薬学部から製薬業界を目指し、誰よりも信頼されるMRになりたい〜日本薬学生連盟ブログ Vol.1
将来、こんな業界で活躍してみたい━━。そのことに考えを巡らせたとき、あなたにとって志望を後押しするような、大きな“きっかけ”となった出来事には、どんなことがありますか?
そしてその中のひとつに、親や先輩、そして身近な友人から刺激を受けた人も多いのではないでしょうか。
今回、全国の薬学生が集まる「日本薬学生連盟」に所属する大学生に、それらの想いを聞いてみることにしました。なぜ薬学の道に進んだのか、ひいては、なぜ製薬や医療の道で貢献したいと思うようになったのか、そして大学生である現在、どのように過ごしているのか。製薬業界を目指すあなたにとって、新しい刺激となるかもしれません。
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SCIENCE SHIFTをご覧の皆さま、はじめまして。(一社)日本薬学生連盟に所属する、東邦大学薬学部3年の斎藤伶奈(さいとうれいな)と申します。
「日本薬学生連盟って何?」という人が大勢いるかと思いますので、まずは簡単に私たちについてご紹介させてください。
- 一般社団法人日本薬学生連盟とは:
一般社団法人日本薬学生連盟は、今年で約20年目を迎え、会員数950名を超え
IPSF(世界薬学生連盟)に日本支部として加盟し、交換留学や国境を超えた交流が盛ん。国内では、献血運動や国際デーにちなんだ啓発運動、診療報酬や災害医療の勉強会のほか、学術的研究の成果を学会で発表するなどの活動を行っている。「薬学生に新しい価値を」「薬学生のプラットフォームを創る」
HP:http://apsjapan.org/ Twitter:@APS_Japan Facebook:www.facebook.com/APS.Japan/
今回は、将来MRとして活躍したいと考えている私が日本薬学生連盟で経験した営業奮闘記と、私が思う理想のMR像について書いてみたいと思います。
「何かが足りなかった」大学生活から一瞬にしてのめり込んだ活動
「大学に気の合う友達がいない」。これは冗談でもなく、友達を作るのがヘタな訳でもなく、入学して私が率直に思った感想でした。大学に張り合いを見いだせず、心躍る何かが欠けた毎日。そんな時、たまたま先輩の紹介で参加したのが日本薬学生連盟の新入生歓迎会でした。100名を超える学生が一堂に会し、自分の夢について熱く語り、医療問題について議論できる場がそこにはありました。
一瞬にしてのめり込んだ私が、日本薬学生連盟に入って最初に関わった活動は「公衆衛生委員会」の啓発運動でした。5月31日の世界禁煙デーにちなんで、禁煙に対する薬剤師のアプローチの仕方や、喫煙が身体に及ぼす害についてワークショップを通して学んでいくもので、大学の座学とは違った楽しさがありました。
次に携わった活動は、夏の交換留学生の受け入れです。日本薬学生連盟が所属しているIPSF(国際薬学生連盟)を通じて、世界中の薬学生が短期留学で日本に来ます。留学生と共に日本の調剤薬局見学に行くと、ヨーロッパ出身の学生にとっては当たり前でも、アジア出身の学生にとっては真新しいシステムであることも多く、目を輝かせてくれました。他国のよいところを教えてもらい、日本のよいところを留学生に教えてあげる。そんな国際的な交流ができるのも薬学生連盟の魅力のひとつです。
日本にはおおよそ7万人の薬学生がいますが、薬学において国際的な視野を身につけることができる学生はごくわずかだと思います。さまざまな国ごとに、薬剤師の地位や職能に差がある事を知れたのはとても大きな収穫でした。
夏に得たこの経験を活かし、秋からはアジア各国における薬学教育の違いというものを日本と対比させながら研究し、日本薬剤師会にてポスター発表をおこないました。各国の教育事情などに関する情報を集める必要があり、海外サイトを翻訳して理解していく作業は途方もないものでしたが、そんなとき、夏に出会った留学生たちが助けてくれました。電話したりメッセージを送り合ったりして、遠くに離れていても交流を深められたことや「私の国について調べてくれてありがとう」と言ってもらえたことも、大切な思い出です。
未熟な発表内容ではありましたが、足を留めてみてくださった方々から「こんなに違いがあるのは知らなかった」「考えさせられるね」という感想を頂いた時は、放課後に毎日研究を重ねた苦労が報われたように感じました。
学部1年生でこんなにも多くの経験を得られたのも、日本薬学生連盟という薬学生のプラットフォームがあったからだと思います。
私が薬学部に進学した理由
そもそも、私が薬学部に入った理由は、おそらく多くの薬学生とは少し異なるものでした。中学・高校生の頃、一緒に住んでいた祖父母が癌に冒され、大病院へ入院していました。もともと医療従事者に対する憧れはあったので、お見舞いに行く度にその想いは膨らみ、白衣を着て患者さんに寄り添う医師の姿が眩しく見えました。
しかしある時、病院のロビーにズラッと整列するスーツ姿の人たちを見かけました。病院の人でもなく、患者さんでもなく、分厚い資料を片手に真剣な眼差しで何かを待っている姿は異様でありながら、かっこよくも思えました。その光景を何度か目にしたとき、私は祖父の主治医に尋ねました。「先生、あの人たちは何をしてるんですか?」すると、先生の口から出てきた言葉は私にとって衝撃的なものでした。
「お薬の情報をくれる人たちだよ。さすがにお医者さんでも全部のお薬のことを知っているわけじゃないからねぇ。新しいお薬を教えてくれたり、どんなお薬がいいのかを教えてくれたりする。とても頼りにしてるよ。」
そう聞いた時、私の中で何かが壊れました。今まで、医師は身体の事もお薬の事も全て知っているものだと思っていました。極端に言ってしまえば、医師の知識に叶う人はいない。そう思っていたのに、医師にお薬について教えてあげる職種があることに驚き、興味が湧きました。ちょうどそれは、高校二年生の進路選択の時でした。自分なりに調べ、たどり着いたのが「MR」。何学部からでも就職はできるけれど、折角やるなら医師に頼りにしてもらえるMRになりたい。その一心で薬学部進学を決めました。
MRを本気で目指して、見えてきたもの
薬学部に進学したものの、学内では、私と同じようにMRを志望している人はほぼ皆無。切磋琢磨する相手がいないまま1年が経ったとき、日本薬学生連盟で私が尊敬する先輩から言われた言葉があります。
「本当にMRになりたいの?そのためにどんな努力してるの?」
私は何も言い返すことができませんでした。勉強会に参加したり留学生と交流したり、他国の薬学事情について学んだり、薬学生として模範的な活動はしてきたのかもしれません。だけど、MRになるための努力は何一つしていませんでした。味わった事のない悔しさが込み上げ、夢を見失いかけていた自分が許せなくて、帰りの電車で号泣したのを覚えています。頼りにされるMRになるために、少しでもMRに近づくために、今の私には何ができるだろう。考えた末にたどり着いた答えは、意外にも目の前に転がっていました。
「MRは営業職。だったら、日本薬学生連盟の財務統括理事になって、営業を経験してみよう。」
財務統括理事は、日本薬学生連盟の活動費を賄うために、企業様から協賛金をいただいてくる役職です。団体運営において重要極まりない役職。……不安しかないけれどやるしかない。そう決意し、1年間営業漬けの日々が始まりました。
営業メールやアポイント、商談から契約まで初めは慣れるのに精一杯でした。名刺の渡し方はぎこちなく、協賛の説明は噛み噛みでした。何より、企業の方から頂いた質問に答えられない時が最もつらく、申し訳なく思いました。自分の知識不足、準備不足のせいで、折角お会いしているのに何も役に立てることがなく、「難しいこと聞いてごめんね」と気を遣ってくださる優しさに、悔しさをかみしめました。そんな苦い思い出が増えていくほどに私の情報量は増えていき、薬学生の現状や就活状況、企業が抱える問題点やニーズもわかるようになっていきました。
任期も折り返し地点に差し掛かった時、ある日の営業先で、担当者から「そう!そういうのが知りたかった。勉強になったよ、有り難う。」と言って頂けたのです。やっとほんの少し役に立てた。何よりも嬉しくて、そのとき初めて営業って楽しいな、と心から思うことができました。
社会で活躍なさっているMRさんたちもきっと、お薬を売ることではなく、「医師の役に立ちたい」という想いで今日も汗水を流しているのではないでしょうか。医師を通したその先に待っている多くの患者さんのために、副作用の情報を収集し、論文を読みあさり、分かりやすい資料作りに尽力しているのだと思います。
MRを目指す多くの学生が、年収の高さを理由に就職しているような気がします。年収は確かに大事かもしれないけれど、誰かの役に立ちたいと思う気持ちこそが大切なのではないかと思います。「MR」の正式名称を思い返してみてください。医薬情報担当者なのです。医薬販売担当者ではありません。MRを目指す多くの学生に「情報」という名称がついた理由を考えてみてもらいたいです。MRが提供できる情報、収集できる情報が、きっと明日の医療を変える一歩に繋がると信じています。
医師に頼りにされるMRになりたい。同じ想いを持った人たちと将来出会えることを楽しみにしています。そして、切磋琢磨できる仲間になれたら嬉しいです。
(文=東邦大学薬学部3年 斎藤伶奈)