「未来の標準」を先取りする。リモートワークの極意〜Geekに聞く、こんな時代のコミュニケーション

リモートワークやオンライン授業など、日常のさまざまな場面で急激な変化が起きている今の日本。オンライン上でしかコミュニケーションが取れずに不安を感じている人も多いのではないでしょうか。
サイエンスシフト編集部はそんな不安を解消するため、リモートワークのパイオニアである、Adobe XD UG札幌代表、株式会社パンセのシニアエンジニア半田惇志さんにその極意をお聞きしました。
「言いたいことがテキストでうまく表現できない」、「意図がきちんと伝わらず、誤解を受けてしまった…」ということのないように、オンライン・コミュニケーション力を身につけましょう。

こんにちは。株式会社パンセ シニアエンジニアの半田です。普段は主にWebサイトの開発や、デジタルマーケティングの支援を行っています。

リモートワーク歴はかれこれ5年ほどになるでしょうか。私は札幌在住ですが、現職、前職とも東京に本社があるため、東京の同僚と遠隔でコミュニケーションを取りながら業務を進める必要があったのが始まりです。

初めは札幌オフィスに出社して東京の同僚とやり取りをするスタイルでしたが、ここ2年ほどは週2〜3日を自宅勤務日としており、ときに育児をしながら、ときに庭仕事をしながら業務にあたっています。

結局どこにいようと業務に特に変わりはなく、リモートワークのコツなどを特に意識したことはありませんでしたが、周りの状況やニュースを見るに、必ずしも誰もがスムーズに行えている訳ではないようです。とはいえ、ここ半年近くの出来事は時計の針を数年分一気に進めるようなものばかりだったので、仕方のないことなのかもしれません。

私自身もリモートワークについて改めて振り返る非常によい機会でしたので、5年近くの経験からリモートワークがもたらしているものを紐解き、またその恩恵を享受するにはどのようにすればよいか、それぞれまとめました。

本稿が何か、皆さまのヒントになれば幸いです。まずはリモートワークの正体を考えていきましょう。

 

リモートワークの正体はいったい何か? 何をもたらしているのか?

いきなり核心をついてしまうと、リモートワークが私たちにもたらしているのはあらゆる活動の本質化とスリム化、と考えています。詳しく見ていきましょう。

 

人事評価の本質化・スリム化

まず挙げられるのが人事評価です。勤務態度や机に向かっている時間といった曖昧な基準ではなく、成果そのものにフォーカスがあたるようになります。

なぜこれが真っ先にくるのかというと、「リモートワークでは社員がサボるのではないか」という悩みをどの企業もまず最初に抱えるからです。しかし逆に考えてみましょう。出社している社員は、全員1分もサボらず働いているのでしょうか?以下はサボりでしょうか?

  • コンビニに行くのに15分かける
  • トイレ休憩に15分以上かける
  • タバコ休憩に行く

答えは人、部署、会社によって違うです。サボったか、サボっていないかという境界線はひどく曖昧で、結局リモートワークでなくてもサボる人は普段からサボっています。

つまり大事なのはサボっているかどうかではなく、成果をきちんと出しているかです。それに伴い、人事評価の基準も「きちんと勤務しているか」の「時間」や「態度」基準から「きちんと成果をあげているか」の「価値」へ変化していく必要があります。つまり今までの曖昧な定性評価から、数字的説得力のある定量評価へと変わります。評価制度はより明瞭になり、悪しき慣習からなる無駄がそぎ落とされていくでしょう。企業に本質的な価値を提供できない人はどんどん苦境に立たされる、実力主義の世界がやってきます。

 

会議の本質化・スリム化

これはわかりやすい要素です。人と対話することが、ある面で効率が良くなりました。

お客さまとの対話の際、オンラインでの会議も自然に受け入れられるようになってきました。移動する時間がないため、時間効率は格段に良くなっています。

また対面だとついつい話が脱線し、気付けば間延びしてしまうこともありました。しかし、オンラインでは一定の距離を感じるため話が脱線しづらく、本質的に話し合いたいことに最大限集中できる環境になっています。

逆に雑談や世間話を交えて進めたい、距離を縮めたいという場合は、オンラインでの会議にも課題が残ります。完全にどちらか一方ではなく、目的に応じて使い分けるのがよいでしょう。少なくとも、ツールと意識の進化で選択肢が増えたことは良いことと思います。

 

コミュニケーションの本質化・スリム化

私は5年ほどリモートワークを行っていますが、昔も今も変わらず、1日のコミュニケーションのうち8割くらいはSlackなどによるチャットが占めます。オンラインコミュニケーションといえば古くからあるメールもありますが、次第にチャットの方が多く使われるようになるでしょう。なぜかというとチャットの方が圧倒的に楽だからです。

メールでは、慣習として必ず文頭に「○○株式会社 ○○様 いつもお世話になっております、株式会社パンセの半田です。」と入れ、文末には「引き続き、何卒よろしくお願いいたします。」などの文言を入れます。しかし、チャットはメールに比べ圧倒的に多くやり取りするため、こういった文言はいちいち入れません。形式的慣習を省略しいきなり本題に入る文化がチャットにはあり、これこそコミュニケーションの本質化とスリム化に他なりません(※1)。

※1:だからといって言葉遣いを荒くしたり、友人にメッセージを送るようなカジュアルな文章にはもちろんすべきではありません。その点はご注意ください。

 

しかし立ちはだかる、「うまく伝わらない」というリモートワークの罠

ここまでで、リモートワークが社会にもたらしている変化を解説してきました。一見良いことずくめですが、課題も残っています。オンラインでのコミュニケーションはときに言いたいことがうまく伝わらないという事態に直面します。LINEなどのメッセンジャーアプリでも、きっと誰しもが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

リモートワークでは必然的に、テキストでコミュニケーションを多く取ることになります。しかしテキストでのコミュニケーションは、コツを掴んでいないと伝えないことがすんなり伝わらないものです。

自分の言いたいことが上手く相手に伝わらないと、「何でわからないんだ」「普通わかるでしょ」と思ってしまいがちですが、ハッキリ言います。伝わらない原因の多くは、伝える側にあります

昔は私も伝え方が足らず、誤解を招き、やり直し作業が発生し……ということを経験しました。しかし今では、1年を通してもそういった事態はほぼ0です。これは別に才能でも何でもなく、失敗する度に改善し、そうして積み重なった経験があるだけのことです。

 

テキストで上手く伝えるにはどうすればよいか?

具体的に、テキストで上手く伝えるための方法を解説していきます。先に羅列すると、下記7つのポイントがあります。

  1. 結論から話す
  2. 箇条書きにする・冗長率を下げる(1文を短くする)
  3. セクション分けする
  4. 曖昧にしない
  5. 図解する
  6. 適度に感情を入れる
  7. 条件分岐の先回りをする

これらを意識するだけで、圧倒的に読みやすく、誰が見てもきちんと伝わり、誤解を招かないテキストになります。これだけ見てもイメージが付きづらいと思いますので、実際に文章を1ポイントずつ改善しながら、具体的なやり方を掴んでいきましょう。

文章をシミュレーションするにあたり、皆さんは下記の状況にあると思ってみてください。

  • 沢井製薬のマーケティング事業部に配属され、サイエンスシフトの運営を行っている
  • まさにこの記事を私(半田)に発注し、公開へ向けて進めている
  • 私が提出した記事のアウトラインに対し、フィードバックをしている
  • 私は皆さんに、このアウトラインを提出しました

下記が今回改善していく、悪い例の文章です。

非常に読みづらいですね。特に修正案は、アウトラインと付き合わせながら1つ1つ確実に確認していかないと途中で訳がわからなくなりそうです。ではさっそく、このテキストを1ポイントずつ改善していきましょう!

 

1. 結論から話す

これはテキストに限らず、口頭でも意識すべきポイントです。では結論とは何かというと、概ね

  • 何がどうなった
  • 相手にとってもらいたい行動

のいずれかを意識するとよいでしょう。今回は「相手にとってもらいたい」行動にあたります。結論から話すよう改善すると次のテキストになります(ポイントに沿って改善した箇所を太字にしています)。

「内容を改善して欲しい」という結論を早めに伝えるようにしました。すぐ明言することで、こちらの意思が明確になっています。またこうすることで、スマホの通知画面内で結論が読まれ、意思が伝わる可能性があります。お互い日々沢山の通知を受け取る時代ですので、これは大きなメリットです。

 

2. 箇条書きにする・冗長率を下げる(1文を短くする)

冗長率とは意味伝達に必須ではない言葉の割合のことで、冗長な言葉のわかりやすい例は誰かと話すときに出る「あの…」「えっと…」などが挙げられます。
テキストで「あの…」と言うことはありませんが、敬体(ですます調)より常体(だ・である調)で書いた方が文章が短くなった経験はありませんか?これは、まさしく冗長率が下がっているからです。箇条書きと常体は相性が良く、箇条書きにすることで自ずと冗長率は下がります。

では、この2つを用いて文章を改善しましょう。

いかがでしょうか?箇条書きにしたことで視覚的にもメリハリがつき、読みやすくなりました。改善案がより明確になりましたね。常体の箇条書きは伝達の本質化・スリム化といってもいいかもしれません。

またついでに、コミュニケーションを大別している〜という文を2つに分割しました。1文が長くて良いことは基本的にありません。接続詞が2つ以上出て来たら、文を分割できないか検討しましょう。

 

3. セクション分けする

視覚的にメリハリを付けると読みやすくなることは実感できたと思いますが、セクション分けの狙いも同様です。複数の話題がある場合はセクション分けをすることで、ここまでが○○の話題、ここからが△△の話題ということがハッキリ伝わります

以下が、セクション分けをした改善後のテキストです。

隅付き括弧(【】)を使い、それぞれの話題の頭に件名を入れただけです。しかしたったこれだけでも、どこまでが1つの話題かがすぐわかるようになりました。

逆に言えば、セクション分けしていないテキストは相手に「この文は今までの話と関係あるのか…?」ということを常に気にさせます。これは認知負荷が高く、相手に優しくない状態です。認知負荷の高さは誤解にも繋がります。たったこれだけのセクション分けでも認知負荷を軽減できますので、ぜひ積極的に使っていきましょう。

 

4. 曖昧にしない

「曖昧にしない」だけ言われたって「いったい何を?」って感じですよね。これがまさしく、目的語が曖昧な例です。曖昧にしないを曖昧にしないように言うと(ややこしいですね)、日付・期限・主語・目的語などを曖昧にしない、です。曖昧なテキストは、業務において致命的なミスを誘発します

また、曖昧な部分を聞き返されるやり取りも発生します。せっかくリモートワークで効率的に働いているので、テキストのやり取りも効率的に、一発で伝わるようにしましょう。以下が曖昧さを排除したテキストです。

3つの観点から改善しました。まずはアウトライン改善の件の改善していければと〜いただけますでしょうか/いただけますと幸いですに変更した点についてです。この変更の理由は主語が曖昧で、どちらが作業を行うか不明瞭だったからです。改善していければと思いますという文は誰が改善していくかが明確ではありません。読む人によって

  • 私が改善作業を行います
  • 一緒に改善作業を行いましょう
  • 半田さんの方で作業をお願いします

のどれにでも捉えられる可能性があります。1番怖いのはサイエンスシフト運営の皆さんが作業をすると思われているパターンです。そう勘違いされていると、締切間近になっていざ進捗を確認したときに「え、御社の方で作業進めているんじゃなかったんですか?」と誰も作業を進めていないことが発覚します。こういった事態を防ぐために、タスクは誰がやるかをきちんと明確にしましょう。変更例のように依頼形にするだけでも、担当が明確になります。

次に来週の中頃まで14日(水)15:00までとしました。中頃と言われたって、人によってイメージする日時は違いますよね?それに結局サイエンスシフト運営としては、いつまでにアウトラインを完成させたいか、概ね日時は決まっているはずです。それを伝えず14日(水)になって「進捗どうですか?」と聞いて、「え、木曜日の午前まで大丈夫じゃないんですか?」と突然言われても困りますよね?これも、最初から期限をきちんと伝えていれば未然に防げる事態です。それだけでなく、案外作業する側も「○日の○時までにお願いします」と明確に伝えられた方がスケジュールを立てやすいものです。決まっていることは最初から詳細に伝えるようにしましょう。

最後の変更点は、交流会のお誘いの金曜日9日(金)の19:00からとした点と、弊社マーケティング事業部の社員といつもお世話になっているライターの皆さまでと付け加えた点です。9日(金)は相手が金曜日の日にちを勘違いすること防ぐため、19:00から弊社マーケティング事業部〜は「何時からですか?参加者はどなたですか?」と聞かれるやり取りを省略するためのものです。何を伝えるべきかは、いったん相手の立場になってみるのもポイントです。交流会に誘われたら、日時と参加者が気になりますよね?そうして自分が気になった点が、予め相手に伝えるべき内容です。

 

5. 図解する

次は今までとは打って変わって「図解する」です。これには専用のアプリを用いますが、私はCloudAppというアプリを使用しています。

「百聞は一見にしかず」という言葉があるように、テキストで伝えるにはちょっとわかりづらいな、と思った箇所が図解すべきポイントです。図解には言語の壁も年齢の壁も超える力がありますので、ぜひ積極的に図解しましょう。

以下、改善したテキストに図解した画像を添付します。

2-aを削る、2-bは見出し化せず……と続いていた改善例は相手がテキストとアウトラインを交互に見比べながら意味を咀嚼しなければなりませんでした。これを全て図にまとめたことで何をどう変更するのか、誰が見ても誤解の余地がないくらい分かりやすくなりました。また元の指示部分は(改善例、添付します)と書くだけでよいので、テキスト全体の見通しもよくなりました。

今回は静止画の例でしたが、一連の動作を伝えたいという場合は、GIFアニメまたは動画で画面のキャプチャを撮ることをオススメします。CloudAppではどちらも標準対応していますので、いずれも簡単にキャプチャが撮れます。

macOSでのCloudAppの画面。左から静止画・動画・GIFアニメのキャプチャボタン

ただしCloudAppの無料プランではGIFアニメは15秒まで、動画は1分までの制限があります。もしこれ以上長いキャプチャが必要な場合、私はGIFアニメはLICEcap、動画はRecorditというアプリを愛用しています。ぜひ状況によって使い分けてみてください。

 

6. 適度に感情を入れる

LINEなどで誰かとやり取りしていて、「なんか怒ってるように見える」と感じたことはありませんか?業務上のテキストコミュニケーションでも工夫をしないと怒っている、機嫌が悪いように見えてしまいます。それで相手が壁を感じてしまうと、相手もちょっと距離を取るようなテキストを返してきます。そんな状態では本質的な話し合いもしづらくなってしまいますので、適度に距離を近づける工夫が必要です。以下が、改善例です。

まずは「!/m(_ _)m/…」を挿入した点についてです。感謝を伝える文に「!」を付けると、形式的ではなく本当に感謝している感が出ますので、相手は単純に嬉しくなります。次に「m(_ _)m」については、「よろしくお願いします」というような意味合いの文に付け加えると、物腰の柔らかさが増します。「…」は「残念ですが/お気の毒ですが」というような意味の文に付けると、私もすごく残念に思っています感が増し、相手は「親身に考えてくれてるんだな」と感じることができます。

次の改善点として、質問文の末尾に「?」を付けるようにしました。「?」を付けることにより対話してる感が生まれ、心象的により返答しやすくなります。ただし、例えば依頼文でへりくだって「していただくことは可能でしょうか?」などと言う必要はありません。「不可能です」と言われれば元も子もありません(そんな人は滅多にいませんが…)。実施することが必須の依頼文などはへりくだり過ぎないようにし、「?」も付けなくてよいです。上記改善後のテキストの1段落目の調整していただけますでしょうかも、実施が必須な内容であるため「?」は付けていません。

また今回紹介した感嘆系の文字ですが、あくまでもビジネス文章として濫用しないように注意してください。「!」が多いと暑苦しく感じ、「m(_ _)m」が多いと軽く感じ、「…/?」が多いと優柔不断・無責任に感じます。

特に顔文字の扱いは難しく、「m(_ _)m」も謝罪文に付けてしまうと軽くなってしまうのでやめましょう。ビジネス文章に顔文字を使うこと自体、よく思わない人もいます。私自身、初めての相手に顔文字を使うことはまずありませんので、使うタイミングを見極めましょう。

 

7. 条件分岐の先回りをする

ここまで長きに渡りテキスト改善のポイントを解説してきましたが、いよいよ最後のポイントです。条件分岐についてまず解説すると、大まかに「Yes/No」と思ってください。プログラミングでもよく「〜なら〜をする/〜でないなら〜をする」という処理をよく書きますが、これをテキストで行ったのが次の改善例です。

まず、打合せが可能な日時を先にこちらから提示するようにしました。「今週は可能でしょうか?」という問いの回答は「Yes(今週OK)/No(来週に持ち越し)」の2択です。であれば、両方のパターンの回答を予めこちらから送ってしまうと、相手は「9日(金)の14:00でお願いします」とすぐ回答できます。

交流会のお誘いの方も同様です。Yesと言われてから再度URLをお伝えするのも手間なので、先に送ってしまいましょう。

このように条件分岐の先回りをしておくと、やり取りの回数が減り、とてもスムーズに物事が運ぶようになります。これはまさに「スピード感のある仕事」の極意の1つで、これが出来る人に出会うと「あの人と仕事をするとスムーズで助かる」「あの人優秀だな」と思います。

なお余談ですが、日程調整については色々と便利なツールがあり、こちらの記事でそれぞれの特長を紹介しています。 → 打ち合わせアポをスムーズに!ビジネスで使える日程調整ツール4選

まとめ

以上、リモートワークが社会にもたらしているものと正体と、長きに渡りテキストコミュニケーションの極意を解説してきました。テキストコミュニケーションのポイントについては私独自の視点から7つを導き出しましたが、実は全てのポイントは「相手のことをきちんと考えているかどうか」から派生しています。

結局のところいくらツールや意識、時代が進化しようとも、仕事をするうえで人との関わりはまだまだ避けられません。自分のテキストを読む相手を想像し、尊重し、慮れば自然とコミュニケーションも業務もスムーズになります。

テキストがコミュニケーションの中心になる時代は着実に近づいています。本記事の内容が、読者の皆さんのコミュニケーションと業務をスムーズにする、一助となれば幸いです。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

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