「地頭」は伸ばせる! | スタンフォード流手書きの技術【前編】

「地頭」というと、生まれつき良し悪しが決まっていて、自分ではどうにもならないものだと思っていませんか?

ところが、適切な方法で鍛えれば、誰でも地頭は伸ばせるといいます。その大きなカギとなるのが、「スタンフォード流手書きの技術」です。スタンフォード大学と言えば、数多くのノーベル賞受賞者やビジネス・リーダーを生み出した名門中の名門。そこでは、日々の知的活動がどのように行われているのでしょうか?

そのスタンフォード大学で実際に学んできた、『地頭が劇的に良くなるスタンフォード式超ノート術』の著者・柏野尊徳さんに、地頭を伸ばす仕組みと、今すぐできるトレーニング法を伺いました。前後編でお届けします。

取材協力:

アイリーニ・マネジメント・スクール

代表 柏野 尊徳さん

慶應大学総合政策学部へ入学、1年目に学内学会で優秀論文賞を受賞。在学3年目にスタンフォード留学しデザイン思考を学ぶ。帰国後に飛び級、授業料全額免除の特待生として慶應修士課程を修了。岡山大学大学院では非常勤講師を3年務める。現在ケンブリッジ大学でイノベーション・エコシステムを研究、博士号取得予定。在学中設立の「アイリーニ・マネジメント・スクール」はマイクロソフトやパナソニックなどの組織変革を支援し、世界40カ国発行『Startup Guide』で日本を代表する教育機関に認定。スタンフォード講師との共同講座開催、教材ダウンロード16万部。エンジェル投資や長崎大学FFGアントレプレナーシップセンター外部アドバイザーとしてプロボノ活動も行う。『地頭が劇的に良くなる スタンフォード式 超ノート術』著者。

能力のピークは、年齢を重ねた後にむかえる

 
──いきなりですが、なぜ「地頭」を伸ばすことができるのでしょう?

前提のひとつとしてあるのが、人間の認知機能のピークが、思いのほか年を重ねた後にあるという研究結果が近年出ていることです。たとえば「集中力」という能力の場合、一見10代・20代あたりがピークのようにも思えますが、実はピークは44歳ごろにあります。そして26歳と60歳では、集中力の水準はほぼ同じです。

さらに「計算力」は50歳でピークをむかえ、30歳と65歳がほぼ同じ水準、「語彙力」にいたっては65歳がピークで、25歳と85歳がほぼ同水準にあります。

したがって人間の認知機能は20代・30代・40代でもまだまだ伸ばせるし、普段からきちんと使えば、年齢を重ねてもかなり維持できるということです。

引用:柏野尊徳@アイリーニ・マネジメント・スクール

 
──とはいえ「地頭」というだけに、生まれつき決まってしまっている能力もあるのではないでしょうか?

『地頭が劇的に良くなるスタンフォード式超ノート術』では、地頭を「発想力」「論理的思考力」「共感力」の3つに分解しています。発想力は、斬新なアイデアをどんどん生み出せるような能力。論理的思考力は、聞いた話をすぐに理解し、論点を整理できるような能力。そして共感力は、相手の求めるものを的確にとらえたうえで、こちらのメッセージをうまく届けられるといった能力です。実際こうした能力が高い人は、「地頭が良いな」と思いますよね。

一方で正しいやり方を知れば、これらの能力は年齢・性別・学歴を問わず、誰でも伸ばせます。もちろん誰もがスティーブ・ジョブズのようになれるわけではありませんが、地頭を伸ばすことで、確実に仕事や勉強の成果を高めることはできます。私は幸いにもそのやり方を、スタンフォード大学で学ぶことができました。

 

地頭が良い人の間で根づく「手書き」カルチャー

 
──そのスタンフォード式のやり方とは、大まかにどんなものでしょう?

スタンフォード大学といえばApple、Google、Facebookといったシリコンバレーの企業に多くの人材を輩出していますが、スタンフォードやシリコンバレーの驚くほど地頭が良い人たちの間で広く根づいているのが、「手書き」のカルチャーです。そのベースには、デザイン思考の考え方があります。

デザイン思考はそれこそシリコンバレーで働くような人なら誰でもあたりまえに身に付けているような思考法で、近年は日本の大企業でもよく採り入れられています。ざっくりいえばデザイン思考は、「ゼロから1を生み出す」ための方法論ですが、それを実行する際に「手書き」を基点とした思考が必須となるのです。実際にデザイン思考の方法論を学ぶ授業は、ノートとペンでひたすら書きまくるものでした。

ちなみにその授業には社会人向けのクラスもあり、4日間の講義を受けるには、140万円もの受講料が必要です。それにも関わらず、常に開催日の数ヶ月前には定員に達する人気ぶりでした。

 
──なぜ「手書き」がそれほど重視されているのでしょう?

手書きの場合、デジタル機器のように起動の必要がなく、故障やメンテナンスもないので、思考をリアルタイムで、大量にアウトプットできます。要は手書きにより、「スピード」と「量」が担保される。さらには、考え込むよりもまず手を動かすという「行動力」も身につけられる。そして、スピードや量、行動力といったものは、状況が日々大きく変わる現代社会で成果を上げるには、特に重要な要素であると言えます。

その点日本人は、「じっくり考えて、できるだけリスクを下げて行動する」「前例がないことはしない」といった習慣が根強く、スピードや量、行動力が欠落しやすい面があります。だからこそ、そこを意識的に高めていくためにも手書きをしましょう、ということです。

また、アウトプットの仕方が直線的ではない点も、手書きの大きな強みです。

 

良いアイデアを出す人=たくさん失敗している人

 
──直線的でないとはどういうことでしょう?

たとえば手書きならただ文字を書くだけでなく、丸で囲ったり線でつなげたり、あるいは図表や絵を添えたりという作業も自在にできます。要はアウトプットが一次元的ではなく、二次元的ですよね。だから複雑・高度な思考を行いやすく、思考自体も体の感覚=体感とひもづきやすい。

実際に、ただ事実を覚えるような学習ではなく、概念を考えるような高度な学習は、デジタルツールよりも手書きで行ったほうが有意に試験の点数が高くなるという研究結果もあります。

一方デジタル機器を使っての作業は、直線的で機械的な処理になりやすい。だからこそ、逆に物事を単純に記録するのであれば、デジタルの方が断然よいと言えます。

引用:柏野尊徳@アイリーニ・マネジメント・スクール

 
──では、実際に手書きの効果を活かして地頭を良くする方法を教えてください。そもそも「発想力」「論理的思考力」「共感力」は、3つとも同じように伸ばすべきですか?

もちろん3つを高められればベストですが、まずは「得意なものを伸ばす」ことを心がけるのがいいと思います。学校であれば、現状で90点とれるものを伸ばすより、現状で40点のものを伸ばした方が伸びしろは大きいです。でも実社会では“天井”が決まっていないことがほとんどなので、90点のものを1万点にできる可能性もある。だから伸ばしやすいものを伸ばしたほうが、遥かに大きな成果を手にできます。

まずは3つの能力のなかから自分が得意なもの、興味を持てるもの、ポジティブにとらえられるものを重点的に伸ばしてみましょう。

 
──では、ここからは3つの能力のひとつ一つについて、具体的にどう伸ばせばいいかを教えてください。まずは「発想力」からお願いします。

発想力を伸ばすために何より大切なのが、「たくさん失敗すること」です。なぜかというと、いい発想を生み出すには、逆説的にはなりますが、質より「量」を高めてトライ&エラーを多く繰り返した方が、結果的に良いアイデアにつながりやすいからです。だから、とにかく発想する量や回数を増やしましょう。

日本は学校にしても会社にしても、良い意見や洗練されたアイデアを言うべきだという風潮が強いので、それがアイデア量を増やす“足かせ”となるかもしれません。ただ実際は、過去に凡庸なアイデアや変なアイデアを出してたくさん失敗している人こそが、良いアイデアを出しているのです。

 

ヒットを生むには、アイデアの母数がものをいう

それこそビジネスの世界で製品やサービスを1つ成功させるには、その背景に3000個くらいのアイデアが必要といわれます。ただの思いつきや現実性がないものも含めてまずは3000個くらいのアイデアがあったとすると、そのうち300個くらいが人と共有され、そのうちの100個くらいが会議などフォーマルな場で挙げられる。

そしてそのなかの10個くらいが詳しく検証され…とどんどん精査されて少なくなっていき、最終的に2~3個が世に出て、そのうち1個が当たる、みたいなイメージです。「ヒット」を生むには、結局はアイデアの母数がものをいうのです。

引用:柏野尊徳@アイリーニ・マネジメント・スクール

 
──では発想量を増やすための、おすすめのトレーニング法は?

「クイック1分ワーク」と呼んでいるエクササイズがおすすめです。やり方はシンプルで、「A:やりたいこと・実現したいこと」か「B:気になること」のどちらかを選んで、1分間でひたすら書き出していくというものです。

Aであれば、お金や時間などが現実的かどうかはまったく無視して、とにかくできたらうれしいことを書く。Bであれば、いま感じている気持ち=喜怒哀楽について、思いつくままに書く。どちらも誰かに見せるわけではないので、素の思いを書き出します。目指すのはもちろん、「できるだけたくさん挙げること」です。

質は問わないので、どんなに荒唐無稽なアイデアでもOKだし、書き方が汚かったり雑であったりしても、自分でなんとか読み返せれば問題ありません。このエクササイズによって、「とりあえず手を動かして、スピードと量を追求すること」や「思いつきを、素のままアウトプットすること」がどういう感覚なのかを体感できます。

スタンフォードの講義でも、よく先生から「大事なのはアイデアの質ではなく、量だ」と言われたことを覚えています。アイデアを出す際には、1枚の付箋にひとつのアイデアを書き出しどんどん貼り付けていくという作業をよく行うのですが、要は付箋の消費量が多ければ多いほど良いわけです。

まずは手を動かして、できるだけ早く・たくさんの発想をアウトプットする「習慣」を身につける。それが、発想力を高める一番のポイントになります。

 
さらに後編では、「論理的思考力」と「共感力」を高める具体的方法を紹介します。
なぜ「共感力」が大きな成果を生むか | スタンフォード流手書きの技術【後編】

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

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