の僕が最年長なので代表をしています。ただ、FLLとFRCは技術面もプロジェクト面もレベル感が段違いだなと感じています。
──どういう経緯で、FLLに出場することになったのですか?
金原:僕は小学生頃からロボットプログラミング教室のcrefusに通っていて、そこにFLLのチームがあったんです。そこに参加して全国大会で3位になったとき、教室の先生から「FLLは世界大会があるんだけど出てみない?」と誘われ、じゃあ、やってみよう! という感じで。
小田:僕は中2のとき、レゴのプログラムを教わるロボット教室に入って先生から「出てみない?」と誘われたんですけど、最初は気が向かなくて、断って。次の年に金原くんのいるチームの大きなレゴのロボットを見て、興味を持ったんです。
金原:それで、僕らが勧誘して入ってもらいました。
──2人ともロボットが好きで?
小田:そうですね。ロボット好きです。
金原:僕は子どもの頃からモノ作りも好きでした。
──FLLで世界一という成績を残せた勝因は?
金原:僕は正直、場数だったと思っています。FLLは9歳から参加できるんですけど、最初の3年はボロボロになるくらいまで追い込んでやったものの、結果が出なかったんですよ。ただ、そのときの反省点が自分の中で明確になって一気に改善した結果、次の年に初めて世界大会までいけたんです。
──ちなみに、どんな反省点があったんですか?
金原:小学校5年生、6年生のときはチームのメンバーも年上で、うまくメンバーとコミュニケーションが取れず、ロボット制作のタスクを一人で背負っていたんです。そうするとやっぱりうまくいかなくて……。中学生になったら、先輩方が「年が違うからって遠慮しないで、ズバズバ意見を言っていいんだよ」と言ってくれて。そこから変わりました。自分の取り組み方が。
──チームとしてどう動くべきかを考えるようになった?
金原:そうです。
──小田さんはその変化を見ていたのですか?
小田:それが僕は、FLLは去年1年しかやってないんです。だから、合流したときにはもう、いいチームワークがあって、だから世界一を取れたんじゃないかなと思います。
──初めてのFRCへの準備を進めている真っ最中だと思いますが、感触はどうですか? FLLとは違いますか?
金原:正直、格が違います。ビックリしています。求められる技術力が全然違います。正直、FLLで自分たちがやってきたことは、「レゴをパチパチっとくっつけて、完成!」みたいな……もちろん、そんなに簡単じゃないですけど、でもロボットを設計して作るのは想像以上の難易度です。
小田:先輩が「ミニ四駆を作っているのが、急に自動車を作り始めるみたいなもの」と言っていましたけど、ホントだな、と。
金原:じつは最初、僕は正直、FRCに挑戦する気はなかったんですよ。FLLのコーチをやりたいと思っていたんですけど、FIRST Japanの方から「FRCに参加する人口を増やしたい」「知名度を上げたい」という話を聞いて、FLLからFRCへの道筋を作るのも大事なのかなと考えて。
でも、やっぱりFRCは簡単に踏み込める領域じゃないですね。だけど、やりがいがあります。初めての大会後は、FLLで年齢制限(FLLへの参加は16歳まで)に達してしまった子たちに、うちのチームに来てもらってFRCに挑んでもらいたい。そのためにもBWWを大きくしていきたいと思っています。
1つ1つのタスクを早め早めにやっていかないと本当に痛い目に遭う─メンバー同士のコミュニケーションをもっと取るように変化した
──RAIJINboticsの濱鍜さんはどうしてFRCに参加しようと思われたのですか?
濱鍜:中3のとき、学校の先輩でFRCをやっていた方に誘われて、見学みたいな感じでチームに入りました。翌年、高1になってから正式に加入し、今年は代表に。
──もともとロボットが好きで?
濱鍜:そうですね。ロボットを作るのは好きでした。ただ、代表になったことで運営面の仕事も増え、それが今までやったことのない経験になっていて、意外と楽しめています。
──代表になってからは手を動かす機会が減ってきていますか?
濱鍜:マネージメントは制作班の代表がいるので、僕は指示を受けて手伝っています。設計などは技術力がもっと高いメンバーがいますから、そちらに任せて。役割分担があって、それぞれが責任を負って、チームを動かしていく感覚が新鮮です。特に代表になってからは1つ1つのタスクを早め早めにやっていかないと本当に痛い目に遭うんだな、と。
──というと?
濱鍜:うちのチームは国内ではベテランチームなんですけど、去年から引き続きやっているメンバーは僕だけで、実質はルーキーチームみたいな感じなんですよね。
だから、最初は顔見知りだった3人にしか気軽に仕事を頼めなくて、仕事量がかたよってしまったんです。そうしたら、その3人のうちの1人の学校の成績が落ちてしまって……。親から「これ以上落ちるなら抜けなさい」と。このままだと自分も背負い込み過ぎているし、うまくいかなくなるなと気づけて、そこからチーム内でメンバー同士のコミュニケーションをもっと取るようにして、今はだいぶ良い状態になりました。
──濱鍜さんご自身も学業への影響は感じていますか?
濱鍜:FRCに向けて英語は頑張っているんで、ちょっと伸びています。でも、大会が近づくとそれ以外の教科は少し落ちちゃいますね。
大西:ロボットを作ること、チームをマネジメントすることは、日本の教育の科目の中にないですからね。
求められるのは大人の本気。子どもたちにもっと広い世界を経験してもらう仕組みを─3カ年計画でFRCの日本予選の公式化を目標に
大西:FRCに参加している学生には、後ろ盾がないんですよ。部活動ではないので学校公認の活動にはなりませんし、高校からの支援もあまりありません。学校からすると、趣味で集まっているという認識なのが現状です。
ベンチャー企業にはベンチャーキャピタルという頼れる仕組み、アドバイスがもらえる場があります。でも、彼らは基本的に頼れる大人も自分たちで探すところからのスタートです。世界大会に挑むという華やかな面はもちろん伝えたいんですが、逆境から始まる難しさも知ってもらえたらと思います。
鈴木:先ほど触れた資金集めの問題もありますし、そもそもロボットを作るための作業場の確保も大変です。また、ロボットの作り方を教えてくれるエンジニアのボランティアも足りません。各チームは本当にたくさんの課題を抱えていて、そのほとんどは子どもたちのせいではないんです。
FIRST Japanでは、スポンサーとなってくれる法人とやりとりするとき、チームの銀行口座をどう作るか、広報活動をする際の学校への申請はどのように行うかなど、具体的なフローを今、整備しています。
私たちは、3カ年計画で今は3チームしかない日本からの参加を28〜32チームに増やし、日本予選の公式化を目標にしています。その第一段階として、今日、取材場所を提供してくれたチームラボと契約。FRCの日本予選開催を目指し、資金の提供、作業環境の提供、技術メンターの提供を行ってもらっています。
──大人たちの本気のバックアップが求められているわけですね。
鈴木:子どもたちはロボットを作り、大会に出るプロジェクトに携わることで、本当に爆速で成長するんですよ。それを大人の事情でできません、お金ないからできませんと蓋をしてしまうのは、ただただ純粋にもったいないことです。
海外の子どもたちに比べて日本の子どもたちは能力が低いなんてことはまったくありません。彼らにもっと広い世界を経験してもらう仕組みが足りないんです。日本の子どもたちの可能性を大人の都合が妨げているんです。
我々はFRCは世界への入り口の1つに過ぎないと思っていて、子どもたちの世界への入り口をとにかく増やしたいんです。FRCで一つ前例ができれば、次の入り口ができやすくなるかもしれない。色んな世界への入り口を創っていって、そこでの経験によって可能性を大きく広げていく子がどんどん増えていけばいいなと考えています。
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※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
Photo Credit: Argenis Apolinario(MV)