仕事を知る

2018/07/23

ニュースなどでよく取り上げられる「知的財産権(知財)」。ビジネスシーンでは非常に重要なツールであり、特にモノづくり企業で働くならば、知財に関する正しい知識は必要不可欠です。そこで、知的財産権をわかりやすく伝える知財の第一人者、稲穂健市先生に、知的財産権の基礎からその活用方法までを教えていただきました。

知的財産権とは

皆さんは「知的財産権」という言葉を耳にしたことはありますか?

知的財産権とは、知的な創造活動によって生み出された経済的な価値のある「情報」を、それを創作した人の財産として保護するための権利です。

具体的には、発明に関する「特許権」、商品・サービスに付ける営業標識に関する「商標権」、小説・絵画・音楽・プログラムなどの著作物に関する「著作権」などがあります。知的財産権というのは、これらの権利の総称です。

研究開発や生産の現場では、知的財産権に触れる機会が数多くあります。

 

研究開発や生産の現場でアイデアを思いついたら

さて、今までなかった新しいアイデアや、既存の技術の問題点を解決するアイデアを思いついたら、どうすべきでしょうか?

それは「発明」ですので、「特許権」による保護を検討すべきです。

特許と聞くと、「iPS細胞」や「青色LED」のようなノーベル賞級の発明のことを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、それだけではなく、ビジネスの方法をコンピュータやインターネットを使って実現したシステムでさえも特許になっています。ちょっとしたアイデアでも十分特許になり得るのです。

また、製品のデザインについては「意匠権」、製品やサービスの名前については「商標権」、図面やプログラムのソースコードについては「著作権」で保護することが可能です。

知的財産権を得ると、それを使うことができるのは権利者だけとなり、第三者が使うと原則として知的財産権の侵害となってしまいます。そのため、権利者は侵害者に対して、その行為の差し止めや損害賠償を求めることなどができるのです。

逆に言えば、知的財産権を持っていないと、他人の模倣行為を防ぐことが難しくなります。知的財産権はビジネスを進める上で極めて重要なツールであるということです。自分のアイデアを知的財産権で守ることの重要性がおわかりいただけたでしょうか?

なお、著作権は創作と同時に権利が発生しますが、特許権・意匠権・商標権は、特許庁に出願し、登録の要件を満たしているかを審査してもらって登録することで権利が発生します。また、それぞれの権利の存続期間が異なる点にも注意しましょう。

 

得られた知的財産権をどのように活用すればよいか

また、知的財産権は自分のアイデアを守るだけのものではありません。

たとえば、特許権を例にとって説明しましょう。まず、自分でその特許権を使わない場合でも、他人に「ライセンス(許可)」して使ってもらうことで、「ライセンス料」を得て収益化することができます。

既存の事業を拡大したり、新しい事業に参入したりする場合に、他人の特許権が参入障壁になることが良くありますが、こういったときに、自分の側でも特許権を持っていると、「クロスライセンス」といって、お互いの権利をライセンスし合うことができるようになります。本来であれば門前払いを受けて参入することができないはずの事業領域にも入り込んでいくことができるのです。特許権を武器にする方法もあるということです。

さらに、優れた技術やデザインなどと一体化したブランド戦略についても積極的に考えるべきです。信頼のブランドが付いていれば、我々消費者も安心してその商品を買ったりサービスを受けたりすることができます。技術をブランド面から支えてくれる商標を大切に育てていくことも重要です。

 

組織の知財戦略に個人としてどう関わるか

個人レベルでは、自分の関わっている製品や、自分が生み出した知的財産のことに興味が向かってしまいがちですが、組織レベルで考えてみることもお勧めします。

企業などで事業を行う場合、複数の知的財産権を組み合わせることがよく行われています。

たとえば特許権の場合、ある特許を成立させた後で、その技術を改良した改良特許を取ることができます。

また、医薬品であれば、有効成分の特許に加えて、その製法についての特許や、新しい用途についての特許はもちろん、製剤化する際に添加する物質に特徴があるときは、その配合内容も特許にすることが可能です。こういった関連特許のことを周辺特許といい、有効成分などの「コア技術」を周辺特許で固めることで、強力な「特許ポートフォリオ」を作ることもできるのです。

後発医薬品についても、先発医薬品の有効成分である物質特許以外の周辺部分を特許として押さえることで、先発医薬品や他の後発医薬品との差別化を図ることができます。このように知的財産権を複合的に活用していくことは、極めて重要なことです。

また、意外かもしれませんが、特許権を意図的に無償で開放する戦略もあります。

これは、自らの事業領域に他社を誘い入れることで、市場を拡大することを目指したものです。「他社に真似され放題になる」と思われる方もいるかもしれませんが、そのようなことはありません。

たとえば、一部の特許を開放しながらも、「コア技術」は独占して一切ライセンスをしない方針を取れば、市場を広げながら自社の利益を守ることも可能です。

また、特許を出願すると、1年6カ月経過後に、その内容が「公開公報」として特許庁から公開されてしまうため、生産技術や生産設備については、あえて特許権を取得せず、その内容を「ノウハウ」として秘匿することもよく行われています。市場拡大に役立つ部分は他社に開放し、重要な部分は「ノウハウ」として秘匿することでも自社の利益は守られます。

このように開放する部分と開放しない部分とを分ける戦略を「オープンクローズ戦略」と呼ぶこともあります。

 

学生の皆さんに伝えたいこと

このように、社会に出て新規のものが次々と生み出されていく現場では、知的財産権は避けて通ることができません。

それにもかかわらず、大学の授業などでは、知的財産権について取り上げられることは、それほど多くはありません。ですが、知的財産権に関係するニュースは数多く流れていますし、学生の皆さんが触れる機会も少なくないと思います。

インターネットや書籍などを通じて、詳しい内容を自分なりに調べてみたり、特許庁、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)、日本弁理士会などが主催するセミナーに参加してみたりすることは、将来の役に立つだけではなく、社会に出る前から他の方々を一歩リードすることにもつながると思います。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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稲穂 健市

東北大学特任准教授、弁理士、米国公認会計士、科学技術ジャーナリスト(筆名:稲森謙太郎)。2017年2月発行の著書『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)は、難しい知財についてわかりやすく紹介する、今までにはなかった1冊として大きな話題を呼ぶ。 横浜国立大学大学院工学研究科博士前期課程修了。大手電気機器メーカーにおいてソフトウェア開発関連の権利化業務、新規事業領域における企画推進・産学連携などに従事。約7年間は米国カリフォルニア州の研究開発拠点の運営に関わった。著作・講演・メディア出演などを通じて、知的財産権啓蒙活動をライフワークとしている。最新刊は2018年8月10日発売の『こうして知財は炎上する-ビジネスに役立つ13の基礎知識』(NHK出版新書)。

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