入社2年目が語る、医薬品特許に関わる仕事の広さ・深さ・面白さ 「まだまだ、もっと成長しないと」

今や就職活動をする学生さんにとっては、志望する業界や会社について、さまざまな情報が簡単(すぎるほど)に集まる時代。しかし、「入社後に、自分が成長していく姿」を具体的にイメージできるかというと……なかなか難しいもの。
そこで今回は、ジェネリック医薬品メーカーで働く3名の研究職の方に、入社からこれまで一体どのような経験をされてきたのか、その「成長度」をグラフに描いてもらいました。
グラフに図示しきれない“思い“も含めて、SCIENCE SHIFT編集部が根掘り葉掘り、聞いてきました。
今回は、2016年4月に沢井製薬に研究職として入社、「知的財産部」で特許調査に関わる川西智人さんにお話を伺います。

取材協力:

沢井製薬株式会社

川西 智人(かわにし・ともひと)さん

2016年、新卒で沢井製薬へ入社。大学では薬学部で、出芽酵母をモデル生物として用いてDNA複製に関する研究を行なっていた。食品メーカーも視野に入れ就職活動を行なっていたが、最終的に製薬業界への就職を決意。知的財産部に配属になり、入社2年目の現在、先輩の後ろ姿を追いかけながら日々働いている。

成長グラフ

 

想像もできなかった「知的財産」の仕事についた

━━2016年4月入社ということは現在2年目ですね。今のお仕事について教えていただけますか?

私が所属する知的財産部は、大きく分けると、①特許調査、②その調査結果に基づく開発戦略のプランニング、③特許出願という3つの業務を行っています。

川西智人さん

━━「特許」という、製薬会社における非常に重要な部分に関わるお仕事ですよね。

はい。製品を出す指標を調査・提案する重要な仕事です。先発の特許が切れてはじめて上市できるのがジェネリック医薬品なので、特許業務は主戦力ともいえる責任の重い仕事だと思います。

━━薬学部のご出身ですが、そのような仕事に就くことは想定していましたか?

いいえまったくです。そもそも“知的財産”なんて縁もゆかりもない世界のことだと思っていたので、配属を聞いた時はびっくりしました。ただ、薬事や申請業務に携わりたいということは面接時に話していました。研究より、モノが出来上がる最後の一手を詰めるような仕事がしたかったんです。

━━薬学部の学生さんとしては珍しいですね。そもそも製薬会社で働こうと思ったのは?

はじめはなんとなくだったような気がします。父が薬剤師で薬局が身近だったこともあって、その時はまだふわっとした気持ちで、将来は製薬企業か薬剤師にと、薬学部に入りました。就職活動の時期になり、製薬会社か薬剤師か、酵母を使って研究していたので、菌を使う食品会社か…などと悩みました。
最終的には、面接で一番しっくりきた沢井製薬を選びました。面接官の方が、企業理念を実際のエピソードとともに教えてくださって、それがすごくリアルで。この会社は本当に理念通りに薬を作っているんだとわかり、自分もそこで働きたいと思ったんです。

━━なるほど。なんだか美しすぎる話ですね (笑) 。

確かに(笑)。ですが、苦しんでいる患者さんを救いたい、人の役に立ちたいという思いは本当にベースとしてあります。沢井製薬は扱う薬の品目数がとても多いので、どの領域で悩んでいる患者さんにも薬を届けられると聞き、「ここなら人の役に立てる」と思いました。

━━では、入社してからのお話をお聞きできますか?

まず研修が一カ月弱ほどありまして、そこでMRさんに同行したり、工場で実際に薬を作るところを見たりと、期間が短い割には充実した研修でしたね。

━━実際の現場はどうでしたか?

工場はほぼイメージ通りでしたが、予想外だったのはMRさんに同行した時です。営業らしくどんどん薬を紹介すると思いきや、私が同行した方はほとんど薬の話はしなかったんです。後から聞くと、最初から売り込んでも話も聞いてもらえない。まず関係を作って、相手が求めているものを知らないと、紹介できるものもできなくなる、と。そういう仕事の仕方は意外でした。

━━そうして研修を終えて、いよいよ知的財産部に。配属を聞いた時はどうでしたか?

正直うれしかったですね。「自分がこれまで知らなかった分野の仕事ができるんだ。やってやるぞ!」と。とはいえ、知的財産なんて想像すらできなかったので調べてみると、自分が求めていた仕事はまさにこれだったのではないか、と思えました。

 

初めて触れる、広く、深く、面白みのある「特許調査」の仕事

━━難しい仕事だと思いますが、実際にはどのようなことをするのですか?

最初に携わった仕事は、開発候補品目の特許調査です。ある先発品の特許が○○年に切れるため、最短で何年で上市できるのか調べるという調査でした。日本の特許庁のデータベースにキーワードを入れると情報はすぐに出るのですが、それだけだとモレが生じる可能性があるので、他のデータベースも使って何重にも調べました。アメリカは先発品に対してどの特許が係っているのか登録する制度があるので、FDA(アメリカ食品医薬品局。アメリカ合衆国保健福祉省配下の政府機関)のホームページで調べたり、外国の特許庁や専門の会社のデータベースを使って特許調査をすることもあります。入社した年の9月ぐらいまでは、調査しては報告書を書いて、の繰り返しでした。

━━(成長グラフを見ると、)その期間で「特許業務の面白さや奥深さに気付いた」ということですね?

はい。特許調査というと、ただ特許公報をよんで先発品に関わっているかどうか判断するだけと思いきや、その公報一つをとっても奥深いんです。例えば、特許の出願情報が書かれた特許公報は、最初の「特許の範囲」(請求項)という欄に、その発明の権利範囲が書かれています。初めの頃はそこを読めばいいと思っていたのですが、何回も調査していくうちに、その範囲はどこまでなのか、権利範囲の解釈に疑問が生まれました。
それを判断するには、後に何十ページも続く詳細や、その発明の審査経過や外国での出願の状況なども見た上で、判断する必要があったのです。書いてあることを読むだけではなく、周辺情報を調査して判断しないとわからないんですよ。

また、医薬品に関する特許においては、絶対回避できない基準となる特許があって、それが切れないと後発品は上市できません。なのでまずそれを調べ、何年に上市できるかというプランを立てるのですが、調査を重ねていく中で、原薬の製法特許、結晶形や製剤方法に関する特許など、開発の障害となる特許があとから見つかる場合もあります。その都度それらをどうやったら回避できるか検討して、基準の特許が切れた時に一番手で上市するというのは、なかなか難しいことなんです。ただ、難しい分、答えにたどり着けたときは達成感があります。

━━そこがこの仕事のキモになりそうですね。

はい。該当する特許公報をただ読むだけではなく、機械や化学についての知識、一般的な技術常識も頭に入れておく必要があります。ですから毎回特許調査をしていくたび、自分の知識が増えていきます。それもこの仕事の魅力ですね。

 

先発品の特許無効化を狙う、『特許戦略プロジェクト』に参画

川西智人さん

━━そして次に、『特許戦略プロジェクト』に参画されるんですね。

はい。これは簡単にいうと、有効性に疑義がある特許を無効化するという仕事です。特許が無効化されれば、開発・上市期間が前倒しにもできる場合もあり、開発の律速を決める大事な仕事です。

━━さらに難しそうですね。

そうですね。「この特許には新規性や発明としての基準が備わっていない」といった無効理由を特許庁に提出するために、手順が増えます。特許調査では、調査して報告書を書いて終了だったのが、調査してから関連文献を調べ、特許法に基づいて無効理由を考える必要があります。これが難しいのです。

例えば、物質Aに関する特許について考えたとき、特許の出願日よりも前に同じ物質Aが関連文献に記載してあれば話は簡単なのですが、似ている物質だとそうはいかない。物質Aと物質A’があって、物質A‘に関する文献を読めば、だれでも物質Aを思いつくことができるということを、明快なロジックで組み立て、さらにそれを特許法という法律にのっとった形で表すなんて、初めての経験です。自分の頭でわかるだけではダメで、誰にでもわかるロジックを組むのも難しいし、法律ならではの書き方も難しい。アウトプットの難しさを実感しました。

━━それを全て一人でするのですか?

いえ、上司と弁護士さんと一緒にです。まず自分なりに無効理由を考えて、それを上司とすり合わせます。それを弁護士さんに伝えると、もっとこんな調査をした方が良い、道筋を変えた方が良い、などといったアドバイスをくださるので、それに沿ってロジックを組み立て、無効審判を起こしてもらうという流れです。

━━その後、さらに特許出願を担当されるように。

自社技術の保護と他社へのけん制という2つの目的で特許を出願するのですが、この仕事になって関わる人数がさらに増えました。特許出願は、発明者と弁理士の先生とのコミュニケーションも必要になってきますし、他部署の人とやりとりすることが多くなりました。

発明者が発明を行なっても、そのまま特許出願できない場合が多くあります。もっと実験データが必要だったり、そもそもその発明が特許の文章で表せなかったりといった場合です。そうした時には発明者からその発明の良さを吸い上げて、その良さを構成しているものは何か、どういう文章にするのか、発明者とディスカッションして作り上げていく。難しいけれど、楽しい仕事です。

特許について、やはり経験は必要で、10年目の先輩には知識量も論理の組み立て方なども1歩も2歩も及びません。ただ毎日の業務で知識はどんどん増えるし、どんな業務も貴重な経験になっていると感じます。

 

医薬品特許の仕事にある、つらさは

━━そこも知的財産業務としての面白みなのですね。他にも、「開発戦略の柱である」ことも挙げられていますが、入社当時からそこは意識していましたか?

はい。報告書の最後に、「この品目は何年の何月に上市できる」という結論を書くのですが、もし間違っていたらどうする?!という、ある意味恐怖や責任は感じていますね。

━━その他にも、「開発初期から上市まで携われる」のも面白みだと。

はい。例えば、2016年に調査して、特許が切れるのが2030年。2030年に上市できますと報告しても、所々で問題になる特許が見つかったり、場合によっては無効審判を検討することもあります。特許調査から上市まで15年ほどかかることもあるのですが、その間にも要所ごとに仕事があります。一つの医薬品について、最初だけでなく研究開発期間全体を見ることができるのも魅力ですね。

━━ゴールまでの期間がとても長い仕事ですが、しんどくはないですか?

確かにどんどん成果を出していきたい人からすれば、10~15年後に上市する品目に関する仕事をするのはつらいかもしれませんね。そこは、僕はあまりつらいとは感じませんでした。

━━正直なところ、調査など続ける中で行き詰まることはないのですか?

もちろん、あります。学生時代は生物系の研究室にいたので、有機系の案件をいくら調べてもさっぱり分からない、なんていう時や、いくら文章や知識をインプットしても答えが出ないときは苦しいです。他にも、例えば寝不足の日など、朝から難しい特許の文章を読むのがつらいときもあります(笑)。

━━実際の仕事の進め方は、先輩などに教えてもらうのですか?

1年目はメンターの方に、特許調査の仕方や報告書のまとめ方を教わりました。ただ、手の動かし方は教えてもらう一方、特許の範囲の解釈などは自分で考えてから質問をしないと始まらないので、野に放たれた羊のような気分でした(笑)。「○○の特許調査をしてほしい」といった依頼がある場合、このデータベースを使って調査して、最後に報告書をまとめて、とだけ教えられるので、自分で考える機会はとても多かったです。そのおかげで成長できたのかもしれません。

━━細かな指示を与えられないことで、仕事がやりづらいと感じることはありましたか?

不安なこともありましたが、1から10まで決められるのがあまり好きではないので、逆にやりやすかったですね。ある程度道筋は教えてもらって、自分で課題解決するのはよい経験でした。

 

研究の考えに変化 「疑問に思わなかったことも疑問にする」

━━入社してから、考え方や行動など、何か変わりましたか?
川西智人さん

変わったと思います。大学生の時は、時間がかかりそう、結果が出なさそうだと思うとすぐ別の実験に移ってしまいがちだったのですが、今はそこをなんとかしようと思えます。特許があるなら回避する、無効化する、それが知財部の醍醐味です。関連する論文はいくつもあるし、外国の状況を見るだけでも時間がかかって、調べだしたら本当にきりがないのですが、それをしないと仕事にならない。疑問に思わなかったことももう一度疑ってみること、素通りした箇所を違う視点で見直すことを癖づけて、粘り強く時間をかけるようになりました。

━━特許や法と闘う…なんだかカッコいいお仕事ですよね。自分がかっこよく思えたりすることも(笑)?

無効理由を考えてる時なんかは(笑)。特許の穴を考えるって、誰にでもできることではないと思うんです。サイエンスの知識は必要ですが、それだけを極めてもダメで、法律にも詳しくないと務まりません。僕自身もまだまだです。

━━成長の度合いは?

まだまだ、もっと成長しないと。優秀な先輩ばかりなので負けてられないですね。まだ無効審判をゴールに導いたことがないので、他部署と連携して一番手で上市できるよう貢献したいです。今は勉強段階ですが地道に知識を蓄えて、いざ海外プロジェクトにも参画できるとなったら、大いに力を発揮したいところです。

━━最後に、入社2年目の先輩として就活生にアドバイスを。

自分の枠にはまらないで、と言いたいですね。例えば、大学で食品に関する研究をしているから食品メーカーに、とか、薬学部だから製薬会社へというのは安易すぎるかもしれません。それもいいのですが、覚悟はできているのか、と言いたい。入社してから20年以上も携わることになるのに、たかが数年の大学での研究内容で、進む道を決めていいのか。もっと自問自答するべきだと思います。周囲や自分の固定概念にとらわれず、本当にやりたい仕事は何なのか考えながら就活してほしいですね。

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