製薬業界を知る

2019/07/31

長尾剛司さんが答える、製薬業界Q&A連載企画も本編で最終回となりました。製薬業界でチャレンジしたいと考える人たちへ、その道のプロである長尾さんからのアドバイスをお届けします。

<長尾さんの記事はこちらから>

前回までの記事はこちらから
シリーズ「長尾剛司さんに聞く 製薬業界への就職・キャリアを考えるためのQ&A」Vol.1
シリーズ「長尾剛司さんに聞く 製薬業界への就職・キャリアを考えるためのQ&A」Vol.2

 

Q.ゼミや研究など、学生生活が忙しすぎて、就活に力を入れられません……。何かいいアイデアはあるでしょうか?

長尾さん回答:
現在の就職活動は「新卒一括採用」のため、就活期間も実質たった数か月しかありません。そんな短期間に情報収集して、人生を大きく動かす選択をするわけですから、とても過酷な状況だと思います。

一方で、日本の独特な慣習である新卒一括採用という方式も、そろそろ終わりを迎えようとしています。ようやく、通年採用への動きが出てきました。この通年採用への動きは、企業側の事業環境が過去の延長線で考えられなくなったことも関係していると思われます。新卒一括採用のメリットとして、企業文化に合いそうなポテンシャル高い人材を採用し、時間をかけて企業活動をリードするような人材を育てる人材育成方式です。この方式は、過去の延長線で事業が見込め、終身雇用することで威力を発揮しました。

しかし現在、ある程度の時間をかけ企業として将来を期待された人材は、さらによりよい機会を求めて他社へ転職してしまいます。競合企業へ転職することもありますので、新卒採用した企業にとっては機会損失です。逆もしかりで、事業環境の変化で必要な人材が変わったとき、業界内外からの中途採用を強化しています。また別の取り組みとして、インターンシップなどで早い段階で企業を知ってもらう努力をしています。特に外資系企業は、インターンシップに力を入れており、必要とする人材には早期に内定を出すようなことも行われています。新卒から即戦力として期待され、企業活動の中で自ら学んでいく人材を求めています。

そのため、学生側にもそれなりの対応が必要と感じます。そもそも、大学受験の段階で志望校を設定し、将来を見据えて進学しているものと思います。入学して卒業するまでの4年間もしくは6年間という長い時間で、自分に向き合い将来を考えなければなりません。インターンシップは、大学1年から受け入れている企業もありますし、時期も夏休みや冬休みの期間で設定されるところも多いため、積極的に参加していく意欲が求められるでしょう。複数年に渡って情報収集し、インターンシップへの参加で、おおよその業界動向なり、企業文化なども把握できるのではないでしょうか。

また入社したあとも、自己研鑽を積む必要があると思います。自らを成長させ、どのような事業環境になっても、そのまま残る人材になるか、いつでも転職できる態勢づくりです。自らの目利きで、定年まで勤めあげるか、勢いのある企業を渡り歩くか、自ら起業するなどして、振り返ってみて「いい人生だったな」と思えるようになれば成功だと考えています。

 

Q.薬学部生です。製薬会社に就職するか保険薬局にするか、迷っています。両方のメリットデメリットを教えてください。

長尾さん回答:
私は、製薬企業でキャリアをスタートさせ、保険薬局に転職しています。これは、25年前の就活当時を振り返ると必然だったと思います。そもそも、医薬分業もここまで進んでおらず、大学院への進学以外は、病院薬剤師か、企業(製薬/化粧品/食品)か、公務員か、のように選択肢が少なかったのです。いまでこそ、CRO、SMO、ドラッグストアなど多岐にわたる選択肢はうらやましい限りです。

そもそも、製薬企業と保険薬局では、薬剤師としての働き方はまったく違います。製薬企業では、極端ないい方をすれば薬剤師資格はなくてもよいわけで、周囲には文系も多く一般的な企業勤務と同じです。保険薬局ですと、薬剤師資格を持った専門職として、大学時代に実務実習で学んだことを適用できます。ただ、ある程度経験年数を積み、マネジメント業務に携わるようになると、両社とも同じような働き方になってくるかもしれません。製薬企業も保険薬局も株式会社として位置づけられるため、売上や利益を管理したり、人材を育成したり、必要なスキルは共通しています。

働いてみて、メリットと感じるか、デメリットに感じるかは、人それぞれかもしれません。私の経験でいえば、製薬企業でのメリットとして、薬を創って売ることを学べます。大学時代の授業では表面的な理解でしかなかった創薬について、現実感を持って理解できますし、臨床開発を経て市場で販売することの難しさや、独特な商習慣なども学ぶことができます。デメリットは、自社製品と競合品など限定的な薬の領域しか学べませんし、薬の消費者である患者さんのことは学びませんので、患者さんの苦しみなど現実感を持てませんでした。

一方で、保険薬局のメリットは多くの薬を選ぶということを学べます。実務実習では、表面的だった薬局業務へ現実感をもって患者さんの状態を把握し、多くの疾患領域の中で最適な薬を選択するということを学ぶことができます。処方意図を解釈し、ときには疑義照会し、患者さんに服薬指導し、薬歴で情報管理します。デメリットは、薬の製品名は覚えても、その薬がどの製薬企業の製品なのか、あまり興味がないことです。あくまでも、患者さんの疾患治療や症状改善のための一つの手段である薬ですので、製造販売している企業名まで知らなくてもかまわないのです。

最近では転職も一般的ですので、製薬企業から保険薬局/ドラッグストアに転職するだけでなく、保険薬局からCROやSMOへの転職もありますので、まずはどちらかで一歩を踏み出し、ある程度経験積んだら転職することで、経験の幅が広がると思います。

※CRO:製薬会社が医薬品開発の為に行う治験業務を受託・代行する企業。Contract Research Organizationの略。
※SMO:医療機関と契約し、治験業務を支援する企業。Site Management Organizationの略。

 

Q.なんとなく、これからの世の中は、「専門性」が大事なのかな、という気がしています。長尾さんも製薬関連の専門性をお持ちですが、これは初めから意図してそうしたのでしょうか。それとも、結果としてそうなったのでしょうか。

長尾さん回答:
私の場合は、薬学部卒業なので意図してというより、むしろ選択肢がなかったという表現があてはまります。就職活動していた25年前の当時を思い出しても、病院薬剤師か、企業(製薬/化粧品/食品)か、保健所を含む公務員などが大半を占めていました。現在のようにドラッグストアと呼ばれる業態は少なく、当時は「薬店」が一般的でしたし、医薬分業も低かったので、保険薬局に就職する人も今ほど多くありませんでした。そんな中、消去法で製薬企業を選んだことを覚えています。

このように考えると、早期に「専門性」を方向づけるのは、選択肢を狭めてしまうので、リスクの高い選択でした。当時の人気業界は、文系なら銀行や商社や旅行業界、理系なら総合電機や重工業が人気業界でしたので、医薬品業界は不人気であったと言ってもいいと思います。また、就活当時はバブル崩壊後で、就職氷河期と呼ばれ始めた時代でした。
そんな時代環境の中、運が良かったと思いますが、他の業界と比べても製薬企業には影響が少なかったのではないでしょうか。製薬企業を5社受けて、第一製薬に採用が決まったので、そこで就活は終了させています。

今思えば、医薬品業界を選んで良かったと思います。キャリアのスタートこそ、製薬企業ですが、今はIT業界に身を置き、IT業界の中でライフサイエンス&ヘルスケア領域での専門性を発揮しています。社会人経験25年の間に転職を重ね、企業数では5社目です。一つの専門性にこだわることなく、医薬品業界からIT業界に越境してしまいましたが、25年前には想像できなかった自分がここにいます。こんな人生もアリかと考えています。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

さらに今後、e-bookにて連載記事よりちょっとディープな質問にもお答えいただく予定です。公開まで今しばらくお待ちください。(8月公開予定です)

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長尾 剛司

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)ライフサイエンス事業部所属。 1972年生まれ、薬剤師、北里大学薬友会理事。 北里大学薬学部卒業後、第一製薬(現第一三共)入社。 MRを経て、マーケティング企画業務部門にて市場分析、販売促進、施策管理に従事。日本調剤へ転じ、処方せんデータ分析による医薬品の効果的な薬物療法推進や、QOL向上など調査・研究事業にかかわった。 その後、医薬情報コンサルティング企業であるIMSジャパン(現IQVIAソリューションズ ジャパン)にて、医療関連データの新規事業開発を担当し、薬局管理支援システムをローンチさせた。日本IBMへ転じ、ヘルスケア&ライフサイエンス事業部のシニア・マネージング・コンサルタントとしてデータアナリティクスや、AI構想策定支援などにかかわった。2018年8月より、現在のCTC ライフサイエンス事業部において、新規事業開発を含めた統括的なマネジメントを行っている。 また、学生向けの就職活動の業界研究講演や、業界エキスパートとしてアドバイスも行い、医薬品業界への橋渡しをしている。 著書:「よくわかる医薬品業界」(日本実業出版社)

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