医療業界・医療機器業界、徹底研究

医療業界。普段、風邪をひいたり怪我をするたびに活用し、身近な存在であるはずなのに、意外に私たちはこの業界の構造についてよく知らないままに過ごしているのではないでしょうか。

一口に医療業界と言っても、そこには様々なプレイヤーが存在します。まず真っ先に思い浮かぶのは「病院」です。その中でも職種としては「医師」「看護師」「工学技士」「検査技師」「放射線技師」「薬剤師」といった医療行為に携わる職種から、「医療事務」「給食」など裏方的な仕事まで、多岐にわたります。次いで病院を取り巻く業界として「製薬会社」。さらには製薬会社からの委託を受け治験業務を代行する「CRO」や「SMO」、医薬品販売業務受託機関である「CSO」も存在します。そして「医療機器メーカー」も重要な役割を担っています。製薬会社や医療機器メーカーといった企業の中にも、開発、営業、サービスエンジニアなど様々な部署が存在し、その職種は広範囲にわたります。また高齢化社会の進行とともに増加する「介護施設」「福祉施設」も医療業界のひとつと考えられます。介護福祉関連では「ケアマネージャー」「ホームヘルパー」「介護福祉士」「社会福祉士」「相談員」といった職種があるように、これらすべてを加えると、医療業界には膨大な業界、職種が関与しています。10年後に超高齢化を迎える日本の社会。その問題の解決には関連する業界、職種の人々が一致団結する必要があると言われているように、いま医療業界にはどのような課題があり、そして我々はどう対応していくべきなのか、そのあたりを紐解いていきましょう。

 

医療業界の市場規模と将来性

一般に医療業界は「安定」した市場であると考えられています。先にも述べた通り、高齢化社会が進行し高齢者がますます増加していく中、医療および介護関連にかかる費用はますます増加しており、そういう意味では成長し続けている市場であるといえます。さらに景気の変動を受けにくいのも魅力だと言えます。また日本だけでなく多くの先進国でも高齢化が進んでおり、世界規模で見ても大きな可能性を秘めていると考えられる業界です。

では、業界としてどれほどの市場規模を持っているのでしょうか。安部内閣の成長戦略である「日本再興戦略」の2016年改訂では、国内ヘルスケア市場規模は、2013年で16兆円とされています。それが2030年には37兆円にまで拡大するとされています。日本の産業の中でも成長著しい市場と捉えられています。

もう少し詳しいデータを見てみましょう。各業界の市場動向やランキングなどを掲載しているサイト「業界動向サーチ」に、医療機器業界の市場規模と動向が掲載されています。

医療機器業界の過去11年間の業界規模の推移

 

それによると市場は2015年度で2兆6,634億円程度。これは同サイト掲載の123業界の中では70位と、そう大きいわけではありませんが、伸び率は前年比+11.9%という高い水準を示しており、ランキングでは9位となっています。上記の過去11年間のおおまかな推移を表したグラフでもわかる通り、堅調な増加傾向にあります。

一方、製薬業界は2015年度で市場規模10兆7,684億円、伸び率は前年比+4.9%と、医療機器に比べやや劣るものの着実に成長しています。それよりも注目は収益性で、全123業界中8位となっており、安定した市場であることが伺われます。

 

医療業界の現状と課題

このように安定して成長を続け未来も明るそうな医療業界ですが、問題点、課題はないのでしょうか。実は医療業界そのものではなく、業界の根底にある「医療制度」が今後、大きな問題に直面しています。ご存じの通り、医療や介護にかかる費用は年々、増加の一途です。1973年に導入された老人医療費公費負担制度以来、1983年の老人保健制度、2000年の介護保険制度の導入など何度かの改革を経た結果、国民医療費の総額は平成28年度で42兆1,381億円にのぼっています(厚生労働省「平成28年度国民医療費の概況」より)。

 

2025年、国民の3人に1人が65歳以上に。

このような状況の中、いわゆる団塊の世代(1947~1949年生まれ)と呼ばれる人々が高齢化を迎える一方、健保などの支払い手となる現役世代(生産年齢人口)は、少子化が進むとともに減少しています。特に団塊の世代が75歳を超え後期高齢者数が約2,200万人に膨れ上がると予想される2025年には、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になると言われています。医療費総額は、実に54兆円に達する見込みです。これが「2025年問題」と呼ばれる、日本の国家的な危機なのです。

しかし、問題は目前に迫った「2025年問題」だけではありません。「2040年問題」も取り沙汰されています。2040年には日本の人口は約1億1,000万人に減少し、1.5人の現役世代が1人の高齢世代を支えるようになるとされています(国立社会保障・人口問題研究所。2017年推計)。しかも85歳以上の人口が全高齢者人口の3割近くとなり、高齢者の「高齢化」が加速します。「2040年問題」のもうひとつの課題に挙げられているのが、困窮化の問題です。2040年に高齢者となる世代は、いわゆる団塊ジュニア(1971年~74年生まれ)にあたります。この世代はバブル崩壊後の不況期に就職した世代で、前後の世代よりも所得が低い傾向にあると言われています。その結果、老後の蓄えが充分にないまま高齢化するため、社会全体のリスクがより高まるのです。また現役世代の方も、派遣やフリーターなどの不正規雇用などが増加し、高齢者を充分に支えきれないのではないかと予測されています。

当然ながら、国も医療・介護費の財源を確保できない状況となるため、社会保障費を増加する、年金受給年齢を引き上げる、支給額を減少する・・・といった施策を進めるしかなくなり、患者はもちろん家族、ひいては国民全体の負担がきわめて大きくなっていくでしょう。
これらの社会的な課題が、病院・医療機関そのもののあり方を変えてしまう可能性があります。医療や介護の必要な後期高齢者が増加する一方で、医師をはじめ医療従事者が足らなくなり、高齢者の求めるニーズに対応できなくなる恐れがあるからです。たとえば高齢者が足腰の衰えにより通院困難となった場合、医療従事者が高齢者宅を訪問し医療サービスを提供するシステムが必要となりますが、現在でも過重労働となっている中、なかなか実現が難しいのが現状です。また75歳以上になると生活習慣病など慢性疾患の患者が増え、複数の疾患を抱えた患者と気長につき合う必要がありますが、それがかえって医療の効率化を阻むことも考えられるのです。

 

医療業界の未来はどうなる?

「2025年」「2040年」と、我が国に降りかかる2つの問題について書きました。大きな不安を感じた方も多いと思います。医療業界は成長している市場といわれていると同時に、実は超高齢化社会という現在の日本が抱える危うい問題の上に成り立っているわけです。さて、こんな時代にあって医療業界は果たしてどのような未来を迎えるのでしょうか。できるだけ具体的に、現在考えられている未来像をご説明したいと思います。

 

総合的に生活支援を行う地域包括ケアシステム

高齢者が介護が必要な状態になっても、住み慣れた自宅、地域(自宅から30分圏内と定義される)で生活していけるよう、介護や医療、生活支援といったサービスを地域内で提供するシステムのことを「地域包括ケアシステム」といいます。自治体などが設置した「地域包括支援センター」が拠点となり、保健師や社会福祉士、ケアマネージャーはもちろん、医療・保健などの関係機関が連携し、高齢者の生活をサポートしていくシステムです。


もともとは1980年代に広島県で、医療と福祉行政が連携して行った「高齢者の寝たきりゼロ」を目指す取り組みが「地域包括ケアシステム」と呼ばれるようになりました。その後、2000年に介護保険制度がスタートするにおよび、医療、介護、福祉の連携に加えて包括的に生活支援サービスが必要とされる過程で、「地域包括ケアシステム」の考え方が注目を集め、やがて全国で採り入れられるようになったのです。

「地域包括ケアシステム」が求められる背景には、増え続ける要介護者を支えるスタッフが不足しているという背景があります。要するに既存の介護保険サービスだけでは、高齢者を支え切れなくなっているのです。そのため、公的サービスに加え、地域みんなの力で高齢者を支えるこのシステムが注目されるようになったのです。

出典:『介護分野の最近の動向』(厚生労働省) 2017年4月

地域包括ケアシステムを構築するにあたっては、「在宅サービス」「自立支援型サービス」を強化する必要があります。具体的な動きとしては、24時間対応の在宅医療や訪問介護、リハビリテーションの充実強化など「医療と介護の連携強化」への取り組み。そして特別養護老人ホームなどの介護拠点の整備、24時間対応の在宅サービスなどによる「介護サービスの充実強化」への取り組みが図られています。医療と介護の連携により患者や利用者は、それぞれを同時に利用できるようになります。地域包括ケアシステムが導入されることで、これからの課題でもあった「高齢者の求めるニーズの変化」という問題にも柔軟に対応できるようになると考えられています。これが、先に「介護施設」「福祉施設」も医療業界のひとつと考えてよいと述べた理由なのです。

 

急がれる医療と介護の機能再編

医療・介護の連携を軸にした地域包括ケアシステムが整備されることによって、まず地域医療と介護機能の再編成が起こることが予想されます。病院やクリニックは急病や事故によるケガ等を扱う「急性期医療」の方向性と、急性期後の治療・リハビリも含む慢性期医療の方向性に分化するとも考えられます。
下図は内閣府の「健康・医療ワーキング・グループ」のレポートに掲載されたものですが、ここでは「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」などニーズに合わせて機能分化・集約化させた上で、介護との連携強化が図れられる将来像が示されています。このような医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、増大するニーズに対応しようとするものです。医師自身も単に医療や医学的知識を提供するだけでなく、じっくりと患者と向き合える資質が必要とされる時代になってくるでしょう。病院の機能が再編され「急性期医療」「慢性期医療」と分化する他に、症状やある病気に特化した診療も求められるようになります。いずれにせよ、患者の生活を長期にわたって支えて行く体制こそ、「地域包括ケアシステム」の本質だと言えるでしょう。

出典:内閣府「第12回健康・医療WG資料2(2013年)の図版の一部を編集

 

地域包括ケアで高齢者の社会参加も

「高齢者」といえば、どうしても寝たきりや何らかの疾患を持っているなどのイメージが強いですが、「人生100歳時代」といわれる昨今においては、まだまだ元気で活発な高齢者も少なくありません。みんなで高齢者を支えようとする地域包括ケアシステムでは、元気な高齢者が、弱った高齢者をケアする役割を果たすことが期待されています。支える側の高齢者が社会的な役割を持つことで、「生きがい」を感じてもらえるようにするのです。それが介護予防にもつながると考えられています。

 

予防医療で健康寿命100歳時代へ

「いつまでも元気で健康な高齢者であり続ける」という点で注目されているのが「健康寿命」という考え方です。日常生活に制限なく、健康的に過ごせる生涯の期間のことを指します。厚生労働省の2018年3月発表によりますと、2016年の男性の健康寿命は72.14歳、女性は74.79歳でした。平均寿命は男性が80.54歳、女性が87.14歳で、健康寿命と平均寿命との差は男性で約9年、女性では12年以上に及んでいます。この平均寿命と健康寿命の差、男性で8.84年、女性で12.35年の間は、人は病気か要介護状態である期間になります。このタイムラグをなくし、少しでも多くの高齢者が元気に過ごせるようになることが、結果的には国民医療費を抑えることにもつながるのです。ここで期待されるのが「予防医療」という考え方です。病気の重症化や再発を予防したり、あるいはワクチンなどを投与し病気を未然に防いだり、あるいは健康な人が先々病気にならないようバランスの良い食事を心がけたり、適度な運動を行ったりと、健康を維持・増進させるといったことが、「予防医療」に含まれます。

 

予防医療の3つのステップ

予防医療には大きく、3つの段階があります。

●第1次予防
食生活など生活習慣病を改善し、適度な運動によって健康的な身体を維持したり予防接種を受けるなどして、病気を未然に防ぐこと。

●第2次予防
定期健診や検査などで病気を発見することにより、病気の早期治療に取り組むこと。

●第3次予防
病気になっても適切な治療などにより病気の増悪防止に努めたり、リハビリテーションにより、病気の回復や再発防止をはかること。
以上の3つとされています。

厚生労働省が健康寿命の延伸を目的に2013年4月にスタートした国民健康づくり運動「健康日本21(第2次)」では、がん、循環器病(心臓病・脳卒中)、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)等の生活習慣病が重点分野とされ、予防のために具体的な目標が掲げられています。予防医療は高齢者や何らかの疾患を持つ人だけを対象とするのではなく、すべての人の生活に深く関わっています。就活に励むみなさんも、まだ若いからといって無理をするのではなく、将来にわたり健康で元気に暮らせるように注意して欲しいのです。それがきっと、あなたの人生を充実したものにしてくれるはずです。

 

国民医療費の抑制に貢献するジェネリック医薬品

ジェネリック医薬品は新薬と同じ有効成分で作られ、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づくさまざまな厳しい基準や規制をクリアした薬のこと。効き目や安全性が新薬と同等だと認められてから発売されます。開発にかかる期間が新薬と比べて短い分、費用が安くて済むため、価格を安くすることができます。増加し続ける国民医療費を抑制するため、政府主導でジェネリック医薬品の使用促進が進められています。2005年の段階では日本のジェネリック医薬品使用率は、32.5%でした。それが政府の肝いりもあり、昨年度では72.6%まで高まっています。しかし世界を見るとアメリカでは約91%、ドイツ82%など高いシェアがあり、まだ不十分であると言えます。政府では2020年9月末までにシェアを80%達成を目標として掲げています。(数値はいずれも厚生労働省「後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進について」より)。

 

医療の高度IT化によるスマートヘルスケア

超高齢化社会に対し、地域のみんなで支え合うという一種の人的な取り組みが地域包括ケアシステムであるのに対し、最先端のテクノロジーやIoT技術を活用して医療サービスを行う、いわばIoTを駆使した取り組みがスマートヘルスケアです。ネットワークにより健康に関するデータを人から取得し、分析することで医療サービスを提供することを言います。従来でも健康に関するデータを取得する医療機器はありましたが、先進的なインターネット技術、AI技術などの登場でより高度なサービス提供が可能となりました。最近では「ヘルステック(Health+Tech)」と呼ばれることもある、新しい事業領域と言えるでしょう。スマートヘルスケアサービスでは、主として次のような技術が活用されています。
●ウェアラブル端末
スマートウォッチやVR・ARゴーグルなど。人体に装着して使用するデバイスです。

●センサー
上記ウェアラブルデバイスにセットされ、人体のデータ取得をリアルタイムで行います。

●ネットワーク
取得した人体データを送受信する通信技術。

●アプリケーションソフトウェア
データを処理分析。さらにPCやタブレットに視覚的に分析データを表示します。

●サーバ
多くの人体データをクラウド上にビッグデータとして記録。分析を重ねることによって、医療技術の進化にも貢献します。

スマートヘルスケアの効果

スマートヘルスケアがもたらす効果としては、まず個人のレベルで言えば、取得される人体データによって、疾病の予防や慢性病の管理に活かせるという点です。自分の身体の「見える化」が実現することで、生活習慣病の予防などにつながることが期待されます。また人体データが遠隔で取得できるようになるので、遠隔地医療サービスや救急対応のクオリティ向上につなげることができます。

一方、医療業界全体や国家レベルで言えば、大量に取得した人体のビッグデータを分析することで、疫病学研究の発展に役立てられることができます。これらの進行で、結果的に健康保険予算や医療費支出を低減する効果が期待されています。さらには、一人の医療従事者が何人もの高齢者の状態を同時にモニターできるため、医療業界の人手不足解消にもつながります。

 

 AI(人工知能)が切り拓く、新しい診断・治療

近年、大きな進化を遂げているのがAI(人工知能)技術です。今やAIは深層学習(ディープラーニング)を応用し、疾病の可能性が高い箇所や悪性度を示すことで医師の判断をサポートする「AI医療診断」も登場してきました。ある記事によると、AIがわずか10分で、特殊な白血病の可能性を診断し、結果的に患者が救われた例があったそうです。このような点から、AI医療診断はコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)に匹敵する発明であると言う声もあがっています。AIの導入で医療現場での作業効率が改善され、医療の質がより高まることが期待されています。

以上、医療業界の未来像を最近の話題からピックアップし、ご紹介してみました。次は、医療業界にどんな企業が関わっているのかについて説明していきたいと思います。

 

医療業界に関わる企業

冒頭でも書きましたが、ひと口に「医療業界」といっても多岐にわたり、関与する企業も無数に存在します。そこでここでは、主な業種を取りあげ、その代表的な企業を紹介していきたいと思います。

製薬業界

厚生労働省が発表した平成27年度版「医薬品・医療機器産業実態調査」によれば、国内の製薬会社数は329社。その内訳は、事業領域が最も広いものとして「広域創薬型」、特定領域に特化した「領域特定型」、新薬とジェネリック両方を手掛ける「ハイブリッド型」、ジェネリックに特化した「ジェネリック型」、化学系・食品系・繊維系などを本業とする「兼業メーカー」の5つに分類できます。ちなみに沢井製薬は「ジェネリック型」で、そのカテゴリーの上場企業としては最大手となります。

 

医療関連サービス

病院、医院などで医師資格者が行う医療行為や医療サービス以外で、民間に委託可能なさまざまなサービスのことを総称し、医療関連サービスと言います。財団法人 医療関連サービス振興会では、関連サービスの仕事を(1)検体検査、滅菌消毒、患者給食、患者搬送、医療機器の保守点検、医療用ガス供給設備の保守点検、寝具類洗濯、院内清掃と言った「院内業務代行」、そして(2)在宅医療機器保守点検・レンタル、患者食宅配などの「在宅医療・患者サポート」の2つに分けています。

医療関連サービスを行っている企業は、非常に多岐にわたるサービス内容に対応し、大手製薬会社、医療機器会社から、地元の小規模な企業までまさに星の数ほど存在します。しかし医師の医療行為や患者に著しい影響を与える可能性のあるサービス業者には、サービスの質をしっかりと確保することが求められます。そこで先に紹介した財団法人 医療関連サービス振興会では、サービス業者が基準に適合しているかどうかを厳しく審査し、合格した認定業者に「医療関連サービスマーク」を与えるようにしています。認定業者については、同振興会のサイトから職種別、エリア別、名称で検索できるようになっています。
参考:財団法人 医療関連サービス振興会 https://ikss.net/

 

その他の関連企業

「医療業界に関わる企業」というと、どうしても製薬や医療機器会社を想像しがちですが、意外な会社が医療分野で活躍しているケースもあります。ここでは、そんな企業をざっと紹介していきましょう。

パラマウントベッドホールディングス/フランスベッドホールディングス
ベッドのメーカーとして有名な両社ですが、パラマウントは高齢者施設や病院など施設向けのベッドに強みを持っています。またフランスベッドは、ベッド製造に加え介護福祉事業も展開しています。

●ニチイ学館
社名が「日本医療事務」に由来し、そもそもは医療機関における診療報酬請求などを行う医事業務受託事業をメインに行っていました。現在では訪問介護の最大手となっています。

●ナカバヤシ
フエルアルバムや手帳で有名なメーカーですが、1週間分、朝・昼・夜・寝る前それぞれに摂るお薬がわかり飲み忘れを防げる「お薬カレンダー」や「診察券ホルダー」、保険証や診察券、お薬手帳、さらにはお薬がまとめて持って行ける「医療ケース」など、高齢者にうれしい配慮を施したグッズで、根強い需要を喚起しています。

●ドコモヘルスケア
NTTドコモとオムロンヘルスケアの合弁会社。リストバンド型のウェアラブルデバイスで活動量計を展開。いわゆるヘルステック関連の有力企業のひとつ。

何度も繰り返しますが、医療業界は成長分野。従って自社の技術を応用したヘルスケア商品を開発し、市場に参入しようとする企業は、まだまだこれから増えていくはずです。特にスマートヘルスケア、ヘルステックが進行する現在においては、いわゆる「GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)」のような巨大先端企業が医療ビジネスの先頭に立っていても不思議ではありません。

実際GoogleではAI(人工知能)とウェアラブル技術を使ってヘルスケア分野に進出を図っていたり、アップルが非侵襲的(生態を傷つけない)方法で血糖値を測定するなど、すでにいくつかの実験をスタートさせています。スマートヘルスケア、ヘルステックと叫ばれる昨今、医療業界は最も先鋭的なICTの実験分野になっているのかもしれません。

 

医療業界での職種

経済産業省が令和3年2月に発表した『経済産業省における医療・福祉機器産業政策について』によると、日本の医療機器市場規模は、平成16年以降増加に転じ、2兆円超えで推移しています。医療費は、平成28年度は42.1兆円で、医療機器市場は、そのうちの約7%となっています。

 
平成30年度は、医療機器市場の構造(約2.9兆円)のうち、金額ベースで治療機器(カテーテル、ペースメーカー等)が59%、診断機器(内視鏡、CT、MRI等)が20%を占めます。治療機器の成長率は高く、また市場規模も大きいものの、輸入比率が相対的に高いという結果になっています。
医療機器のグローバル市場についても、高齢化の進展や新興国の国際需要の拡大を受け、市場は拡大傾向となっています。国内市場も拡大傾向にありますが、輸出額に比べ、輸入額の増加が顕著にみられています。輸出入額は2018年時点で、約9,529億円の輸入超過となっています。(輸出額:6,676億円-輸入額:16,206億円)

 

▼図:医療機器の輸出入の推移

 

日本の医療機器市場とその将来性

高齢化社会に伴い、医療費については日本の社会問題として、大きく取り上げられています。前述のとおり、医療機器市場においては輸入額の増加が顕著であるため、国内企業の成長が課題となっています。
国内の医療機器生産金額は、この10年で約24%増えています(出典:医療機器生産金額の推移|平成30年薬事工業生産動態統計年報の概要|厚生労働省)。医療機器業界は、国内で今後の成長が期待されている業界の一つです。

 
医療機器のシェアは、軟性内視鏡、超音波画像診断装置、MRIなどの診断機器分野では一定の国際競争力を確保する一方で、放射線治療装置、血管ステント、人工関節などの治療機器分野では国際競争力が弱い傾向がみられます。

 
そこで国では、令和9年度までに医療機器やロボット介護・福祉用具の実用化を目指した「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」や、若手研究者のシーズ研究を最大5年間支援する「官民による若手研究者発掘支援事業」などの事業を展開することになりました。
「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」では、5つの重点分野(①検査・診断の一層の早期化・簡易化、②アウトカムの最大化を図る診断・治療の一体化、③予防、④高齢化により衰える機能の補完・QoL向上、⑤デジタル化/データ利用による診断治療の高度化)を対象に、先進的な医療機器・システム等の開発支援を行います。
「官民による若手研究者発掘支援事業」では、官民協調による若手研究者の支援・育成、民間事業者を介した若手研究者と企業とのマッチング促進を進めていくそうです。
日本国内では、医療の安全確保と医療機器産業の発展を目指す取り組みが進められています。

 

医療業界での職種

それでは最後に「医療業界」で働くというのは、どういうことなのか。「働く場」ごとに、各職種を説明していきたいと思います。

話を整理するために、まず、業界ごとにどんな人がどんな仕事をしているのかをご説明します。まず最初は、医療機関から主な職種を紹介します。下記に掲載しているほとんどの職種は、国家資格が必要です。

 

病院・医療機関

●医師
言うまでもなく、患者や高齢者に「医療行為」を行う、医療現場の主役です。

●看護師
医師の診療を手伝い、病気や患者のケアを行う仕事です。治療の補助から患者の食事、入浴、ベッドメーキングなど身の回りの世話も行います。

●助産師
妊娠、出産から出産後のケア、育児指導など健康な赤ちゃんが健やかに育つように母と子をサポートします。

●薬剤師
患者が薬を正しく服用できるよう、薬に関しての情報を提供しています。また医療スタッフの薬に関しての問い合わせにもお応えします。

●診療放射線技師
CTやMRI、放射線を用いるラジオアイソトープ検査などを行います。放射線は人体に影響を及ぼす危険性があるため、医師と放射線技師だけがこれらの検査・治療を認められています。

●視能訓練士
眼科医をサポートし、目に関する検査をしたり、目の機能を回復させるための訓練を行います。

●臨床心理士
心理アセスメントと、小児に対するセラピーなどを行っています。

●理学療法士
身体運動や機能の低下に対してリハビリテーションを行い、社会復帰を援助します。

●作業療法士
身体障害分野の治療を請け負っています。

●言語聴覚士
コミュニケーションや言語発達障害に対する訓練などを行っています。

●臨床工学技士
「人工心肺装置」「人工透析装置」など高度な医療機器の操作や機器の保守、安全管理を担当しています。

管理栄養士
食事から治療をサポートします。

●調理師
病院食の調理を行っています。

●臨床検査技師
医師の指導の下、病気の診断や治療のために、さまざまな検査を行う技術者です。心電図や脳波など身体の生理的反応や機能を測定する「生理学的検査」、身体の組織や血液、尿などを調べる「検体検査」などを行っています。

●歯科衛生士
歯科医療の現場で、歯科医師のサポート、虫歯・歯周病の予防措置を行います。

●歯科技工士
特殊な道具を技術で、入れ歯・被せ物、強制装置を製作します。

●歯科助手
歯科医院で受付やカルテ整理、治療の補佐などを行います。

●医療事務
病院の受付窓口業務や診療報酬明細書を作成します。

●医療秘書
医師の秘書的な役割や、学会の資料作成サポートなどを行います。

●治験コーディネーター
製薬会社で開発された新薬が、実際の薬として使用されるために必要な臨床研究を行う際に、医療機関や製薬会社、患者の間に立ちスムーズに進行するようサポートする人のことをいいます。病院内に勤務する場合と、治験施設支援機関などの民間企業に就職して医療機関に派遣される場合の2通りあります。

●病棟クラーク
入院施設のある大きな病院で、入院患者のカルテ管理や各種の手続きを行い、医師と看護師をサポートします。

 

製薬業界

製薬メーカーの代表的な職種としては、次のようなものがあります。また病院と同様、医師や薬剤師なども存在します。

●研究職
新薬やジェネリック医薬品の研究を行います。医薬品を構成する物質の探究や実験を主に担当します。

●CRA(臨床開発モニター)
薬を実際に投与した際の安全性を確立するための臨床試験を行います。厚生労働省への承認申請に必要なデータを取りまとめます。

●MR(medical representative)
病院や薬局に赴き、医師や薬剤師に自社医薬品の効能や副作用などについての用法を提供する仕事です。製薬業界における「営業職」と言えます。

 

医療機器業界

幅広い機器を扱う医療機器業界では、職種もさまざまな分野がありますが、大きく「機器の開発・製造に関わるもの」と「医療機関への営業」の2つに分けられます。機器の開発・製造に関しては、上記の製薬メーカーと同様、研究職やCRAが存在します。それ以外には、下記のような職種があります。

営業
病院など医療機関を回り、自社の製品の導入を提案します。商品提案だけでなく、機器の操作方法を伝えることなども仕事のひとつとなります。

●クリニカルスペシャリスト
臨床工学技士など医療に関する有資格者。医療機器について、専門的な説明を行い、営業担当を支援します。

●サービスエンジニア
担当エリアの医療機関を訪問し、機器の点検やメンテナンスを行います。医師や看護師などスタッフに、機器の使用方法の講習会などを開催することもあります。また、医療スタッフなど現場の情報を集め、新製品の開発に携わることもあります。

 

介護福祉業界

医療機関と連携し、高齢者や患者のケアを行う介護福祉分野も医療業界として扱われるべきだと考えます。

●ホームヘルパー
高齢者や身体が不自由な方に対して、掃除や洗濯など身の回りのお手伝い、さらには食事や入浴など日常生活のサポートを行います。

●ケアマネージャー(介護支援専門員)
介護を受ける本人や家族と介護事業者をコーディネートし、一人ひとりに最適なケアプランを作成します。

●生活相談員
介護を受ける本人や家族の相談にのりながら、介護施設との連絡や調整を行います。

 

その他の医療業界での職種

●保健師
企業、学校、保健所などに勤務し、病気の予防や健康増進の指導を行います。

●救急救命士
救急車に同乗し、医師の指導の下。救急救命処置を実施します。

●オプトメトリスト
患者の視力をアップするため、さまざまなサポートを行う仕事です。主たる職場は眼科病院、眼鏡・コンタクトレンズ専門店やメーカーです。

●移植コーディネーター
移植医療を行う際に、提供者(ドナー)と移植者(レシピエント)の間に立って。調整を行います。

●登録販売者
ドラッグストアや薬局などで一般用医薬品(第2類・第3類)を販売するのに必要な資格を持っている人をいいます。最近はコンビニ、スーパー。家電量販店でも薬を販売するようになり、活躍の場は広がっています。

 

まとめ

少し前のことになりますが、「AI技術の進化によって今後15年で今ある仕事の49%が消える」(野村総研)といった予測がなされました。さすがに半分近くとはオーバーだと思いたいですが、単純な労働はいずれAIやロボットに取って代わられるでしょう。事実、1990年代から進行したデジタル化によって、消えてしまった職業もあるのです。これからの時代を考えると、今就活中のみなさんにとっては、AIやロボットでは代替できない職業に就くことが一番重要なことであるかもしれません。
「病院・医療機関での職種」でおわかりいただいた通り、医療・介護福祉は国家資格が必要な職種が非常に多い業界です。また国家資格は必要なくとも、高度な専門知識が必要な職種も数多くあります。知識やスキルを磨くという意味で、自分を試すことができる業界であると言えるでしょう。そして社会人としての技術と経験を積むことで、AIやロボットには代替の効かない、真の”プロフェッショナル”になれるはずです。

もうひとつは医療業界が成長するのは、超高齢化社会という問題を背景にしている点です。 日本、あるいは世界にとっては初めて直面する問題と言えるでしょう。だからこそ、みなさんの意欲やチャレンジ精神が、ストレートに発揮できる業界ではないかと思います。みなさんの頑張りが、日本の未来を切り開く可能性を持っているのです。こんな困難な時代だからこそ、医療業界でぜひ、あなたの腕を磨いていただきたいと願います。

 

関連記事

シェアする

関連記事

Search