就職活動で後悔しないために知っておきたい科学的知見とは? キャリア選択を科学的に分析したプロが伝える超実践的アドバイス

「『好き』を仕事に!」

「これから伸びる業種、業界に注目!」

「あなたの適性に合った会社選びを!」

就職活動中、転職活動中に一度は目にする、こうしたポジティブなキャッチコピー。たしかに、好きな仕事ならモチベーション高く取り組めそうで、伸びる業種、業界なら高収入と自己成長の両方が手に入り、適性に合った会社ならすぐに実力を発揮できるイメージが広がります。
好き、成長、適性を大切にした就活をすれば、幸せな社会人生活を踏み出せるはずです。

ところが、Google で「就活」と検索すると「つらい」「お祈り」「サイレント」などのネガティブなキーワードが並び、厚生労働省が調査を始めた90年代から現在まで、大卒新入社員の3年以内の離職率は30%を超え続けています。
なぜ、30%以上もの人が大変な思いをしながら決めた会社を3年以内に辞めてしまうのでしょうか。
原因は就活の現場で起きているミスマッチがあるようです。

そこで今回は、『4021の研究データが導き出す科学的な適職』の著者である鈴木祐さんに「後悔しない就活」についてインタビューしました。
10万本の科学論文と、600人を超える海外の学者や専門医に行った取材をベースに、職業選択や人間の幸福、意思決定を科学的に分析した鈴木さんが語る、「幸福な仕事選びのヒント」。そこには就活をポジティブに捉え直せる科学的知見が詰まっていました。

取材協力:

サイエンスライター

鈴木祐さん

1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」、ニコニコチャンネル「パレオチャンネル」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介。著書に『4021の研究データが導き出す科学的な適職』『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)などがある。

仕事から得られるポジティブな感情=幸福度が高くなる働き方とは?

 
──鈴木さんは最新作の『科学的な適職』で、「『好き』を仕事に!」「これから伸びる業種、業界に注目!」「あなたの適性に合った会社選びを!」という仕事選びでは幸せになれないと書かれていました。その理由はどこにあるのでしょうか?

『科学的な適職』では、その人に合った仕事である「適職」を「幸福度」という視点で定義していきました。これは今日、これからお伝えする話でも変わりません。
大切なのは本人が仕事をしていて幸せを感じられるかどうか……。
この視点を切り口に、膨大な数の研究論文を読み直し、専門家への聞き取りを行いました。
すると、はっきり見えてきたのが、「『好き』を仕事に」「これから伸びる業種、業界」「適性に合った会社」を基準に就職しても幸福度は上がらないというデータでした。
この3つのいずれかを重視して就職先、転職先を選んでも中長期的には後悔する可能性が高いのです。

 
──ちなみにに、幸せの定義は?

仕事から得られるポジティブな感情=幸せと捉えています。
たとえば、自分が有能であると感じられる、仲間とのつながりを感じられる、社会に貢献できていると感じられるなど、充実感の得られる状態が続くといったイメージです。

 
──そうなんですか。でも、一般的な就活サイトでは必ずと言っていいほど、「好きを仕事に」と勧めていますし、長らく好ましい考え方として掲げられてきました。それがあまり好ましい結果にならないというのは、どうしてなんでしょうか?

「好きを仕事に」を重視すると、本人の中で仕事や職場に対する理想が高くなってしまうんですね。しかし、社会人経験を少し積めば気づくとおり、どんなに華々しいイメージの業種でも実際の日々の仕事は地味な作業の積み重ねで成り立っています。退屈な会議もあります。必要性がわからない報告書も作らなくてはいけません。高い理想を持つ若手ほど、その差を実感したとき、心が折れてしまうんですよね。
その結果、モチベーションが低下し、離職してしまう。また、その場に残ってもスキルの成長が遅くなるという傾向が確認されています。
逆に「仕事は仕事だから」と割り切り、仕事や職場を理想化していない人の方がモチベーションも高く、スキルも向上するというデータがあります。

 
──好きかどうかは、さほど重要ではないんですね……。

そもそも、私が学生さんからよく聞かれるのは、「そもそも好きなことがないんです」という相談です。そのとき、最初に伝えるのは「当たり前だよ」ということ。人が何かを好きになるには、ある程度の努力をし、経験を積む時間が必要です。
何の経験もない状態で、仕事を好きにはなれるはずがありません。にもかかわらず、就活の序盤で自己分析などとともに、周囲から「好きを仕事に」とアドバイスされ、「ああ、私は好きなことがないダメな人間なんだ」と誤解してしまう。そんなつまらない理由でやる気を失うのはもったいないですから、「大前提として、好きなことはなくて当たり前」と考えましょう。

 
──そのアドバイスは励まされますね。

一方、実際に自分が今やっている仕事を「天職だ」と思っている人たちを調べた研究も複数あります。彼らは「好きを仕事に」して、なおかつ幸福度の高い人たちです。
じゃあ、どうやって天職にたどり着いたのか。その経路をたどっていくと、複雑な経歴を持っている人が大半でした。複数回転職している人、本業を持ちながら副業を行い、副業が別の本業に結びついた人、医師になる勉強をしていたのにIT業界に入った人など、働き始めた頃に就いていた職業の延長線上で天職と感じる仕事を手に入れた人はほとんどいません。
寄り道をして、いろいろなことに手を出し、経験を積んだ人が最終的に魅力的なキャリアに行き着いているという傾向がはっきりと出ています。
ですから、20代で「好きを仕事に」や「天職を見つけたい」と気負うことはありません。小さな実験を繰り返し、自分の幅を広げうち、できることの中に得意がみつかり、結果的に好きが仕事になっていくのだと思います。

 

面接で聞かれる定番の質問にも、自己分析ツールにも深い意味はない!?

 
──就活中、学生は自己分析やPRの仕方、学生時代に力を入れたことを何度も聞かれるなど、自分を掘り下げる系のタスクを多く課せられます。その結果、「自分が何をしたいのか、よくわからなくなった」という悩みに陥る人も少なくありません。もし、深く悩んでしまったときはどうしたらいいのでしょう?

じつは就活で使われる自己分析ツールには、ほぼ科学的根拠がありません。加えて、自己分析を行い、仕事の適性を測ることはできないという結論も出ています。
ただ、性格テストについては「ビッグファイブテスト」をはじめ、研究によって信ぴょう性が認められているテストがいくつかあります。ただ、たしかに性格の傾向はわかるものの、適職ツールには使えないんですね。

 
──どうしてですか? 性格によって向く仕事、向かない仕事もありそうですが……。

たとえば、ビッグファイブテストで誠実性が高い、感情の安定性が高いと診断された人は、事務職に就いても、セールスの仕事をしても、医師になっても、IT企業のエンジニアになっても、うまくいきます。なぜなら、誠実性と感情の安定性が高い人は、仕事への集中力が高く、ストレス耐性があり、どの業界でも成功する要素を備えているからです。
逆に感情の安定性が低く、誠実性も低いと診断された場合、どの業種でもなかなかうまくいかない可能性が高まります。
つまり、性格テストで見えてくるのは適職ではなく、働くことそのものとの相性です。性格テストを役立てるとしたら、「自分は感情の安定性が低いな……」とわかった場合、ストレス対策の方法を学んでおくなど、弱点をカバーする準備に使っていきましょう。

 
──面接で聞かれる定番の質問「学生時代に力を入れたこと」は、本人の得意や強みを探る意味があるのかなと思います。うまく答えるため、頭を悩ませる学生も多いようですが、得意や強みは仕事に生きるのでしょうか?

ある程度、経験を積んだ後であれば、本人の得意なこと、強みだと考えている能力が評価され、役立つ場面も出てくると思います。ただ、新卒での就活を考えると、自分の得意や強みを探し、それにあった業種を目指すのはあまりオススメできません。
というのも、学生時代に培った得意や強みを武器に就職先を見つけても、必ずそこにはより力を持った先輩がいます。すると、評価されるはずだったスキルが陳腐化してしまうわけです。これは本人にとってショックですし、思い描いたような活躍ができずに落ち込んでしまうことにもなります。

 
──先輩の方が戦力になり、仕事ができるのは当然ですよね。となると、得意なことがある、強みがあると思うとその分、辛くなるんでしょうか?

それが自分の武器だと過信しないことですね。そのうえで、「比較優位」という考え方を持つといいと思います。

 
──比較優位?

たとえば、自分より何でもできる先輩がいても、その人がすべての作業を担うのは効率が悪いですよね。だから、先輩のできない部分を自分が受け持つんだ、と。そのうち受け持っていた部分に関しては、先輩よりも詳しく、優秀になれる、と。これが比較優位の考え方です。
この考え方を身につければ、どんな職場でも自分のポジションを見つけて活躍できるようになります。また、職場の外で副業をするときも役立つ考え方。つまり、自分の得意、強みで行動範囲を狭めるのではなく、相対的に見てポジションを探すことで、経験を積んでいくわけです。
先程の自分が今やっている仕事を「天職だ」と思っている人たちを調べた研究と照らし合わせても、有効な考え方だと思います。

 

20代が幸せな社会人生活を送るために重視すべき、3つのポイント

 
──就職先を選ぶとき、重要視すると社会人としてスムーズに第一歩を踏み出すことができ、幸せな仕事につながる要素を教えてください。

本の中では、次の7つの要素を「仕事の幸福度を決める7つの徳目」として紹介しました。

  1. 自由:その仕事に裁量権はあるか?
  2. 達成:前に進んでいる感覚は得られるか?
  3. 焦点:自分のモチベーションタイプに合っているか?
  4. 明確:なすべきことやビジョン、評価軸はハッキリしているか?
  5. 多様:作業の内容にバリエーションはあるか?
  6. 仲間:組織内に助けてくれる友人はいるか?
  7. 貢献:どれだけ世の中の役に立つか?

なかでも20代の人が仕事を選ぶとき、重視すると幸福度が上がる可能性が高いのは、「自由」「達成」「仲間」の3つです。
この3つはモチベーションに深く関わっています。
人がモチベーション高くいられるのはどんな環境かを論じた「自己決定論」に基づいた考えで、自由に自立し、達成することで有能感が得られ、仲間との関係性が実感できるとき、幸福感を得られるのです。

 
──では、この3つが満たされそうな会社や仕事を探していくといい、と?

そうですね。ただ、事前にどこまで判断できるか……という問題はあります。
そこで、こんな視点で就活を勧めるといいのではないでしょうか。

  • 会社説明会で社員同士の雰囲気を見る→「仲間」の要素をチェック
  • OB/OG訪問でリアルな社内の評価システムや上司がどんなフィードバックを行ってくれるのかを聞く→「達成」を感じられる仕組みがあるかをチェック
  • インターンに行けるなら若手社員にどのくらいの裁量権があるのかを観察する→若手にも「自由」を感じられる職場かをチェック

なかでも事前に判断しやすいのは、関係性、仲間ですね。社内にポジティブな空気感があるかどうかは会社説明会や面接でも十分に感じ取ることができるはずです。その場合、直感的に「ここはちょっと……」と感じたら、その直感を信じましょう。
また、評価システムや上司からのフィードバックの内容を確かめるのは、仕事のスキルが上達している感覚がモチベーションを高める上で重要だからです。
ちなみに、インターンの効能について調べた研究では、インターン経験者がその会社に入って実際に活躍できるかを予測する精度は低いというデータが出ています。
ですから、インターンは自分の適性を測る場としてではなく、気になるポイントを肌感覚でチェックするチャンスとして活かした方が建設的です。

 
──会社が就活生をチェックするように、就活生も就活を通して幸福度の高い職場かをチェックしていくといいわけですね?

そうですね。
「自由」「達成」「仲間」の要素をできるだけ満たした会社を選びましょう。そして、日々与えられる地味な作業の積み重ねの中で経験を積み、得意をみつけ、周囲の人に価値を与えられる人になること。なぜなら、周囲の人に価値を与えられる人ほど裁量権が大きくなり、自由になれるからです。

 

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

シェアする

関連記事

Search