スキルを磨く

2021/09/29

「論理的に考えられること」は、仕事はもちろん、あらゆる場面で役に立ちます。そんな論理的思考に関する数ある情報のなかでも、もっとも“サイエンス”的かつ実践的にまとまっていると編集部が考えるのが、書籍『論理的思考のコアスキル』です。

著者の波頭亮さんに、そもそも論理的に考えることとは何なのか、 そして論理的思考術を身につけることで世の中の“景色”がどう変わるのかを伺いました。

 

取材協力:
株式会社XEED 代表
波頭 亮さん
 
東京大学経済学部(マクロ経済理論及び経営戦略論専攻)を卒業後、マッキンゼー&カンパニー入社。
1988年独立、経営コンサルティング会社(株)XEEDを設立。
幅広い分野における戦略系コンサルティングの第一人者として活躍を続ける一方、明快で斬新なビジョンを提起するソシオエコノミストとしても注目されている。

 

実生活では「100%正しいこと」は少ない

 
──そもそも「論理的である」とは、どういう状態でしょう?

それに知るには、まず「論理」とは何か考える必要があります。「論理は何か」と言うと一見難しそうですが、実はいたってシンプルで「根拠に基づいて結論が成立している命題構造」のことです。平たく言えば、結論に理由があるということですね。

ただしそれが「論理的である」と認められるためには、根拠に「説得力」や「確からしさ」が求められます。たとえば「Aさんは、早起きだから、頭がいい」という論理は、根拠は示されているけど、説得力や確からしさは弱いですよね。だから論理的だとは認められません。要するに、言っていることに、きちんと説得力のある理由がついていること。それが論理的であるということです。

論理的であることの確率を突き詰めたのが、数学的あるいは記号論理学的に正しい論理です。要は計算によって解が求められたり、命題の包含関係が一義的に決まる、厳密な正しさですね。とはいえ、実はそういった数学的、論理学的な正しさは、実際の仕事や生活ではあまり意味がないのです。

 
──なぜ意味がないのでしょう?

実生活で論理的思考を行う場合、その結論が100%正しいとか、100%誤っているとか言い切れるケースはほとんどありません。現実的な事象は、いろいろな要因が複雑にからみあっていて、完全には白黒つけられないことが圧倒的に多いからです。

だから実際は、現実的な事象や社会的確率と照らし合わせて「蓋然性(がいぜんせい)」(※確実性の度合い)の高さで判断していくことになります。その際、大きな支えとなるのが、確率や統計です。確率や統計を利用することで、たとえ100%でなくとも論理の正しさの度合いを高められるのです。

それともうひとつ、論理的に考えるために非常に重要となるのが、「タテの因果」と「ヨコの因果」の両方を意識することです。

 
──タテの因果とヨコの因果とはどういったことですか?

ものごとの因果を掘り下げるには、「なぜ?」を繰り返すことが、ひとつの方法になります。

 

なぜ論理性の低いものが世に受け入れられるか

たとえば「仕事の商談に遅刻した」という問題が生じたのなら、その原因を「寝坊したから」と推測し、さらには寝坊の原因を「寝る前にマンガを読み出し、夜ふかししたから」、寝る前にマンガを読み出した原因を「やめられなくなることを予想できなかった見通しの甘さ」…とどんどん原因を深掘りしていきます。これが「タテの因果」です。

論理とは、結論が根拠に基づいていることなので、論理的思考はこうして「なぜ」と問う姿勢が基本になります。有名な「なぜなぜを5回繰り返す」アプローチ法は、まさにその姿勢を身につけるためのものです。

ただし現実の事象は、原因がひとつではないことがほとんどです。たとえば寝坊の原因はマンガを読んでしまったこと以外にも、アラームをセットし忘れた、疲れがたまっていた、商談相手がなじみの会社だったので油断した、といったものもあるかもしれません。これが「ヨコの因果」です。こうしたヨコの因果も捉えられないと、対策をするにも「前日にマンガを読まない」といったものだけになり、他の原因への対処ができなくなります。

 
──たしかにそうですね。

だからこそ論理的思考の精度を高めるには、現実の事象はタテとヨコの因果が複雑に入り組んでいることを前提とし、その両方をなるべく捉えようとする視点を持つことが大切になるのです。

世の中には、ひとつの原因だけにフォーカスし、それでゴリゴリ論理展開しようとする人も少なくありません。その方がわかりやすくて、世に受け入れられやすいのですよね。

それこそ政治家の演説はそうした論理展開の方が聴衆に響きやすいでしょうし、書籍なんかでも、たとえば「早起きすれば金持ちになれる」といったシンプルな論理展開のものがよく売れます。もちろん根拠が確かなものもあるでしょうが、「でも冷静に考えたら、きっと原因はそれだけじゃないよね?」といった目を持てることが、論理的であることです。

 

“「ここぞ」という決断”の精度を高めるために論理的思考がある

 
──世の中には「論理的ではないこと」も、たくさんある、と。

合理的なビジネスを展開して莫大な収益をあげる企業でさえ、論理的に妥当ではない意思決定をたくさんします。人間はそれくらい、意思決定や判断においては不完全なのですよね。だからこそ、今後を大きく左右するような重要な局面では、論理的で蓋然性の高い意思決定を意識的に行い、うまくいく可能性をできるだけ高める。そのために論理的思考があるのです。

したがって仕事にはもちろん、政治や政策の判断・評価をするにも、また自分の人生の選択をするにも、論理的思考は役に立ちます。論理的に考えられれば、論理的でない場合と比べて有効な答えや選択肢を得られる可能性が高まります。だからこそ多くの人が論理的思考力を求めるし、それに関する情報や書籍、セミナーが巷にたくさんあるのです。

 
──重要な意思決定の精度を高められるのは、とても大きなことですね。他に、論理的思考力を身につけることで得られるものはありますか?

ものごとを「解釈」しやすくなることです。何が起きていて、その背景には何があるのかが「分かる」ようになる。

この人はなんでこんなことを言っているのだろう? その裏にはどんな理由があるのか?その理由以外にも、実は表には見えていない原因があるのではないか? そういえば以前こんな事実や言動もあったな…、とか。

あるいは自分に何か困ったことが起きたときに、「なんでこんなことが起きたのだろう。普通に考えれば原因は●●だけど、その蓋然性は意外と低いかもしれない。実はタテにもヨコにももっと原因が複数あって、もっとも大きなファクターもそのなかにあるのではないか」とかですね。

要は、あらゆるものごとを「セルフチェック」できるようになる。これができると、世の中の景色は大きく変わります。

 

受講者のほぼ全員が、IQベースで20~40向上

 
──景色が変わるとは、どういうことですか?

それこそビジネスの現場では、会社が何かアクションする際の「表向きの理由」と「実際の理由」が、驚くほど違っていることがあります。組織として真に行うべきことと、個人の利害や損得は、常に一致するわけではないからです。

したがって表向きは「会社の利益のために」とうたいつつも、実は担当者の出世や保身が一番の目的であるケースも少なくありません。政治の現場や、国が何か大きな事業を行う際にも、そうした構図は往々にしてあるでしょう。論理的思考力があると、そうしたカラクリが見えてきます。

例えば、上司がなぜこんな非合理的なことを言い、こんな判断をするのかとか、会議のやりとりの裏にあるかけひきなどが、たくさん透けて見えてくる。要は世の中の本音と建前が、浮き彫りになるのです。

 
──確かに、世の中の“見え方”が大きく変わりそうですね。とはいえ、論理的思考ができるかできないかは、もともとの資質が大きそうな気もします。誰もがそうなれるものでしょうか?

地頭やIQといったものは、生まれつきのものと思われがちですが、私の経験からすると、まったくそうではありません。地頭やIQは、後からでも十分に伸ばせるのです。その理由や方法は後ほど話しますが(※後編で紹介します)、実際に私がこれまで行ってきた論理的思考力強化プロジェクトでは、受講者のほぼ全員がIQベースで20~40、偏差値ベースで10~20くらい向上しています。

それだけ論理的思考力の能力が上がると、本当に世の中の見え方が変わります。これまではひとつの情報に対して脳のシナプスの発火が3つくらいだったのが、パッと1000個くらい点くようなイメージです。ホタルが数匹飛ぶ感じだったのが、まるでスタジアムの照明のような点き方になるわけですね。論理的思考力の伸びと知的生産性は指数関数的な関係にあります。

ざっくりいうと、偏差値60の人がひと晩かけて理解することを、偏差値70の人なら10分くらいで分かるし、偏差値80の人なら1秒くらいで分かってしまいます。そこが知的生産性のすごいところです。アインシュタインやホーキングが1秒で分かることを、多くの人は100時間かけてもわからない。それだけ論理的思考力を獲得することによって高められる生産性は、ある意味「無限大」なのです。

 
後編では、「誰もが論理的思考力を身につけられる理由」と、実際に「何をどうすれば身につけられるか」に迫ります。

誰でも必ず「論理的」になれる理由 | 人生を変える論理的思考術【後編】

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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