スキルを磨く

2018/12/28

今回の記事のテーマは、「どうしたら、難しい課題をクリアできるか?」です。
前回の記事、『デキる人ほど危険:人の思考のクセを知って正しく考える方法』に続き、青山学院大学・鈴木宏昭教授に、認知科学の知見を元にした、難題の解決方法を聞きました。小手先のメソッドではない、人間という知的システムのコアの部分から考えてみます。

前編では、思考のクセやバイアスを取り上げて、人の思考のネガティブな側面ばかりを論じてしまいました。後編では、こうしたバイアスを乗り越えて、どうするとより良く考えることができるのかを、認知科学の視点から考えてみたいと思います。これを通して、思考の揺らぎということが、その鍵になるのだと論じていこうと思います。

 

論理学 “初歩中の初歩の問題” の正解率は?

私たちはいろいろなバイアスのおかげで非論理的な思考を行います。でも、そもそも人間がそんなに非論理的で愚かであるならば、どうして高いビルを建てたり、複雑なプログラムを書いたりすることができるのでしょうか。こうしたことを考えると、人間はいつでも愚かとは限らないのではと考えたくなります。

下記は認知科学でとても有名な問題なのですが、少し考えてみてください。

・計4枚のカードがある(下図)
・表には数字、裏にはアルファベットが書いてある
・カードには「表が偶数ならば、裏は母音」というルールがある
・このルールが正しいか確かめるには、どのカードをめくったら良いか?(複数可)

※2019.1.24 上記設問に一部間違いがありました。お詫びして訂正します。

みなさんの答えはどうでしたか。最終的な答えはともかく、最初は「4」と「U」のカードと思ったのではないでしょうか。残念ながら答えは「4」と「P」のカードなのです。4のカードの解説の必要はないと思いますので、なぜ答えがPであり、Uではないのかを簡単に説明します。もしPを裏返してそれが偶数だったらどうでしょうか。この場合は規則が守られていないことになりますから、このカードを裏返して偶数になっていないことを確認しなければなりません。一方、Uのカードは裏返して偶数だったら、確かに規則通りとなります。でも奇数だったらどうでしょうか、規則が守られていないことになるでしょうか。奇数の裏については何も規則は言っていないので、そうはなりませんよね。

不正解だからと言ってがっかりしないでください。この問題の正答率は大学生でも10%程度なのです。ただ少しはがっかりしてください。なぜなら、この問題は論理学の条件文推論の初歩中の初歩の問題だからです。

 

「おやつ」でこの問題を考えてみた時の驚き

このような結果を知るとやはり人間は愚かと言いたくなります。しかし次の問題を考えてみてください。ある幼稚園では「おやつを食べるのならば、昼食で野菜を食べなければならない」という規則があります。下の4枚のカードの表側にはおやつを食べているか否か、裏側には昼食で野菜を食べたかどうかが記されています。どのカードを裏返してみなければなりませんか。あまり考え込まずに直感的に答えてみてください。

どうでしょうか、ほとんどの人は直感的に「おやつを食べた」と「野菜食べてない」のカードを選んだのではないでしょうか。理由は明白ですよね。おやつを食べたのなら、野菜を食べているかどうかをチェックしなければならないし、野菜食べてないのならばおやつを食べていないかどうかをチェックしなければならないからです。

さて正解はどうでしょうか。実は上に述べたとおりなのです。多くの人が気づいていると思いますが、この問題は最初の数字とアルファベットの問題と同じ構造の問題です。では、どうして最初は間違えたのに、次は正解できるのでしょうか。下の方が具体的だからというのは、正しくありません。問題内容が単に具体的になっても正解率は上昇しないことは繰り返し確かめられています。不思議な話だと思いませんか。

この謎を解く鍵は、知識の文脈依存性というものです。私たちは様々な場面で経験をすることで、その場面に応じた知識を獲得します。その知識は、その場面には固有の情報が付け加えられていて、その情報がないと働かないようになっています。私たちはおやつのような場面、つまりある行為(おやつを食べる)とその前提条件(野菜を食べる)という関係があるときには、正しい条件文推論の知識を行うことができます。しかし仮に本質は同じでも、そうした文脈の情報がないときには、この知識は働きません。このように文脈に応じて知識が働くさまを、文脈依存性というわけです。

認知科学では、人がとてもよく間違える問題がたくさん見つけられてきています。しかし一方で、そうした問題と本質的に同じ別種の問題には難なく答えられることが、これまた繰り返し報告されてきています。つまり、人はいつでもどこでも愚かというわけではないということです。

 

思考のストラテジー1:揺らぎを作り出し、自分の土俵に持ち込む

さてこうした人の思考を見てどう思うでしょうか。文脈が異なれば知識が使えないのだから、諦めるしかないのでしょうか。そうではありません。文脈を自分で作り出し、与えられた問題に対する固定的な見方を揺らがせることもできます。そして自分の得意な土俵に問題を変えてしまうのです。

例としてこんな問題を考えてみましょう。下の図に示したようなチェッカーボードがあります。これは8×8のチェッカーボードから両対角のマスを切り取ったものです。さてここにこのボードのマス2つ分をちょうど覆う板が31枚あります。この板を使って、このボードをきれいに埋め尽くすことができるかというのが問題です。

ちょっと考えてみても、これは相当に難しいと思うでしょう。実際にやってみようとしても、板の置き方の組み合わせは50万通り以上もありますので、答えを出すことは難しいと思います。

しかしこの問題に働きかけて文脈を変えてしまうと、小学生でも解けるようなものに変化します。黒を男、白を女だと思い、板を置くことは1組の男女のペアを作ることと考えてみるのです。するとどうでしょうか。初めは男女32人ずつあったボードから、男を2人取ってしまったのだから、ペアはできないとすぐにわかります。こうしてしまえば、小学生だって簡単に正解できると思います。

これが教えてくれることは、問題に働きかけて、その文脈を変化させることで、揺らぎをもたらし、固定した見方を克服することができるということです。そしてうまく揺らぎを作り出し、自分の得意な土俵の方向へと問題を導いていくのです。揺らぎの作り出し方はいろいろとありますし、その有効性は問題によっても異なりますが、ここで紹介したのはアナロジー(analogy:類推)によるものです。ここでは黒のマスを男、白のマスを女のように変えてしまうことで、誰でもできる「数合わせ、ペア作り」のようなものへと変形を行なったわけです。

 

思考のストラテジー2:無意識のパワーを利用する

私はひらめきを伴う思考の研究を長年にわたってやってきました。その結果、やはり揺らぎはひらめきにも有効であるとの知見を得ています。扱ったのはある図形パズルですが、これを詳しく解説すると長くなるので省略します。でもここでも揺らいでいる人ほどひらめきに到達しやすいのです。

この研究でわかったとても面白いこと、それは無意識の働きです。ひらめきを伴う問題は一般にとても難しく(当たり前ですよね)、解いている本人も全然わけがわからない状態に至ってしまいます。解いている人にインタビューなどをしても、「何をやってもダメなのでもうわかりません」、「全然できません」などの悲しい発言ばかりが得られます。

しかしそう言っている人の手の動きやピースの配置などを細かく分析すると、時間が進むにつれ、取り組み初めの頃に比べてずいぶんと良くなっていくのです。でも本人はそのことにほとんど気づいていません。「もうダメだ」、「やめたい」みたいなことだけが頭に浮かんでいるようです。

つまりここでは、自分が全然知らないうちに勝手に上達しているのです。自分が知らないのですから、これは無意識の働きとしか言いようがありません。無意識的に問題を解くというと、オカルトかと疑わしく思う人もいるかもしれません。しかし私たちには意識的に思考する部分と、半ば無意識的に思考する2つの回路があることは、多くの研究で明らかになっています。前者はシステム2、後者はシステム1などと呼ばれています。

無意識的な思考などというと大したことないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。動物は自然界の中できわめて賢い行動を見せますが、これらはほとんどがシステム1に基づくものです。システム1は、自分の目標と現場との間の差異をきわめて精密に測定し、それに応じて自分の行動を調節できます。人間は動物とは異なりシステム2も使いますが、システム1を捨ててしまったわけではありません。実はこうした無意識的な思考のシステムが、人が気づかないうちに働き、その結果人を徐々に正解に近づかせているのです。

この理解が教えてくれることは、ダメだと思っても動き続けろ、ということです。意識的には単に同じ失敗が続いていると感じられるかもしれません。しかし人間は機械ではないので、同じことをやっているようでも、毎回少しずつ違ったことを行います。そしてそれは微妙に異なる結果を生み出していき、揺らぎが生じてきます。システム1はこうした揺らぎを知らないうちにちゃんと感知して、うまく行動を改善してくれる機能があります。こうした無意識の働きを利用するというのもだいじなことだと思います。

「これって単に努力し続けろということじゃない」と思う人もいるかもしれません。確かに現象的にはそういう側面があるかもしれません。よく言われる熟達の10年ルール(その道の熟達者になるには10年ほどは最低でもかかる)も同じことを言っていると思います。でもここでのポイントは、それを支える無意識のメカニズムがちゃんと存在するということです。単に勢いだけのハッパをかけているわけではないのです。

後編では、愚かな判断、間違った思考を克服する2つの方法、

・アナロジーなどを通して困難な問題の文脈に揺らぎを生じさせること、
・諦めずにやり続けることで揺らぎを蓄積し、無意識の働きを利用すること、

について論じてきました。皆さんも困難に陥った時にこれを参考にしてみてください。

ここでは個人の中の揺らぎを生み出す方法について述べてきました。でも、揺らぎは個人内だけで生み出されるわけではありません。他者との触れ合い、会話、共同活動なども揺らぎの源泉となります。考え込まずに、動き回り、他者と触れ合いを通して、多様な意見、考え、態度に接することも心がけてください。

最後に偉大な細菌学者であったパスツールの言葉で締めたいと思います。
━━チャンスは準備された心に訪れる。
Chance favors the prepared mind.

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
「考えるプロ」による、アタマの使い方・いちばんたいせつなトコロ
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鈴木宏昭

1958年生まれ。東京大学大学院単位取得退学。博士(教育学)。東京工業大学助手、エジンバラ大学客員研究員を経て、現在青山学院大学教授。認知科学が研究領域であり、特に思考、学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会、人工知能学会、日本心理学会、Cognitive Science Society各会員。 『教養としての認知科学』著(東京大学出版会)

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