時間管理術(3) ミーティングを時間泥棒にしないために
『時間管理術 (日経文庫)』(日本経済新聞出版)著者の佐藤知一さんの連載最終回をお届けします。
最終回となる第三回は「ミーティング時間の使い方」がテーマです。
▼過去の連載はこちら
時間管理術(1) 時間をあなたの味方にするために
時間管理術(2) タスク・リストの使い方
◆
時間泥棒とは、価値の薄い、生産性の低い時間の過ごし方
第一回の記事で、日誌によるふりかえりの大切さと、「時間泥棒」についてお話ししました。一日の終わりに、自分の時間の使い方を振り返ったとき、充実した有意義な時間の使い方だった、と思う場面もあるでしょう。逆に、なんだか無駄な時間だったなぁ、と感じてしまう過ごし方も、時々あるかもしれません。
価値の薄い、あるいは生産性の低い時間の過ごし方。その常習化したものが、わたしたちにとっての「時間泥棒」です。といっても別に、勉強している時間や、働いている時間の価値が高く、遊んだり休息したりしている時間の価値が低い、と言っているのではありません。働いているつもりだが、能率の上がらない時、あるいは気晴らしのはずなのに、なんだか満足感の薄い時、もったいない時間の使い方をしたと、わたしたちは感じるのです。
『ミーティング』は本当に時間泥棒なのか
仕事やサークル活動など、人が協力しあって何かに取り組むとき、よく時間泥棒として槍玉に上がるのが、会議やミーティングの時間です。
皆さんは会議と言うと、どんなイメージがありますか。大勢の人が会議室に並んで座り、偉い人が議長役を務め、誰かがスピーチや演説をする。そんなシーンを思い浮かべるかもしれません。あるいはもう少しこじんまりと、部屋の隅のテーブルを囲んで、皆でああだこうだと議論する姿を想像する人もいるでしょう。
複数の人が集まって、情報共有をしたり、行動の調整をしたり、あるいは問題解決のためのディスカッションをする。それがミーティングです。大勢の参加者がいて、定例的なものを会議といい、少人数がアドホックに集まるものを打ち合わせと呼んだりしますが、本質は同じです。どれも英語では Meeting なので、ここではミーティングと呼んでおきます。
仕事ではしばしば、ミーティングが時間の無駄と目されがちです。私は仕事柄、大型プロジェクトに長年関わってきましたが、ミーティングを「時間泥棒」と感じる人も、案外多いようですね。いったいなぜでしょうか?
参加者が多いため、自分の発言の時間が非常に短い。だから時間の無駄なのだ、と言ったら納得できますか。他人の発言を聞いて得るところが多ければ、たとえ一切自分が発言しなかったとしても、決して無駄だとは感じないでしょう。
わたしたちが無駄だと感じるのは、方向付けがなされず、何も決まらないまま、ただ意見のやりとりがなされるような時です。プロジェクトに限らず、複数の人が関わる仕事では、いろいろな情報や見解が錯綜します。いわばまとまりのない(理科系の言葉を使えば「エントロピーが大きい」)状態です。
ミーティングが始まった時に比べて、ミーティングの終わった時に、情報がより整理され、錯綜していた判断や見解が方向づけられて、するべきことが明確になった時、わたしたちはミーティングが有意義だったと感じます。
そういう意味でミーティングは、決まった開始時刻が来たから始まる、そして終了時刻が来たから終わる、といった性格のものであってはいけないのです。ミーティングを、何らかのアウトプットを生み出すタスクとするためには、ミーティングの最初に、目的と「完了条件」を宣言し、終了時に打ち合わせメモを作成する事が必要です。
例えば、「今日のミーティングは、これこれを決めたら終わります」というように、最初に完了条件(ゴール)を宣言することが、良いやり方です。すぐに結論が出れば、ミーティングはすぐに終わりにし、予定していた時間内に決められなければ、とりあえずその時点までに決まったことを確認して、再度ミーティングを招集します。どこまでいったら、このミーティングは目的を達成するのか。これを最初に明確にする事が重要です。
またミーティングで決まった事は、出来る限りその場で、打ち合わせメモ(議事録)に残すことが大切です。それは、後になってから『言った・言わない』などの誤解や言い争いを防ぐためです。
これについては、記憶に残るエピソードがあります。もう何年も前ですが、私は勤務先の専務に呼ばれて部屋に行き、懸案となっていた事柄について、二人で 30 分ほど相談しました。結論を決めて、別のフロアにある自分の席に戻ると、10 分もしないうちに、当のその専務からメールがありました。文面は、先ほど決めた事項と、私のとるべきアクションを、ほんの 3 行ほどにまとめた文章でした。
その専務は、社内でも優秀なプロジェクト・マネージャーとして知られた方です。そして、ミーティングをしたらメモを作ることが、半ば習慣化しているのでしょう。こういう場合、本来は目下であるわたしがメモを作って提出すべきでしたが、超多忙な専務は、待つ時間が惜しいと考えたのか、自分で結論だけを記録されたのです。
わたしの勤務先では、海外企業と行うプロジェクトの場合、しばしば、打ち合わせメモにサイン欄を作り、参加した双方の代表者が、内容を確認してサインします。普段の社内ミーティングの場合、そこまで格式張る必要はないのですが、それでも打ち合わせメモを残すのは良い習慣です。
わたしはよく、会議室にあるホワイトボードに、その場で打ち合わせのメモをまとめ、スマホで写真に撮って、参加者に配るようにしています。その程度のラフな手書きのメモでも、あると無いとでは大違いなのです。
では、「打ち合わせメモ」(議事録)には、どのような項目を書くべきなのでしょうか。典型的には、次のような項目をカバーします。
- プロジェクト名(あるいは業務名・案件名など)、日時・場所、整理番号
- ミーティングのテーマ(主題)
- 出席者
- 議題・議事内容と結論
- 今後必要なアクション: 内容、責任者、期限
- 配付資料
- 作成日、文責
特に重要なのは、(5)のアクション・リストです。ミーティングで決めたそれぞれのアクションには、内容と担当者と期限日の欄が要ります。
そして、よく見るとこれは、前回の記事でご説明したタスク・リスト(To Do リスト)と、ほとんど同じ構造をしている事が分かります。つまり、意味のあるミーティングとは、仕事のメンバー間で、タスク・リストを共有するためのものなのです。
これを踏まえると、定例的なミーティングですべきことが明らかになります。それは、以下の項目を、毎回メンバー間で確認するのです。
- アクション・リストの進捗を定期的に追いかけ、
- 完了したものはその報告をし、
- 遅れているものは督促し、
- あらたに必要になったアクションはリストに追加する
アクション・リストの共有こそ、グループで進める仕事の進捗記録の中心になります。そして意味のあるミーティング、「時間どろぼう」にならない会議とは、メンバー間でタスク・リストを共有し、それを追いかけていく活動なのです。
終わりに
以上、三回にわたって、時間管理術の基本をお伝えしました。自分の時間の使い方をふりかえり、予定とタスクを把握し、それを他人とも共有していくこと。これが最もベーシックなタイム・マネジメントの方法です。ただし、それは決して、自分の予定をスキマなく埋め尽くし、時間に対してケチになるための手段ではありません。むしろ逆です。時間管理のめざす究極の目的は、一見、何もしない時間を作ることにあります。それはいいかえれば、わたしたちの毎日で一番貴重な時間、すなわち、雑事に追われずに、落ち着いて「考える時間」を生み出すことにあるのです。
※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。