紙一枚で、あなたの集中力を劇的に向上させるタスク管理の方法
研究者として、その仕事の生産性を高めるため、「小さな習慣」を磨き続けてきた堀正岳さんによる連載三回目のテーマは、「タスク管理」について。まずは超基本ともいえる、タスク管理の方法を紹介していただきます。
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やってくる仕事はとにかくすべて手を付けて、すべて片付ければいい―。
仕事を始めたころは、そのようにやる気が満ち溢れていて、依頼のメールが届くたびにいま進めている作業に加えて同時にやっている仕事を増やしてみたり、スケジュール管理から仕事の手順までをすべて頭のなかで整理してみたりということをしがちです。
最初はそれでもよいのですが、次第に仕事が増えて、すぐには終わらない作業をいくつも抱えるようになるうちに、次第に無理が生じてきます。
与えられた時間に対して、いっぱいいっぱいで作業をすすめている最中にやってくる、たった一通のメール。ちょっと調子が悪い時に、タイミング悪く重なる要件の電話。そうした小さな綻びが積み重なって、頭が次第に混乱してくるのです。
そんな状態に陥ると、「いま、どれだけの仕事を抱えていただろうか?」「次にやるべきことはなんだっただろうか?」そんな基本的な順序さえ混乱してしまうようになります。これは仕事や作業の手順ミスにもつながりますし、そもそもあなた自身にとって非常にストレスを感じる状態です。
やがてこうした小さなつまずきを解消するために残業を繰り返したり、無理を重ねたりするうちに、すっかりと非効率的な仕事のクセがついてしまうことになりかねません。
そうなる前に、皆さんにおすすめしたいのが、一枚の紙からスタートできる「タスク管理」のテクニックです。タスクとは、日々の生活で実行すべき、すべての「やること」のことです。これを頭の中とは別の場所で管理するのです。
タスク管理の目的は「たったひとつの作業」に全力を注ぐこと
重要なことなので最初にまず強調しておきたいのですが、タスク管理とは「より多くの仕事を片付けるためのテクニック」ではありません。
むしろ、タスク管理の目的は、いまこの瞬間に集中しなければいけないたったひとつのことをはっきりとさせることにあります。
さまざまなタスクを抱えて「あれをしなければ」「これをしなければ」と頭のなかで複雑にバランスをとることをやめ、ひとつのことに集中することで作業の効率を上げることができます。それによってストレスのレベルを下げて、いますべきことに高い集中力を発揮できるようになることが、タスク管理の最大のメリットなのです。
陸上のトラックに散らばっているたくさんの小石をいちいち気にしていたら、到底フルスピードで走ることなどできないと思いませんか?タスク管理は、そうした意識の中の「小石」をとりのぞいて、いますべきことに集中して取り組むためのものなのです。
基本のタスク管理は紙一枚。「Doingリスト」とは
これを実現するためのもっとも簡単な方法は、「Doing リスト」という一枚の紙の使い方です。Doing リストとは、「いまやっていること」のリストのことです。(使い方の意味で、「やることリスト」とは異なります)
私が仕事をするときにいつも横においているこの紙は、一本の線で左右に分かれていて、左側に「やることリスト」のように、とりかからなくてはいけない作業を上から順序立てて書いておきます。Doingリストの使い方には、必ず守るべきたった二つのルールがあります。
【Doingリストを使うとき、必ず守るべき二つのルール】
- 絶対に順序を変えずに、必ず上からひとつずつ実行します。同時に二つの仕事を初めたり、飛ばしたりしてはいけません。
- 途中で電話やメールがきて、新しい仕事の「割り込み」があった場合には、すぐに始めず、まずはこの紙の右側に「割り込み」の作業を記入し、貯めていきます。
これだけです。「割り込み(右)」側に書かれた作業は定期的に、「Doing リスト(左)」側に取り込むようにして、集中力は常に本筋の仕事(=いまやっていること)から目をそらさないようにします。
「いまやっていること」くらいは頭のなかで整理できるだろうと思ってしまいますが、これが危険なのです。
電話がかかってきたなど、ちょっと気がそれるたびに、集中力は「いまやっていること」から離れ、頭は次第に混乱し、複数の仕事が錯綜していきます。これでは、レースのトラックが途中で分岐してゴールがわからなくなるも同然です。
Doing リストは、ゴールまでまっすぐ延びた、一直線を描くために使うものなのです。
タスク管理を失敗させる三つの悪癖
Doing リストを使うだけでも、仕事の見通しが付きやすくなり、集中力を削ることなく作業に取り組むことが楽になります。さらに、次のような、タスク管理を失敗させる代表的な悪癖にも注意しておきましょう。
悪癖その1.マルチタスクで作業を進める
そもそも Doing リストを使う理由はこの、「二つのことを同時にしない」ためにあるのですが、それでもこのクセは調子の良い時に忍び込んできて、調子が悪くなったときや作業量が増えた時に私たちの足を引っ張ります。
二つの作業を同時に進めると一見効率がいいように見えますが、実際は作業から作業へと飛び移る際に大きなオーバーヘッド、つまり無駄があります。何をしていたのか思い出したり、ペースを取り戻したりするまでに集中力を削ってしまうのです。
マルチタスクは、一見とても効率的に時間を使っているように感じられますし、うまく仕事を回せている間はとても快感なのですが、いったん歯車が狂ってしまうと、これほど危険なものもないのです。
悪癖その2. メールの受信箱をタスク管理代わりに使う
いずれ、メールの管理のしかたについてご紹介する回もあるかと思いますが、なにより大切なのは受信箱をタスク管理の場所に使わないことです。
メールはコミュニケーションのためのツールです。それをタスク管理に使用すると、自分の中の作業と、他の人とのコミュニケーションとに齟齬が生じてしまいます。
メールのなかに「やるべきこと」があるならば、それを別のリストに書き写して、メールは既読フォルダにいれてしまいましょう。
悪癖その3. タスク管理のシステムに油断する
Doingリストに代表されるようなタスク管理のテクニックは、そうした仕組みを信用して利用し続けるからこそ力を与えてくれます。あるときは Doing リストを書くけれども、あるときは書かないといったムラをなくしましょう。
「いまは余裕があるからリストを書かなくてもいい」と、手順を飛ばしがちになりますが、そうしたことを繰り返しているうちにDoingリストに書いてあることが信用できなくなって、結果的にさらに頭が混乱して困ることになります。
余裕があるときから、頭のなかにある「これをしなければ」「これを忘れないように」という考えを、まずはDoingリストに書き写す習慣を作りましょう。それが、トータルで見た集中力を最大化するために重要なのです。
タスク管理に便利なアプリ「Todoist」
Doing リストは、紙で管理してもよいですが、スマートフォンで管理するほうが便利というひと向けに、おすすめアプリをひとつ紹介します。Todoist という、マルチプラットフォームで使用することができるタスク管理のサービスです。
Todoist には様々な機能がありますが、その基本はやることを書いて、終わったらそれをチェックして消すという、単純なリストです。Todoist を使えば、このリストを手元のスマートフォンとパソコンとで同期させて、いつでも好きな場所で作業を進めることができます。
慣れてきたら、Todoist のリストを二つに増やしてみましょう。仕事のリストをひとつ、自己投資などプライベートのリストをひとつといった具合です。
これはマルチタスクのためではなく、プライベートのことは仕事場では気にせず、仕事のことはプライベートでは気にしないという、タスクの交通整理のためです。
Todoist にはタスクの優先度や、タイマー、もっと複雑な構造を生み出すための仕組みもありますが、最小限の機能を忠実に使うだけでも、大きな効率化が可能なのです。
すべてのタスクを完了するのにどれだけかかるか?
一枚の紙からタスク管理を始めてみると、一日の作業の見通しが立てやすくなり、集中力がより持続するようになります。
また、もうひとつ、タスク管理をはじめるとすぐに見えてくることがあります。それは、すべての作業を完璧にこなすには時間が足りなすぎるということです。
繰り返しになりますが、タスク管理の目的は「すべてのタスクを完了させる」ことではありません。タスク管理をすることで、作業の見通しを可視化し、「これでは間に合わない」「ここは注意しよう」といったことを意識するためにあるのです。
慣れてくると、Doing リストの長さに応じて、たとえば準備しているプレゼンでは、余計な装飾は削ってスライド一枚あたりにかける作業時間を短くしようといった発想や、時間のかかる作業を午前に割り当てて、割り込みの多い午後は雑用に割り当てよう、といった自分の適性に応じた管理ができるようになります。
タスク管理は、自分が最大の速度で走れるように、自分でレーストラックを整備することに似ています。邪魔の入らないトラックを、まっすぐゴールに向かって全速力で走る快感を、あなたも手に入れてみてください。
次回は、タスク管理の応用編として、GTD(Getting Things Done “仕事を成し遂げる”)の考え方について紹介する予定です。
※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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