ものづくりの世界のプロに聞く、「生産技術者の世界とは?」〜一般社団法人日本能率協会インタビュー・後編

あなたが手にしている製品の1つ1つは、必ず「企画〜研究・開発〜生産設計〜調達〜製造〜販売」というステップを踏み、世に出ています。この流れの中で、「生産設計〜製造」の間において、製品の品質を高め、安定的に供給するために欠かせないのが生産技術という役割です。

「ものづくりに携わりたい」という希望を持つ学生にとって、魅力的な選択肢の1つになっている生産技術職。しかし、その職域は多岐にわたり、なかなか外部からは実際の仕事は見えません。そこで今回は、一般社団法人日本能率協会*¹で、長年、生産技術の支援に携わってきた安部武一郎さんに日本のものづくりに欠かせない「生産技術職」と「生産技術者の仕事」についてうかがいました。

*¹ 同協会では、生産技術者向けの資格である生産技術者マネジメント資格(CPE)を運営。生産技術者として必要なマネジメントスキルを体系化している。

前編では、「生産技術職とは何か?」についてお届けしました。今回は、生産技術職の仕事とはどのような世界か、身につくスキルやキャリアについてもお伝えしたいと思います。 

生産技術者として活躍しているのは、どんな人たちですか?

生産技術者として活躍しているのは、どんな人たちですか?

これまで多くの生産技術者の方々にお会いしてきましたが、共通点がいくつかあります。それは、「好奇心が豊かであること」、「自分でモノを作るのが好きなこと」、「課題に直面したとき解決策を考えるのが得意なこと」、「モノが形作られる仕組みに興味があること」です。

生産技術の現場には、業務上、公にできない技術・知識が多く、いざその仕事に携わってみて初めて触れることとなる、新しい発見が多々あります。そういった刺激に喜びを感じられる人は、生産技術者として活躍できるはずです。

また、理系文系で言えば、工学部出身者など、理系の方が多く活躍しているのはたしかです。ただし、生産技術者は関わる業務、部門の範囲が非常に広い仕事なので、文系出身者も自分の得意とする分野を十分に活かすことができます。

 

生産技術者を目指す上で、学生時代に積んでおいた方がいい経験は?

一般的な返答になりますが、アルバイト経験、留学などでの語学力の向上は必ず役立ちます。というのは、活躍されている生産技術者の方々は、自分の専門とは別にもう1つ魅力的な何かをお持ちです。

それはコミュニケーション力、語学力、好奇心など、ご本人のキャラクターに紐付いたもの。学生時代にさまざまな経験を積むことは、仕事に関係あるなしにかかわらず、本人の魅力を高めてくれると思います。

もう1つ個人的にオススメできるのは、工場見学です。今は多くの企業の工場が見学可能になっています。なかにはみせる工場を作ることで、ブランディングを行う企業もあるくらいです。

生産技術という観点から工場見学を行ってみると、これまでとは違う発見が多々あるのではないでしょうか。

 

生産技術者として入社した場合、どのようなキャリアが待っていますか?

会社の方針によって異なりますが、3ヶ月から半年は現場に出て、工場で仕事をする一種の修行期間が待っています。新人時代の感じ方はそれぞれのようですが、活躍されている生産技術者の方々に聞くと、「とても意義深い時間だった」と振り返る方が大半です。

というのも、生産技術の世界には「三現主義」という言葉があります。これは「現地、現物、現実。三現を大事にしなさい」というメッセージで、ものづくりの課題も改善のアイデアも現場で生まれるという意味合いが込められています。

新人時代に現場に出て、手を使い、工場を動かす人たちとモノを作ることで、部品1つ1つの重さ、物質を反応させる装置が放つ熱、工具を扱う際の危険度など、現地、現物、現実から多くのことを学ぶことができるはずです。

また、若手時代に交流した方々とは、本人が一人前の生産技術者となって工程を設計したとき、正直に意見交換のできる関係を築くことができます。

 

社会人として自分を成長させることができますか?

社会人として自分を成長させることができますか?

もちろんです。生産技術の現場には、業界業種、会社別に独特の手法、知恵があります。これは現場で培われ、引き継がれた秘伝のタレのようなもの。社会人として仕事を通して学べることは非常に多く、若手にとって得るものしかないと断言できます。

しかも、社内のハブとしてさまざまな部署の人たちと仕事をしますので、確実に社会人としてのスキルも磨き上げられていきます。

生産技術者はサッカーで例えるなら、ボランチ。野球ならば、キャッチャーといった玄人受けするポジション。扇の要として組織を支え、社内と市場をダイレクトに繋ぐ最後の砦です。

 

生産技術者の属する部署はなんと呼ばれていますか?

一般的に生産技術部と呼ばれることが多いと思います。

ちなみに、本社側に生産技術部門があり、工場にも生産技術部門があります。それぞれの違いは、前者の生産技術部は将来に向けたものづくりの方法や工場のデザインなどを行い、後者は現場で見つかる日々の改善などを行っていくイメージです。

 

生産技術者のキャリアアップのイメージを教えていただけますか?

入社5年目までは、配属された先で専門性を高めていくのが一般的です。その後、海外への赴任、他部署への異動などで経験を積み、一人前の生産技術者となっていきます。そして、10年目を目処にマネジメント職、その先に工場長などの役職に就くというイメージでしょうか。

その後は経験を生かして、材料工学の研究分野に進まれる方、海外での新規工場の立ち上げに工場長として参画される方、本社で経営層に加わっていく方、大学の講師となって後進を育てる立場となる方、本当にさまざまです。

生産技術部門は地道に力を蓄積していく部署で、本業にブレがないかぎり、大きな浮き沈みなく堅実に仕事ができる環境です。生産技術者の方々は転職を繰り返されるタイプよりも、1つの会社でじっくりと腰を据えて仕事をされるタイプの方が多いイメージがあります。

 

生産技術者の喜びは?

生産技術者の喜びは?

どの生産技術者の方に聞いても、「工場の何もなかったスペースに、自分の設計による製造ラインができあがったとき」に最高の喜びを感じると言います。

とはいえ、ラインを一通り任されるまでには、20年近い経験が必要です。

5年目以降は、ラインの中の1つの工程を任されますが、工場のそのもの新設や新製品の製造ライン全体を任されるのは、ベテランのみ。設備投資にかかる額、ラインが動き出してからの社内外に対する責任の重さを考えると、それだけの任を果たすに足る経験が求められるのです。

 

生産技術者を目指す人たちにメッセージをいただけますか?

もし、10代、20代の方々が今の時代を不確実な社会環境にあると感じているとしたら、生産技術者を目指すことが有意義なチャレンジになると思います。生産技術の現場には長年、積み重ねられてきた日本独自の強みがある一方で、デジタル技術が発達した中で従来型の生産技術ではない新たな取り組みを始めようという機運が高まっています。

そんな中、現場では多様な視点を持ち、生産技術を変えていく若い力を求めています。日本のものづくりのイノベーションは、そのまま世界を変える大きな潮流となっていくはずです。それを具現化するためには、新しい力が欠かせません。あなたが生産技術の世界を変えていってください。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
 

ものづくりの世界のプロに聞く、「生産技術職とは何か?」〜一般社団法人日本能率協会インタビュー・前編

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