未来を考える

2019/03/14

インターネット上には就活に関する情報が溢れています。
自己分析の方法、インターンシップを勧める先輩の声、マナーや立ち振る舞いに関するマニュアル的な情報。しかし、いざ就活が始まってみると、働くことそのものについて考える機会は減っていきます。
そこで、今回はポーランドで生まれ育ち、ドイツやアメリカで暮らした経験があり、来日19年。モルガン・スタンレー、Googleなどのグローバル企業で人材育成やリーダーシップ開発に携わり、『ニューエリート』や『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』、『世界最高のチーム』などの著作があるピョートル・フェリクス・グジバチさんに「これから就職活動に向かう学生にとって本当に大切なこと」を聞きました。

 

ピョートル・フェリクス・グジバチ

取材協力:
プロノイア・グループ株式会社
代表取締役
ピョートル・フェリクス・グジバチ(Piotr Feliks Grzywacz)

ポーランド生まれ。ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日。
2002年よりベルリッツにてグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者を経て、2006年よりモルガン・スタンレーにてラーニング&ディベロップメントヴァイスプレジデント、2011年よりGoogleにて、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。
現在は独立し、2社を経営。プロノイア社では、国内外のさまざまな企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティングを行う。2社目のモティファイは新しい働き方といい会社づくりを支援するHRテクノロジー。多国籍なメンバーやパートナーとともに、グローバルでサービスを展開している。

 

グローバルな視点から、日本の「就活」はどう見える?

−−ピョートルさんは2000年に来日以来、19年。グローバル企業での人材育成部門での経験も豊富なだけでなく、禅や合気道にも詳しく、すっかり日本に馴染まれています。そんなピョートルさんは、日本の就活の仕組みについてどういう印象を持っていますか?

初めて日本にきた時から、ずっと変わっていません。
日本の就活は奇妙ですよね。

−−奇妙、ですか。

例えば、Google時代、採用マーケティングのプロジェクトに関わりました。そのとき、学生たちが就職活動に向けてどういうふうに会社の情報を検索しているかを調査したんです。
すると、「○○社 過労死」「○○社 パワハラ」と多くの学生が就職を考えている会社の名前とネガティブなキーワードで検索していることがわかりました。そこからもわかるのは、本当にここで働きたいという視点で絞り込んでいるの人ばかりではないということです。
日本の就活の常識では、十数社、ときには数十社受けることもめずらしくなく、また業界も銀行から広告代理店、メーカーまで幅広く回ります。志望先に統一感がなく、自分がどうしたいのか定まっていないのかな、と。
私の感覚からすると、「あなたは何をやりたいんですか?」と思ってしまいます。

−−ピョートルさんご自身は、どのようにキャリアを築いてきたんですか?

それを説明するためには、少し長くなりますが、生まれ育った環境の話をしますね。

私はポーランドのグルドノという山村で生まれ育ちました。学生さんたちは学校の授業で聞いたことがあると思いますが、当時は米ソ冷戦の真っ只中。ポーランドは共産主義国家でした。
それが14歳の頃、体制が変わり、民主主義国家になりました。急激に資本主義化が進み、公営だった地域の会社には外国の資本が入り、効率化の名のもとに人員削減や事業撤退が続き、私のふたりの兄も職を失いました。失業率は上がり、インフレもひどく、国全体が不況に陥ったのです。
当時、ポーランドの一般家庭では中学卒業後、職業学校に行って働くのが一般的でしたが、私は勉強が好きだったので、高校に進学。世界の国や暮らしへの興味から語学に夢中になり、同級生より何倍も勉強しました。
ところが、不況のあおりを受けて父も仕事を失ったため、学校に通い続けることが難しくなり、高校を中退。その頃、ポーランドへの救済処置として1年間のうち3ヶ月だけドイツで出稼ぎができる制度が始まり、私も建設会社で働き、学費を稼ぎ出しました。
その後、ポーランドに戻って高校に入り直し、卒業した後は大学に進みました。

−−大学では何を学んだんですか?

大学での専攻は語学でしたが、他にも心理学やジャーナリズムやコミュニケーション、マーケティングやビジネスなど、興味のあることをひたすら勉強していきました。先生と交渉して授業に出ない形での研究も許してもらい、最大で3つの大学・大学院に並行で通っていた時期もあります。

また、長期休みはドイツや他の国で通訳や翻訳の仕事をして学費を稼いでいました。
その延長線上で言語学の学位を取り、研究員として千葉大学に。そこからグローバル企業に入り、何度か転職した後、今に至っています。

 

働くというのは、どういうことなのだろう?

−−ピョートルさんが進路を決めるとき、大事にしていたことは?

今、お話したような学生時代だったので、そもそも就活をしようと思ったことがありません。勉強して、好きなことを自分の仕事にしようと考えていただけです。そして、好きなことの根底には人への好奇心がありました。
専攻していた言語学はもちろん、興味を持って学んだマーケティング、広報、マネジメント、コンサルティング、ジャーナリズム、心理学、社会学、哲学のいずれも人への好奇心でつながっています。  

どうして私たちはこういう行動を取るのだろう?
私たちにとって働くというのは、どういうことなのだろう?

こうした疑問を追いかけてきたことで、今があるように思います。
例えば、私はあまりテクノロジーに興味を持っていませんでしたが、どんな技術開発も人と人とのつながりの延長にあるのだとわかってから注目して勉強し始めました。
SNSも当初は大嫌いでしたけど、ツイートにしてもメッセージにしても、それが会話だとわかってからは興味を持ち、生活に取り入れました。他にもAIは人と人とのコミュニケーションの助けになるとわかれば、学びたい意欲が湧いてきます。

そんな私の経歴からすると、やっぱり日本の就活は奇妙なものに見えます。
それは「働くというのは、どういうことなんだろう?」という疑問を掘り下げていない気がするからです。

−−どうしてここで働くのか? というビジョンを持てていないということですか?

そうですね。
私たちの能力というのは、疑問に思ったことを自分に対して説明できるよう学び、納得、説得させたときに伸びていきます。そういう意味では、数多くの会社を受け、どこかに決まれば……という就活の仕方はもったいない。もっと意図的に自分の興味のあるものを掘り下げて、仮説を立ててチャレンジしていくべきだと思います。

それは何も特殊な興味である必要はなくて、「人と話すのが楽しい」のであれば、それにつながる仕事を探してみて、経験してみることです。営業職、サービス業、語学学校の先生など、人と楽しく会話する能力が求められる仕事は世界中にたくさんあります。
どこどこの会社に入りたいという視点ではなく、自分の興味、やりたいことから職業を選ぶようなアプローチが必要です。

−−ピョートルさんの身近にそういった働き方を実現している若者はいますか?

たくさんいますよ。
例えば、大学を中退してとあるスタートアップで働いている女性がいます。彼女は24歳。大学卒でエンジニアだったお兄さんが立ち上げたスタートアップで、60人のチームを率いながら広報と人事の責任者をしています。
彼女が元からすごいエリートだったのかと言えば、そんなことはありません。
お母さんは看護師、お父さんはトラック運転手。岡山県の出身で、東京の大学に入ったものの、やりたいことがみつからない。このままだと両親が払ってくれている学費が無駄になると気づいて、6ヶ月で退学。その後、お兄さんのスタートアップを手伝う中で、人とのつながりを作っていく仕事に自分の適性を見出したのです。

彼女のように極端な動きをするというのも、自分の働き方を見つけるための1つの方法だと思います。環境が大きく変わったとき、人は自分のことを深く考えるからです。
もちろん、誰もができる方法ではありません。ですが、今この瞬間にでも、こんな疑問を自分にぶつけることはできますよね?

この記事を読んでいるあなたが、大学、大学院にいるとしたら、「なんのために行っているんですか?」と。ただ、卒業の資格が欲しいだけなら、私は大切な人生の時間を無駄にしていると思います。逆に、将来に向けて身に付けたい技術、学びたい知識があるのなら、それは正しい試みの最中にいるということです。

 

就活生に向けた3つのアドバイス

−−就職活動中の学生、これから就活の準備に入るという学生に向けてアドバイスをいただけますか?

私からできるアドバイスは、3つあります。
1つ目は、あなたが社会に出て何をやりたいのかを掘り下げることです。もっと言うなら、仕事を通して世界にもたらしたいミッションを考えてみてください。

私は講演などでよく「仕事は他者に何らかの価値を提供するもの。自分なりのミッションを持たなければならない」と話しています。
そして、私自身のミッションは「誰もが自己実現できる世界を作ること」です。
私は自己実現できる人こそが次世代のエリート「ニューエリート」だと考えています。肩書きや偏差値ではなく、自分の得意なことで社会に役に立つ。そんな人を日本で増やすことが、今の私のミッションであり、社会に一番影響を与えられることではないかと考えています。
例えば、人事コンサルティングの仕事をするときも、「働く個人の自己実現を後押しする」という意識で動いています。それは個人が活躍できる環境を整えれば、結果としてクライアント企業の生産性も高まるからです。

このようにあなたも自分のミッションについて考えてみてください。それが少しでも見えてくれば、自分の仕事、人生の軸となってやるべきことがはっきりしてくるはずです。
そして、軸が定まってくると今度は、がんばらなくていいことも決まってきます。自分のミッションがわかっている人は、何を大切にすべきか、何を捨てるべきかの価値観も備わるからです。

例えば、仕事時間を区切るような「働き方改革」は、ミッションを持った人にとってはでたらめな改革です。仮にあなたが「このサービスで世界を良くしたい」というミッションを持って、SMB(中小企業向けの営業)として働いていたとしましょう。
しかし、ある日会社が「これからは働き方改革で、9時から18時までしか働いてはいけません」と決定しまう。これは馬鹿げた話で、SMBがじっくりと商談を始められる時間は中小企業のビジネスアワーが終わった後です。9時から18時の間に営業したとしても、顧客は忙しく話を聞く余裕がありません。
つまり、18時までは何をしていてもかまわない。その代わり、19時からの3時間でアウトプットを出すと決め、短時間の努力でミッションを達成していくこと。こういうシンプルなやり方を実行するのが、成功していく人の共通点です。

2つ目のアドバイスは、企業の大きさで優劣を測らないことです。一昔前の社会では、偏差値の高い大学を卒業して、大きな組織に入り、出世することがエリートの条件だったと思います。しかし、その価値観は崩れています。
ミッションを持った状態で大企業に入った若者の多くは、苦労します。なぜ、課長の投げかける無意味な仕事をやらなくちゃいけないのか? そんな疑問に耐えながら働くのは苦痛です。
あるいは、パワハラをするクラッシャー的な上司に遭遇するかもしれません。そんなときは鬼のように戦うことをオススメします。日本の失業率は2.7%。この数字は世界中で一番低く、採用ビジネスはたけのこのように増えています。
転職は気軽にできますから、もし、大きな企業に入って壁にぶつかったら自分の成長を重視して次のステップを踏むべきです。
また、就活の時点でスタートアップや中小企業を選択肢に入れましょう。小さな組織では自分の働きが収益に直結しますから、働きながら経営を学ぶことができます。
営業、商品作り、サービスの提供の仕方を学び、新しい企画に対していかに人を巻き込んでいくか。この2つを身に付ければ、MBAを取る必要はありません。

3つ目のアドバイスは、学生時代から大人たちと付き合うことです。
私も1年の間にたくさんのイベントに登壇していますが、今はネットで検索するだけで無数の勉強会、講演会がヒットします。こうした社会人向けのイベントに積極的に参加しましょう。
若いこと、学生であることは、それだけでアドバンテージになります。実際、私の会社が主催するイベントに高校生が来てくれたとき、社会人側は「高校生が!」とざわざわしました。
大人たちは学生に教えたいこと、伝えたいことがあります。そして、イベントなどを通して自己実現している大人たちとコミュニケーションを取ることが、あなたのミッションを考える上で大きな刺激になるはずです。

 

プロノイア・グループのミーティング風景
今回の取材では、プロノイア・グループのミーティング風景を見せていただきました。その雰囲気をひとことで言えば、「自由闊達」。明るいシェアオフィスの一角で、だれもがオープンに、自分のやりたいことと社会を繋げるアイデアについて発信・議論していたのが印象的でした。その原動力になっているのは、1つ目のアドバイスにある「やりたいことを掘り下げる」という作業を貫いた結果、と記者には思えました。何かを実現していくのは、けっして簡単な作業ではないはず。それでもこうして前に進んでいけるのは、自分のやりたいことだからこそ、なのかもしれません。
※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
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SCIENCE SHIFT編集部

当メディアの編集部員です。学生の皆さんに今お届けすべき話題は何か?を日々考え、より良い情報を発信していきたいと思います。

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