未来を考える

2020/03/13

前編はこちらから【2016年の開校から4年、日本最大規模の高校となった「N高等学校」 1万2000人を超える高校生たちが体験している「未来の学びの形」とは?(前編)】

 

 
──前編では、「生徒たちに社会で活躍するための武器を手に入れてもらいたい」という話がありました。具体的にN高ではどんなカリキュラムが組まれているのか教えてください。

吉村:私が担当しているプログラミングクラスの例で説明しますね。メインに据えているのは、プロジェクト型の学習です。単に教科書に書かれた問題を解決するのではなく、一人ひとりが主体的にプロジェクトに取り組み、経験を積んでいくこと。そのために通学コース プログラミングクラスでは、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの教授であるミッチェル・レズニック氏の創造的な学びの教育理論、「4つのPの原則」を導入しています。

 

 
──「4つのPの原則」ですか?

吉村:「プロジェクト(Projects)」、「情熱(Passion)」、「仲間(Peers)」、「遊び(Play)」です。

「プロジェクト(Projects)」は、自分自身がやりたいことをプロジェクト化して学習をすること。プログラミングクラスでは生徒が学びたいことを自分で決め、集中して学べる環境を提供しています。

「情熱(Passion)」は、自分の本当にやりたいことを徹底的にやること。そのためにTAやプログラミングコーチが適切なコーチングを行います。これは情熱を傾けた学びこそが本当の学びであると考えているからです。

「仲間(Peers)」は、共に学ぶことです。仲間と一緒に学び、アウトプットの習慣を身につけることで学習効率も上がります。プログラミングクラスでは⽉に1回LT(Lightning Talk)大会が行われ、生徒は5分間で自分の取り組みについてプログラミングクラスの仲間に紹介していきます。

「遊び(Play)」は、そのものズバリ遊びです。技術的に興味のあることについての学習は、遊びと区別がつきません。生徒が本当に学びたい学習であるからこそ、集中力を切らさずに1日学び続けることができます。集中力から得られる学びは、授業学習などでは得られない本人の体験に基づいた深い学びとなるのです。

 
──一般的な全日制高校では得られない経験ができそうですね。ただ一方で、「やりたいことが見つからない」という生徒もいると思います。その際は、どうサポートしていくのでしょうか?

吉村:「プログラムに関心がある。でも、パソコンに触るのは初めて」「フリック入力には慣れているけど、タイピングはしたことがない」という生徒もいます。そういった生徒には基礎をしっかり身につけてもらうことが大切だと考え、講師やTAがフォローしながら基礎ICT教育を進めていきます。一人ひとりが必要なことを学び、基礎を身に付けたところからたくさんの選択肢に向き合っていけるようサポートしています。

また、通学コースのプログラミングでは、毎月のイベントを用意して、基礎を学んでいる生徒が次をイメージしやすい機会を増やすようにもしています。運良く自分のやりたいこと、興味のあることを持てた生徒は、内的動機によって創造的な学びのステップに移っていくことができるはずです。

「4つのPの原則」なんて堅い話もしましたが、個人的な思いはもっとシンプルで。課外授業や部活動に重きを置いているN高で、一度しかない高校生活を楽しんで、いろんな思いを味わって欲しいというのが本音です。

結局は、ここで楽しめたことがこの先、彼らが社会で活躍する武器を得るために役立つのかなと思っています。

 

すべての面で80点の能力を持つ人だけでなく、ある能力が飛び抜けた人を送り出したい

 
──開校4年、昨年の春はN高に1年生から在籍した初めての卒業生が出た年でした。報道では大学進学を希望した生徒の中から、九州大や筑波大などの国公立大学、早稲田大、慶應義塾大、上智大などの難関私立大学への合格者が出たことが「通信制高校の枠を破った」と話題になりました。未来に向けて、N高からどんな卒業生が増えていったらいいなという思いを持っていますか?

吉村:大学の一般受験に向けた課外授業も行っているため、N高から希望の大学へ一般受験で進学したい生徒が増えるのはうれしいことです。ただ、大学進学だけが出口ではないとも感じています。というのも、社会全体を見たとき、特定の能力が高い評価を得て求められる場面は多々あり、それに合わせた入試制度も増えてきているからです。

中学を卒業していれば誰でも入ることのできるN高には、個性的な生徒が集まってきます。彼らの個性を伸ばす教育の仕組みを整えることで、一人ひとりの自尊心を尊重した上で社会に貢献できる一人として巣立っていってもらうことができるのではないか。そうなれば誰もがハッピーなのではないかと想像しています。

 
──一般的な高校生活を考えると、飛び抜けた能力や凸凹した能力のバラツキは学校生活でのしんどさにつながるイメージがあります。

吉村:そうですね。実際、N高には数学が飛び抜けてできる生徒が何人かいます。彼らと雑談していると、共通して体育という科目をめちゃめちゃ憎んでいるんですよね(笑)。

 
──体育と数学の両方ができる人は少ないかもしれません。

吉村:探せばいるかもしれませんが、レアなのはたしかで。体育が好きで得意な生徒と、数学好きで数学のことばかり考えている生徒の間には埋まらない個性の差があるように思います。

でも、どちらも伸ばしていけばいい。無理に興味のない数学や体育で80点を目指す必要はないはずです。もちろん、平均的にどれも得意な人の能力は絶対に損にはなりません。つまり、どの個性も伸ばしていけば秀でた能力であって、大事なのは受け皿である学校が平均を求めないことです。

N高には、みんなの見ている先、学んでいることの進捗がバラバラでもまったくかまいませんという学び方があります。インターネットを活用することによって、個性の個を認めていける学びの場ができたというのが、N高だと言えるかもしれませんね。

 

インターネットを通じた学びの仕組みは発展途上。驚きのある「未来の学びの場」を準備中

 
──この先、ネット学校の先駆けであるN高はどう進化していくのでしょうか?

吉村:この4年でインターネットを通じた学びはとても強力だと感じました。我々は「N予備校」というeラーニングのプラットフォームも持っていますが、ここでは日本一教えるのがうまいレベルの講師陣、つまり、教えることの能力に秀でた人たちによる授業を全国どころか、世界中どこからでも見ることができます。

加えて、アンケート機能、コメント機能もあり、大学特進クラスやオンライン特別コーチングなどを利用すれば、自宅にいながらビデオチャットを介してコーチングを受けられるサービスもあります。私もそうでしたが、地方の田舎に住んでいると優秀な講師に巡り会える可能性は低くなります。都市部の学生は、優秀な大学生、予備校の講師に教わることができ、そこに集まる人たちから受ける刺激、知る情報によって感性が磨かれていった面があったわけです。

こうした地方と都市部の差はインターネットを使った学びによって埋められますし、教科書を読み上げるだけの講義を聞き続けるよりもはるかに有益で刺激の多い授業にもアクセスできるようになりました。

憧れや尊敬を持って接することのできる相手とのコミュニケーションは、生徒のモチベーションを大きく変えてくれます。それはお金を払うだけの価値のある教育の仕組みだと言えるのではないでしょうか。

 
──なるほど。

吉村:我々はインターネットを活用した教育にはまだまだ伸びしろがあり、いろいろな力を引き出せると考えています。正直、Slackを使ったコミュニティの形成、ビデオチャットを使ったコーチングなども、まだまだ発展途上の学びの形です。

まだインターネットを使った新しい学びの形は発展途上だと考えています。これからもまだまだ新しいことにチャレンジしていきたいと考えていますので、楽しみにしていてください。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

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SCIENCE SHIFT編集部

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