「働き方改革」は就活生にどう関係していくのか?「はたらく」を考える『WORK MILL』編集長に聞いた「働くの未来」

Webメディアでもテレビでも新聞紙上でも目にしない日がないほど、話題となっている「働き方改革」というキーワード。政府も2016年から「働き方改革実現推進室」を設置し、働き方を変えていく取り組みを提唱。トヨタ自動車やソニーなど、名だたる大企業も働き方改革を進めています。

とはいえ、なぜ、今「働き方改革」が必要で、働き方の何を改革しようとしているのでしょうか?
そして、それはこれから就職活動に向かう学生にとってどのように関係してくるのでしょうか?

今回は、そんな疑問について「はたらく」って何だろう?を考え、情報を発信しているWebマガジン「WORK MILL」の編集長・山田雄介さんが答えてくれました。

取材協力:

株式会社オカムラ

フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくの未来研究所 主任研究員 WORK MILL編集長

山田雄介(やまだ ゆうすけ)さん

大学で建築学を専攻し、人が生活において強く関わる空間に興味を持つ。住宅メーカーにて住環境のプロデュース企画を担当。現在は、「WORK MILL」の編集長を務める一方で、働く環境の研究に従事しながらオフィスコンセプト開発、国内外のワークトレンド調査、講演などに携わる。一級建築士。

WORK MILLとは?

オフィス家具づくりを中心に、半世紀以上働く環境について考え提供してきた株式会社オカムラが実施する働き方改革プロジェクト「WORK MILL」。Webマガジンやペーパーマガジンの発刊を通じた「はたらく」に関する情報発信をはじめ、共創空間と呼ばれるイベントやセッション会場の運営など、多岐にわたる活動を行っています。

なぜ、今、仕事の現場では「働き方改革」が進められているのか?

−−日々のニュースで「働き方改革」というキーワードを耳にしながらも、「そもそも働き方改革ってなに?」「何を変えようとしているの?」と思っている学生は少なくありません。「はたらくの未来研究所」の主任研究員でもある山田編集長は、なぜ、今「働き方改革」が必要とされていると思いますか?

ここ数年、強く「働き方改革」が求められるようになった理由は大きくわけて2つあると思います。

1つは、生産性の問題です。日本は今、少子化と超高齢化によって労働人口が減少し続けるというかつて経験したことのない時代に入っています。このまま従来型の働き方のままでいたら、日本の産業は成り立たなくなっていくという危機感が広がったわけです。そこで、女性やシニアの活用を促進する一方で、そもそもの働いている人たちの生産性を高くしていこう、と。それも持続可能性の高い働き方ができるよう環境を整えなければいけないという流れが生まれました。

実際、各種統計を見ても日本の労働者の生産性の低さは顕著に数字として出ています。一生懸命たくさん働いているけれど、GDPは伸びず、世界を動かすようなイノベーションも出ていません。この二重苦のような状態を変えなければいけない。それが「働き方改革」が必要とされている1つ目の大きな理由です。

そして、もう1つの大きな理由は、仕事と情報の関係性が変化したことです。

−−仕事と情報の関係性というと?

高度成長期以降、2000年代までは基本的に仕事の情報は一方通行でした。例えば、現場で働くビジネスパーソンにとって仕事の起点は、会社の上司ないしは、お客様のところから始まるものでした。簡単に言うと、上司から「こういう話があるから、こういう仕事をしてくれ」「こういう計画に合う企画を考えてくれないか?」と指示されるか、お客様から「こんなサービスはできない?」「こういうプランが欲しい」と要望され、動き出すのが基本だったわけです。

ところが、IT技術の発展を始めとする環境の変化によって今は誰もが360度、全方位から情報を得たり、発信することができます。情報の流れの変化によって仕事の起点も変わることで、自分から主体的に仕事を作り出し、新しい価値を生み出すことができたり、求められるようになってきたのです。その結果、従来型の働き方、働く環境では、生産性高く働くことができず、新しいサービスやプロダクトの元となるイノベーションも生まれにくくなってきています。

このままでは国際競争の中で、生き残ることができない……。そういった危機意識、問題意識が企業の経営層にも広がり、働き方改革を推進する力になっているのだと思います。

実は、働く人を取り巻く環境が厳しくなっていくのでは?

−−「生産性を高く」「成果を出せるように」という部分だけを聞くと、それこそブラック企業的な過酷な労働環境を思い浮かべてしまう学生もいるかもしれませんが……。

生産性を高く=長時間労働ではありません。むしろ逆です。

生産性は、よくアウトプットとインプットの比として定義されます。生み出すモノやサービスをアウトプット、それにかかった労力をインプットとします。長時間労働は、インプットを増やすわけですから、むしろ生産性は下がります。

現場では労働時間などのインプットを少なくしながら、いかにアウトプットの質を高めるかの試行錯誤が続いています。企業側は人事制度やオフィスの環境、ITの活用など、準備できるところは確実に支援して働く人を応援しようとしています。一方、働く個人はそういった変化に対応しながら、インプットを少なくし、アウトプットを高める働き方を追求していきます。

企業は改革を促し、一人ひとりが実行していく。この両輪がうまく回ることが重要です。私も含め、働く個人が働き方改革を自分にどう落とし込むかを真摯に考え、実行していかなければいけないと思います。

−−企業の取り組みと働く個人の実践。その両輪がうまく回っている実例を教えていただけますか?

私たち自身もまさに今、会社として働き方改革に取り組んでいます。そこで意識しているのは、「魔法はない」ということです。

例えば、当社のオフィスには、通常のデスク、イスだけではなく、オープンミーティングゾーン、カフェ風のソファスペースなどがあります。そういった環境で社員は自由に移動しながら、他の部署の仲間ともコミュニケーションを深めていきます。また、1人で集中したい場合はパーソナルスペースもあり、オフィスのどこでもITを活用することで自分の仕事やコミュニケーションが取れる環境になっていて、どこでどの仕事、どの打ち合わせをやれば効率的かつ、創造的になっていくかを一人ひとりが考え、実行できる環境です。

ただ、環境を整えればすぐに成果が出て、働き方が大きく変わるかというと、そうではありません。改革や変革は地道なことの積み重ねの先にあるので、企業は寛容に支援し続けることかなと思います。経営者も社員も当事者として危機感を持って、取り組んでいく必要があります。

そして、小さくても改善成功のポイントを見出し、経営層と従業員同士で共有しながら「少しずつ成果が出てきている」と感じられれば、いいスパイラルが続いていきます。

トップが強くコミットメントしての改革か、社員からのボトムアップか。どちらが効果的かは企業の文化によって異なると思いますが、大切なのは小さな成功体験を積み上げて、持続的にやっていくことです。

「ワーク・エンゲイジメント」が高い人ほど、仕事を楽しめる

−−これから就職活動を始める学生にとって、企業の働き方が変わることはどのような影響があるのでしょうか?

今、進んでいるオフィス環境の改革は10年、20年と働いている人にとっては新鮮で、そして現役の学生さんにとってはさほど違和感のない変化になると思います。

というのも、どちらかと言えばオフィスが大学のキャンパスに近づいていっているからです。大学によって異なるとは思いますが、大学生は基本的に自席がないと思います。講義を受けるときは教室を移動し、ゼミは研究室で、食事は食堂で、仲間と話すのはオープンスペースで、と。

当社のオフィスもそうですが、こうした学生さんたちが普段キャンパスでやっているような動き方が確実に広がってきています。仕事や作業の内容によって場所を変えることで、パフォーマンスを上げていく。そういう感覚は今の学生さんたちの方が長けているのではないでしょうか。ですから、デスクと椅子の自席でしか仕事ができない従来型のオフィスの企業に就職したとき、ギャップを感じるのではないかと思います。主体的に動いて成果を出していたのに、企業に入ったら「自席でしか仕事はできません」と言われたら、モチベーションもパフォーマンスも落ちてしまうのではないか。企業側も優秀な人材を雇いたいのであれば、オフィス環境への考え方を改めていく必要があります。

そうした取り組みを早くから顕著にやってきたのが、アメリカ、特に西海岸のIT企業です。よく例に出されるのは、カリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogle本社の「Googleplex」ですね。オフィスだけでなく、スポーツ設備や娯楽施設、カフェテリア、ヘルスケア施設まで備え、就労時間も自己裁量。若い優秀な人材を獲得して、自社で働いてもらうため、単純な福利厚生だけではなく、オフィスの環境も彼らがパフォーマンスを発揮しやすいよう大きく変えています。

−−すごく魅力的に見える一方で、働く人は相応の高い成果を求められ、実はしんどいのでは? なんてうがった見方もしてしまいます。

たしかに、いくらきれいな環境があっても、仕事って基本的に大変で、楽なものではないと思います。ただ、だからこそ楽しいとも言えます。

いかに自分がやりたいことを盛り込み、仕事を作っていけるのか。私自身を例にして言えば、興味のあるテーマを追いかけながら、それがどうすれば会社としての仕事にもつながるかということを常に考えています。そうやって自分で作った仕事だから、やりきることができ、楽しむこともできます。

仕事に対しての充実感や意欲を表す「ワーク・エンゲイジメント」という概念がありますが、これを高めるためには、与えられる仕事の中からいかに楽しむポイントを見出すかが重要になります。例えば、日々のタスクのひとつひとつを、どれだけ効率的に達成できるかという目標を持ち、取り組んでみるという工夫も、ワークエンゲイジメントを高める方法だと思います。こういった能力が高い人ほど、仕事を楽しめるのだと思います。

−−働く側も意識を変えていく必要のある時代に入ったということですか?

そうですね。高度成長期から続いてきた「人生=会社」の時代ではなくなりました。働き方改革が進むことによって、会社で仕事をする時間は減っていき、多くの人が自分の人生により多くの時間をかけられるようになります。

そのとき、その時間をどのように使っていくか。趣味に熱中するのもいいですし、家庭で家族と過ごす時間をより充実させるのもいいですし、ボランティアであったり、地域の活動を通じて社会に還元するのもいいでしょう。あるいは、会社とは違う仕事をして自分の成長につなげ、金銭を得ることもできます。複業は今後、間違いなく広がっていきます。

働き方を考えることは、生き方を考えることになる

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−−最後にこれから就職活動に臨む学生に改めてメッセージをいただけますか。

最近、強く感じるのは就職が「就社」ではなく、「本当の就職」になってきたのかなということです。

企業はあくまでも器に過ぎず、自分のやりたい仕事、高めたい専門性で働く場所を選ぶようになってきています。1つの会社に入って仕事をしていけば安泰、「働く=場所も仕事も働き方も、企業から定義される」という時代は終わりつつあるのかな、と。そのぶん働く側の能力、成長、意志が問われる時代にもなっていきます。近い将来、与えられた働き方、環境はなくなり、自分でそれを定義していかなければならなくなるでしょう。

実は「働き方をどうするか?」という問いかけは、「自分がどう生きたいか?」という大きなテーマにつながっていきます。どう生きたいかの大枠を考えて、そこから自分の働き方をどう定義していくか。そんな視点で就職活動を眺めてみる時間を持つのも意味のあることだと思います。

−−時期が来たから就活の準備をするというよりも、もっと広く生き方を考える機会がきたと捉えるといい、ということでしょうか。

個人個人が自分の生き方を見つめて、その中で働き方をどうデザインしていくか。「働く」が自分にとって何なのか? と。働き方改革の本質はそういうところにあるのかなと思っています。

若い人はまっさらでチャレンジできる範囲が広がる分、自由と柔軟性との距離感が重要ですし、就職に正解があるわけではありません。もし、自分の描いた形とは違ったとしたら、失敗したと落ち込むことなく、改めて「働くとは?」と考える機会を得たと捉え、経験値にしていってください。次はどこで、どんな働き方をしようか? と。

重要なのは、考えることと行動することです。チャレンジを楽しむ気持ちさえ持ち続ければ、どんな局面でもより良い方向へと舵を切ることができると思います。

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

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