ものづくりの世界のプロに聞く、「生産技術職とは何か?」〜一般社団法人日本能率協会インタビュー・前編
今、あなたが見つめているスマートフォンやモニターの画面。こうした製品は、どのように生み出され世の中へと送り出されているのでしょうか。その詳しい工程について考えたことがありますか?
1つの商品が開発され、あなたの手元に届くまでには、一般的に「企画〜研究・開発〜生産設計〜調達〜製造〜販売」というステップを踏んでいます。この流れの中で、「生産設計〜製造」の間において、製品の品質を高め、安定的に供給するために欠かせないのが生産技術という役割です。
「ものづくりに携わりたい」という希望を持つ学生にとって、魅力的な選択肢の1つになっている生産技術職。しかし、その職域は多岐にわたり、なかなか外部からは実際の仕事は見えません。そこで今回は、一般社団法人日本能率協会*¹で、長年、生産技術の支援に携わってきた安部武一郎さんに、日本のものづくりに欠かせない「生産技術職」と「生産技術者の仕事」についてうかがいました。
前編となる今回は、「生産技術職とは何か?」というテーマについて、産業、業界による違いや、日本の生産技術の現場で起きている変化などを交えお伝えします。
*¹ 同協会では、生産技術者向けの資格である生産技術者マネジメント資格(CPE)を運営。生産技術者として必要なマネジメントスキルを体系化している。
取材協力:
一般社団法人日本能率協会 経営支援グループ ものづくりチーム チーム長
安部 武一郎さん
外資系電機メーカーで国際調達に携わった後、07年日本能率協会入職。 生産技術・調達等を中心としたものづくり領域を専門とし、主に製造業向けの人材育成支援・研修企画開発に携わる。 生産技術者マネジメント資格(CPE資格)
生産技術職とは、どういった仕事ですか?
何かしらの製品を作るとき、その裏側には必ず、「その製品をどうやって形作るか」を考えている人たちがいます。その方々を一般的に生産技術者と呼び、生産技術者の方々が担っている仕事の領域を生産技術職と言います。
生産技術職の業務範囲は非常に広く、製造業という括りの中でも産業や業態によって違い、同じ業界でも会社の組織によって幅が異なってきます。とはいえ、共通点はあります。それは生産技術が、どんな製品を形作る上でも欠かせない仕事だという点です。
産業、業界による違いとはどういったものですか?
生産技術職について説明するとき、一般的には2つの産業に分けて考えていきます。1つは加工組立産業。もう1つは装置産業です。
- 加工組立産業
加工組立産業とは、機械や自動車など、工場のラインの上を部品が動き、製品が形作られている産業のこと。部品という多種類のモノ同士が、加工され、組み立てられることで製品ができあがっていきます。
加工組立産業での生産技術職は、製品や部品を効率よく量産する生産体制を築く仕事と言えるでしょう。ただし、この“効率よく”には、“ローコストかつ短納期で高品質なモノを”という意味があります。単に費用を削減すればいいというわけではなく、要求されている製品・部品の品質を保ちつつ、量産できる体制をつくっていくことが果たすべき役割なのです。
仕事内容は多岐にわたり、現状の生産体制における課題抽出や改善はもちろん、新規生産ラインの立ち上げ、工場の増設、新設なども手がけます。ときには、研究開発・設計部門と現場の橋渡し役となり、業務内容の見直しや人員の配置に関わることも。多角的な視点から生産体制の改良を行ない、生産効率アップを実現する仕事です。
- 装置産業
装置産業とは、石油化学工業、鉄鋼業、製紙業、製薬業などが主で、原料から完成品にいたる生産工程の大部分が装置によって処理され、製品が形作られていく産業のことです。
加工組立産業における生産技術職の仕事と重なる部分はありますが、いくつか異なる部分もあります。装置産業では部品と部品を組み合わせるのではなく、装置の中で素材と素材が混ざり合い、反応して製品ができあがっていきます。
一例をあげると、製薬の開発時には、研究職の方々が、1ミリリットル以下の単位で素材を混ぜ合わせ、実験をし、新製品につながる物質を作り出します。
ところが、これを工場で製品化しようとした場合、素材の分量はトン単位となり、均一に混ぜ合わせるだけでも実験時とは違った苦労が生じます。また、同じ素材でも大量に混ぜ合わせた場合、安定して同じ物質が形作られるとは限りません。
こうした難題を解消していくのも装置産業の生産技術職の重要な仕事です。どのような工程で生産すれば、ロスが少なく、高い品質で安定して製品を形作ることができるのか。研究開発部門やエンジニアリング部門など、他部署との検討を重ね、製品化を支えていきます。
製薬・化粧品・トイレタリー業界における生産技術職の特徴は?
他業種以上に、衛生、安全に対する基準が高い業界だと言えます。
例えば、製薬業の場合、FDA(アメリカ食品医薬品局)が定めた基準、制約のもとで生産ラインを整えなければなりません。定期的な査察も行われるため、生産技術職は高度な品質保証体制を作っていく必要があります。
また、製薬の現場にいらっしゃる方からは、「ご高齢の方々がより飲みやすい薬の形状、喉越しを追求している」と聞きます。同じ成分の錠剤であっても、楕円形ではなく、端の方を欠けた形状にすることで喉越しがよく、飲みやすくなるという声に応えるため、生産技術者が工場の生産ラインをどのように変えていくか検討することもあるそうです。
このように消費者からの声を製品へ反映させるのは、化粧品、トイレタリーの業界にも共通する生産技術職の重要な役割だと言えます。
世界に比べ、日本生産技術のレベルは?
製造が難しいものを安定して作ること。さまざまな部門と連携して製品を形作ること。そういった面では高い技術力を持っていると言えます。
一例をあげれば、製薬業界の錠剤を固める技術。新薬開発で世界先端を行くヨーロッパの医薬、化粧品メーカーが見学にやってきます。というのも、日本のメーカーは、安定性が低く固形化することが難しい成分を圧縮し、錠剤化する生産技術を持っているからです。
このようにおしなべて言えば、日本の生産技術力は高いと言えますが、一方で器用すぎることが課題になっているという声もあります。例えば、かつては日本が世界をリードしていた電機業界。優れた生産技術力によって、テレビ、パソコン、冷蔵庫、洗濯機など、あらゆる家電製品を作ってきましたが、結果的にそれがリソースを配分することとなってしまったという理解もできるからです。
それが原因と言い切ることはできませんが、現在ではテレビならテレビ、パソコンならばパソコンのみに特化して生産技術力を発揮する台湾などのメーカーに押されています。
今後は、日本の独自の生産技術力、長い年月をかけて暗黙知が蓄積されてきた「組織能力」を生かしたものづくりを進めていく必要があると思います。
生産技術を学ぶ上で、知っておくべき歴史的なトピックはありますか?
基本となるキーワードの1つは、ベルトコンベアです。
1908年に世界初の量産型自動車として発売されたフォード社のT型フォード。その生産現場にはベルトコンベアが導入され、流れ作業によって自動車が形作られるようになりました。
それまでは静止している自動車の周りに職人が集まり、組み上げていました。ところが、ベルトコンベアを使うことによって未完成の自動車がラインの上を移動し、組み立ては流れ作業となり、一気に効率化されたのです。
これは生産技術にとって大きな変化であり、製品の大量生産を可能にしました。
生産技術の現場で起きている変化について教えていただけますか?
高度成長期までは概ね「生産技術力」=「大量生産に向けた技術力」を指していました。しかし、現代は消費者のニーズが多様化し、一品一様の製品づくりがとても重要になっています。
同じ製品を大量に生産するのではなく、顧客視点に立ち、一品一様の少量生産を行っていくこと。これは生産技術にとっても難しい課題です。しかし、日本の企業には多様な要求に対応できる生産技術力があり、QCDES(Q:品質、C:コスト、D:デリバリー、E:環境、S:安全)に応じたものづくりが行われています。
その中で1つの潮流となりそうなのが、技術から技能への回帰です。我々は、「技能」を手についているもの、「技術」を数値化されているものと定義しています。つまり、前者は職人さんの知る暗黙知であり、後者はそれを形式知化したものです。
生産技術は技能を技術にするという方向で発展してきましたが、デジタル技術が発達する中で、改めて“人間は何をしたいのか?”という問いが重要視されるようになってきました。なぜなら、デジタル技術の発達で多くの暗黙知が形式知となったからです。そのなかで本当に多くの人に役立つ生産技術とは何かが問われています。
これは日本の生産技術者でしかできないこととは何か? という問いでもあります。多くの技能が形式知化されたことで、改めて、誰にでもできるわけではないという技能的な部分がクローズアップされる時代になってきたわけです。今後、生産技術者として生産技術職に就く方々にとって非常にやりがいのある状況になってきたと見ています。