スキルを磨く

2020/12/24

久世浩司さんによる挫折がテーマの連載、第二回をお届けします。自分のネガティブな感情とうまく付き合うための、ふたつの方法を聞いていきます。

第一回はこちらから
▼辛い挫折・失敗に向き合って立ち直る、科学的な方法を知る【第一回】

 

 

心が折れそうになる原因とは?

辛い体験をした後に、心が折れそうになったとき、何が心を落ち込ませる原因かを考えたことがありますか? 
失敗やストレス体験は、あくまできっかけにすぎません。同じ体験をしても、その直後は暗い顔をしてショックを受けていても、翌日にはケロッとして普段通りの姿に戻っている人もいます。
原因は、それらのマイナスの体験がきっかけとして生まれる「ネガティブ感情」なのです。言いかえれば、「体験そのものではなく、それに伴って起こる反応」なのです。
たとえば、仕事がうまくいかなかったときに、ついイライラして自分を責めたり、周りの人に八つ当たりしてしまったりすることがあります。自分の仕事の将来に関して不安になることもあります。そのように気持ちが上下して、次の日もその次の日もずるずると引きずってしまうのは、ネガティブ感情が頭から離れずに、精神的な落ち込みから立ち直っていないからなのです。
挫折の原因はネガティブ感情にあります。そのネガティブ感情に適切に対処することができれば、心が折れそうになる問題を予防することができます。ネガティブ感情のセルフマネジメントは、レジリエンスを高める第一歩なのです。

 

怒りや憂鬱感は人に感染する

ところが、私たちは自分の感情について、学校で学ぶ機会がありません。感情をうまくコントロールすることは、家族や友人との人間関係を維持する大切なスキルです。そのため、海外では中学校などで感情を学習する科目が導入されているのですが、国内で導入している学校はごく少数です。感情についての知識やスキルがないと、社会に出て苦労することになりがちです。
そんななかで、感情についてみなさんが知っておいた方がいい大切な知識の一つが「感情伝染」です。感情はウィルスがオフィス内で伝染するように、人から人へと波及していくことが心理学の研究でわかっています。
たとえば、自信がなく悲観的な口癖のある人が近くにいると、自分まで憂鬱な気分になります。自分の部署のリーダーが不安な顔をして仕事をしていると、チーム全体にどんよりした雰囲気が漂うことがあります。家で親がイライラしていると、家族全員がピリピリすることもあります。これらは全てネガティブな感情が伝染しているからです。

 

職場やSNSに潜む「感情バンパイア」に注意

上司や家族やつきあっている相手が「感情バンパイア」だった場合は大変です。感情バンパイアとは、相手の感情に影響を与え、その人と接するだけで活力が吸い取られたかのように感じさせるタイプです。周りにいる人に「自分はダメな人だ」「小さな存在だ」と感じさせて、自己肯定感を下げ、元気を失わせてしまうのです。
感情バンパイアは、自分の言動が他の人に負の影響を与えていることに気づいていません。だから無自覚のうちに、メールやSNSなどでもマイナス影響を与え、相手のエネルギーを下げてしまうのです。
このように、ネガティブな感情は人から人へ伝染します。ネガティブ感情が強い人と働くときは、気をつけましょう。その人とは距離を置いて、できるだけ関わらないでいた方が賢明でしょう。

 

あなたの職業は「感情労働」か?

仕事が「感情労働」の場合は、ストレスが溜まってしまいがちです。
感情労働とは、会社や上司からの指導により、自分の感情を抑圧して仕事をする職務を示します。肉体労働、頭脳労働に続く第3の労働形態とされます。
たとえば、自分の感情を押し殺してクレームに応対するコールセンター業務や、常に笑顔でいることを求められる客席乗務員、おもてなしの心をサービスとして提供するホテルや接客業も感情労働に含まれます。
問題は、仕事のために感情にフタをし続けると、溜まった感情が爆発して攻撃的な行動に走る副作用があることです。あるいは、心が疲れて「バーンアウト(燃え尽き)症候群」になる人も少なくありません。
さらには、感情を押し殺して感情規制することが癖になると、楽しみや幸せなどのポジティブな感情を感じる脳の回路も「細く」なります。自分らしさを失い、周りがモノクロの世界に見えてきてしまうのです。
自分らしく幸せに暮らしていくには、感情とうまく付き合う方法が必要なのです。

 

不安や怒りを引きずらないためには?

不安や怒りなどのネガティブな感情に効果的に対処する方法を2つお伝えします。それも心理学の研究で科学的に証明された効果あるセルフケアの技術です。
1つ目が「ネガティブ感情の気晴らし」です。
「気晴らし」とは、気持ちを晴らす、という言葉の通り、自分の気持ちを怒りや不安の対象に向けずに、別の物事にそらすことで、晴れ晴れとした気持ちにリセットすることです。
しかしながら、ネガティブな感情はしつこく粘着性があるので、自分の注意を負の感情に惹きつけようとします。その引力に対抗するには、体を使って行動し、意識を体の動きに集中させることが最適です。
私がオススメする気晴らし方法は、4つです。
第一が運動系の気晴らしです。散歩をしたり、ジョギングをしたり、エクササイズや有酸素運動をしたりすることです。走っていると、気持ちが高揚する瞬間があります。ランナーズハイとも呼ばれますが、これも素晴らしい気晴らし体験です。
第二が音楽系の気晴らしです。仕事の後に気持ちを切り替えるために、スマホなどで好きな曲を聴いて帰宅することをおすすめします。車を運転する人は、少し大きめな音で曲を流すのもいいでしょう。カラオケも効果があります。
第三が呼吸系の気晴らしです。夜寝る前に座禅や瞑想をして呼吸を整えること、息に注意を当ててスローなヨガをすることは、乱れた感情を鎮静化します。
第四が筆記系の気晴らしです。日記を書いて、その日に感じたモヤモヤを言葉にして外に出せば、ライティングセラピーの効果が期待できます。

 

ストレスを宵越ししない習慣のすすめ

ポイントは、ストレスを感じるような嫌なことが日中の仕事であったとしても、その気持ちを次の日にズルズルと引きずらないことです。その日のうちにネガティブ感情を気晴らしすることで、「ストレスの宵越しはしない」習慣を身に付けるよう、心がけましょう。
研究によると、1日の心理的な活力の度合いは、その日の朝の目覚めの質と相関関係があります。つまり朝に気持ちよく起きると、その日をイキイキとした気分で過ごすことができるのです。一方で前の日の憂鬱感や不安を次の日に持ち越すと、どんよりとした気分で朝を迎え、鬱々とした気持ちで過ごすことになります。幸せな毎日を過ごす鍵は、朝にあるのです。
ハッピーに朝を迎えるには、前日のストレスを解消して、ぐっすりと睡眠することが大事です。より幸福になるためにも、ネガティブ感情の気晴らしを行い、ストレスの宵越しをしない習慣を身につけましょう。

 

夢中になれることをやる

ネガティブ感情を対処する二つ目の方法が、夢中になれることに没頭することです。
皆さんは最近時間を忘れるほど何かに熱中したことはありますか? 趣味に没頭したり、ベストセラーを読むことに集中したり、週末に仲間と一緒にスポーツの試合で勝つために熱心にプレーしたりすることが当てはまります。
人は無我夢中になると「フロー」といいう心理状態に到達します。自分の熱意のもてることに極度に集中し、活動をすること自体が楽しい、高度に充実した心理状態をフローと心理学ではいいます。(スポーツ心理学では「ゾーン」と呼ばれます)
フローは仕事をしているときも起こります。困難ですが価値のある職務を達成しようと自分で頑張って努力していると、ときどき疲れを忘れ、時間を忘れて、心から仕事に打ち込む瞬間があります。それは身体と精神を限界にまで働かせ切っているときに生じる最良の瞬間です。その仕事をしているときは夢中になっているので意識していませんが、やり終えた後に「大変だったけど、充実していた」と感じたら、それはフロー体験です。
私たちは心理状態がフローに到達すると、不安やイライラなどのネガティブな感情を感じません。イメージとしては、後ろめたい気持ちやマイナスの感情を超越してしまうのです。
振り返ると、自分が心配な気持ちになったり、人に対して苛立ちを感じたりしているときは、たいてい自分のことばかりを考えて利己的になっているものです。自分の見栄や利害を守ろうとして、負の感情が出てきてしまうのです。
そんなときこそ、自分が心から夢中になれる好きなことに没頭すれば、ネガティブな気持ちが気づかないうちにリセットされて、心の中の曇り空が快晴に変わるはずです。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

 

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久世浩司

ポジティブ サイコロジー スクール代表。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社。在職中にレジリエンスについて学び、その後、社会人向けスクールを設立。主にレジリエンスを活用した企業人材の育成に従事する。レジリエンス研修は、NHK「クローズアップ現代」でも取り上げられた。主な著書に『「レジリエンス」の鍛え方』(実業之日本社)など多数。

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