スキルを磨く

2021/09/30

「論理的に考えられること」は、仕事ではもちろん、人生のあらゆる場面で役立ちます。したがって論理的思考術は、“一生モノ”のスキルとなり得ます。

後編も引き続き、『論理的思考のコアスキル』著者・波頭亮さんに話を伺いました。後編のテーマは『誰もが論理的思考術を身につけられる理由』と「実際に何をどうすれば身につけられるか」です。

※前編はこちら
重要な局面で最良の決断をするために | 人生を変える論理的思考術【前編】

 

取材協力:
株式会社XEED 代表
波頭 亮さん
 
東京大学経済学部(マクロ経済理論及び経営戦略論専攻)を卒業後、マッキンゼー&カンパニー入社。
1988年独立、経営コンサルティング会社(株)XEEDを設立。
幅広い分野における戦略系コンサルティングの第一人者として活躍を続ける一方、明快で斬新なビジョンを提起するソシオエコノミストとしても注目されている。

 

「考え方のフォーム」だから誰でも身につけられる

 
──前編で「論理的思考力は誰でも伸ばせる」とのお話がありましたが、その理由をお教えください。論理的思考力は、“生まれつき”で決まるものではないのでしょうか?

前編で述べたとおり「論理的」とは、結論に説得力のある根拠があることです。そして論理的思考力を身につけることとは、思考を論理的に展開するための「考え方のフォーム」を身につけることに他なりません。「フォーム」なので、練習すれば誰でもできるようになります。

 
──ご著書『論理的思考のコアスキル』では、「論理的思考に関する解説書やノウハウ本、研修はたくさんあるが、成功例の話はあまり聞かない」とも述べられています。それはなぜでしょう?

「こういうふうに考えましょう」とは教えるものの、どうすればそれが身につくかに言及しないことが多いからです。要はバッティングやゴルフの正しいフォームは教えてくれるけど、その身につけ方までにはコミットしてくれない。それこそ、いくらバッティングやゴルフの正しいフォームを教えられても、明日からいきなりできるようにはなりませんよね。

ではどうすれば、フォームを身につけられるか。それはひとえに、「時間をかけ、正しいフォームで反復練習すること」です。プロ野球選手やプロゴルファーで、反復練習をしていない人は皆無でしょう。何度も素振りをしたり、実際に球を打ったりするからこそ、正しいフォームを体に覚えさせられる。

論理的思考力も、それと同じです。時間はかかりますが、やれば誰でも必ず一定以上の力を身につけられる。そして、そのスキルは基本的に一生忘れません。

 
──論理的思考力を身につけるには、どれくらいの時間が必要ですか?

もし論理的思考のエキスパートを目指すなら、ざっと1万時間をかけるのが望ましいです。ただ1万時間というと、1日5時間・365日取り組んだとしても、5年半ほどかかります。仕事や他の勉強がある人にとっては、ちょっと現実的ではないかもしれません。

 

約300時間で「自分の頭がよくなった」と実感

そこで目指していただきたいのが、1000時間です。1万時間の1/10とはいえ、1000時間取り組めば、ビジネスの現場で周りから「頭のいい人」「論理的な人」と認めてもらえるレベルになると思います。

ただ、論理的思考力を体に染み込ませるには、トレーニングの「密度」も重要です。同じ1000時間でも、1日1時間やって3年かけるのと、1日3時間かけて1年で達成するのでは、成果が3倍以上変わってくる感覚です(もちろん、1日3時間で1年間の方が向上の度合いは大きいです)。それもあって私が開催する1000時間の論理的思考力強化プロジェクトでは、3ヶ月間で1000時間という集中トレーニングを行っています。

 
──1000時間でもハードルが高いと感じる人は、どうすればいいでしょう?

確かに仕事を持っている場合、1000時間もハードルが高いかもしれません。そんな場合は、まず「3ヶ月で300時間」を目標にしましょう。論理的思考力の場合、「自分の頭がよくなった」と成果を実感できるのは経験上、300時間を超えるあたりのことが多いからです。トレーニング密度をふまえると、1日3時間・3ヶ月で300時間を目安にするのがいいでしょう。

論理的思考力のトレーニングは、いわば「脳の筋トレ」です。正しいフォームで繰り返し練習することで、着実に力が伸びていきます。そのかわり、短期間で劇的に伸ばすことはできない。したがって、それこそ「結果にコミットする」ではないですが、正しいフォームを教えるだけでなく、「正しいフォームでやり続けさせられる」ところまでコミットするのが、本当にいい研修やセミナーだと思います。

 
──論理的思考力が高い人たちは、全員がそうしたトレーニングを経ているのでしょうか?

意図的にトレーニングをしたか、意図的でなくとも論理的思考の正しいフォームが身につく環境に身を置いていた人がほとんどでしょう。後者をたとえれば、幼少から野山を駆け回ったり、学校に自転車で長時間かけて通ったりしたことで、筋トレはしていないのに高い筋力がついている人ですね。

 

「言語化」できないと、思考すらも行えない

 
──では、論理的思考の「正しいフォーム」とは、具体的にどんなものですか?

論理的思考をうまく行うための主要なスキルに位置づけているのが、以下の3つです。

ひとつめは、思考内容を的確に言葉で表すための「適切な言語化」スキルです。五感を通じて得た情報やイメージは、的確な言葉で表せてこそ、思考という意味の加工プロセスに載せることができます。言葉は意味の容れ物であり、意味は言葉に載せることによって思考の材料となるのです。したがって「適切な言語化」は論理的思考を行ううえでもっとも基本的なコアスキルとなります。

ふたつめは、「分ける」スキルと「繋げる」スキルです。ものを理解するには、自分の知識や経験と照らし合わせられるよう、思考の対象を構成要素に分けるスキルが必要です。また「繋げる」とは、命題を意味的な連動性により次々と論理展開していくためのスキルです。

そしてみっつめが、「定量的な判断」のスキルです。実生活に関わる事象は、さまざまな因果関係が複雑に絡み合っていて、100%正しい・間違っていると結論づけられないことがほとんどです。その際には、蓋然性(※確実性の度合い)の高低で判断することになります。その支えとなるのが「定量的な判断」のスキルで、論理的思考に有効性を与えてくれるものです。

 
──ご著書『論理的思考のコアスキル』では具体的な練習内容として、事象と事象の関係性を円形の図で表す「ベン図」や、確率や統計データがない場合に確率論的・統計論的に思考を展開するための「フェルミ推定」などの活用が挙げられています。あらためて、論理的思考力を日々高めるためのポイントを教えてください。

「手を動かすこと」は、論理的思考を行ううえで、ひとつ重要なアクションとなります。人間の脳が同時に扱える情報量は、ごくわずかです。したがって複雑な思考を脳内だけで行うと間違いが起こりやすく、論理的ではなくなりがちです。それを大きく助けるのが、手で紙に書き出しながら考えることです。例えば372×659という計算は暗算でやろうとするとなかなかやっかいですが、筆算でやると簡単ですよね。人間の脳のワーキングメモリは意外に小さいので、要素に分けたり、因果の整理をする時に紙に書いたりすることはとても有効です。

それにより、「繋げる」「分ける」「いったんホールドする」といった処理が容易になり、さらには書かれたものを客観視し、論理的に判断することもできます。

 

知識はクラウド上ではなく“自らの中に保存”すべき

それと「ディスカッション」も、論理的思考のいいトレーニングになります。相手の話すことを論理的に解釈する能力と、自分の思考を論理的に展開する能力の両方が、同時に鍛えられるからです。

さらには、正しいフォームと同じくらい大切になるのが、「知識と経験」です。

 
──なぜ知識と経験が、それほど大切なのでしょう?

前述の論理的思考の主要スキルを充分に発揮するには、結局のところ、知識と経験が不可欠だからです。たとえば「適切な言語化」は、そもそも対象を適切に表す言葉を知らなければできません。また「分ける」と「繋げる」も、対象と照らし合わせて有効になる知識・経験がないと、何もできません。当然ながら「定量的な判断」にしても、対象に見合った定量的知識や、確率・統計の概念を知らなければ行えません。

したがって、「知識はその都度クラウド上にファイリングされていくので、自身で身につける必要はない」といった考え方は、論理的思考を行ううえではナンセンスです。知識を自身の脳にファイリングして常に使えるようにしておかないと、思考すら満足に行えないからです。

 
──最後に、これから論理的思考力を高めたいと思っている読者に向け、メッセージをお願いします。

前編でも触れましたが、現実的な論理的思考を行ううえで一番の肝となるのが、「タテ・ヨコの因果」を意識することと、「蓋然性の高低」を考えることです。現実世界でひとつの事象が起きる原因は、ひとつであることの方が稀で、実際は「理由の理由」「理由の理由の理由」とタテにどんどん連なっていたり、ひとつの原因のヨコに他の原因が複数あったりすることがほとんどです。

また現実的な論理的思考では、蓋然性で判断するケースが圧倒的に多いからこそ、確率や統計を活用して蓋然性の高低をきちんとふまえる。このふたつを心がけるだけで、論理的思考の精度は大きく上がるので、そこを意識的に行ってもらえればと思います。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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