なぜ「共感力」が大きな成果を生むか | スタンフォード流手書きの技術【後編】
「地頭」は鍛え、伸ばすことができる。そして地頭を伸ばすには、「手書きの技術」がとても有効となる。そんな前提をもとに前編では、地頭を伸ばす仕組みと、地頭の重要なひとつ「発想力」を伸ばす方法を紹介しました。
後編では引き続き『地頭が劇的に良くなるスタンフォード式超ノート術』の著者・柏野尊徳さんに、「論理的思考力」と「共感力」を伸ばす具体的方法を聞きました。
前編はこちら
▼「地頭」は伸ばせる! | スタンフォード流手書きの技術【前編】
取材協力:
アイリーニ・マネジメント・スクール
代表 柏野 尊徳さん
慶應大学総合政策学部へ入学、1年目に学内学会で優秀論文賞を受賞。在学3年目にスタンフォード留学しデザイン思考を学ぶ。帰国後に飛び級、授業料全額免除の特待生として慶應修士課程を修了。岡山大学大学院では非常勤講師を3年務める。現在ケンブリッジ大学でイノベーション・エコシステムを研究、博士号取得予定。在学中設立の「アイリーニ・マネジメント・スクール」はマイクロソフトやパナソニックなどの組織変革を支援し、世界40カ国発行『Startup Guide』で日本を代表する教育機関に認定。スタンフォード講師との共同講座開催、教材ダウンロード16万部。エンジェル投資や長崎大学FFGアントレプレナーシップセンター外部アドバイザーとしてプロボノ活動も行う。『地頭が劇的に良くなる スタンフォード式 超ノート術』著者。
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論理的思考力=ものごとを「分ける」能力
──地頭を構成するのは「発想力」「論理的思考力」「共感力」の3つだとお伺いしました。そのうちの2つめ「論理的思考力」とは、どんな能力でしょう?
おおまかにいうと、ものごとを客観的にとらえ、整理し、ロジカルに評価する力です。
前編で紹介した「発想力」を高めることで、いいアイデアを素早く出せるようになります。論理的思考により、それらのアイデアのどれがどのように優れ、どれがどのように劣っているのか、さらにはどれが実現性が高いか・低いか、それを実現するには何が必要かといったことをロジカルに考えていきます。だから論理的思考力が高いと、生み出したアイデアの実現性も高まります。
そして、論理的思考を行う際の核となるのが、「ものごとを分けること」です。
──「ものごとを分ける」とは、どういうことですか?
たとえば自分がいまコーヒーショップにいるとしたら、「このお店のメリットは静かで落ち着いている点で、デメリットは飲み物の値段が高いところだ。そしてメリットが活きるのは何かじっくり作業したり、人と大事な話をするときなどで、逆にそうした状況でなければメリットにならない」というように、状況を2分割や4分割、8分割に分けて考えることです。
結局ものごとを分けるには、“違い”を見つけ、整理する必要があります。そして、ものごとをきちんと分けられてこそ、最終的にそれぞれの評価ができる。「分けること」が論理的思考の核になると述べたのは、そういうことなのです。
論理的思考力が高い人は、日ごろからものごとを分ける作業を、頭のなかで無意識に行っています。よく「ものごとがよくわかっている人」とか「ものわかりがいい人」といいますが、まさにそういった人のことなのでしょうね。だからこそ、「ものごとを分ける」感覚をつかみ、それを日常的に行えるようにすることが、論理的思考力を高めるカギになるのです。
「アイデア出し」と「分析・整理」は必ず別々に行う
──そのためのトレーニング法は、何かありますか?
おすすめは、行動やアイデアを考察して4つに分ける、「◯△?!マトリクス」というワークです。まずノートやホワイトボードに線を引いて4分割し、左上の「◯」のゾーンに良い点、右上の「△」のゾーンに改善点、左下の「?」のゾーンに不明点や疑問点、右下の「!」のゾーンに新しく生まれたアイデアを書き出します。
たとえば「今日起こったこと」を考察するのであれば、「◯」には「作業がはかどった」「Aさんとうまくコミュニケーションがとれた」、「△」には「××に遅刻した」「お酒を飲み過ぎた」、「?」には「今日Bさんに頼んだことは、いつやってもらえるのか?」、「!」には「今後は3分余裕をもって家を出る」といったことを挙げていきます。
これも正解はないので、思いついたことをどんどん手書きしていきます。時間は1つのゾーンにつき1分間などと目安を設けてもいいですが、発想力トレーニングのときとは違い、ある程度じっくり考えることが大切になるので、あえて時間は設けなくてもOKです。分けるもののテーマに関しては「今日起こったこと」以外にも、自分の仕事や勉強の現状について、あるいは特定の何かに関するアイデアについてなど、なんでもかまいません。
引用:柏野尊徳『地頭が劇的に良くなる スタンフォード式 超ノート術』SBクリエイティブ
──前編でうかがったアイデアを生む工程と、それを考察・整理する工程をきちんと分けて行う点に、「なるほど!」と思いました。ふりかえると自分はふたつの工程を同時に行ってしまい、アイデアを十分に出しきれなかったり、考察・整理の精度が低くなったりしていた気がします。
おっしゃるとおり、そこがとても重要だったりします。スタンフォードの講義でも、アイデアの発想とそれを整理する作業が混ざるとうまくいかないので、明確に分けましょうと教えられました。
かのウォルト・ディズニーも、映画を作る際には、3つの部屋を使い分けていたそうです。1つめの部屋が「アイデアを生み出す部屋」、2つめが「出てきたアイデアの実現性を考える部屋」、3つめが「実現性のあるアイデアのなかからビジネスとして成り立つものを考える部屋」です。きっと、異なる思考を分けて行うことの重要性を、よくわかっていたのでしょうね。
私も何かネタやアイデアを出すときはカフェに行き、それをまとめたり整理したりするときは事務所のパソコンでやるというように、場所と時間を変えることで思考を切り替えやすくしています。
共感力が高いと、人が集まり動いてくれる
──では、3つめの能力「共感力」とは、どんなものでしょう?
ビジネスで成果を出すには、この能力が一番重要になるかもしれません。共感力とは相手に共感し、相手が何に興味・関心を持っているかをふまえたうえで、的確にコミュニケーションをとることです。話す内容がどんなにいいことでも、相手に届かなければ意味がありません。でも共感力の高いコミュニケーションをとれば、自分の考えや希望を相手が自然に受け入れ、行動に移してくれるようになります。
たとえばプレゼンの現場で共感力がともなっていないと、新機能がどうこうとか、競合と比べてどうだといった“売り手本位”の話をしてしまいます。でもそれだと、聞き手は自分にとって重要な話と思えず、耳も心も開いてくれません。聞き手の耳と心を開くには、それが自分にとって重要な話であると感じてもらう必要があります。
そこでおすすめなのが、まさにプレゼンを想定した「ストーリー・ボード」というワークです。
──「ストーリー・ボード」とは、どんなワークですか?
まずは紙やホワイトボードを4つのスペースに分け、1番目のスペースには対象となる相手の「普段の行動」を書きます。ちなみに当ワークでは、すべて言葉とスケッチをセットにしてアウトプットします。続いて2番目のスペースには、その人が抱える「課題や悩み、葛藤」を書き出します。3番目のスペースには、それに対する「解決策」を書きます。そして最後の4番目のスペースには、それによって起こる「日常の変化」を書きます。
引用:柏野尊徳『地頭が劇的に良くなる スタンフォード式 超ノート術』SBクリエイティブ
このワークを行うことで、どうやって相手に共感し、相手に響くメッセージを届けるかの大まかな流れ=ストーリーがつかめます。もちろん、実際のプレゼンや説得のシミュレーションにもなります。なお、もし誰かを想定するのが難しければ、まずは自分を登場人物にしてストーリーを作ってもOKです。
ただ当然ながら、共感力を得るには、相手をいかに知るかも重要になります。
「心が動いた話」をこちらから切り出すのがコツ
──相手のことを知るコツのようなものはありますか?
ポイントは表面的な事実だけでなく、相手が興味・関心を持っていること、要は「何に心が動くのか」をつかむことです。それにはメールや電話、ウェブ会議より、きちんと対面してインタラクティブ(双方向的)なやりとりをすることが、手間のように見えてかえって近道となります。そしていきなりつっこんだ質問をするのではなく、まずは事実ベースのライトな話から入り、徐々に相手にとって心が動かされるものは何かを探っていくのがセオリーとなります。
それともう1点、「自己開示」も重要です。こちらがどこ出身で、仕事は何をしているといった事実ベースの話ばかりしていては、相手もそれにならってしまいがちです。同様に「実は、先日こんな失敗をしてしまい、めちゃくちゃへこみました」といった「心が動いたエピソード」を自分から話せば、相手もそうした話をしやすくなります。したがって、ころあいを見てアイスブレーク的にそうした話を自ら切り出すのが、有効なテクニックになります。
いずれにしても現代は多様化が進み、「20代女性は△△が好き」「40代男性は◯◯に興味がある」といったざっくりしたくくりが、あてはまりづらくなっています。だからこそ仕事で成果を上げるには、ひとり一人にきちんとフォーカスしてアプローチする「共感力」が、いっそう重要になりつつあるのです。
──最後に、地頭を伸ばしたいと思う読者にむけ、何かメッセージをお願いします。
やはりいちばん伝えたいのは、今回紹介した手書きの効能を理解し、それを日常に取り入れてもらいたいということです。
僕がこのメソッドを学んだスタンフォードのスクールには、垂れ幕がかかっていて、そこにはナイキのスローガンとしても有名な「JUST DO IT」というフレーズが書かれていました。考えるよりも、まずは動きましょう、というメッセージです。
「手書き」って、まさにそれだと思います。何を書こうかと思い悩む前に、とにかく書いてしまい、そこから考えればいい。書くだけなので、失敗しても紙と少しのインクがムダになるくらいで、たかがしれている。実際に動くことで、頭の中で理解しているつもりだったことも、体感をともなったものとなる。
もちろん状況に応じて「じっくり考えること」と「すぐに行動すること」の両方できるのが最強なのですが、とかく日本では、じっくり考える方にウェイトが寄りがちです。だからこそ、とにかく手書きしてみる、まずは行動してみるという部分に、ぜひ意識的に取り組んでもらえればなと思います。