スキルを磨く

2018/06/07

これから社会に出て活躍していく学生読者のみなさんに、「組織で働く」とはどういうことか、組織で働くメリットを最大限に活用して成長するにはどうしたら良いのか、組織論を専門とする鈴木竜太先生に語っていただいてきた当連載、いよいよ最終回です。最後にお届けするのは、「良いキャリアを築く」ために必要なことについて。働くことの、本質に迫る内容です。

この連載も最終回となりました。ここまで比較的短期的なことを考えてきましたが、最後はもう少し長期的な視点で、働くことを考えてみたいと思います。

 

良い将来、未来の充実した仕事のために重要なものは何か

良い将来、未来の充実した仕事のために重要なものは何か
大学生であるみなさんはいま、自分の(遠いあるいは近い)将来、特に仕事について考えていると思います。もしかしたら、考えるのが苦痛になっている人もいるかもしれません。

計画的に自分の将来や仕事を考える上では、やはり5年後、10年後のキャリアを考えることが良きキャリア、充実したキャリアをうむためには大事だと考えている人が多いと思います。この考え方は間違ってはいません。たしかに無計画に行き当たりばったりではキャリアが迷走してしまうこともあります。しかし、近年の研究では、これとは異なる見方をする研究者もいます。

スタンフォード大学のJ.D.クランボルツ名誉教授は、今のキャリアに影響を与えた出来事を調べていくと、驚くべきことにほとんどの人が偶然によるものであったと述べています。ある上司との出会い、これまでやったことがないプロジェクトを任された経験、偶然見つけた仕事、このような偶然がその人のキャリアに大きな影響を与えていたのです。このことは、綿密にキャリアの計画を立てたとしても、なかなかそのようにはならないことを意味しています。

では、キャリアをしっかりと計画的に考えること、つまりはキャリアをデザインすることは意味のないことなのでしょうか。クランボルツ教授は、キャリアが偶然に彩られているからこそ、大事なことがあるといいます。それは良き偶然に多く出会うことです。良き偶然が自分のキャリアをより彩りあるものにするのであれば、良き偶然に多く出会えば良いと言うのです。つまり、計画的に偶然に出会おうということで、この考え方を「計画された偶発性」と呼びます。

 

計画された偶発性を生み出す5つの要素

この計画された偶発性を生み出すためには5つの要素が大事になります。それらは、好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心の5つです。

好奇心は前回に述べたような、絶えず新しい学習の機会を模索することを意味します。
持続性は失敗をしても続けること、楽観性は偶然をポジティブに捉える姿勢を指します。
偶然はちょうど良い形で現れるとは限りません。なかなか良き偶然に出会えなくとも、また偶然を生かせなくとも繰り返し偶然を見つける努力をすること、そして一見良き偶然に見えなくても、楽観的に偶然を捉えることでチャンスをつかむことが必要です。
そのためには柔軟性、つまりこだわりやこれまでの考えにとらわれずに柔軟な姿勢で臨むことが重要ですし、時には結果が不確実でも思い切ってチャレンジする冒険心が大事になります。

計画された偶発性の考え方においては、もう1つ大事なことがあります。それは偶然を生かすために準備をしておくということです。たとえ良き偶然に出会うことがあっても、その偶然を生かす準備、十分なスキルや能力がなければ、その偶然を良きキャリアにつなげることが難しくなります。プロ野球でもレギュラー選手のけがで、代理で出場していた若手選手が活躍してそのままレギュラーを奪い取ってしまうケースがあります。単に偶然を探索するだけでなく、偶然を生かすための能力やスキルをつけて十分な準備をしておくことが大事になるのです。

 

組織における偶然をどう捉えるか?

組織における偶然をどう捉えるか?
会社の中では、慣れた仕事から自分が経験したことがない仕事に人事異動をされることがあります。時には意にそぐわない人事異動をされることもあるでしょう。日本企業の正社員は「無限定社員」と呼ばれるように、地域や職務にかかわらず異動が行われます。これも一つの偶然ですし、われわれの研究でも人事異動はその人のキャリアに大きな影響を与えていることがわかっています。

ただし、この場合は偶然に出会いに行くのではなく、偶然が向こうからやってくる格好です。このようなケースでは、その機会にうまく対処することが大事になります。その機会をどう自分のキャリアに生かすのか、計画された偶発性の5要素を使うと、楽観的かつ柔軟に対処して行くことが大事になると同時に、うまく組織の力を使って、自分のキャリアを組み立てていくという考え方も重要になります。

それはこの連載で述べてきた通り、いかに現在、将来において、自分が生み出す価値を高めるか、という視点でもあります。良き偶然と出会い、偶然を活かすだけでなく、自分の長期的なキャリアの中にその偶然から得られるものを取りこみ、将来の(会社あるいは社会における)価値を生んでいくという考え方が、将来をなかなか見通すことが難しい時代における、キャリアデザインの1つの形になると思います。

 

まとめ

これまで4回にわたり、これから組織で働いていく皆さんに重要だと思えることについて、お届けしました。あらためてお届けしてきた内容をまとめると、下記のようになります。

 

「働く意味」とは何か?(第1回)

  • 個人で働くことと、組織で働くことの違い
  • 大きな価値を生むには分業だけでなく、調整が必要になる
  • 働くことは、社会に付加価値をもたらすことである

組織における「自分の価値」はどう決まるか?(第2回)

  • 付加価値を決める要素は「希少性」と「必要性」にあり
  • 「経験のなさ」や「若さ」が価値になることもある
  • 「付加価値を大きくするためにどうすれば良いか」を考えていくこと

スキルを身につけるために重要な「学び方」とは?(第3回)

  • 仕事の場面における、助言・模倣・経験の3つの学習パターン
  • 最重要な「経験」による学習も、内省・一般化を行わなければ意味がない
  • 成功だけでなく失敗から多くを学べることが「経験」による学習の面白さ

良き「キャリア」を築くために何が必要か?(第4回)*当記事

  • 多くの人のキャリアには「偶然」が大きな影響を及ぼしている
  • 良き偶然は、キャリアをより彩りあるものにする
  • 計画された偶発性を生み出す5つの要素を大事にする

 

組織で働く上で大切なことは、上記に記載した以外にももちろんたくさんあると思います。物事をどのように捉え、考え、自分の成長に生かしていくかはあなた次第です。社会に出て仕事をすること、組織で働くということが、皆さんの人生をより充実させる糧となることを祈っています。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません
組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
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鈴木 竜太

1971年生まれ。1994年神戸大学経営学部卒業。ノースカロライナ大客員研究員、静岡県立大学経営情報学部専任講師を経て、現在、神戸大学大学院 経営学研究科 教授。専門分野は経営組織論、組織行動論、経営管理論。著書に『組織と個人』(白桃書房、2002年)、『自律する組織人』(生産性出版、2007年)、『関わりあう職場のマネジメント』(有斐閣、2013年)など。趣味は読書。時代小説、歴史小説、推理小説、恋愛小説、ノンフィクション、サスペンスやクライムノベル、ハードボイルド、SF、などあらゆるジャンルを読む。

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