製薬業界を知る

2019/03/26

製薬企業が販売する薬は、全てが「包装」されています。みなさんが薬局で受け取った薬を飲むとき、そのパッケージのデザインに込められた工夫に気づく人は少ないかもしれませんが、実はその裏側では「薬の取り間違い」を防ぐなど、現場を支えるさまざまな工夫が行われているのです。「包装を含めて品質」をモットーに、沢井製薬の全製品のパッケージ制作を担う「表示デザイングループ」の3名に、仕事の中身と、仕事に対する思いをお聞きしました。

 

安平哲朗

取材協力:
沢井製薬 信頼性保証本部 製品情報部
表示デザイングループ
安平哲朗さん

楳原芙美

取材協力:
沢井製薬 信頼性保証本部 製品情報部
表示デザイングループ
楳原芙美さん

中山かおり

取材協力:
沢井製薬 信頼性保証本部 製品情報部
表示デザイングループ
中山かおりさん

 
−−まず初めに、表示デザイングループのお仕事の内容を教えていただけますか?

楳原:私たちの部署では、沢井製薬が販売する製品の包装資材の制作を担当しています。作っている資材は、錠剤が入ったPTPシート(※1)、PTPシートをまとめたピロー袋(※2)、注射バッグや点眼液などのラベル、粉薬を入れる分包、それらを入れる個装箱、さらにその個装箱をまとめて入れるダンボールまで、多岐にわたります。資材数は全部で7000点以上あり、それらすべてのデザインとパッケージの完成物を、責任を持って作るのが私たちの仕事です。

(※1)PTPシート:Press Through Packageの略。錠剤やカプセルを指で押して取り出すことからそう呼ばれている。
(※2)ピロー袋:PTPシートを複数枚重ねあわせたものをフィルムで包み、それをシールして、カットしたもの。形が枕(Pillow)に似ていることからそう呼ばれている。

 
−−薬のパッケージならではの、デザイン上の注意やポイントはどんなところなのでしょうか。

楳原:まず薬は患者さんの生命や健康に直結する製品であるだけに、絶対に包装に間違いがあってはいけません。薬機法や業界のルールを遵守した上で、服用する患者さん、提供する医療関係者のお役に立てる工夫をすることが重要になります。包装に記載された1文字の間違いが回収につながるリスクもあり、そうなると、その薬を待っている患者さんに届けることができません。私たちが所属する部門が「信頼性保証本部」という名前である理由もそこにあります。沢井製薬ではジェネリック医薬品に関わるあらゆることを「品質」と考えており、薬剤そのものだけでなく、適切なパッケージを提供することが品質の高さの証明につながると考えています。

安平:PTPシートや箱のデザインを考える場合、例えば食品や一般用医薬品のパッケージデザインとは発想の方向が違う部分があります。食品であればスーパーやコンビニの棚でいかに目をひくことができるかが大切になりますが、医療用医薬品に求められる「視認性」は何よりも医療過誤を防ぐことが重要です。そのため「10mg」「5mg」といった含量表示を薬の名称よりも大きくし、似た名前の薬の取り違いを防ぐために、文字やパッケージの色などではっきり区別することが必要になります。例えばある二つの、似た名前の医薬品は、保管時に正面に来る箱の側面部分の識別性を高めるデザインにしました(写真①)。PTPシートのデザインも「遊び心」の要素は少ないですが、各製品に適した効果的なデザインを考案し、取り違いや患者さんの飲み間違いが起こらないよう意識しています。

 

 
−−ほかに最近手がけた包装資材では、どんなデザイン上の工夫をされたのでしょうか?

中山:先程の2つの薬の場合は、開封してすぐ目にはいる場所に「類似名あり」と大きなフォントで注意を促す文字を入れました(写真②)。アクションと視覚情報を結びつけることで、より強く注意喚起を促すのが目的です。また、箱に「開封済み」であることがひと目でわかるデザインを施し、在庫管理業務を補助できるよう、ピロー袋の残数がいくつかを記載できる管理表をつけました(写真③)
これらのアイデアは、私たちが薬局を訪問して薬剤師の方にいろいろお話をうかがう中で出てきたものです。現場で調剤棚を見せてもらったとき、マジックで箱に残数を記入しているのを見たことがきっかけでした。また、取り出した薬を箱に戻して片付けやすいように、サイドフラップおよびフタの内側にも「製品名」「含量規格」「包装単位」を記載しました。

楳原:そのような気づきは、現場に足を運んだからこそ得られたものです。全国の薬剤師の先生方の調剤の負担を一段階でも減らすことで、お役に立てればと考えております。

安平:そういう現場からの気づきで行った工夫の一つに、「切り離し両面カード」があります。薬の箱に記載されている製造番号・使用期限・バーコードなどの情報をハサミで切り取ることなく、あらかじめ箱に入れたミシン目で切り取れる「切り離しカード」という技術があるのですが、その切り離しカードの裏面にも品名を表示し、棚札としても役立ててもらえるようにしました。

中山:他にも、小包装の箱の品名の向きを、左右の側面で変えた取り組みがあります。スペースに限りがある調剤棚のなかで、箱のどちらの側面を正面にして置いても文字が正しい方向で読めるようにしたことで、視認性の向上を図っています。こうした取り組みのいくつかは、当社独自のデザイン技術として、実用新案登録を受けています。

 
−−そうした包装に関するアイデアは、他にどういうところから得るのでしょうか?

楳原:時にはお菓子や日用品のパッケージをみんなで持ち寄り、分かりやすい表現方法の参考にしています。食べ終えた後にパッケージが簡単に潰せるなど、随所に面白い工夫が施されており、勉強になります。

安平:ジェネリック医薬品は、毎年6月と12月に各社から新製品が発売されます。他の製薬企業も同時に新しい薬を出すので、発売日には他社のホームページを見て、「こんな工夫をしているのか」とチェックします。各社が工夫をこらした意匠を施しており、参考になりますね。

 
−−改めて、みなさんが沢井製薬に入社された経緯を教えていただけますでしょうか?

中山:私は大学の工学部で有機合成の研究をしていました。卒業後は化学メーカーに就職し、薬の原材料になる化合物の開発業務にあたっていました。工学部出身なので、就職活動時は製薬業界で働くことをまったく考えていなかったのですが、医薬品の仕事を通じて人々に貢献したいと思うようになり、転職しました。

安平:私も中途採用で入社しました。大学は芸術工学部で、ビジュアルデザインの勉強をしていました。最初に就職したのは機械メーカーの中にある印刷部門で、そこで食品をはじめとする様々な業種のパッケージデザイン業務を担当していました。そこでは外部の食品メーカーなどから依頼を受け、デザインの制作を行っていましたが、「自社の製品を販売している会社で、自分のスキルを活かしたい」と考えたのが、沢井製薬に入社したいと考えた理由です。

楳原:私は薬学部の出身で、薬剤師の資格をとり、大学院で修士課程を修了後、他の製薬会社に就職しました。そこでは血液や尿などの「体から出たもの」を試料に身体の状態を診断する「体外診断用医薬品」の研究をしていました。興味のあった「体のなかで薬がどういう仕組みで効果を発揮するのか」という学生時代の初心に返り、薬に関わることができる沢井製薬に転職しました。

 
−−それぞれの前歴が、今の仕事に役立っていると感じることはありますか?

中山:前職の業務は、現在の薬のパッケージ制作の仕事に直接的には関係しませんが、一つの薬品が患者さんの手元に届くまでに、どれほどの研究者・関係者が関わっているか想像がつくことは大きいですね。その人たちの努力の結晶を、最終的に自分たちが商品としてパッケージングしているという意識を持って、常に働いています。

安平:私は異業種からの転職だったので、入社当初は社内で交わされている会話にまったくついていけませんでした。製品名や原材料の名前がわからないので、会議などは、まるで外国語の会話を聞いているような感じでした(笑)。しかし、職種では現在の仕事と共通する部分があり、前職で様々な業種のデザインを作成してきた経験や印刷の知識が、現在のデザイン提案に活かせていると思います。

楳原:成分名を見れば、その薬が大体どのような働きを持っているか推測することができますので、薬学部時代の勉強が、包装資材の制作に役立つと感じることはありますね。ただ私は薬局・病院での実務経験が、学生時代の研修やアルバイトしかありませんので、もっと現場のことを知る必要があると感じています。

 
−−製薬業界を目指す学生の方々に向けて、何かアドバイスがあればお願いいたします。

中山:私は学生時代に学んだ有機化学と、今の仕事は直接には関係ありませんが、研究生活の中で培った勉強法など多くのことは、すごく役に立っていると感じています。なかでも研究のプレゼンテーションスキルは、今の社内業務における資料作りや、人前でわかりやすく話すことにつながっており、どんなスキルも無駄にはならないことを感じています。製薬業界の仕事で求められる知識やスキルは非常に広いので、「自分の専門分野とは違うな」とは思わず、関心がある方にはぜひ門を叩いてほしいと願っています。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

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SCIENCE SHIFT編集部

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