リーダーシップ学習は、若いうちにこそ始めるべき。|舘野泰一さんに聞く、これからのリーダーシップ <後編>
前編はこちらから
チーム全員がリーダーシップを発揮する強さ。 |舘野泰一さんに聞く、これからのリーダーシップ <前編>
◆
リーダーシップとは、組織のトップだけが発揮するのではなく、役割や年齢を問わずチーム全員が発揮すべきもの。そうすることで、チームとしてより高い成果を出せ、難しい局面も乗り越えていける。そんな新しいリーダシップの考え方が今、広まりつつあります。
前編に続き後編では、新しいリーダーシップを身につけるために「学生のうちにやっておきたいこと」と「社会人になってからできること」を、舘野泰一・立教大学准教授に聞きました。今後ますます必要性が高まるオンラインでのやりとりのコツも紹介します。
取材協力:
立教大学経営学部 准教授
舘野 泰一さん
1983年生まれ。リーダーシップ開発、越境学習、ワークショップ、トランジション調査などを研究。著書(分担執筆)に『活躍する組織人の探究:大学から企業へのトランジション』(東京大学出版会)、『まなび学ワークショップ 第2巻』(東京大学出版会)が、近著に『アクティブトランジション 働くためのウォーミングアップ』(三省堂)、『リーダーシップ教育のフロンティア』【研究編・実践編】:高校生・大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」(北大路書房)がある。
学生のうちにやっておきたいリーダーシップ体験とは
──これからの時代に役立つ“全員発揮のリーダーシップ”を身につけるには、学生のうちにどんなことをすればいいでしょう。
舘野:やっぱり、まずはリーダーシップ経験をたくさんしてもらうことですね。とはいえ、それは必ずしも“リーダー経験”である必要はありません。たとえばサークルやアルバイト、インターンなど、人と関わりながらチームとして何か成果を出す必要がある場を経験することを指します。それをなるべくたくさん経験していただきたいです。
そして先ほども触れた通り、その際には他者から自分がどう見えているかも、できる限り聞いてほしいです(前編リンク)。自分の行動についてどう思ったか、どこを改善すればいいかなどを人に聞いてみるのです。そんなふうにリーダーシップ経験と、フィードバックを受けることをセットで日常的に行っていければ素晴らしいのではないでしょうか。
もちろんやることにもよりますが、社会人に比べれば学生の方が失敗に対するリスクは限定的だと思うので、だからこそたくさんアクションを行ってもらえればなと思います。
そしてもう1つポイントとなるのが、そうしたリーダーシップ体験を、できるだけ多様な人と関わりながら行うことです。
──多様な人とは?
舘野:学生を終え社会に出ると、いろいろな年齢の人、いろいろなカルチャーの人と仕事をしていくことになります。それをふまえると、学生のうちから学部外の人や違う学年の人、他大学の人、先生、さらには企業の人、年配の人などともコミュニケーションをとっていくに越したことはありません。
大学生の人間関係は、どうしても同質化しやすい面があります。だからこそ、関わる人の層を意識的に広げてもらいたいなと考えています。
オンラインでできることは想像以上に多い
舘野:いずれにせよ、こうしたリーダーシップは、じっくり身につけていく必要があります。「リーダーシップとはこうだ」と頭で捉えることも大切ですが、実際にやってみてうまくいった経験を通して初めて自分の血肉となっていくものでもあります。さらには人からフィードバックを受けることで、自分はこう見えているのか、それならこういうところを伸ばしていこう、といったこともだんだんと固まっていく。
そうしたことを学生の間にたくさんやって、リーダーシップの基礎能力を高めてもらえればなと思います。
──今はコロナウイルスの影響等もあり、リアルでなかなか人と会ったり行動を起こすことがしづらくなっています。そんな中でどうリーダーシップ経験を積めばいいですか。
舘野:私が教えている立教大学経営学部のリーダーシップの講義は、新型コロナウイルスの影響で現在、全ての講義をオンラインで行っています(※2020年7月現在)。オンラインでの講義は初めての試みでしたが、問題なく講義を行えていて、むしろ例年に比べてより熱気を感じているほどです。
それをふまえると、オンラインでできることは想像以上に多いなと感じます。リーダーシップを発揮するような経験も、オンラインでもどんどん探して体験してもらえればと思います。気軽に場を設けやすいとか、発表の練習風景を撮影して教員からフィードバックを受ける、などといったオンラインならではの強みもありますので。
オンラインではあえて「雑談」の場を設ける
舘野:さらにはそうした経験が、社会人になった時に大きなアドバンテージになる可能性もあります。今後テレワークがますます進むであろう中で、学生のうちからオンライン上でリーダーシップを発揮したり、他者とさまざまなやりとりをした経験は、今後かなり有用になるのではないでしょうか。「リモートワークネイティブ」ではありませんが、その部分に関しては、学生のうちから社会人を超えられる可能性もあります。
──オンラインでやりとりする際のコツは何かありますか?
舘野:リアルの場だと近くの人と雑談したり、偶然すれ違ってちょっと話したりできますよね。でもオンラインでは、そうした偶然のやりとりや遊びみたいなものが削ぎ落とされてしまいます。
そこで、たとえばオンライン会議が始まる最初の5分間でお互いの近況を報告し合ったり、いま困っていることを伝え合うような時間を設けてみてはどうでしょう。それにより相手に対する共感度や解像度のようなものが高まると思います。小さいことではありますが、やるとやらないではかなり違うのではないでしょうか。
──では社会人になってからは、どのようにリーダーシップを身につけていけばいいでしょう。
舘野:社会人になっていきなりリーダーになることはなかなかないと思いますが、だからこそリーダーがどういう目線でものごとを考えて判断しているのか、一つ上の視座に立って考えてみることが大切になります。ひとくちにリーダーの目線に立って考えるといっても簡単ではないので、たとえばその人とコミュニケーションを取るようにしてみたり、どんな考えなのか質問してみたりといったことも必要になるでしょう。
これは学生時代のアルバイトやサークル活動でも、同じことがいえますね。店長やサークル長がどんな世界観でものごとを見ているのかを、意識的に考えるようにするのです。
若手社員時代からリーダーシップを高めるには?
舘野:そうしたことを非リーダーの時代からしておくと、自分がいざリーダーになる時の障壁をかなり低くできるでしょうし、部下の人たちにどんなリーダーシップを発揮してもらいたいかのイメージが湧きやすいのです。自分で全てを抱え込んでしまうのではなく、メンバーの個々の力にもうまく頼りながらチーム全体で高い成果を上げていくような、まさにこの先求められるリーダーシップを発揮できるようになるのではないでしょうか。
あとは、小さいことでもいいのでチームを前に進めるアクションを常に心がけることも、リーダーシップのいいトレーニングになります。たとえば、会議を少しでも円滑に進めるために、議題を箇条書きにして出席者に事前にメールしておくなどですね。
──新人時代からでも、リーダーシップ経験は充分に積めるということですね。
舘野:そうですね。結局リーダーシップはこうした小さな行動の積み重ねなので、いざリーダーになってからやり出すのでは間に合わないのです。逆にこうしたことを若手の頃からコツコツやり続けたら、4~5年経った頃には大きな差となって表れるはずです。
──舘野さんご自身は、リーダーシップ教育を行う中で、何か気づきはありましたか。
舘野:私は、チームのメンバーそれぞれがリーダーシップを発揮する、いわゆる「全員発揮のリーダーシップ」を教えていますが、実は最近、そうしたリーダーシップの有効性をまざまざと実感するできごとがありました。
全員発揮のリーダーシップが大ピンチを救った
舘野:今期のオンライン講義は、当然ながらもともとは教室を使って対面で行う予定でした。ところがコロナウイルスの流行に伴い雲行きが怪しくなり、3月末頃にはこれからどうなるのだろう?という状況になりました。その時点では、ひとまず4月の講義はオンラインで行い、5月以降は対面で行う方向で考えていました。ところが状況が刻々と変わり、どうやら5月以降も対面は難しそうだとなり、急遽前期の講義を全てオンラインで行うことになったのです。
1年生の学生は380人で、2年生のうち約120名が学生スタッフとして運営に参加するという講義規模です。オンライン講義のシステムを整え、さらには対面用に作った講義内容を全てオンライン用に組み直す必要があり、本当に大変でしたね(笑)。でもチームみんなのがんばりのおかげで、7月までの14回の授業を成功させることができました。※
※当インタビューは2020年7月20日に行いました。
舘野:まさに全員発揮のリーダーシップというのを大切にしていれば、こういった歴史の教科書に載るレベルの大きな社会変化が起こっても、対応できるのだなと実感しました。これは冗談ですが、むしろみんなこの時のために、全員発揮のリーダーシップを学んでいたのかなと感じたほどです(笑)。
この先も計画通りにいかないことや、今までとはやり方・考え方を更新しなくてはいけない場面が、いろいろなところで出てくるでしょう。そんな時代だからこそ、それぞれが自分の強みを活かしながらチームを前に進めるアクションを起こすことが、とても有効なのだと実感し直しました。こうしたリーダーシップに、より多くの若い人たちに目を向けてもらいたいと、あらためて感じています。