未来を考える

2020/03/18

「空想が未来を作る」。

そう言い切るのが、短編よりさらに短くて不思議な小説「ショートショート」の現代の第一人者として活躍する作家・田丸雅智さんです。実際「ものを書く」ことで、得られるものは少なくないといいます。たとえば発想力を高めたり、論理的思考力を養ったり。

田丸さんに、書くこと・創作することで、よりよい未来を切り拓く方法を聞きました。

*本記事はシリーズ「新時代を生きる」の一記事です。このほかのサイエンスシフトなりの未来への取り組みは、タグ「新時代を生きる」からご覧ください。

 

田丸雅智

取材協力:
田丸雅智さん
HP:http://masatomotamaru.com/
東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

 

子供の頃からせっかちで読書が苦手だった

 
──田丸さんが取り組む「ショートショート」とは、どんなものですか?

簡単に言うと、短くて不思議な物語です。もっときちんと言うと、「アイデアがあり、それを活かした印象的な結末のある物語」となります。大切なのはアイデアがあることで、必ずしも不思議である必要はないのですが、まずはわかりやすく説明するために、不思議な話と言っています。長さは一般的な短編よりも短く、一つの話を5分程度で読めるものが多いです。

 
──ショートショートを書くようになった経緯を教えてください。

今もそうなんですが小学生の頃からせっかちで、読書ができなかったんです。今でこそ長い小説を読むのも大好きなのですが、昔は我慢ができなかったんですね。それを見かねた親にショートショートを勧められ、読んで面白いなと感じました。一方、子供の頃から工作などものを作ることが好きで、大学は自然と理系に進みました。

小説を書き始めたのは高校時代のことでした。ふと暇を持て余し、好きだったショートショートを自分で書いてみたんです。それを友達に見せたら「面白い」と言ってもらい、「小説って自分で書いてもいいんだ!」という大きな発見を得ました。

大学に上がってからも気が向いた時にショートショートを書いては、手製の小冊子にまとめて友達に配っていました。友達に「面白かったよ」と言ってもらうのが楽しかったんです。将来は研究職など理系の道に進む選択肢もありましたが、小説の中であればより自由に、自分の好きなことが実現できるのではないかと思い、小説の道を選びました。

 
──すぐに作家としてデビューできましたか。

それが、けっこう苦しんだ時期が長かったです。大学時代からなんとか知り合った編集者や作家さんに作品を見てもらっていたのですが、「面白いね」という言葉の後に「でもショートショートは売れないからね……」と言われるのがお決まりのパターンでした。何回それが繰り返されたことか。自分と同じように読書が苦手な人や、短いものだったら読めるという人からのニーズは絶対あると思っていたので、すごく悔しく、鬱屈した日々でした。

 

のべ2万人以上に「書き方」を教える

ただその後いろいろなご縁があり、2011年にショートショート作品集への寄稿という形で作家デビューを果たしました。そして2014年には初の単著を出版することができました。以降はいろいろなところから執筆のご依頼をいただくようになり、今に至ります。

 
──今や現代ショートショートの第一人者といわれる田丸さんですが、2013年からショートショートの書き方講座も全国各地で開催し、小学生からシニアまで、これまで2万人以上もの人たちに教えてきました。そこから文学賞の受賞者やプロの作家も複数出ています。書くことや創作することには、どんな効用があると思いますか?

講座ではショートショートよりさらに短い超ショートショートの書き方を教えているのですが、書き方だけでなく「発想力」や「論理的思考力」なども身につけてもらうことを目的にしています。考えたことを人に伝えることは、コミュニケーション力や文章力の向上にも繋がります。これらは就活や仕事など、社会の幅広い場面で役立つ能力です。受講者の方からは、講座を通してストーリーを作るのが快楽になり、仕事に応用できているという嬉しい声もありました。

 
──たとえば「発想力」は、どんなふうに高められるのでしょう。

書き方講座のワークでは、まず思いつく名詞を20個書き出します。たとえば「映画」「月」「パスタ」など。次にその中から1つを選び、その言葉から思いつく言葉を10個書き出します。こちらは名詞じゃなくても何でもOKです。もし「月」を選んだなら、「丸い」「銀世界」「狼男に変身する」とかですね。

そして、その思いついた言葉のグループと、最初の名詞のグループから一つずつ言葉を選び、結びつけてみます。たとえば「丸い映画」とかです。この組み合わせをいろいろと試してみることで、たとえば「狼男に変身するパスタ」など、思いもよらぬ面白い組み合わせが生まれます。ワークでは、そうして生まれた組み合わせを一つ選び、それを元に超ショートショートを書き上げます。

 

画期的なアイデアは「組み合わせ」で生まれる

このワークのベースにあるのが、「新しいアイデアの多くは、既存の2つのものが組み合わさって生まれる」という、アイデアの世界ではよく言われる考え方です。たとえば、登場した当時は画期的だった自動車も、「自動の馬車」といった2つの概念が組み合わさることで新しいアイデアとなっています。同じく携帯電話も「運べる電話」だし、インターネットも「つながるパソコン」というふうに、2つの概念が組み合わさっています。最近の事例でいえば、パイロットのフリクションは「消せるボールペン」ですし、ダイソンの扇風機は「羽根のない扇風機」です。

こうした画期的なアイデアは、ひらめきという偶然に頼っている「だけ」では、なかなか生み出せません。そこで2つの全く異なる言葉が結びつく状況を設けることで、画期的なアイデアを生み出す確率を意図的に大きく高めようというわけです。自動車の例のように、こうして生まれた不思議な言葉が、未来を切り拓く革新的なアイデアになるかもしれません。

 
──では、論理的思考力はいかがですか。書くことでなぜ伸びるのでしょう?

伸びる要因はいくつかありますが、一つは書いてアウトプットすることで、自分の考えや感想を一歩引いた目線から客観視できるためです。いいと思ったアイデアも言語化して書いてみると、まだまだロジックが甘かったり、抜けが見つかる場合があります。それがわかれば、よりよく練り直すことができます。

そうやって書き続けることで、自分の中の考えや思考法を、どんどん磨き上げていけるのです。頭の中で考えるだけでもできますが、言語化しアウトプットすることでより見えやすく、練り上げやすくなります。

 
──自分の考えを言語化することのメリットは、他に何かありますか。

自分の考えを人に伝えやすくなるというのも大きいです。そもそも、自分が何を考えているのかを日頃から言語化しておくことで、しっかりそれを自覚することができますよね。そして、その考えを相手に伝えるにはどうすればいいのかも、言語化しておけば考えていきやすい。特にだれかに共感してもらいたいときなどには、もちろんデザインされていない生の言葉が強い場合もある一方で、それなりにきちんとデザインされた言葉で伝えたほうがいい場合もたくさんあります。いうなれば就活のエントリーシートや面接も、相手に伝え、共感してもらうことが大切な要素のひとつであったりするので、その意味でもこの「言語化」はオススメできます。

 

言語化により「本当にやりたいこと」が見える

それと書くという行為には、感情を吐き出し、発散する効果もあります。実際に少年院では、語彙が少ないなど言語化が苦手な子は、暴力行為に陥りやすい傾向があると聞いています。だから感想文や日記など、できるだけ文章を書かせるようにするそうです。これは極端な例にしても、書くことで気持ちが少しすっきりするというのは、多くの人が実感するところではないでしょうか。

自分の考えや方法論が言語化されていないと、逆境にぶつかった時にもろくなる可能性があるというデメリットもあります。

 
──もろいとはどういうことでしょう。

いわゆる天才タイプの人って、もともと言語化しなくても、何となくでできてしまうので、方法論や成功体験を普段からあまり言語化していなかったりします。だからそういう人がいざ壁にぶつかると意外なほどもろく、心が折れたり脱落してしまうことが少なくないと感じます。

でも言語化さえしておけば、なぜ壁にぶつかったかもわかるし、どうすれば乗り越えられそうか、そもそも本当に乗り越えるべきかなど、さまざまな角度から検証できます。もちろん、何をしてもダメな時は当然ありますが、ここまでやってダメなら仕方ないという気持ちの切り替えもしやすいです。

 
──では、言語化によって「自分の本当にやりたい仕事」を見つけるには?

やりたいことを見つけるうえで何より重要なのが、自己と向き合うことです。言い方を変えれば、自分の脳の快楽物質が、どのタイミングで出るかを見極めること。それは誰かに奉仕した時かもしれないし、逆に利己的に動いて自分が得した時かもしれない。そうやって自分が一番幸せを感じるポイントを把握し、言語化し、「抽象化」することが大きなカギになります。

僕のケースで見てみると、自分の手で何かを生み出し、誰かと共有してポジティブな反応が返ってきたところで一番“発火”をする。生み出す途中も発火はしているのですが、最後のところまでがセットで最大の発火となる。おそらく僕の脳の場合、これ以上は抽象化できないでしょう。そしてこの抽象化したものを、現実の仕事に落とし込んだ時、どうやらショートショートを書くことが一番よさそうだ、となるわけです。

 

空想こそが未来をよりよいものにする

 
──田丸さんはショートショート作家としてどんな“未来”を描いていますか?

まずはショートショートをもっと広めたいというのがやっぱりあるのですが、その先で僕が本当にやりたいのは、空想で社会を彩ることです。空想が当たり前のこととして日常に潜んでいる社会、みんなが呼吸をするかのように当たり前に空想を行う社会にしたい。そのための手段としてショートショートを広めていきたいというイメージです。

 
──なぜ空想することを重視するのでしょう。

空想があることで、日常の見え方が変わるからです。たとえば、コップがあるとします。それをただのコップとしか思わない人と、このコップを覗くともしかしたら別の世界に繋がっているかもしれないと空想できる人では、日常のあり方がだいぶ変わってきますよね。

それは想像力であり、アイデア力であり、ものごとをいろんな側面から見られる力でもあります。相手をおもんばかる気持ちに直結するし、当然ビジネスにも確実に役立つでしょう。そもそも空想力があると、日常が楽しくなりますよね。

そしてなんといっても、自分の未来を考えることもまさに空想です。空想力があれば、よりよい未来をイメージし、そこを目指すことができる。だから空想は、未来を作る力ともいえるのです。

本来空想はそれだけ役に立つものなのに、今はまだ空想を人前で口にしたりすると「おまえ、何言ってんの?」といぶかしがられることが多いのが現状です。そこを変えるために、僕は行動し続けていきたい。最近の人は想像力が足りないとも言われますが、決してそんなことはなく、誰の中にも空想は必ず潜んでいます。だからこそ、ものを書いたり創作することで、自分の中の空想力を伸ばしていく。それこそが、未来をよりよくするカギだと思います。

 

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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