2022年上半期 製薬業界ニュース5〜製薬業界を目指す学生が知っておきたい業界事情〜
「製薬業界のニュースをおさえておきたい!」 「製薬業界って実際今どうなっているの?」……という就活中のみなさんへの記事です。2022年上半期に報じられた重要なニュースをまとめました。業界の動きを知っておくために、また面接対策にも活用してください。トピックの選択と解説は、製薬の世界を常に追い続ける専門誌『薬事日報』です。
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株式会社 薬事日報社
医薬業界向け専門紙「薬事日報」、薬学生向け情報紙「薬事日報 薬学生新聞」等の発行をはじめ、電子メディアの運営、専門情報書や実務書、解説書などの図書出版を手掛ける。
ワクチン開発の司令塔「SCARDA」が開設
政府は3月22日、新型コロナウイルスなど特定の感染症を対象としたワクチン開発に資金配分し、実用化を促す先進的研究開発戦略センター(SCARDA:スカーダ)を日本医療研究開発機構(AMED)内に開設しました。基金1504億円を活用し、感染症ワクチンの開発、ワクチン開発に資する新規モダリティの研究開発に関する提案を公募し、迅速な開発につなげます。
新型コロナウイルスワクチンの開発では海外メーカーに遅れを取り、“ワクチン敗戦”とも囁かれました。スカーダのセンター長にはウイルス学者で元名古屋大学総長の濱口道成氏が就任。設立後の会合で「われわれがやるべきことは安心・安全なワクチンを作ることに尽きる。安心・安全とは国内で完全にワクチンを作ることができる体制だ」と述べ、国産ワクチンの実用化に意欲を示しました。
政府が指定予定の重点感染症を対象に、パンデミックなど有事の際に安全性と有効性が確保されたワクチンを迅速に国内外に供給することを目標としています。
※つまりこういうこと※
“ワクチン敗戦” と囁かれてしまった日本も、ワクチン対応に本腰に。
高血圧症治療アプリが承認
高血圧症をアプリで治療する──。キュアアップの高血圧治療用アプリ「CureAppHT高血圧治療補助アプリ」(一般名:高血圧症治療補助プログラム)が4月26日、厚生労働省から承認されました。治療を支援するアプリのソフトウェア単体での承認取得は国内初で、高血圧対象では世界初となります。
医療機関と同社が使用契約を結ぶことで使用でき、医師は患者に処方します。国内第Ⅲ相試験では、生活習慣の修正指導と治療アプリを組み合わせた介入群が、生活習慣の修正指導のみの対照群に比べ、家庭血圧平均値を有意に減少させる効果が示されました。
同社は年内の保険適用を目指しています。佐竹晃太CEOは、記者会見で「高血圧症患者約4300万人のうち、約3000万人は治療を受けていない。治療を受けていてもコントロール不良という現状にある」とし、薬剤の服用に抵抗感を持つ患者や生活習慣を是正できない患者に対し、「治療用アプリが有効な治療手段になる」と強調しました。
アプリが普及すれば、現在高血圧症の治療手段として用いられる降圧薬薬剤費の適正化につながるとの期待感もあります。
※つまりこういうこと※
スマホアプリも “処方” される時代に。ヘルスケアのDXが進む。
改正医薬品医療機器等法が施行
緊急時の薬事承認制度導入などを盛り込んだ改正医薬品医療機器等法が5月13日に成立し、同20日に公布、施行されました。緊急時薬事承認制度はパンデミック発生など緊急時において、臨床試験で医薬品等の安全性を確認し、薬の効き目となる有効性が推定された時に条件・期限付き承認を与える薬事承認の仕組みとなります。通常の承認プロセスでは必要となる大規模な患者を対象とした検証試験を省略できるため、公衆衛生上必要な薬を迅速に承認できるメリットがあります。
新型コロナに対応したワクチン・治療薬が開発されてこなかった反省から法改正が行われました。条件・期限付きの承認制度であるため、承認期限は概ね2年間の短期間とし、期限内に改めて有効性を確認することとなります。有効性が確認できない場合は承認を取り消すという条項が加えられました。
国会の審議で質問が相次いだのが、“有効性の推定”に対する解釈です。厚生労働省は法律施行日に「緊急承認制度における承認審査の考え方」に関する通知を発出。有効性が推定されるために必要となる臨床試験成績について、基本的には個々の医薬品の性質に応じて判断されるとしたものの、感染症に用いる治療薬については原則として後期第Ⅱ相試験程度の臨床試験が該当するとの考え方を示しました。
新型コロナウイルスに対する国産治療薬・ワクチンの開発が進んでいますが、第1号製品としてどの薬剤が適用されるか注目が集まっています。
※つまりこういうこと※
新型コロナのような緊急時の薬事承認の体制が整う。今後実効性が問われる。
骨太方針2022が閣議決定
政府は6月7日、予算編成や政策の指針となる「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)を閣議決定しました。社会保障分野ではオンライン資格確認の導入など医療DXの推進やOTC医薬品の拡大を見越したセルフメディケーション、バイオシミラーの推進が明記されました。
骨太方針で示された内容は国の政策に反映されるため、製薬業界にも影響大です。医薬品の品質・安定供給の確保と共に創薬力を強化し、様々な手段で科学技術力の向上とイノベーションを実現するとの方針を掲げています。
特に癌・難病分野の創薬推進に向け、臨床情報と全ゲノム解析の結果に関する情報を連携させ搭載する情報基盤を構築し、利活用に関する環境を整備する方向です。創薬の担い手としてベンチャー育成も重要な課題に位置づけました。
また、創薬を成長産業にすることを明記した「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」も閣議決定しました。昨年の骨太方針は足下のコロナ対応に力点が置かれましたが、医薬品・ワクチンの研究開発や医療提供体制整備など、コロナ後の「新たな日常」を見据えた方向性を明確化しています。
※つまりこういうこと※
医療・医薬品に関する政府の方針が決定。製薬業界にも影響大。
患者の声、産官で医薬品評価に活用進む
患者の声を集積し、薬の評価に活用する動きが加速しています。患者の日常生活における副作用や体調の異変をSNSやスマートフォンアプリなどを通じて収集する「ePRO」(電子的患者報告アウトカム)が臨床現場で導入されるようになってきました。この半年間で製薬企業はITベンダーやアカデミアと手を組み、疾患管理アプリを開発、臨床での活用が広がっています。
これまでは医療機関が患者から集めた副作用が疑われる症例について、製薬企業が薬剤との因果関係を評価した上で国に副作用として報告してきました。ただ、疾患や薬剤の特性によっては患者が自覚しやすい副作用もあり、患者自らの評価や患者からの症状の訴えを直接収集するなど、安全対策の手法に変化が生まれています。
国も患者参画の動きに対応を図っています。医薬品の品質や有効性、安全性向上に資する審査を行う厚生労働省所管の「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)は、今年度から患者会と連携した医薬品の情報提供・収集活動を試行的に実施し、その第1弾として難病のライソゾーム病新薬が対象薬剤に選ばれました。6月から連携を開始しています。
※つまりこういうこと※
医療DXの一環として、薬の評価にSNSやスマートフォンアプリを活用。
まとめ
コロナ禍が2年半続き、ようやくコロナと共生する「エンデミック」の局面に移りつつあります。2022年上半期の製薬業界もその移行期にあり、緊急時薬事承認制度の導入やスカーダ創設と製薬企業の「民」に委ねるだけではなく、「官」が医薬品・ワクチンの開発を後押しし、安定供給に責任を持つ体制に移行を図っています。
その一方で医療DXや医療への患者・市民参画は見逃せない動きで、コロナ後の製薬業界でも重要性を帯びてくると思われます。