未来を考える

2020/03/26

体に障害をもつ人でも、子育てなどで移動がままならない人でも、パイロットとして「分身ロボット」を操縦することで、行きたい場所に行け、会いたい人に会え、仕事ができる。

そんな未来を実現する開発企業、オリィ研究所のCOO・結城明姫氏に聞く“未来の作り方”。後編ではより結城さんのパーソナルな部分に迫り、彼女がどうキャリアを、未来を築き上げてきたのかを解き明かします。

前編はこちらから【「その場にいる」ことの制約を「分身ロボット」で克服する ~オリィ研究所・結城明姫氏に聞く未来の作り方(前編)】

 

「賞を獲ると褒められる」が原点に

 
──科学に興味をもったきっかけは?

小学校1年生の時に、毎日新聞社が主催する理科の調べ物コンテストに母に勧められて出したところ、賞を獲って褒められたのがきっかけです。こういうコンテストに出すと褒められるんだと子供心に嬉しく、いろいろ調べ物をまとめては、学内や学外のコンテストに出すようになりました。

そうして高校時代、小学生の頃から気になっていた「蛇口の水の中に入っている空気の柱がなんなのか?」という非常に身近でアナログな研究をコンテストに出したところ、それを受けた先生が「これは本当に価値があるものだから、もっと深めて大きな舞台で発表するべきだ」とおっしゃってくださって。それで、これは頑張ればまた褒めてもらえるなと、朝日新聞社主催の科学コンテスト・JSECに出したんです。

*JSECに出場し、現在のオリィ研究所CEO・吉藤健太朗氏と出会ったエピソードを紹介する前編はこちら

 
──ご両親はどんな方でしたか。

父は宗教哲学者で、小さい頃から私が何か言うと「それはどうして?」と尋ねられ、答えるとまた「それはどうして?」と、まるでソクラテスやプラトンの問答のように理由を聞かれる日々でした。周りの人にこれを話すとけっこう驚かれるのですが(笑)。そうやって最初の疑問で終わらずに、再考察したり仮説を立てることでどんどん深まっていくので、思考の方法としてはとても影響は大きかったなと思います。

一方、母は物理学の教授をしていて、私が母に「これはどうしてなの?」と聞くと、「どうしてだと思う?」と仮説を立てさせたうえで「じゃあ本当はどうなのか、実証してみよう」といったことを、子供の遊びの中でよくやらせてくれました。そういう仮説と実証を繰り返す癖も、研究をするうえで役に立っていると思います。そういう意味ではかなり理系な家庭環境だったかもしれません。

 

また辛い思いをしないよう、未来を作ることにした

 
──ただ、大学は理系ではなく、教養学部に進まれました。

はい。その理由には、OriHimeも関わっています。高校時代にOriHimeのプロジェクトと出会い、何か一緒にやっていこうとなった中で、自分がこのプロジェクトでより役に立つには、研究を深めていくよりも、幅広くいろいろなものを学ぶ方がいいのではないかと感じたのです。それで“The 理系”には進まず、文学から経営学、経済学、数学、理科までなんでも取ることができるICU(国際基督教大学)に進みました。

 
──吉藤さんと役割分担する気持ちがあった?

なんとなく役割分担の意識は自然とあったと思います。私はやはり吉藤はものづくりの天才だと思っているので、ものづくり以外の部分に関しては、別のチームメイトとみんなで担っていくのがいいだろうと感じていました。

 
──大学卒業後、普通に就職する道もあったと思いますが、OriHimeプロジェクトを選んだのはなぜでしょう。

大学二年の時に投資銀行のインターンをつとめたりもしたのですが、それをしたらなんか企業の仕事に満足してしまいまして。自分にはOriHimeの方が楽しいかなということでこちらに進みました。

 
──あらためて、分身ロボットを使っての「孤独の解消」に取り組むことにした理由は何ですか?

一番は「過去の自分が欲しかったもの」だからです。初期衝動としては、本当にそこに尽きるかなと。高校時代に入院し孤独な思いをした時の自分が欲しかったものであり、同じような思いをしている人がいることも知っていた。だからこそそんな人たちに喜んでもらえ、何より自分がまた同じような状況になった時に、もう一度あんな思いをせずに済むものを作ることにしたのです。

 

幅広くトライしたことが、貴重な経験に

そうして続けるうちに、OriHimeがとてもわかりやすいアウトプットというのもあり、実際に使って喜んでくださる方の声がダイレクトに入ってきて。たとえば初期に使っていただいたあるお子さんは、無菌室で治療を受けていて、当初はOriHimeを1週間だけお貸しするお約束でした。ところが使ってみると24時間繋ぎっぱなしで、結局、退院するまでの3週間ずっと使ってくださいました。

また末期がんの方が「死ぬ前にもう一度ハワイの別荘に行き、友人たちと話したい」とOriHimeを使われたこともありました。OriHimeをハワイに持っていき、その方は東京の病院からOriHimeを操作しました。その数日後に亡くなられてしまったのですが、OriHimeを使ってとても楽しく会話することができ、主治医の方が「この数カ月間、こんな生き生きした顔は見たことがない」ともらしたほどでした。

そういうエピソードを目の当たりにし、少なくとも何かしら人に喜びを生めることをしているんだなという実感も伴うことで、よりそこに注力するようになっていったんだと思います。

 
──振り返ってみて、学生時代にこれをしてよかったということは?

一つやって良かったなと思うのが、大学時代に幅広くいろいろなことにトライしたことです。私は理科以外に文学や歴史なども好きなので、そういった授業の選択から始まり、コンテストにもいろいろ出場しましたし、アジアサイエンスキャンプという科学系のアジアの大学生たちが集う泊りがけのイベントに参加し一緒に研修を受けたりもしました。

投資銀行のインターンをしたのも、今となってはすごくいい経験で、逆にあそこで会社というものを知らなければ一生知らずに終わったかもしれないなと。やっぱり視野を狭めずに幅広くトライし経験することは、とても重要だなと感じています。

 

誰にも「やりたいこと」はきっとある

それとどんなことであっても、本気で前に突き進むと成果がついてくるんだなというのも感じました。起業でも、組織や大学、コミュニティの中でも、自分の好き勝手にできるわけではなく、何かしらルールがあります。そういう場所であっても、何かちょっとやって失敗してあきらめるのではなく、自分から提案して自分から前に行くくらいの推進力でやっていくと、何かしら認めてもらえたり、成果を出せたりする。やったらやった分だけ返ってくる。

そのことをぜひ若い方たちにお伝えしたいし、過去の私にもあらためて言いたいです。自分から積極的に、能動的に、前に行けと。

 
──(前編で)オリィ研究所はトライ&エラーのサイクルが速いというお話が出ましたが、やはりそこも大切でしょうか。

そう思います。頭でっかちにならず、まずはやってみる。オリィ研究所は、もう少し頭でっかちになって事前に考えてもよかったねということも多々あるのですが、常にトライ&エラーで進んできたことで今があるのかなと。

大学は4年ありますが、4年は長いようで短いです。考えて考えて半年間立ち止まるくらいなら、たとえ失敗してもその間に2回トライしてみる方が、得るものは大きいと思います。

 
──「やりたいことが特にない」という人も少なくありません。そういう人はどうすれば?

本当の本当に何一つやりたいことがないとなると、もうなんとも難しいんですが、やりたいことがないという人でも、何かしら好きなことがあるにはあると思うんです。たとえばゲームだけは好きとか、飲み会は好き、友達と話すのは好きというように。でもパッと見でそれが仕事ではないために、やりたいことがない、将来進みたい道がないということになっているのではないでしょうか。

無責任な言葉にはなりますが、仕事になるならないに関わらず極めていけば、それはそれで専門家になれると思うんです。ゲームだとしたらゲームのプロも実況のプロもいます。飲み会が好きなら、イベントを開催する仕事の人もいます。企業と考えた時にパッと思いつかなくても、好きなものを極めていけば、何らかの形で価値を生み出せるようになる。

もし極めたいほどではない、もっと安定したいというのであれば、就職するというのもそれはそれでいい選択肢だと思います。でも企業に就職したら退屈そうだし、好きなことをやって生きていきたいなと思うのであれば、死にものぐるいで好きなことを極めていってほしいなと。好きなことや趣味をめちゃくちゃ極めていくという選択肢もあることを、ぜひ知ってもらいたいです。

 

人は「エモーション」によって前に進める

 
──単刀直入にうかがいます。未来はどう作るものですか?

やっぱり楽しい、かっこいい、嬉しいといったポジティブな感情がないと前に進まないと思うので、その感情を大事にすることではないでしょうか。オリィ研究所に関しても、孤独の解消という大義を掲げてはいますが、みんなが100%それだけのためにやっているかというと、たぶんそれだけではないと思います。

実際は「こんなの作ったぞ、どや、かっこいいだろ!」という吉藤だったり、「なんかこれ、渡したら、喜んでもらえて嬉し~」という私だったり、「いやあ、すごいプログラミングが組めて、楽しいな」という椎葉だったりの感情が原動力になって、前に進んできたと思うんです。だから感情はやっぱり重要だなと。

逆にそういう感情を抱けないものに対しては、学生さんたちが突っ込んでいっても、ただただ時間が安定して過ぎていくだけになってしまうと思います。

 
──エモーションを大切にし、それを貫いてきたことで、今があると。

おっしゃるとおりかもしれません。いま言ったように我々がやってきた理由の大元にエモーションがありますし、OriHimeを通して私たちが提供する価値も、結局はエモーションなのかなと。使っている人が嬉しい、楽しい、存在感を感じられて心が和む、勉強ができて前向きになれる、仕事で人の役に立てて生きがいになる、やりがいがある、自分の居場所ができた……。まさにエモーションに裏打ちされた価値ではないでしょうか。

そういう意味でエモーションは、私たちの中を貫き続ける一本線なんだなと感じます。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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