仕事を知る

2021/05/27

コロナ禍の1年、新入社員研修をはじめとしたさまざまな学びの場がオンラインに移行しました。
対面で指導社員から仕事を教わる従来型のOJTに比べ、オンライン研修では相手の反応から求めていることを汲み取ったり、その場で見よう見まねで学ぶことが難しい印象を受けます。

実際に状況の変化に対応し、新しい形の新人若手育成プログラムを開発・提供してきたリクルートマネジメントソリューションズ主任研究員・桑原正義さんに現場で起きていることについてインタビューをしました。

後編のキーワードは、「自分のスタイル」と「学びのコミュニティ」。オンラインでの研修、ミーティングが当たり前になった今、どのように一人前の仕事の仕方を身に付けていけばいいのでしょうか。

前編はこちら
この先、新人は企業から何を求められていくようになりますか?正解の見えにくい「VUCA」の時代が私たちに与える影響【リクルートMS桑原正義さんインタビュー:前編】
 

取材協力:
リクルートマネジメントソリューションズ
主任研究員 桑原 正義さん
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、2015年よりトレーニング商品の開発に携わる。新人若手育成を専門領域とし、10年以上のコンサルティング経験を土台に、これからの時代の育成や学習手法の研究開発に取り組んでいる。

 

1年間の実践から見えてきたオンラインでの新人研修のメリット、デメリット

 
──コロナ禍によって新人や若手向けの研修がオンライン、リモートに移行しました。1年経過してどんなメリット、デメリットを感じていますか?

総括すると、メリットのほうが大きいですね。特に学習に関していえば、ほぼネガティブな声は上がってきていません。

 
──意外です。

オンラインに切り替えた当初のドタバタを思うと、私たちも意外な結果でした。ただ、新人研修や人材育成を担当する人事担当者の多くの人が、1年を振り返って「オンラインは思ったよりも学びの場になっている」と総括されています。

ここには2つの理由があると分析しています。1つは、ミレニアルズ、ジェネレーションZと呼ばれる新人世代はデジタルネイティブなので、フラットなやり取りが可能なオンライン空間は、非常に相性が良かった点です。

*ミレニアルズ(1980〜2000年前後生まれ)、ジェネレーションZ(1990年代後半〜生まれ)

この世代が苦手としていることの1つが、素を出すことです。「人からどう見られるか」「正解とズレたことを言うと恥ずかしい」といった意識が、前編でお話した「Try&Learn」を邪魔して、せっかく持っている能力をなかなか発揮できないケースが見られます。
その点、オンライン空間は気を使う要素が減り、集合、対面で研修をやっていたときよりも1人1人の発言、行動が出やすい傾向がありました。つまり、Tryが生まれやすいのです。

 
──心理的安全性が高い環境なのかもしれませんね。

そうですね。例えば、集合、対面の場合、講師が前に立っただけで「あ、先生がきた」と思い、素を出しにくくなってしまうわけです。ところが、オンラインでは講師が画面に占める割合は小さく、参加者の1人となります。これが心理的にリラックスできる要因となり、チャット機能を通じての発言が活発になっていきます。

チャットでの発言は立派なTryの1つで、講師が「みなさんどう思われますか? みなさんだったらこの場面でどう動きますか? 何が難しいと感じますか?」と問いかけたとき、集合、対面ではなかなかリアクションがありません。でも、オンラインで「チャットに書いてみてください」と投げかけると、バーッと意見が出るわけです。

そして、これもオンラインのメリットですが、発言者1人の意見だけでなく、全員分の意見も並行して見ることができます。すると、「同じ環境なのに、こんな考え方をしている人がいるのだな」という発見もあり、相手から学ぶと同時に、客観的に自分の特徴を見ることにもつながります。

 
──なるほど。

仲間からの刺激を受けてアクションを起こす。つまり、学び合いが起きやすいのですね。こうした『フラットな学び合い』は新人世代の強みですし、オンラインではそれが大いに生きるのだと思います。

 
──デメリットに関する声はないのでしょうか?

オンライン空間での課題として最も多く上がってくるのは「同期の関係が作れない」ですね。実際に一度も会ったことのない相手に何かを相談したり、仕事の悩みを打ち明けたりするのは難しい、と。対面、集合のときはその場で会った先輩や上司、同期と自然に関係性ができますが、オンラインではそこまでの関係性ができないため、同期にも相談できず抱え込んでしまうケースが出てきていると聞いています。

 
──仲間意識が生まれにくいのかもしれませんね。

そうですね。1回だけでも実際に会うと印象は大きく変わりますから。そこで、21年度のオンライン研修に関しては、「初回だけはなるべく対面、集合で」をお勧めしていました。

 

自分のスタイルや持ち味を大切にしながら、上司や先輩の経験から学び、目的地に向かう

 
──コロナ禍の収束が見えたとしても、オンラインを1つの軸とした研修の形や働き方は定着していくと思いますか?

この流れは不可逆的だと思います。コロナ禍は変化のスピードを上げただけで、働き方改革は進んでいましたし、デジタルネイティブな世代が社内に増えていくなかで、働き方はより多様になっていくはずです。

また、仕事に対する価値観においても今後は「自分自身の満足感」や「自分らしく生きていくこと」を重視する人たちが、どんどん社会に出てきます。従来、正しいとされてきたマニュアルや仕事の進め方のルールに新入社員や若手社員を当てはめていくようなやり方では限界があります。彼らの価値観を理解し、その持ち味が最大限発揮される環境を作っていくことが必要です。

ミレニアルズよりも上の世代はこうした時代の変化をとらえて考え方や捉え方、価値観をアップデートしていくことが大事でしょうし、若い世代は組織の中で自分らしさや持ち味を発揮していくための自分のスタイルを磨き築いていくことで、より充実した仕事人生をおくる人が増えていくのだと思います。

 
──今後はオンラインでの学びが当たり前になっていくのかと思います。そこで、役立つ「学び方」についてアドバイスをいただけますか。

2つのポイントがあります。1つ目は自分のスタイルを持つこと。2つ目は学びのコミュニティを持つことです。

コロナ禍の1年を通じて私たちが感じたのは、従来型のOJTだけに頼れない時代になってきたということです。就職すると、そこにはその職場のやり方や会社のルールがあり、これまではOJTを通してそれを徹底的に仕込まれていったわけですよね。

でも、それだけでは限界がくる中で、これからは新人や若手が持っているスタイルや持ち味を生かす方向、彼らが自分で動き、学んでいくスタイルへと育成の世界はシフトしていきます。

 
──なかなかの難問のように思います。

全てを変えるわけではなくて、「仕事が一人前にできるようになる」「信頼と成果を上げられるビジネスパーソンになる」という目的地はこれまでと変わりません。その目的地への行き方についてアップデートしていきましょうということです。今までは上司や先輩指導社員たちが導いてくれたかもしれません。でもそれが、VUCAの時代には最適ルートとは限らなくなっています。OJTが機能していたとしても、上司や先輩たちの経験を伝え学ぶだけでは、正解のない環境に対処できなくなっていく可能性があります。

大事なのは目的を達成すること。そのためのルートは自由で、本人の得意や進めやすいやり方でもいいわけです。上司や指導を担当する社員には「やきもきするかもしれませんが、新入社員や若手社員が自ら動き、試行錯誤しているなら見守っていきましょう」と伝えています。すると、設定以上の目標を達成する新人が出てきたり、予想外のアプローチで問題を解決してしまう若手が出てきたりといった現象が起きるからです。

私たちも新人若手領域の研修では、彼らのスタイルや持ち味を活用させてもらっています。一旦、手放して見守っていると、思いもよらない発想や意見を持ってきてくれ、こちらが新人若手から学ばせてもらうことも多いです。

 
──自分らしさやスタイルにこだわりを持とう、ということでしょうか。

そうですね。ただ、これは自分らしさだけを貫こうというメッセージではありません。
上司や先輩の経験から学び、視野を広げ、別のルートから目的地に向かう。一度、選択してみたやり方でうまくいかなかったとき、振り返ってチョイスし直す。軸に自分のスタイルや持ち味を据えながら、「Try&Learn」を繰り返していく。

つまり、自分のスタイルや持ち味を大切にしながらも、そこに固執しすぎず、時には別の選択肢も持てる柔らかさを育んでもらいたいですね。まだまだ自分でも気づいていない力や可能性もありますし、自分らしさというのは固定ではなく、広げていくこともできますし、そのほうが人生をより豊かにしていけると思うのです。

 

社内、他部署、社外、業種、年齢といった枠を超えフラットに学び合えるコミュニティを広げていく

 
──2つ目のポイントとして挙げられていた「学びのコミュニティを持つこと」とはどういったことでしょうか?

上司、先輩、同期、さらには大学時代の友人、知人。参加したセミナーで出会った他業種の社会人など、気軽に話せるコミュニティを持ちましょう。これが可能になったのもオンライン環境のメリットの1つです。

オンラインでは、社内、他部署、社外、業種、年齢といった枠を超えることができます。リアルで集まろうとすると調整が大変ですが、「この時間帯で少し相談に乗ってもらえませんか」「この日のこの時間に集まれる人だけで集まって、ちょっとおしゃべりしましょう」といったコミュニケーションが対面よりも気軽に実現できるわけです。

私たちの会社では、 “よもやま”という名前を付けて職場の枠を超えた人間が集まり、軽く話し合う場があります。そういった気軽なコミュニティがあると、「Try&Learn」のサイクルも、自職場にはない視点や知識も入ってきて、より有効に回るようになります。

「こんなときはどうしていますか?」「こんなやり方をしてきたよ」といった具合です。オンライン上のコミュニティで聞いたことを職場で実践してみるといった自律的な学習もやりやすくなるはずです。

 
──たしかに、オンラインであれば社外の人とのつながりも作りやすいですし、維持もしやすいですね。

興味のあるサークル、関心のあるテーマを扱うイベントや勉強会に顔を出してみる。これも今、ほぼオンライン開催ですから気軽に飛び込むことができます。そして、そこで出会った人とSNSでつながり、関係を深めていくこともできますよね。

実際、今の若い人たちは学生時代からネットも含めてフットワーク軽く動いている人がいますし、遠慮がある人も、ちょっと経験をして慣れればどんどん動いていくなと感じてます

例えば自社の新入社員の話ですが、ある日チャットで「1回お話したいと思っていました。空いている時間に話せますか?」と連絡をくれた人がいました。そこで「そういう内容なら、社長にも話してみたらいいんじゃないの?」と言うと、「いいんですか!?社長に話して」「社長はそういうの好きだよ」とやりとりした結果、「勇気を出してやってみます」と社長にメールでアプローチ。結果的に同期5人を誘って社長と食事に行くことになった、という話を聞きました。こういうつながり方、学び方は、私たちの世代よりも今の若い人たちのほうがはるかに上手だと思います。

 
──自分の軸をしっかりと持ちながら、それを生かしていけるコミュニティとつながることができれば、どんな状況下でも前向きに仕事ができそうですね。

多くの組織が、社員一人ひとりのスタイルや持ち味を生かしていくことが結果につながると気づき始めています。また自分のスタイルがある人は、不確実性が高く、正解のない時代でも足を止めずに行動し続けるしたたかさを発揮します。

仕事とは、与えられた課題について応えるもの、しんどいのが当たり前で踏ん張るもの……といった認識は古くなりつつあります。今後は、「一人ひとりの考えや価値観を尊重する」スタンスが定着し、それが新しい発想やイノベーションを生み出していくはずです。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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