時間管理術(1) 時間をあなたの味方にするために
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ひさしぶりのまとまった連休明け、「連休が終わってから振り返ると、こんなに時間があったのに、なんとなくムダに過ごしてしまった……」というようなこと、ありませんか?
これは誰もが経験する後悔であると同時に、時間の使い方は人生を通した課題でもあります。30歳になっても、もちろん40歳でも50歳でも、自分の時間の使い方に後悔してしまうことはよくある話です。
だとするならば、どのように時間を使ったらいいのか。日々の仕事にとどまらず人生の「時間管理術」というようなものは存在するのか。そのひとつの答えを、プロジェクト・マネジメントの世界で活躍する佐藤知一さんに聞きました。佐藤さんは、長年プロジェクト・マネジメントという「モノゴトを為す技術」を追究してきた人です。少しでも有意義な時間の使い方をしたいと思う人は、ぜひチェックしてください。
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2年ほど前まで、ある都内の私立大学で、大学3年生向けの授業を受け持っていました。教える科目は、「プロジェクト・マネジメント」。プロジェクトとは、新しい未知なるゴールを目指し、皆で協力して取り組む活動の総称です。学生生活の中にも、サークル活動のイベントや文化祭などのプロジェクトはたくさんあります。他にもゼミでの研究活動、アルバイト先の仕事の中にも見つかるはずです。
そして社会に出たら、誰もが多かれ少なかれ、仕事で新しいチャレンジとしてのプロジェクトに関わっていくことになります。それをいかに上手に進めていくかが、授業のテーマです。
ところが、大学3年生の後期授業は、11月頃になると皆が何となくそわそわし、浮き足立ってくるのが常でした。就活のためです。欠席届が増え、授業にスーツ姿でくる学生も目立つようになります。授業の後半はグループ分けをして演習課題を進めることにしていたのですが、チーム活動にも支障が出はじめました。
そこで授業では、この時期に、「時間管理」というコマを入れることにしました。学生の皆さんがそわそわして、必要な人との協力にも差し支える理由は、「時間に追われている」「時間が足りない」という感情が強まるからです。自分で自分の時間をうまくコントロールできない——ちょっとした方法でそんな悩みを解決できると知れば、気持ちもずいぶん楽になるはずです。
時間管理の方法、人生時計の考え方
では、時間管理の方法とは具体的に、どのようなものなのでしょうか。
ここでちょっと立ち止まって考えてみましょう。そもそも、「時間管理」という言葉自体、なんだか矛盾していると思いませんか?
たとえば、「お金の管理」だったら、あなたの持っているお金(それが現金であれ銀行預金であれ)の入出金をきちんと把握し、計画的に回していくことだと、誰もが思うでしょう。「在庫管理」だって、会社が持っている在庫品を、どこにどう保管し、どれだけ出し入れするか、きちんとコントロールする仕事であると想像がつきます。お金も、在庫品も、人や組織が所有しているものを管理する訳です。
しかし、「時間」は誰かが所有しているものではありません。しかも、わたし達が何をどう頑張ろうと、時間の進み方を早めたり、遅くしたりすることもできません。つまり「出し入れ」を加減することもできない訳です。ということは、時間なんて管理できないのでは? 『時間管理』とは、言語矛盾ではないでしょうか!?
まさにその通りです。時間管理(英語でTime managementともいいます)とは、率直に言って、間違った言葉の使い方、ないし、誤解を生みやすい概念です。時間それ自体は、誰も管理できません。
では、何を管理するのか。
それは、あなたの「時間の使い方」です。放っておいても勝手に流れ過ぎてゆく時間を、いかに有効に使うか。時間管理とは、上手な時間の使い方を目指した方法論なのです。
「あなた、若い時を大切にしなさいよ、22歳を過ぎたら、あっという間に30なんだから」——このようなことを、親戚の年長者から聞いたことはありませんか? あるいは、「人生は、40を過ぎたら60まで、一瀉千里だよ」、とか。
図は、わたしが著書『時間管理術』(日経文庫)で紹介した「人生時計」です。これは人間の年齢を時計で表したもので、0歳が朝の6時に始まります。10歳が朝の8時、20歳が朝の10時です。12時が30歳で、太陽は中天に輝いています。午後2時は40歳、まだ熱気があり、45歳が人生の午後3時です。50歳が午後4時、60歳で夕刻6時。まだ宵の口で、これからオフの時間の楽しみが始まる時間です。
皆さんは、今のご自分の年齢が、何時何分か、ちょっと考えてみてください。この時計は、10年間が2時間、すなわち1年が12分に相当します。1ヶ月が1分。そして時計の4秒が、現実の1日という勘定になります。わたし達が日々、6時間すごす毎に、「人生時計」の秒針が一つ進むのです。
では、この時計に、皆さんがご自分で抱く人生の目標を、描き入れることはできますか。たとえば25歳までに何らかの資格を取る、とか、30歳までにベンチャー企業を作って独立する、とか。もちろんどんな目標でも結構です。それは人生時計の、何時何分に相当するでしょうか。そしてそれまでに、何時間残っているでしょうか?
あまりに長い年月は、わたし達には普通、ピンときません。それを時計に置きかえることで、自分が時間を浪費していたらもったいない、と感じる助けになるのです。
『時間どろぼう』を見つけるためにできること
大学の授業では、学生に自分たちの「時間どろぼう」について、たずねます。「時間どろぼう」とは、ミヒャエル・エンデの児童小説「モモ」に出てくる、悪者たちの名前です。この小説では、現代の大人たちがみな、ひどく忙しいのは、黒い服を着た「時間どろぼう」が、みんなのゆとりの時間を盗んでいってしまうからだ、ということになっています。
では、あなたにとっての「時間どろぼう」は何でしょうか? ためしに3つ、あげてみてください。別の言い方をすると、あなたが時間を浪費していると感じるのは、何をしているときですか?
ネットをだらだら見ている時間、通勤通学の時間、SNSやゲームにはまっている時間・・答えは様々でしょう。別に正解がある訳ではありません。通学時間は、ある人には時間どろぼうだけれど、別の人には有意義な時間かも知れません。ここではただ、自分の時間の使い方について、少し反省してみることをお勧めしているのです。事実を客観的に見つめること、それがどんな問題解決も、出発点になるからです。
M・エンデの小説では、主人公の少女モモが、時間どろぼうを見事に退治してくれます。しかし、小説でない現実のわたし達は、自分で時間どろぼうを見つけて、ひとつずつ改善していく必要があります。
そのための手段の一つが、日誌をつけることです。日誌に、自分の時間の使い方を毎日、記録するのです。皆さんは日記をつけていますか? それでは、「日誌」はいかがですか? では、家計簿を毎日つけている方は?
学生で日記をつけている人は、わたしの授業経験から見て、10人に1人ちょっとです。女性の方が少し多いかも知れません。もちろん、日々の出来事や感じたことを、SNSやBlogに書く人は、もっとずっと多いと思います。しかし、わたしがここでお勧めするのは、身辺雑記的な日記ではなく、「日誌」をつけることです。
日誌とは、ある種の仕事の記録を指します。船の船長は普通、「航海日誌」をつけます。航海日誌に書くのは、船の位置・進路、気象、主要な作業項目や出来事、寄港地名と積み卸しの内容、船員や乗客の動静、発生したトラブルや危険などでしょう。こうした記録は、次の航海の計画を立てる場合に、役だちます。わたしは航海日誌もつけないような、だらしない船長の船には、乗りたくありません(ちなみに一定以上の規模の船では、日誌が法律で義務づけられています)。
同じように、営業マンなら「営業日誌」、工場なら「製造日報」などの形で、日々の記録をつけることが会社では普通に行われています。いずれも、事実を記録し、また計画やトラブル発生時に、過去の記録を参考にするためにつけているものです。
時間管理を身につけたかったら、日誌を書くことから始めるのをお勧めします。自分がその日、何をしたか、それにどれだけ時間を使ったかを、淡々と記録します。日誌は日記ではありません。日誌は事実(時間の使い方に関するデータ)の記録であって、気持ちを書きとめる文学ではないのです。
よい日誌のつけ方とは、1日分を10分以内で記入できる程度にまとめます。項目別の箇条書きか、チェックリスト方式で、時間の使い方を記せば十分です。紙に書いてもいいのですが、あとから検索することを考えれば、電子的記録がベターでしょう。
そういう意味では、別にSNSを利用してもいいのですが、日付順や項目別などでソートしたり、構造化したりしにくいという欠点があります。わたし達は、検索と分析のために日誌をつけるのです。そうした意味で、日誌とは、“時間の使い方”を記録した『家計簿』であると言っても良いでしょう。
お金を上手に管理している人は、家計簿や出納帳を、きちんとつけています。同じように、時間の使い方が上手になりたければ、時間の家計簿=日誌をつけることから、まずスタートしませんか?
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時間管理術(2) タスク・リストの使い方
※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。