スキルを磨く

2019/08/12

新連載のテーマは、「プロジェクトマネジメント」です。

プロジェクトマネジメントは、ロケットの打ち上げなどの極めて複雑なプロジェクトの成功率を上げるために編み出された技術、あるいは学問でもあります。

しかし、プロジェクトマネジメントの応用範囲は、そうした大きなプロジェクトだけでなく、仕事や研究、論文、アルバイト……等々、日々の私たちの活動にも及びます。

解説してくれたのは、コンサルティング会社や研究の場でバリバリと多くのことを成し遂げてきた、米澤創一さん。その核にある、最も重要な考え方を解説していただきます。

 

 

はじめに

この度、これから社会を動かしていく若者、学生のために、有益な情報、特にすぐに陳腐化するような情報ではなく、5年、10年と役立つものを伝えたいという主旨の依頼をされました。かねてから教育を通じて日本の未来を良くするために微力ながら貢献したいと思っている私は二つ返事でそれを受けることにしました。

私は27年近く、アクセンチュア株式会社という外資系のコンサルティング会社に勤め、そのキャリアの半分はマネジングディレクターとして様々な組織のリーダー、教育責任者、数多くのプロジェクト責任者などの様々な役割を担ってきました。また、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科にも設立時から関わっており、今は当研究科の特別招聘教授として教鞭をとっています。

アクセンチュア社での経験などに基づき、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科でプロジェクトマネジメントの授業、本質思考・本質把握力の強化、リーダーシップ論などの授業をし、それらの授業を元に「プロジェクトマネジメント的生活のススメ」(日経BP社)、「本質思考トレーニング」(日本経済新聞出版社)を上梓いたしました。それらの中では私の若い頃の苦労談なども紹介しています。
また、今回の企画に合致した陳腐化しない5年、10年と役立つ内容であると思っています。

今回は社会人になっても続ける意味のある習慣、特に若い時に習慣として身につけておくことでより人生を楽しむことが可能となるものを、私の専門分野の一つであるプロジェクトマネジメントの観点からご紹介したいと思っています。

また、プロジェクトマネジメントを正しく理解するためにも必須となる力である「本質把握力」、さらに正しく問題を把握するために重要な思考習慣である「本質思考」についても、陥りやすい思考のワナを紹介する形でお伝えしたいと思います。

 

プロジェクトマネジメントとは?

学生の皆さんも「プロジェクトマネジメント」という言葉は聞いたことがあるかと思います。多くの方々は、社会人になってから、それも国家とか企業の行うプロジェクトに携わる人達だけが知っているべきことで自分とは無関係と思っているのではないでしょうか?

結論から先に言います。それは誤解です。
一言で言うと「プロジェクトマネジメント」とは「やりたいことを上手くいかせるためのノウハウ」なのです。
この世に生を受け、生活している以上、我々には何がしか「やりたいこと」はあるはずです。そして、同時にそれに関係する「お金」だったり、「時間」だったり、「協力してくれる人」だったり、「道具」だったり、が存在します。全てが満たされていることの方が稀で、お金が足りなかったり、時間が足りなかったりと制約条件も存在します。いわゆる「プロジェクト」も全く同じです。国家や大企業が大々的に「〇〇プロジェクト」と名付け行っているものと、皆さんが日頃「これをXXXまでにやりたいなぁ」と思っていることは、規模の差はあれ、特徴はほぼ同じなのです。そして、それらをうまくいくようにすることが「プロジェクトマネジメント」であり、それらを実現する技術を「プロジェクトマネジメントスキル」と呼んでいると思ってください。

いわゆる専門家団体の定義には「プロジェクト」や「プロジェクトマネジメント」の厳密なものがありますが、私はまずはそれには囚われず、広く「プロジェクト」=「期限が明確に決まっているやりたいこと」ととらえ、「プロジェクトマネジメント」=「そのやりたいことを上手くいかせるためのノウハウ」と捉えてもらって良いと思っています。

プロジェクトマネジメントの専門書には様々な要素が書かれています。そもそものプロジェクトの成功の定義でもある「スケジュール」「コスト」「品質」「対象」に関わるもの、プロジェクトが人間による営みであることから重視すべき「コミュニケーション」「ステークホルダー」に関わるもの、そして、プロジェクトを進めるにあたって必要な「資源」「調達」に関わるもの、そしてどの領域にも当てはまる「リスク」に関わるものなどが挙げられています。それぞれを学ぶことはとても意味があることですが、当コラムは「超入門」の位置づけなので、本当に基本的なことだけにフォーカスして話を進めたいと思います。

私自身、プロジェクトマネジメントに長く携わり、それらを生活にも適用した結果、良い方向に進めたという経験もあり、堅苦しい定義に囚われることなく、日々の生活の中でプロジェクトマネジメントスキルを活かし、磨くことをおススメしたく思います。

 

プロジェクトマネジメントの基本的なサイクル

プロジェクトマネジメントの基本的なサイクルを表した図です。この図はプロジェクトマネジメントだけではなく、多くの事柄に適用できます。ぜひ、理解し、活用できるようになって頂きたく思います。

まず、この図の中の「計画」とは必ずしも形になった計画になっている必要はありません。「あるべき姿」と読み替えることも可能です。また、「計画」は「なりたい状態」、「実績」をやる前の「現状」と捉えることも可能です。

つまり、まさに「やりたいこと」の理想的な形であり、その「やりたいことをした結果、得られる状態」です。
なぜそれをやりたいと思うのか、結局何が目的なのか、も計画の一部です。

これをきちんと考えるためには「本質把握力」が必要となります。これについては次回以降について詳しく説明するので、今回はまずその「計画」、つまり「やりたいこと」「あるべき姿」があるという前提から開始します。

「実績」とはその「やりたいこと」を実際にやってみた結果です。当初の思い通り、やりたいことができ、それにかかる費用も予想通りになり、やりたいことがやりたいタイミングにでき、終えることができれば、概ね、計画通りということができます。一方、やってみたら、思ったより楽しくなかったり、お金がかかりすぎたり、予想をはるかに超える混雑でやりたいタイミングにできなかったりしたら、それは計画と差があったことになります。
その計画と実績の差が「予実差異」です。「予実差異」は様々な理由で発生します。

「計画」自体がそもそも適切ではないことが理由で起こる「予実差異」もあれば、適切に進めていれば計画通りになったのに、進め方の問題があり「予実差異」が発生することもあります。

例えば、無駄遣いをした結果、予算オーバーをしてしまったのであれば、進め方の問題、つまり「実績」の方に問題があったことになります。一方、そもそもそんな価格では購入することができないような予算設定だった結果、無駄遣いもしていないのに予算オーバーしてしまったような場合は、「計画」の方に問題があったことになります。

ここで注意しなければいけないのは、改善案は予実差異の「原因」に対して打つ必要があるという事です。予実差異自体に手を打っても、根本原因が取り除かれていなければ、問題は再発することになるでしょう。咳が出続けるという状態は、本来あるべき「咳が出ない」という状態と予実差異があります。そこで、その咳を止めるために咳止めを飲むということは、予実差異そのものに手を打ったことになります。しかし、咳が出る原因が病気だったり、アレルギーだったりすると、その病気を治したり、アレルギーの原因となるものを取り除かない限り、薬の効果が切れたらまた咳が出ることになります。対策すべき対象は、咳の原因でなければなりません。

そこで「予実差異」がなぜ起きたかを分析する必要があります。これをプロジェクトマネジメントでは根本原因分析/根本原因解析(通称RCA=Root Cause Analysis)と呼びます。RCAを行った結果、見いだされた根本原因に対して、施策(改善案)を打つわけです。改善案は新たな計画の中に埋め込まれます。そして、改善案を行った結果を測定し、本当に状況が改善され「予実差異」がなくなっているかどうかを確認してはじめて問題解決したことになります。

この一連の流れが「プロジェクトマネジメントの基本的なサイクル」です。
実は、このサイクルを適切に回せないために多くの問題が起こっています。「計画」を適切に作ることはとても重要です。そのために必要なスキルも多くあります。ただ、私の経験上、この「計画」が一切ないということは珍しいです。不十分なことはありますが、まるで無いということは滅多にありません。ところが、「実績」については、把握できていないことが多いように思います。自分ではわかっているつもりになっている人はたくさんいます。しかし、実際はそれまでの習慣を何となくわかったような気になっているだけで、分析に足る情報が得られていることはまずありません。我々は想像以上に「実績」を把握できていないのです。

「実績」が正しく把握できていないと当然、「予実差異」も正しく把握できません。「予実差異」を正しく把握できなければ、それがなぜ起こったかの根本原因分析/根本原因解析(以下RCA)が正しくできる可能性は低くなります。根本原因が誤っていれば、それに対しての施策が適切になる可能性も限りなく低くなります。
RCAを正しくするスキル、根本原因に対して適切な施策を考えるスキルも重要ですが、「実績」を正しく把握できなければそれらも宝の持ち腐れです。
また、「計画」を立てる時にも「実績」は重要です。何かの計画を立てる時、かつての経験=実績が参考になることは多いのはわかりやすいと思います。まずはこの「実績」を把握する習慣の重要性についてお伝えしたいと思います。

 

生活における『プロジェクト』とその『実績』の把握

我々の日常生活の中での「やりたいこと」を全てプロジェクトと仮定してみましょう。あなたは一週間の間に少なくとも数個のプロジェクトを実行することになります。「先週の授業で出された課題のレポートを明日の2限目の授業で提出し、合格点を取るプロジェクト」だったり、「来月の合コンまでにXXXという歌をカラオケ精密採点で90点以上取れるようになるプロジェクト」だったり、「次のバイトの給料日までに3000円の食費で乗り切るプロジェクト」だったりします。そのどれもが期日や予算、成し遂げたい目標があり、様々な制約条件があります。もっと言えば、毎日ある授業に出席し、その内容を理解することも期日と理解レベルを定義すればプロジェクト化することが可能です。何気なく食べているランチだって、「健康のためにバランスよく栄養素を摂り、予算がXXX円以内で、移動時間含めて30分以内に食べ終わることができるようにする」というプロジェクトにすることが可能です(何のためにそのプロジェクトをやるかということは計画の中で明確にする必要がありますが…)。極論すれば、我々の日常は小さなプロジェクトの連続だとも言えます。
さて、我々はそれらの小さなプロジェクトの結果がどうだったかの記録をしているでしょうか?

ほとんどの場合、Noだと思います。手帳に予定を書き込んでいる人は多くいらっしゃると思いますが、その結果がどうだったのかを記録している人は十人に一人もいないと思います。手帳に書いている予定の時間にその予定を実行していたとしても、その内容が思い通りとは限りません。ぜひ、手帳を予定だけではなく、実績データの記録にも使ってみてください。

上記では手帳と書きましたが、記録の取り方は手帳に手書きでも良いですし、スマホのカレンダーに入力しても、パソコンで表計算ソフト等に入力しても構いません。私自身はアナログに手帳に情報を書き込み、定期的に表計算ソフトに情報を入力し、分析しています。手帳の活用方法については拙著「プロジェクトマネジメント的生活のススメ」に詳しく書かれていますので参考にして頂ければ幸いです。
次回はいよいよ生活の中における具体的な「実績」とは何かをご紹介したいと思います。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
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米澤創一

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特別招聘教授。 プロジェクトマネジメントコンサルタント、人材育成コンサルタント、コーチ、メンター。 元アクセンチュア株式会社 マネジングディレクター。 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科設立の2008年から非常勤講師として教鞭をとっており、2017年より現職。プロジェクトマネジメントと心理学等を融合させ、より人間中心のプロジェクトマネジメントを追究している。また、より豊かで幸せな人生を送るために、プロジェクトマネジメントスキルを実生活にも活用することを提唱しており、その講義は人気講義として定着している。さらに物事の本質を把握する「本質把握力」、それを常に意識する思考習慣である「本質思考」を身につけることにより、誰もが陥ってしまう思考のワナを回避し、本質的な問題解決に導くという講義や「自律型組織におけるリーダーシップ」等の講義も圧倒的な支持を受けている。 これらの講義をもとに「プロジェクトマネジメント的生活のススメ」(日経BP社)、「本質思考トレーニング」(日本経済新聞出版社)を上梓。 約27年のアクセンチュア社でのキャリアのうち13年半の間、マネジングディレクターを務め、日本におけるプロジェクトマネジメントグループの統括、SAPプラットフォームの統括、教育責任者、品質管理責任者、グローバルのSAPプラットフォームにおける教育責任者などを歴任し、国内だけではなく、グローバル組織のリーダーシップの役割も務めた。 プロジェクトマネジメント、システム開発方法論・ソフトウェア工学などの専門性を活かした大規模かつ複雑な難易度の高いプロジェクト・プログラムのマネジメント、組織運営、組織開発、組織として取り組むべき技術の選定、アライアンスとの関係強化、教育体制の強化、品質保証体制の確立など数多くの実績がある。 アクセンチュア社での数多くの経験と慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科での研究をもとに、より幸せになるための極意を追究し続けている。 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科での活動以外にも、講演、セミナー、プロジェクトマネジメントコンサルタント、人材育成コンサルタント、経営者から若い世代に至るまで幅広くメンター、コーチを行っている。 美味しいお酒(特に日本酒、ワイン)、美味しい食事が大好き。自身で料理や燻製作りを行う。ゴルフ、ダーツ、映画鑑賞、音楽鑑賞、読書、美術館・博物館巡り、ボードゲーム、クイズ・パズル、カラオケなど非常に多趣味であり、凝り性。 「教育と日本文化の振興を通じて50年後の日本をより良くする」、「縁ある人々をできるだけたくさん幸せに導く」というのが自身のミッションステートメントであり、「人生の目的は幸せになること」、「縁を大切にする」というのが信条。

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